「すごい風だったねデューク」
「そうだな」
それは、歩くのを中断させられるほど、強い風だった。
横殴りの風は木々を大きく揺らすと、草葉を頭上へと巻き上げていく。
小高い丘に囲まれた盆地。
立地の関係なのか、こういった場所には時折、強い風が吹く。
すぐに風は収まったが、残り風がとデュークの髪を揺らした。
すっかり乱れてしまった髪を押さえ、はデュークに声をかける。
すでにデュークは先へ進もうとしていた。
「あ、ちょっと待って!髪に葉っぱが・・・・・・」
先ほどの風で絡まったのか、デュークの髪に枯葉がついていた。
はそれを摘み上げる。
指が、銀色の髪に触れた。
「わあっ。デュークの髪、きめ細か!
こんなに長いのに、枝毛一つないなんて・・・・・・」
デュークの髪は思った以上にさらさらで艶々だった。
これで手入れをしていないとのことだから羨ましい限りである。
思わずは賞賛と羨望の混じった息を漏らす。
「もういいか?」
「あ、ごめん。葉っぱは取れたんだけど・・・・・・」
そう言いつつも、は未練がましげにデュークの髪を見た。
一房片手に持ちながら。
「ねぇ、ちょっと髪弄っても良い?」
「・・・・・・返事をする前に弄っているだろうが」
デュークは小さく溜息を吐いた。
しかし、嫌とは言わなかった。
「えっへへ、前からデュークの髪、弄ってみたかったんだぁ」
ここぞとばかりにデュークに飛びつくと、は彼の髪を梳いた。
長い銀の髪が、何の抵抗もなくの指から滑り落ちる。
「あのね。私、前の世界ではヘアスタイリストになるのが夢だったんだ。
あ、ヘアスタイリストって言うのはね、
髪型をデザインする人のことを言うんだけど・・・・・・」
ここではは異質な存在。
この世界はが19年間育った世界ではなかった。
ここに来るまでは、夢を叶えるために学校にも通っていたし、修行も積んでいた。
それも今は無意味なものとなってしまったが。
「帰りたいのか?」
デュークがを見た。
帰る方法はあった。
旅の中で、すでに見つけていた。
後はただがそれを望むだけである。
だからデュークはそんなことを言うのだろう。
しかし方法を見つけたとき、デュークはそうしろとは言わなかった。
ちょっとは自惚れていいものだと思っていたのだが・・・・・・。
「デュークは、私がいなくなったら寂しい?」
「・・・・・・帰りたければ帰るがいい」
取り付く島もなかった。
一か八かで聞いては見たが、ほぼ予想通りの答えが返ってくる。
「・・・・・・まぁそうだろうね。
期待した私が馬鹿だったよ・・・・・・」
それでも期待したいのが乙女というものである。
がっくりと肩を落とすと、恨めしげには顔を上げた。
「んーそうだなぁ・・・・・・。
最初は帰りたいと思ってたよ?
私には家族がいたし、夢もあった。
それに・・・・・・」
恋人も。
その言葉だけはは口に出さなかった。
もう、それも過去のことだ。
「この世界、何かと物騒だしなぁ・・・・・・」
学校からの帰り道、横断歩道を渡った先は、何故か異世界だった。
そこは人々が暮らす街ではなくて、ただ広い草原。
人の気配を感じて振り向けば、それは今までに見たことのない、怪物だった。
は必死で逃げた。
逃げて逃げて、それでも追い詰められて。
死を覚悟したところに現れたのは、銀の髪と赤いコートを翻した、デュークであった。
それきり、は命の恩人であるデュークについて回っていた。
「けど、私が帰っちゃったらデューク、生きていけなさそうじゃない?」
デュークときたらが来るまでどうやって生きてきたのか不思議になるくらい、
自分のことに無頓着なのだ。
が用意するまでご飯は食べないし、夜になっても眠りもしない。
時間という概念がないのか、行動する時間もまちまちだった。
「恩を感じる必要などない。
お前を助けたのは、ただの気まぐれだ」
「あ、やっぱし?」
は再びがっくりと肩を落とす。
そうではないかと思っていたけれど・・・・・・。
でも―――。
「でも、この世界にはデュークがいる」
は同じ言葉を口にした。
今度は先ほどよりも真剣な眼差しで。
「・・・・・・」
デュークの長い睫毛が、小さく震える。
には、元の世界など、もうどうでも良かった。
家族も友達も、を心配しているだろう。
夢も諦め切れていない。
だけどそれでも、はデュークの傍にいたかった。
デュークが傍にいればそれだけで・・・・・・。
「デュークは、私のこと、嫌い?」
返事はなかった。
それもいい、はそう思った。
「私はデュークのこと、好きだよ」
今まで心に留めておいたことを、は一気に告白する。
「私は、デュークの傍にずっといたいと思ってる。
それは恩を感じているからじゃない。
デュークのことが好きだから、傍にいたいと思ってる」
デュークは不器用な男だった。
