「いいかい、。何事にも自分に誠実であり続けなさい」
「せいじつって、なあに?」
「そうだね・・・・・・は嘘を吐くのってどう思う?」
「嘘はきらいよ」
「そうだよね。
 嘘は吐いちゃいけないよ、自分にも、他人にもね。
 誠実っていうのはそういうことだよ」
「・・・・・・よくわかんない」


はその年5歳になったばかり。
子供の頭で理解するには、父親の言葉は少々難しかった。
むしろどうして父親が突然そんな事をいいだすのか、
それがわからず、は頬をぷうと膨らませて不貞腐れた。

苦笑がもれた。
の頭を、暖かい手がぽん、ぽんと優しく撫でていく。


「ほら、心に素直に接したら、彼らも君に打ち解けてくれただろう?」
「うん、でも・・・・・・」


優しい手の温もりに目を細めながらも、
はしょぼんと下を向いた。
心で理解はしようとしても、頭の理解が追いつきそうになかった。

すると今度は背中をぽん、と押される。


にもいつか分かる日がくるさ。
 その日まで、この言葉を覚えておいで」
「うん、わかった」


は素直に頷いた。
父親の言うことは間違いないと、信じていた。


「誠実に生きるのは難しい。
 けれどおまえなら・・・・・・」
「父さま・・・・・・・?」
「・・・・・・なんでもないよ、。それじゃ、寝ようか」
「うん!」


ぱぁっと表情を明るくすると、
は父親の毛布に潜り込んだ。
人に甘えただといわれようが、
は父親と一緒に眠るのが大好きなのだ。


「ふふ、あったかぁい」
「おやすみ、
「おやすみなさい、父さま・・・・・・」


お休みの挨拶を交わせば、すぐに瞼がとろんとなってくる。
心地よい暖かさが、眠りを誘った。
父のぬくもりに包まれながらが見たのは、家族の幸せな夢だった。




















ぴぃーーーーーー。
優しくも物悲しい、小さな笛の音は、最後の一節を奏で終える。
笛の音の主は、
部屋に下がったものの、は眠れずにいた。
一人、暗い窓辺に佇み、ものを想う。


「父様・・・父様の言葉は今でも難しいよ・・・・・・」


言葉の意味、ということではなく、成し遂げることの難しさ。
はそれを今、痛切に感じ取っていた。

胸に押し抱いていた笛を窓辺にカタリと置く。
雪で閉ざされた町並みは白一色で、酷く目に沁みた。
キィと窓を外側に開くと、ひんやりとした空気が滑り込んでくる。
ほてった目元にはちょうどいい冷たさだった。


「・・・・・・何?」


ははっと顔を上げた。
微かだが、の耳に動物の小さな鳴き声が届いた。
草木も眠る、こんな夜更けだというのに。


「聞こえる・・・・・・」


霊力野を解放して耳を澄ませば、遠くの音まで拾えるようになった。
声が、自分を呼んでいるような気がする。

は、窓枠から屋根の上へとひらりと飛び降りた。
城下を見下ろす形で作られている城が故、屋根の上からは遠くの方までよく見通せた。


「あっちから・・・・・・?」


窓辺にとって返すと、はさっと笛を懐に入れた。
銀色に輝く笛は、父からもらった大事な形見である。

外套を肩に掛け、部屋の外へ出る。
城はしんと静まり返り、頼りは手燭のみであったが、は走った。
目指すのは、声の呼ぶ方だ。