一目見た時から恋に落ちていた。

私の目に映る景色は、あの時から急速に色付き始めたのだ。




















「シュヴァ・・・・・・・レイヴン様!!」
「・・・・・・ちゃん。
 何度も言うように俺様はただのレイヴン。
 様なんてつけられるようなたいそうなご身分じゃないの」
「いいえ、それでも貴方様は私の恩人ですから」


任務を終え久しぶりに酒場で飲もうと、人込みを掻き分け進んでいると、
遠くの方から自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
その声はある出来事をきっかけに知り合った少女のものであり、
詰まるように言いかけたその前の言葉は置いとくとして、
何度言い聞かせても変わらないその呼び方に、
再び諭すように彼女に言って聞かせれば、やはりは硬く首を振った。

そう、ある出来事とはレイヴンが彼女を助けたというものであり、それは数年前に遡る。










「―――去れ」


目の前に立つ数人の男達に、送った眼光鋭い視線。
そしてちゃきりと音をたてて鳴る剣の鍔。
それらは男達に効果てきめんだったようだ。
彼らはひぃっとすくみあがったかと思うと、路地裏から逃げるように走り去っていく。

それを見送った後、シュヴァーンはそれまで彼らが囲んでいた場所を見やる。
そこには顔を青くした少女が座り込んでいた。
帝都のお膝元とはいえ、一歩路地裏に入り込めばそこは別世界である。
みたところ、彼女の身なりはシュヴァーンの目から見ても良い物で。
そこを先程の男達に狙われたのだろう。
すっかり恐怖に身を縮こませた少女の肩に、シュヴァーンはそっと手をやり立たせてあげる。


「ここはあまり治安がよくない。
 貴女のような人がどうしてこんな所に?」
「シャラが・・・・・・」
「シャラ?」


どうやらこのお嬢さんは飼っている猫を探してここまで来たらしい。
顔を赤くして俯く彼女の消え入りそうな小さな声拾い、
足元を見れば、にゃあと白い猫が擦り寄ってくる。
シャラというのは猫の名前のようだ。


「あの、貴方のお名前は・・・・・・?」
「私の名はシュヴァーン。
 家までお送りしましょう――・・・・・・」
「あっ」


手を差し伸べかけて止まってしまったこちらに気付いたらしい。
自分が名前を告げていなかったのを思い出したのか、
はっと口元に手をやった彼女は小さくすいませんと謝った。
そしてその後背をしゃきんと伸ばしたかと思うと、
スカートの裾を持ってゆったりとしたお辞儀を返してくる。


「私はと申します。
 助けて頂きありがとうございました」


そのお辞儀はよく指導をうけた上流階級のそれで。
彼女の育ちのよさがにじみ出るものであった。

送るというシュヴァーンに対して、はそこまで迷惑はかけられないと言うが、
また先程のような輩が現われるとも限らない。
何とかその場は説得して、家まで送っていったのであった。










「―――レイヴン様?」
「いや・・・・・・。
 それで、どったの今日は。またこんな所まで来て」


の訝しげな声に、レイヴンの意識は一気に引き戻される。
あの出来事が、レイヴンとの初めての邂逅であった。
それまで浮かんでいた光景を小さく首を振って打ち消した後、
また猫がいなくなってでもしたのかと聞けば、は小さく首を振った。

すでに場所は人込みを避けて閑静な住宅街の隅へと移っている。


「いえ、ここに来ればレイヴン様に会えると思って・・・・・・」
「おっさんに?」


何か自分に不手際でもあったのだろうか。
訝しげに首を傾げてを見れば、
彼女は胸の前に両手を当ててじっとこちらを見つめたかと思うと、
ふるふると首を振り、黙りこくったまま俯いてしまった。


ちゃん?」
「あの、・・・・・・私、今度婚約することになったのです」


父親の強い勧めにより3歳年上の男と婚約が決まったということ。
向こうの親族も乗り気だということ。

レイヴンが再度声をかけると、
は一瞬詰まりながらも顔を上げ、つらつらと語った。
おめでたい話であった。
しかしその内容に反して、彼女の眉尻は下がっていてうかない表情であり、
そしてそれはレイヴンにとって思いがけない告白であった。


