温かな陽の光が差し込む木々の下、涼やかな音色で囀る、美しい羽をもつ小鳥に手を差し伸べる男が一人。
その小鳥にも負けず劣らずの美しい銀の髪と容貌を持つ男、デュークは、
ばたばたと木々の合間から聞こえてきた足音にすっと眉を顰めた。


「デューク!!」
「・・・・・・なんだ」


ついでかけられた怒りを含んだ声は、聞きなれたいつものソレで、
デュークは振り返らず、返事を返した。


「もう、デュークったら、
 私がこんっっっなに悲しんでるっていうのに、呑気なものね!」


それが気に喰わなかったのか、"こんなに"の部分を溜めに溜めて強調する"少女"。
そう、肩を怒らせてデュークの傍に近寄ってきたのは、16,7ぐらいの可憐な少女。
艶やかな黒髪を靡かせて、透き通るような白い肌、細い手足。
頬と唇はほんのりとピンク色に染まり、伏せられた睫毛は影ができるほどに長い。
黒髪可憐で清楚な美少女という言葉は、正に彼女の為にあるといっていいほどであった。
但し、口を開かなければ、という注釈つきではあったが。


「どうせいつものことだろう」
「つべこべいわないの!ちょっと付き合いなさい!」
「・・・・・・」


こんな風に彼女がデュークの元にやってくるのは1度や2度のことではない。
何度繰り返されたか分からないそのやりとりに、デュークは呆れた声を漏らした。
憤る少女の横を通りすぎ、先程の彼女の剣幕に木の上へと逃げた小鳥を呼び戻そうとすると、
それを遮るように少女が立ち塞がる。
もちろん、再び戻ってきた小鳥はそれによって今度こそ遠くの空へと逃げてしまう。
逃げてしまった小鳥を追うように、そのままぼーっと、空を見上げていれば、
痺れを切らしたのか、ずるずると少女に引き摺られる自分の体。
線が細いデュークとはいえ、大の大人を引き摺れるほど、どこにそんなに力があるのか、
横目でちらりと窺えば、問答無用とばかりに、つんと逸らされる小さな顎。
まぁ、言ってしまえばこれもいつものパターンな訳で、
デュークは引きずられるまま、小さく溜息をついた。




















「―――あいつ、私のこと年増って言ったのよ!!
 失礼しちゃうわ!!」
「ほんとのことだろう」
「っ・・・・・・。そ、そうだけど・・・・・・。
 それにしたって他に言い方があるってもんじゃない!?」


可憐で清楚な美少女であるところの彼女--はつまり、まるで見えないが、
もうすぐ30に差しかかろうとした、れっきとした成人女性であり、
口を開けば毒舌が飛び出す、全く清楚とは程遠い人物であった。

バンッと怒りに任せてが叩いた机の上で、くわんくわんと器が音を立てて回る。
それをなんともなしに見つめ、平然とに返せば、彼女は声を詰まらせた。
しかし、しおらしい態度も一瞬の事で、
すぐに気を取り直したのか、建物内に響き渡るほどの大音声では喚きたてる。


「私の何が悪いって言うのよ!
 あっちが勝手に勘違いしたんじゃない!!
 あんなやつ、こっちから願い下げだわ!」
「・・・・・・」


の言い分も分からなくもない。
分からなくもないが、その大声も振られる一因となっていることを、彼女は分かっていないらしい。
なんだなんだと、周りの客がこちらの様子を遠巻きに窺う中、
デュークはじっとの横顔を見つめた。


「だいたいあいつがさあ・・・・・・」
「それで、これで何人目だ?」
「っ・・・・・・!」


愚痴へと発展しかけたの言葉を遮り、デュークはぼそりと呟く。
それは効果覿面のようで、今度こそ彼女は口を噤ませた。
その瞬間、酒場の中は嘘のように静まり返り、
熱り立つようにテーブルの横に立っていたはしゅんと項垂れ椅子に座り込んだ。


