「クラトス・・・・・・行くの?」
「・・・・・・ああ」
世界救済の最後の夜。
今はもう誰もが寝静まったハイマの丘の頂上ではそっと広い背中に声をかけた。
不意に声をかけたものの、相手はクラトスだ。
予想していたのだろう、すぐに冷静な声が返ってくる。
向こうに見えるのはコレットだろうか。
クラトスがこの日、動くだろうということは想像に難くなかった。
少なくともそれだけの情報をは知り得ていたのだ。
クラトスと久方ぶりに再会したのは、小さな村の中であった。
古くから神子を輩出している信託の村。
はそこに身を寄せていて。
信託の日、聖堂のほうが騒がしいと思ったら驚くことに、彼は彼の愛息子と共に現れたのだ。
「クラトス・・・・・・?クラトスよね?」
「・・・・・・か?」
「驚いた、あなた全く変わってないのね」
「・・・・・・」
あれから十数年。記憶そのままの姿のクラトスに驚きはしたが、
それよりもまずはすぐ伝えることがあった。
「あの子、生きていたわよ」
「やはり・・・・・・」
しかしあえて伝えずとも感じとっていたようだ。
小さく頷きを返した後、クラトスは思案気に腕を組んだ。
「傭兵って言ってたわよね。あなたこれからどうするの?」
「私には使命がある」
「使命・・・・・・?」
クラトスはなかなか口を割ってくれなかったが、旅を続ける中で辛抱強くは聞き出した。
あれから彼がどうしていたのか、これからどうするのか、
クラトスがいるクルシスという組織、その目的の全てを。
しかしクラトスの考えも時間がたつにつれ徐々に変わってきたようだ。
死んだと思った息子が生きていたことが大きかったのだろう。
今日これからクラトスが起こす行動、それは非情に映るかもしれないが、
全ては息子、ロイドのため。
けれどもそれを知らないロイドは怒るだろうか、悲しむだろうか、それとも・・・・・・。
「そう・・・・・・そうよね。
あなたじゃなきゃ、できないことだものね。
・・・・・・ロイドのことはちゃんと私が見てるから、心配しないで」
「世話をかけるな」
申し訳なさそうにクラトスは言うが、にとっては何て事もなかった。
クラトスの代わりにロイドの傍にいる、それがにできる唯一の事だったから。
だからこそ、一縷の望みをかけてでもロイドを探し当てたのだ。
「アンナは私の親友だもの。
それにあなたは・・・・・・」
言いかけて、そこでは小さく首を振った。
本当はクラトスに行ってほしくなかった。
何度、行かないでという言葉を口にだして言いたかったことか。
けれども何の力も持たないは、彼にとって足手まといでしかなくて。
「とにかく、何の心配も要らないから。
あなたはあなたの務めを果たして」
「・・・・・・心配なのは他にもいるのだがな」
「え・・・・・・?」
縋り付きたいのを堪えて気丈に振舞うと、一つ小さく、クラトスが呟いた。
しかし丁度丘の下からびゅうと吹いた強い風もあり、その呟きはには聞こえなかった。
もう一度、と首を傾げて聞き返すが、クラトスは首を横に振る。
「いや。・・・・・・もう行く」
「ええ。いってらっしゃい、気をつけて」
「・・・・・・」
淡く、微笑んだの瞳に何か感じ取ったのだろうか、
じっとを見つめていたクラトスがふっと動いた。
あっと思ったときにははクラトスの胸の中にいた。
「必ず、戻ってくる」
「っ!!」
力強い鼓動と共に聞こえた言葉は、長く、が待ち望んでいた言葉で。
ぎゅっと小さく彼の服の胸元を握り締めると、
クラトスは唯、そっと優しく肩を支えてくれた。
「くぅん」
小さな鳴き声にはっと視線を落とすと、いつの間に現れたのか、
の足元に犬と呼ぶには少々不釣合いな、(けれどもロイドは犬だと主張する)仲間のノイシュが纏わりついていた。
ノイシュはしきりにその鼻をの足へと擦り付けると、再びくぅんと小さく鳴く。
詳しくは知らないが、クラトスと彼は遥か昔からの既知の仲だと言う。
彼なりに、クラトスが去った後も立ち尽くして動けずにいたを心配しての行動なのであろう。
すこし湿ったその感触に、は小さくくすりと笑った。
そしてしゃがんで彼の鼻を優しく撫でてやる。
「また、置いてかれちゃったわね」
アンナが死んだ時。
クラトスの悲しみは相当なものだったのだろう。
にはその悲しみを、癒すことができなかった。
クラトスはアンナを深く愛していたし、アンナもクラトスを愛していた。
そんな彼らの間に割って入ることなど、できなかった。
なによりも二人のことがは大好きだったから。
それでも、内に秘めた思いを曝け出したあの日。
クラトスはを残して去ってしまった・・・・・・。
けれども・・・・・・けれども今度こそクラトスは約束してくれた。
必ず戻ってくると。
他ならぬに向かって。
それだけで・・・・・・。
「くぅん?」
「ごめんね、もうちょっとだけこのままでいさせて」
ノイシュのふさふさな毛で覆われた体は暖かく、それにぽすりと顔を埋めたはぎゅっと彼の体を抱きしめた。
訝しげに一度、首を巡すようなノイシュの動きを感じたが、頭のいい子だから直ぐに察してくれたようだ。
溢れ出てきた感情はもう押さえ込むことができず、は肩を震わせてむせび泣いた。
遠くの空にうっすらと朝日が見え始めた頃、はようやくノイシュの体から顔を上げることができた。
こすった目元はひりひりするし、泣きあかした喉は痛いしで、散々ではあったが、気分はこれまでで一番晴れやかだった。
気遣うように再び鼻を寄せてきたノイシュの頭を優しく撫でるとはすっくと立つ。
まだ少し肌寒い夜風も、火照ったの頬には気持ちがよかった。
今は唯、彼の・・・クラトスの言葉を信じて待とう。
「・・・・・・そろそろ戻ろうか。
ロイド達が起きてきちゃう」
そういって微笑んだの眦にはもう、涙は浮かんでいなかった。
Pray -祈り-
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ええと、5万HIT企画です。
伊瀬さんリクエストのTOSクラトス甘夢。
甘・・・夢・・・?
どこいらへんが甘いのだろうか、自分に問いただしたい。
連載の1部分ぽく書きたいなーとか思って書いたらめっちゃシリアスに・・・!
そして昔の記憶過ぎていろいろ間違ってるかも・・・です・・・。
そもそもノイシュって彼?彼女?うむむ・・・。
でもしっとり大人な恋を目指して書いたのですよ。
伊瀬さま。ちょっと、予想とだいぶ違うとは思うんですが・・・
よかったらもらってやってください!!
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