「ユーリ、ちょっとこっち来て」
「おい、!どこ行くんだよ?」
ユーリの腕を取り、前を見据える彼女は、まったくこちらの声が聞こえないのか、ずんずんと先へ進んでいく。
時刻は深夜。
いつもは皆寝静まる、常闇の時間。
けれども今日は、満ちた月が空に昇る日。
街中では其処彼処で小さな明かりが灯り、ざわめき声さえ聞こえてくる。
ぼんやりとした、けれど蒼く澄んだ月明かりに照らし出され、舞い落ちる桃色の小さな欠片。
また一つ、落ちてきた桃色のそれは、前を行く彼女の黒髪に--まるでそれが当然であったかのように、彩りを添えた。
満開の花が咲き乱れるこの地ハルルでは、満月の今日、街主催の花見が催された。
なんでもこの日が一番、ハルルの樹が綺麗に見えるのだとか。
蒼白の満月に照らし出される大樹は--いつものそれも素晴らしいが、確かに荘厳華麗である。
しかし、先程から振舞われている飲み物の数々。
それらの中にはやはりお酒といった類の物があるわけで、
「ユーリ〜、このジュースおいしいですぅ〜」
「お、嬢ちゃん結構いける口ねぇ」
「あはははは!
ちょっとっ!こっち飲み物足りないわよっ!」
「ボク、なんか頭がふらふらしてきたよ・・・・・・」
「あら、確かにこれおいしいわね」
こうなってしまっては風情の何もない。
小さく溜息を吐き、せめて悪酔いしているエステルとリタだけは止めようとそちらに向かいかければ、
「ユーリ」と小さな声で呼び止められる。
「ユーリ、ちょっとこっち来て」
そうして、ぐいっと強く自分の腕が引っ張られた。
「はれ?ユーリ、どこ行くんれすぅ?」
既に呂律の回らなくなったエステルの声が後ろから聞こえる。
それはこっちの方が聞きたい。
再三、自分の腕を引っ張る主--に、問うても返事が返ってきそうにない。
半ば諦め、引っ張られるがままについて行くと、
ハルルの樹の裏手に回ったところでようやく彼女はぴたりと止まった。
ふわり、ふわりと舞い落ちるハルルの花びら。
先程までの喧騒が嘘のように、辺りは静まり返っていた。
「ハルルの樹ってね、私のいた世界の樹に似てるんだ」
しんとした空気を吸い込み、後ろ手に手を組んだが振り返る。
「え・・・・・・?」
「桜っていうんだけどね、ある時期になると、枝一面にピンク色の花を咲かすの。
それがとっても綺麗で・・・・・・
やっぱり今みたいに皆で花見をするの」
楽しかったなぁ、とどこか寂しそうに笑う彼女。
はこの世界ではないどこか、違う世界からやってきた少女であった。
最初はあまりにも違う文化に、戸惑い、途方にくれるばかりであったが、
ふとした拍子に自分達の旅について来ることになり、それも徐々に慣れたようだった。
「―――・・・・・・向こうに帰りたいのか?」
度々、彼女が居たという世界の話は聞いてはいたが、
彼女の口からは一度も、帰りたいという言葉を聞いたことがなかった。
それが強がりなのか、そうではないかは分からなかったが、
それを聞いてしまうと彼女が消えていなくなってしまいそうで、あえて今まで聞かないでいた。
しかし、今夜の彼女の様子はどこかおかしく、ユーリはそれを問わざるを得なかった。
「・・・・・・ううん。
懐かしいな・・・・・・って思ってただけ」
小さく首を振り、がふんわりと微笑む。
意識せずとも、それにほっと安堵の息が漏れる。
ここで帰りたいと言われれば、精一杯助力をするつもりではいたが、
心の内では、彼女に帰って欲しくないという想いが激しく廻っていた。
そんなこちらの感情を酌んだのかどうか、微笑んだが、そっとユーリの手を取り両手で包み込む。
「私、この世界に来れて、幸せだよ?
ユーリ達と会えて、旅をできて、本当に良かった」
そりゃ、最初は大変だったけど、とは笑って言う。
釣られて笑みを浮かべかけるが、続く彼女の言葉に、つきり、と胸が痛むのを感じた。
「―――最初は、・・・・・・そう、呆然としてた私をフレンが拾ってくれて、それで・・・・・・」
そう言う彼女の頬はハルルの花びらのようにピンク色に染まっていた。
以前から感じてはいたが、やはり彼女はフレンの事が好きなようだ。
彼のことを話す時、彼女はいつも嬉しそうにしていた。
そしてその度に、痛む自分の心。
それを知らぬ振りするのは、ユーリにとって非常に辛い作業であった。
「ねぇ!ユーリ、私の話ちゃんと聞いてる?」
「あ、悪ぃ、聞いてなかった」
思考に没頭していて全く話を聞いていなかった。
それを素直に詫びると、はぷくーっと頬を大きく膨らませる。
つつけばふにふにと柔らかそうだ。
再び自分の考えに没頭しかけると、ついにが声を張り上げ怒鳴った。
「もう!ちゃんと聞いてよ!!
私はユーリの事が好きって言ったの!!」
「・・・・・・は?」
思わず、間抜けな声が漏れる。
今、彼女はなんと言った?
それは思ってもみなかった言葉ではなかっただろうか?