「・・・・・・10人目よ」
「・・・・・・大台だな」
「なによ、しょうがないじゃない。
 ・・・・・・皆勝手に勘違いして、理想を作り出して、
 それで私が全然違うと分かると、すぐに幻滅してふってくんだから。
 ・・・・・・私のせいじゃないわよ・・・・・・」
「・・・・・・そうだな・・・・・・」


の言うとおり、彼女の見た目に釣られて寄って来る男は後を断たない。
デュークの前では見る影もないが、初対面の男に対してはとことん消極的な彼女は、
最初こそは正にそれらしく見えるわけで、
しかし、慣れて油断するとこれだ。

最初の男は冒頭で見せた怪力に。
2番目の男は、性格のギャップに逃げ出した。
その後の男達も皆それぞれの理由はあったが、なんだったかは既に忘れてしまった。
10番目の男は先程述べた通り、年齢詐欺に近い彼女の見た目から。
まぁ相手の男はまだ10代そこそこだったと言うから無理はないと思うが。
惚れ易く熱しやすいにとって、年齢などさしたる問題ではなく、
最初は上手くいっているかのように思われた。
しかしひょんなことから年齢の話にもつれ込み、今に到ったというわけだ。


「ねーちゃん、男に振られちゃったのかい?」


先程静まり返った酒場の中に、いつの間にかに寄って集まったのか、
柄の悪い連中が自分達のテーブルを囲んでいた。
中には手に持った蛮刀で周りの客を脅しつける輩もいて、
項垂れていたの目が、すっと剣呑に細まった。
しかしそれには全く気付かずに、集団のボスらしき男がにたにたと品なく笑いながらに近づいていく。
そのまま彼女の横に立った男は、したり顔で笑ったかと思うと、彼女のその小さな顎を掬った・・・・・・
かのように思われた。

かたり、と小さな音を立てて椅子の足が引かれる。
それと共にガキィーンという鈍い音と何かが壁に激突する衝撃音。


「邪魔よ」


壁に激突したのは先程のボスの男であって、
鈍い音は客を脅しつけていた男の蛮刀が弾き飛ばされた音。
ご丁寧にもその蛮刀は壁に激突した男の顔すれすれに突き刺さり、ボスの男はひぃっと情けない声をあげた。


「・・・・・・それで、その男はどうしたんだ」
「それがさぁ、きいてよぉ・・・・・・」


まるで何もなかったかのようにデュークが問いかけると、
再び椅子に座り込み、やはり何事もなかったかのようには酒瓶を傾ける。

先程初対面の男は云々と述べてはいたが、酒が入った時の彼女は別だ。
すでには10杯目の杯を飲み干しており、連中にもそれが見えていたはずである。
まぁ、の外見からはおおよそ想像がつかないわけで、
どうせその現実をいいようにシャットアウトしただけであろうが。

ふにゃりとテーブルに凭れこんだを横目に、
ボスの男を助け出し、熱り立った連中が再び襲い掛かろうとするのをデュークはじろりと睨みつける。
一見デュークも細腕の優男に見えるが、あんな連中など恐るるに足らず、
むしろ、が奴らを跳ね除けなければ、彼等は今ここにいることすら叶わなかっただろう。
頭の悪い彼等にも、さすがにそれが伝わったのか、再びひぃっと情けない声をあげて、連中は酒場の外へと飛び出していった。


