彼女はいつも、彼の隣にいた。

初めてあの大森林で出会った時も、砂漠の蜃気楼の向こう、悠久の時を過ごす街で会った時も。

彼の隣で、いつも楽しそうに、幸せそうに、全く愛想の無い私に対しても何の警戒心もなく、にこにこ笑いながら話し掛けてきた少女。


──ねぇ、あなたの名前は? …デュークっていうの? わたしは、よろしくね、デューク!


こちらが聞きもしていない自分の名前を勝手に名乗り、強引に私の手を握ってぶんぶんと上下に振り回されたのはよく覚えている。

その時に感じたてのひらの温もりは、もうずっと触れていなかったそれで、求めてなんていなかったはずなのに、不思議と不快感はなかった。


──デュークは、どうして一人で旅をしているの? 寂しく、ない?


寂しい、なんて感情は知らない。もうとっくの昔に捨ててしまった、手に入れた「絶望」という感情と引き換えに。

偶然街で出会った私の後をちまちまと追い掛けながら、彼女がそう問うてきたのは少し前のこと。

くだらない質問だ、と思ってさっさと無視していたら、やっぱり寂しいんだ、とぽつりと呟かれ思わず足が止まってしまったのも、少し前のこと。


──寂しいのを我慢してちゃ、だめだよ。そのうち感覚が麻痺してね、全ての感情を、失っちゃうよ。わたし、デュークには、そうなってほしくないなぁ。


にっこりという表現が一番似合う笑顔で、少女はそんな言葉だけ残すと、くるりと踵を返して帰って行ってしまった。

人間の少女らしい、剣を振ればすぐに砕け散ってしまうように儚くて、故にとても綺麗な表情だった。

しかし私は知っている、彼女があの笑顔以上のそれを、私に向けることはないことを。

彼女の一番は、「彼」だから。彼に名前を呼ばれるだけで浮かぶとても幸せそうな本当の笑顔は、彼だけのものだから。



「─デューク!」



ぼうっと青い空と海の境界線を眺めていると、後ろからそれはそれは能天気な声がして、ついでにぱたぱたという足音もついて来た。

顔だけ動かしてそちらを見れば、ここまで走って来たのか少しだけ息を切らした彼女が私の隣に並び、じぃっとこちらを見上げているのが分かる。


「また会ったね! デュークって、実は結構暇人?」

「………」

「…もーっ、頑なに無視することないじゃない!」


むーっと目を吊り上げて怒った振りをしているが、口元はそれに反して緩やかな弧を描き、彼女に犬の尾があったならばぶんぶん振られているに違いなかった。

そう、彼女が浮かべているのはやはり笑顔だった。決して一番ではない、誰にでもどこにいても浮かべるような、ありふれた笑顔。


「デュークはここで何してたの? わたしはね、みんな自由行動って言うから、一人で街中を散歩してたんだよ」

「……いつも一緒にいる彼はどうした」

「彼? ……あ、ユーリのこと? ユーリなら、ラピードと一緒に昼寝してるよ。呼んでこよっか?」

「…いや、構わん」

「え、そうなの? 遠慮しないでいいよ、デュークとユーリって友達なんでしょ? いつも会ったらお話してるし」


たまたま出会った時に、少し──それも必要最低限──言葉を交わしただけで、普通その人のことを「友」と呼ぶだろうか。

否。そんな薄い関係が「友」として定義付けられるのならば、もう世界中の人間すべてがお友達と言っているようなものである。


「別に、友などではない」

「えー? 二人とも、ウマ合ってると思うよ? いい友達になれると、思うんだけどな」

「…。………」

「それに、わたしはユーリのこともデュークのことも大好きだから、二人には仲良くなってほしいな!」


─仲良く? 彼も私のことも、大好きだから? …………笑わせる。

心の中で浮かべたはずの笑みは表面にも出ていたらしく、彼女はきょとんと不思議そうに目を丸くしてまばたきした。


「…デューク? どうして、笑ってるの?」

「これが笑わずに、いられるか?」

「……え?」


彼女は、は、私に決して「一番」の笑みを向けることはない。私に向けるのは、あくまで誰にでも見せる、ありふれた笑顔だけ。

私は所詮お前にとって、今横を通り過ぎって行ったような人間たちと同じような対象でしかない。

だってそうだろう? 言葉を交わすくらいで友達と呼べるならば、お前の「友達」は何十、何百だっているんだろう。そして私は、その中の一人でしかない。

それなのに、簡単に「大好き」などという。決して届くことの無い「一番」の座につく彼と並べて、「二人とも大好き」などと。


「……デュー、ク?」

「…どうした、何故怯える。お前は私が“大好き”なのだろう。ならば、彼に向けるような笑みを私にも見せてはどうだ」


じり、じり、じり。進まれた分だけ彼女が後退し、後退された分だけ私が足を踏み出す。