がそんなことを思っていただなんて、考えてもいなかったのだろう。
の言葉をただ、彼はじっと聞いていた。
しかし、そんなところも全部ひっくるめて、はデュークを好きなのだ。
たとえ彼が想いに応えてくれなくても。
「・・・・・・何故だろうな」
「え・・・・・・?」
聞き返した瞬間、の体はデュークに抱きしめられていた。
「デューク・・・・・・?」
不思議に思い、はデュークの顔を覗き込んだ。
デュークはただ、をじっと見つめるのみである。
「人間など、もうどうでも良いと思っていた」
「うん、知ってる」
デュークは人間だ。
けれどもその同じ人間に、彼は裏切られた。
大切な友が人に殺されたのだ。
そしてデュークは人の世界と決別をした。
「だが」
デュークの瞳にの瞳が映りこんでいた。
その熱い視線に、の頭はぼうっとなる。
「お前が好きだといってくれた瞬間、無性に嬉しかった」
「・・・・・・!」
はひゅっと息を呑んだ。
思わず、デュークの服を強く、握り締める。
「お前が・・・が好きなのかどうかは、まだ私には分からない。
だが、帰って欲しくないと、私は思っている」
「デューク・・・・・・!」
思っても見ない言葉だった。
そもそもデュークが素の感情を話すことなど、考えられない話である。
しかし彼は今、に向かって心の内を曝け出してくれている。
それだけで、は嬉しかった。
「いいよ、それだけで、私は良い。
デュークがそう言ってくれるなら、私はずっと、デュークの傍にいる」
「・・・・・・」
デュークの背中で、髪がさらりと流れた。
それをは掬い上げる。
「ふふっ。ちょうど良い対象がここにいることだし、
私またスタイリングの勉強始めようかな。
それでゆくゆくはお店始めちゃったりして」
「そうだな」
僅かに、デュークの頬が緩んだ。
最初こそ無愛想な人だと思ったが、デュークにだって感情はあるのだ。
それを表に出さないだけで。
それでも最近はずいぶん柔らかくなってきたとは思う。
「あっ、そんなこと言っていいの?
私、デュークの頭お団子とかにしちゃうよ?」
「お団子・・・・・・?」
「お団子って言うのはね、こうやってまとめて・・・・・・」
デュークが怪訝そうに首を傾げるので、は自分の髪をお団子の形にくくって見せた。
同時に、デュークの眉が顰められる。
「・・・・・・それは遠慮したいのだが」
「そう?ざーんねん。
似合うと思ったんだけどなぁ・・・・・・」
というよりもデュークほどの美形なら、何でも似合いそうだ。
はくくったお団子をぱらりと降ろすと、デュークの目の前に立つ。
じっと、彼の瞳を見つめた。
「ねぇ、デューク」
「なんだ」
まだ何かあるのかと、デュークが問う。
言いたくはなかったが、言わなければいけないことだった。
デュークの視線を感じながらも、は重い口を開いた。
「この先、もしデュークに好きな人ができたら・・・・・・ちゃんと言ってね。
私、ちょっと・・・ううん、だいぶ悲しいけど、・・・・・・身を引くから」
「・・・・・・わかった」
デュークがどう思ったのかはわからない。
けれども確かに彼は返事をした。
「それを聞いて安心した」
今迄で一番綺麗な笑顔で、はにこりと笑う。
デュークには幸せになってもらいたかった。
自分の幸せを願うよりもずっと、は強く彼のことを想う。
たとえその傍に、自分の居場所がなくなっても。
その時、
「デューク・・・・・・?どうしたの・・・・・・?」
再びはデュークに抱きしめられていた。
先ほどよりも、強く、強く。
「いや・・・・・・」
「変なデューク」
彼も無意識の行動だったのか、
はくすりと笑ってデュークから離れた。
デュークから与えられた温もりが、離れてもずっと残っていた。
「じゃ、そろそろ行こっか」
「ああ」
そうして二人は並んで歩いた。
どこまでも残酷で、けれど、どこまでも美しい、この世界を。
一緒に。
セカイの果てに
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5万HIT企画最後のフリリク夢ですー。
白夜さんのリクエストでデューク甘夢。
あれでもなんか悲恋チック・・・?
いやいや、甘いよ!甘いんだよ!!!
最初はストーカー発言だったんですけど(それもどうかと)そこを変えたらこんな感じに。
デュークが嫌って言ってもついて行くんだから!!的な(苦笑
いや、憑いていく、か・・・?
あ、すいませんトリップ夢です。
現地嫁も好きですが、押しかけ女房も私は好きです(何
ともかく!!デュークには幸せになってもらいたいんですよ!!
てなわけで、白夜さま。よかったらもらってやってくださいなー。
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