「・・・・・・お前、フレンの事が好きじゃなかったのかよ」
辛うじてその事だけ問うと、
「確かにフレンは好きだよ。
でもそれは友人として"好き"なだけで、"愛"じゃない。
私が本当に"好き"なのはユーリ。
私はユーリを"愛してる"のよ」
年齢の割には幼い、けれども整った顔立ちに、綺麗な笑みを浮かべてそう言う。
ようやく理解が追いついた頭に、ユーリは顔が赤くなるのを感じた。
「そんな可愛い顔されちゃうと、私襲いたくなっちゃうんだけど!?」
「襲うって、おまっ・・・・・!?」
突然とんでもない事を言い出すに、ユーリは驚いて声を失う。
よくよく彼女の顔を見てみれば、頬がピンク色に染まっているのもそうだが、
目もとろんとしていて、どこかあらぬ方向を見ている。
「・・・・・・お前、酔っ払ってるだろ」
「え〜、私酔っ払ってなんかいないよぉ〜」
指摘すれば、ふにゃりと返ってくる返事。
これは完全に出来上がっているようだ。
溜息を一つ漏らすと、突然体にかかる、一つの重み。
驚き、それを見れば、が抱きついていて、
それに息を呑めば、彼女は顔をあげる。
「えへへー、あったかいね、ユーリ」
「お前な・・・・・・」
呆れて、言いかけるが、続くの、
「ユーリ、大好きだよ」
と言う言葉と共に添えられた、艶やかな微笑み。
それはいつもの彼女のやわらかな微笑とはまた違った魅力があり、ユーリは完全にやられてしまう。
耳まで赤くなった顔を手で覆い、その場にずるずると座り込む。
抱きついたままのが、ふにゃ?と声をあげるが、ユーリはその体をそのまま抱きこみ、自分の膝に乗せた。
暫くして、すやすやと、小さな寝息が彼女から聞こえてくる。
「まいったな・・・・・・」
叶わないと思っていた想いの実ることが、こんなにも嬉しいとは。
火照った頬にひんやりとした夜風が当たる。
それは丁度良く自分の熱を冷ましてくれるようで、夜風を吸い込み、ユーリは空を見上げる。
満天の星空、それを見守るかのように照らし続ける蒼月、枝いっぱいに桃色の花を宿すハルルの樹。
今はどれもが愛おしく見え、ふっと笑みを零す。
腕の中には何よりも愛しく想う、黒髪の彼女。
ふわりふわりと、ピンクの弧を描き、ハルルの花びらが舞い落ちる。
微笑みを浮かべ、彼女の黒髪に彩りを添えたそれを手に取ると、ユーリはそれに小さく口付けた。
「せーねん、どうだった?」
「・・・・・・に酒飲ませたの、やっぱりおっさんかよ」
翌日、起きて部屋から出れば、にやにや笑いのレイヴンが出迎える。
呆れて、溜息を吐きかけるが、おかげでの本音を聞くことが出来たのは確か。
それは感謝してもしきれないので、仕方なくお礼を言いかけるが、
「ぁ゛ー、頭痛い。しぬぅー!!」
と言う、やはり部屋から出てきたの声に遮られる。
完璧な二日酔いである。
よほど痛むのか、しきりにこめかみを押える彼女を見やると、
「あ、ユーリ」とがこちらに走ってくる。
「ね、ユーリ、昨日私なんかした?
レイヴンから貰ったジュースを飲んでから記憶がないんだけど」
微笑みかけた頬がぴきりと固まる。
ぎぎぃと音を立てて、レイヴンを振り返れば、逸らされる目。
まさかこういうオチとは思ってもみなかった。
再びの方を見れば、きょとんと首を傾げる彼女。
その表情に、起こる気力も失せ、ユーリはぽんぽんと、彼女の頭を撫でる。
「サンキューな。
・・・・・・ついでにおっさんも」
昨日の夜のことは夢ではない。
現実にあったことだ。
それを思い出すだけでも頬が緩むのを感じる。
「おっさんついでかよ!?」
「私、お礼言われるようなこと、ユーリにしたのかな?」
「さあ?」
同様にお酒を飲んでいたはずのジュディスが、平然とした顔をしての問いに答えた。
全く状況が飲み込めず目を瞬くばかりの彼女に、ユーリは極上の笑みを向ける。
「覚悟しとけよ?」
覚えていないのなら、こちらが口説くまでだ。
想いが通じ合っていると分かれば自分も容赦はしない。
まずはどうやって話を切り出そうか。考えていたらなんだか楽しくなってきた。
自然、沸きあがってくる笑いを堪えて、ユーリは階段を駆け下りた。
気分は上々!!
(ありゃ、誰でも落ちるわ…)(……)               
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5000HIT御礼ユーリ夢です!
お相手をアンケートで募集してみた所、見事1位を取ったユーリがお相手に。
レイヴンとは接戦だったのですけどねー・・・・・・。
さて、今回はトリップ夢もどきです。
桜の表現が出したくて。
片恋かと思いきや両想い。
詳しい設定も考えましたがあえて書きませんでした!!
ユーリに口説かれたいです、ほんと。
そしてお酒の勢いって恐ろしい。
記憶がなくなるほど酔うってどれほどか、
幸運な事にまだ体験したことはないです。良かった。
皆さんもお酒には注意!!
てことで、5000HITありがとうございました!!
いつも見に来てくださっている皆様にこのお話は差し上げます!
どうぞ貰ってやってくださいなー
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