白の君

* * *


ただ一色、純白の絹糸で織られた花嫁衣装。
街の仕立て屋のショウウィンドウを飾るそれを見て、通りを行く女性達が足を止める。
大人も子どもも。
その口から漏れるのは、ほうっという夢見るような吐息。
皆、大粒の宝石を見るように目をとろけさせては、遠く、或いは近い未来に思いを馳せているようだった。

その女達の輪から大通りを挟んだ向かいに二人の姿はあった。

旅の途中でこの街へと立ち寄っていたデュークと
店先に集まる彼女達とは違って遠目からではあるが、もまた、ガラス越しに映るそれに目を奪われた一人だった。
ふいに足を止めた彼女に半歩遅れてデュークも合わせる。
暫くの間そうしてから、

「近くで見なくていいのか?」

彼女を気遣ってデュークが声を掛けると、その肩が分からないほど微かに跳ねた。
隣り合う彼からは窺い知れないが、はっとしたように瞬きをする様子からは動揺が見てとれる。
(いけない。)
気づかないうちに見入っていた。
は咄嗟に首を横に振ると、その視線を傍らへと移した。

「すみません、ぼうっとしてしまって。」

眉を下げて謝る仕草こそ彼女らしいものの、そこには隠せないぎこちなさがあった。
彼がそれに気がつかない筈がない。
焦りが募る中、それでもは努めて平静にと心掛けて、何とか思いついた言葉を紡いだ。

「白は嫌いですか?」

唐突な質問にデュークは小首を傾げながらも、いや、と否定する。
はそれに一つ頷いてから続けた。

「きっと白も似合いますよ。」

「……私が?」

「ええ。あ、赤も似合ってるんですけど。」

そうやって笑顔で話す彼女からはもう、ぎこちなさは消えて。
デュークの目にも、今朝とも変わらない様子でそこに佇んでいるように見えた。

それからややあって。デュークがそうか、とだけ返す。
(よかった…)
短い返答に、それでも彼女は安堵していた。

世界の命運が決まったあの日から、気の赴くままに旅をしてきた二人。
旅の連れであり、友人で、恋人で。
そうやってもう数年という月日を過ごしてきて、二人はまだ恋人のままだった。
憧れがなかったと言えば嘘になる。
けれど、俗世から離れがちな彼の生き方を思えば、例え今の関係のまま自分達が老いていったとしても、それは自然なことのような気がしていた。
それに何より、彼女にとって日々は幸せだった。

だからこそは、彼に気を遣わせるようなことはしたくないと考えていた。
遠慮しているということもなくて。
ただ本当に、今になって困らせたくないという一心で。

は祈るような気持ちでいたが、次の瞬間、それは砕かれることになってしまった。
デュークが視線を外し、その動きにつられて白い髪がふわりと揺らめく。
それを追っていくと、またウィンドウと目が合った。
傍らではデュークが同じように大通りの先を見遣っている。

彼の関心が戻ってしまって、は落胆した。
この分ではもう誤魔化されてはくれないだろう、と嘆息しかけた時、

「お前にも似合うだろうな。」

そう、静かな声で告げられた。

一瞬にして、何もかも忘れてしまったかのように。それこそ頭が真っ白になった。
それは、色のことだろうか? それとも…
けれどそんなことは考えるまでもなくて。
彼女の頭はもう、純白の衣装に身を包んだ自分の姿を描きだしていた。

ついさっきまで、あれだけ必死に取り繕っておいて。
素直すぎる自分に呆れてしまう。

でもは、そんな自分を咎めようという気にはなれなかった。
今、瞼の裏に浮かぶ未来。
そこにあったのは、自分と、今も隣にいる人の姿だった。
一人ではなく、二人を映した未来。
それはとても温かくて、眩しくて、少し面映ゆくもあって。
彼女自身が思ってきたよりずっと素敵なことのように思えたから。

すると、まるで張り詰めた糸がほどけていくように、驚くほどすんなりと言葉が出てきて。

「あんなに白を纏えるのは一度きりですね。」

そう言うと、やわらかく微笑んでいた。

彼女は彼女で、デュークを理解して、大切に想えばこその考えではあったけれど。
は少し頑なすぎたのかも、と反省した。
二人で出す結論を一人で出そうだなんて、ずいぶんと頭の固いことだ。

(歳をとるとダメね、もう。)

そう思うと可笑しくて、はふっと息をついた。

ひとしきり考えを巡らせ終えた彼女は、ちらと横目にデュークを窺った。
彼は何か言ってくれるだろうか。
さっきのあれではまるで独り言だったが、聞こえてはいただろう。
恋人の気持ちを探るにしては情けない一言かもしれないが、それでも。

は待ってみようと心を決めた。

とくとくと鼓動が耳を打つ。
期待と不安が混ざり合う感覚は、恋をしている時に似てどこか懐かしい。
けれど、やはりというべきか。
あれきり言葉が交わされることはなく、しんとした静けさだけが取り残されたようだった。

そうして時間はゆっくり、ゆっくりと流れて。
もう一呼吸だけ待って、は沈黙を断つように切りだした。

「行きましょうか。」

何も肩を落とすほどのことじゃない。次も、その次もある。
そう気を取り直して大通りへと向かおうとした時。
くん、とつっかえて動きが止まった。
どうしたのだろうかと振り返ってみると、右の手首が引きとめるようにしっかりと掴まれていた。
どくんっと心臓が脈打つ。
その衝撃に思わず彼女は胸を押さえそうになったが、

「…私に、」

彼の声にその手を止めた。
が恐る恐る顔を上げると、デュークはその瞳を真っ直ぐに覗き込んで問い掛けた。

「私に見せてくれるか? その姿を。」

穏やかな低い声に。逸らすことを許さない強い眼差しに胸が焦がれた。
(あんなにしろをまとえるのは、)
自分自身の言葉の一つ一つが思い出されて、一つに繋がって、一つの像を結ぶ。

それは不器用な人らしい、不器用な言い方だったけれど。
たしかに一生を誓う言葉で。

「はい。」

震えそうな声を抑えて、答える。
デュークは掴んでいた手を解くと、その指先で彼女の眦を優しく撫でた。

「共にありたいと願ってくれるのか。」

「いつも、そう願っています。」

涙でぼやけた視界に微かなほどの笑顔を見つけると、また胸が熱くなった。


愛しい人の手が差しのべられる。
その手をとって彼女も笑顔を返すと、今度こそ一歩。

繋がれた手は離れないように、離さないように、しっかりと握って。


寄り添って歩きだす二つの影。


沈みかけた夕日を追うように路地裏へと消えていく後ろ姿が、一瞬だけ、重なった気がした。



end.
































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イオさまから5万HIT祝いにいただいちゃいましたよ〜〜!!!
デュークからのプロポーズ夢ですよ!!
夢じゃないんですよね!?!?!
いや、夢なんですけども・・・・・・><
デュークからプロポーズ受けてみたい!!ジタバタo(><)oジタバタ
不器用なりというかなんと言うか、デュークらしいですよねぇ・・・・・・。
みていて幸せほんわかになっちゃいました。
はい、ごちそうさまです。
イオさま!!素敵デューク夢ありがとうございましたー!!!
デュークに白・・・やばい、似合う・・・・・・。