「―――だからさぁ、つい私、かっとなっちゃって、
 相手にインディグネイション食らわせちゃった」
「・・・・・・なんだって?」


その間にもの話は続いていたらしく、
ともすれば、聞き逃してしまいそうになった彼女の言葉に、思わずデュークは問い返した。


「は、反省はしてるわよ!?
 お店半壊しちゃったけど、ちゃんと弁償もしてきたし」


気にするところはそこではないのだが、はそれには気付かず、必死でデュークに弁解を続けた。
それに小さく溜息を漏らすと、泣きそうな目でこちらを覗く幼い顔が一つ。


「ねぇ、やっぱりこんな私だからダメなのかなぁ?」
「・・・・・・は、らしくあればいい」


トラブルメイカーでもあるは、今のようによく騒動に巻き込まれる。
迷惑を被るのは決まってデュークであり、それには少々呆れるのだが、
それもの魅力の一つである。

彼女の良い所も、悪い所も、デュークは全て知っている。
知っているからこそ、彼女は彼女らしくあればいいと思う。


「デューク・・・・・・」


それを告げれば、ますます潤んだ目で、こちらを見つめる
それをじっと見つめ返す、デューク。


「うん・・・・・・・。
 うん、デューク。私、頑張るわ!!」
「・・・・・・」


まずは新しい男探しね!!と先程までの落ち込み具合はなんのその、
平然とそう言ってのけるに、デュークにはもう何も返す言葉は無かった。


「さ、飲みましょ!
 今日は私の奢りよ」
「・・・・・・」


の周りにはすでに15杯目の空の杯が転がっているわけで、
頬は赤く上気し、目はとろんとしていて完全に出来上がっている状態であった。
それでも意識を保っていられるには賞賛に値するが、
未だ飲み続けようとする彼女の口ぶりに、デュークは今度こそ深い溜息を漏らした。




















「ねぇ、でゅーくぅ・・・・・・」
「なんだ」


いくらお酒に強いといえども、30杯を超す量を飲めば呂律が回らなくなるというもの。
手に持った杯を飲み干した途端、ぱたりとテーブルにうつ伏せになりそのまま眠りこけた彼女を、
抱きかかえ酒場から運び出したのはつい先程。

規則ただしく揺れ動くその動きに、うとうととした眠りから覚めたは、未だとろんとした目で、
自分を抱きかかえて歩くデュークの頬にその手を伸ばした。
ひんやりとした月夜に映える、銀色の長い髪、研ぎ澄まされた赤い両の瞳。
一見冷ややかな印象を与えるそれは、こうして触れ合えば確かに温かい、血の通ったもので、
声をかければ返ってくる、いつものデュークの声に、はふにゃりと笑う。


「このまま貰い手がいなかったら、でゅーくが貰ってくれるぅ?」
「・・・・・・ああ」
「ふふっ、ありがと、でゅーく・・・・・・」


然りと返事を返せば、嬉しそうに笑う
すると、それで安心したのか、デュークの頬に触れていた彼女の暖かな手はぱたりと落ち、
暫くして小さな寝息が聞こえてくる。
今度こそ彼女を起こさないようにと、慎重に抱きかかえ直し、デュークは月夜の道を歩く。


「でゅーく、だぁいすき・・・・・・」


むにゃむにゃと、囁くように呟かれた寝言は、しんと静まり返る夜道にりぃんと響き渡る。
デューク以外は聞く者のの誰もいないその言葉。
彼女のその言葉が耳に届いた時、デュークはその口元に、小さく笑みを浮かべた。
もまだ知らない、彼のその優しげな微笑み。
その微笑を見ていたのはただ、空に浮かぶ月のみであった。






あなたと私の幸福論

(愚痴ならいつでも聞いてやる) (私は、デュークが隣にいるから、安心して振られられるのよ)



































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1万ヒット記念フリーリクエスト第2弾です。
イオさまに捧げますよー!!
リクエスト内容はお相手デュークで晩酌ネタ。
2人きりで甘めムード、だったんですが・・・・・・。
甘・・・・・・甘いか・・・・・・?あれぇ?
そして書き進めば進めるほどデュークが似非デュークさんに・・・・・・。
あれ、あれぇ?
そもそもデューク視点なのが間違いだったのか!?
す、すいませんイオさま、これでもよければ貰ってやってください。
でも書いていて楽しかったです。
リクエストありがとうございました!!