「―――それはおめでたいねぇ」


おめでとう、ちゃん。
思わず詰まりそうになった声に、それだけをようやくレイヴンは搾り出す。
自分でも若干上ずった声だと自覚はあった。


「っ・・・・・・!
 ―――私、この前言いましたよね。
 レイヴン様のことをお慕い申し上げていますと」
「ああ、あれね〜」


言われたのはつい先日の事だ。
その事は記憶にくっきりと残っている。
彼女の口から、そのことを聞いて、
レイヴンは柄にもなく舞い上がってしまったのだ。
その後どうやってその場を切り抜けたのか、自分でも分からない。
けれども彼女の貴族という身分に対し、自分は隊長首席とはいえただの一市民。
その歳の差は17歳ときて。
ましてや先程彼女自身が述べたように、しまいには婚約者ができるときたものだ
こんな恋など、実るはずがないのだ。

そんなこともあったわねぇ〜とはぐらかすように空を仰ぐと、
ひゅっと息を飲む音が聞こえた。


「私はっ!!
 ―――・・・・・・私は、婚約などしたくありません。
 私は、レイヴン様、――シュヴァーン様のことが好きなのです。
 シュヴァーン様は、私の事お嫌いなのですか?」


変装した自分を一目で見破ったのはが初めてだった。
彼女を助けてから何度か顔をあわせる機会があったが、
(それも大抵彼女から声をかけてくるパターンである)
いつも彼女は幸せそうに微笑んでいて、
その笑顔に、いつしかレイヴンは帝都に戻るのが楽しみになっていた。

しかし身体を小さく震わせながらも、言い募るの顔は今にも泣きそうで。
レイヴンは思わず彼女の細い身体を抱きしめた。
それが答えだった。

一瞬、腕の中の彼女が、先程のものより大きく震え上がる。
ぽんぽんとその背を優しく叩いてやると、小さな手がレイヴンの服をぎゅっと握り締めた。


「・・・・・・叶わない恋をするのはなんでかねぇ〜・・・・・・」
「・・・・・・それって、キャナリ様のことですか?」


小さく呟いた言葉を拾ったのか、が腕の中で顔を上げた。
それは何年も前に終わった話ではあるが、何故彼女がそのことを知っているのか。
人込みの中でもすぐに見つけられてしまうし、と聞けば女の勘ですと返って来る。


「それに、叶わない恋なんかじゃないです。
 私たちは今想いが通じ合った。―――そうでしょう?」
ちゃん・・・・・・」
「でしたら、私、婚約なんて蹴っ飛ばして見せますわ!」


恋する女は強いのですよ、とにっこりと笑ったその顔は--これが彼女本来の笑顔なのだろう。
いつものものよりずっと無邪気なもので。


「頼もしいねぇ」


握りこぶしをつくり、それを上に向かって突き上げてみせるに、
レイヴンが笑って返すと、任せてくださいと彼女は嬉々とした表情で頷いてくる。


「それじゃ、いっちょ殴りこみと行きますか」
「え?シュヴァーン様?」
「今の俺様の名前はレイヴンよ。
 ―――婚約、蹴っ飛ばすんでしょ?」
「レイヴン様!!」


こつんとの額を人差し指でつつき、にやりと笑って見せれば、
ぱぁっと顔を溢れんばかりの笑顔で埋め尽くして、今度はの方から抱きついてくる。
その頭を優しく撫でた後、レイヴンは彼女の背に手をやり、空を見上げた。

遠く悲しい、昔の恋。
そして自分の身に起こったある事実。
それからというものの、恋に臆病な自分に、は勇気をくれた。
ならば今度は自分が立ち向かう番だ。

色付いた景色はいっそう鮮やかで、
レイヴンは眩しげに目を細めた。






Colors

(それにしても、どうしていつも見つけられちゃうのかねぇ・・・・・・)
(それは・・・・・・)(ん?)((レイヴン様だけが色づいて見えるだなんて、言えませんわ・・・・・・))




















































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レイヴン夢です!!
伊瀬様のサイトさまとの相互記念夢です!!
なんか原作のネタバレが散りばめられてる気がしますが・・・。
すいません、どうしてもシュヴァーンも入れたかったんだ・・・!!
てことで、一粒で二度美味しいみたいな・・・・・・。
なってたら・・・いいな・・・・・・。
伊瀬さまー!!こんな夢でよろしかったらもらってやってくださいー!!
ヒロインの方がめろめろに見えるけど、お互いが一目惚れだったというお話でした、まる。