今や彼女は、私の要求した笑顔どころかいつものありふれた笑みさえ浮かべていない。浮かべられないのだ、いつもより冷やかな視線を送る私に怯えて。


「そんな表情は、彼にも見せるか? お前は奴の前で、そんな風に怯えるのか?」

「な…に、言って、るの? 今日のデューク、なんか、ヘンだよ……」

「私のことをよく知りもしない人間に、それまでの経験だけで“ヘン”だと言われるのは心外だな」

「……ひゃっ」


後退し続けていたが足元の石につまづき、ぐらりと体制を崩すのを片腕だけで支え、そのまま腕を壁に押し付けた。

元々、人が多い場所は嫌いな性質だ。こんな街外れでは通る人も少なく、ましてや彼女が後ずさりした先にあったのは古びた廃墟の家。

誰も好き好んで近寄ってなど来ないだろう。そのことに気づいているのか、腕を掴まれたの表情が一気に青くなるのが面白いくらいに分かった。


「言ってみろ。お前はどんな表情で、どんな声で、どんな仕草で奴と言葉を交わしていた?」

「…っ……わ、たしとユーリは…恋人、なんかじゃっ………」

「嘘をつくな。奴と一緒にいる時のお前が一番幸せそうだったのを、私はよく知っている」

「そんなことっ……んんっ!」


微かに潤んだの瞳が大きく見開かれて、それから嫌々するようにきつく瞑られるのが、見なくたって気配だけで分かった。

深く絡んだ舌、籠もった熱い吐息。そして、初めてではないことを確かめるには分かりやす過ぎる、慣れた息遣い。


「…んっ……ふっ……は、あっ…」

「………やはり、嘘だったじゃないか」

「っ……うっ………ふ、ぇ…っ…!」


唇が離れる瞬間を待っていたかのように、透明な何かが彼女の瞳から溢れ出し、頬に流れてぽたぽたと足元の雑草に小雨を降らせた。

そのままは力が抜けたようにずるずると座り込みかけるが、私が腕を掴んだままなので叶わなかった。


「……りっ……ゆー、り……ゆーりぃ…!」

「………」

「…ゆ…り………ゆーり…、…ゆ──っ…!」


助けを求めるように、縋るようにその名前を呼び続けるの腕を握る力を、ぐっと強くした。

途端、ひゅっと彼女が息を呑む音がして、繰り返し名前を呼ぶ声が止まった。もう怯えの色しか宿していない瞳が、ゆっくりと私に向けられる。


「誰も、奴の名前を呼ぶことなど許可していない」

「………」

「笑え、。私に笑顔を見せろ」


恐怖で引き攣ったの顔の中、口元だけが、震えながらゆっくりといびつな弧の形を描いた。

それは今まで私が見てきた彼女の笑顔とも、彼女が今まで愛しい彼に見せてきた笑顔とも、きっと違う。

恐怖に怯え、絶望に満ちた者だけが浮かべられる、ある種の狂いとも呼べる歪み切った微かな笑み。


─私は知っている、彼女の一番の笑みが、私に向けることは決してないことを。

彼女の一番は、「彼」だから。彼に名前を呼ばれるだけで浮かぶとても幸せそうな本当の笑顔は、彼だけのものだから。──「だから」?


彼にしかその笑顔が向けられないのだから、彼にしかその笑顔が向けられないのならば、それ以外の笑顔を自分のものにしてしまえばいい。

人間は、布と綿と糸で縫われた人形ではない。嬉しい時に笑い、悲しい時に泣く。

それが気に入らないのならば、そんな感情が必要ないのならば、自分で針を通して笑顔を封じてしまえばいい。泣き顔を封じてしまえばいい。

そして、一から作り直そう。誰も見たことの無い私だけの彼女の表情を、針を通し過ぎて狂ってしまった人形の結末を。



「あいしている、



それは黒髪の彼を愛していた人間の名前か、それともその感情さえ糸が縺れて忘れかけた人形の名前か。

やっと手に入れたその人形を優しく抱きしめるデュークの腕の中で、という名の人形の唇が、小さく、人間だった頃に愛していたひとの名前を呟いた。





らほら笑いなさい、可愛いお顔で

(わたしがお人形であなたがご主人さま)(「愛しています」、その言葉はもはや)(壊れたアンプのように響き続けるただの「音」)


































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ひゃっほい!!
クド様からの頂き物のデューク狂愛夢ですよぉ!
すごいですよね!デューク!こんなデュークもやばぁいかっこいい。
私には書けないわぁ(ノ△・。)
もうデュークさんそのまま夢主かっさらっていっていいよ!
そしてどろどろに(゚ー゚*)。・:*:・ポワァァン
ユーリも乱入で更に(゚ー゚*)。・:*:・ポワァァン
お人形さんにしてでさえも固執する。それもまた、愛だよ愛!!(*ノノ)
クド様!こんな素敵な夢をありがとうございました!
レイアウトは当サイトのものに変えておりますので、皆様!
本物の雰囲気を味わうのはぜひクド様のサイトへ!!(現在閉鎖されてます)