ユーリは青い空を見上げていた。
見ていたのはそれだけじゃない。
行きかう人々、建物、植物、自分を取り巻く物の全て。
見知らぬ場所。
自然、左手が剣の柄へと伸びる。
「ここって・・・・・・どこ?」
「わからねぇ・・・・・・。けど、離れんなよ」
そもそもつい先ほどまで、ユーリたちは城の中にいた筈で。
屋外にいるということ自体、異常なのだ。
連れのはユーリの護衛する、帝国の皇女。
万一の事も許されない。
注意を促そうとユーリは背後を振り返るが―――。
「っておい!?」
―――その判断は一つ遅かった。
一瞬前まで傍にいた筈のの姿は、すでに雑踏の先へと消えかけていた。
「言ってるそばからあいつは・・・・・・・」
いつものこととはいえ、こういう時こそ大人しくしていてもらえないものだろうか。
の行動に振り回されるのは、護衛騎士であるユーリなのだ。
深々とした溜息が出る。
ともあれこのまま放置しておくわけにもいかない。
ユーリはの行きそうな場所を思い浮かべ、不慣れな土地を渋々と歩き出した。
「そこの道行くお嬢さん、俺さまとお茶しなーい?」
「はい?」
「おおっと、これは超絶美人なおねーさまじゃないの。
俺さま超ラッキー」
「・・・・・・はい?」
まず目に付いたのはその服装であった。
ここいらでは見かけたことのない異国風のドレス。
どちらかといえば、しいなの服に近い、けれども一見してその布地は相当上等なものだ。
明らかに上流階級の、その女性は先ほどからゼロスの目の前をうろついていた。
正確にはゼロスの目当ての店の前をうろついていたのだが、
見知らぬ女性がいれば、声をかけずにいられぬものか。
しかもゼロスの声に振り返った女性は、稀に見る美女だった。
「失礼。私の名前はゼロス。
以後お見知りおきを、美人なおねーさま♪」
思わず飛び上がって喜んでしまったが、さすがに不躾だったかもしれない。
ゼロスは慣れた手つきで女性の手をとると、手の甲にキスを落とした。
ついでにばちりとウィンクも決める。
仲間にはしゃべると三枚目という不名誉な称号を与えられてはいるが、
もともとゼロスは王侯貴族に連なる者。
貴公子然とした仕草は不釣合いなものでもないのだ。
大抵の女性はそれだけでゼロスにめろめろになる。
「まぁ。ご丁寧にありがとうございます。
私はと申しますわ」
しかし、ゼロスに手を取られた女性--は一瞬驚いた表情をしたものの、
すぐににこりと笑顔を浮かべた。
見た目に反しておっとりとしたしゃべり方と同じく、おっとりとした性格なのかもしれない。
「あの・・・・・・ゼロスさま・・・・・・不躾で申し訳ないのですが、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「もちろんなんなりと!」
「ええと・・・・・・」
困ったように眉をひそめてもまたは美人だった。
美人の言う事は是が非でもない。
電光石火で返事を返すと、言い辛そうにが口ごもる。
話す内容に迷っているというより、聞いていいのかどうか迷っているといった感じだ。
「聞きたいことってお連れさんの所在じゃなーい?」
一般的に言って、貴族のお嬢様が供も連れずに一人で歩き回る事は滅多にない。
大方、お付の者とはぐれでもしたのだろう。
身なりを指摘すれば、が「まぁ」と上品に口に手を当てて驚いた。
「ゼロス様は御慧眼でありますのね。
でも、そうですね。連れの所在もそうですが、聞きたいことは他にありますの」
「他、とは?」
「お聞きしたいのは・・・・・・この町の名前ですの」
そう言って、は街中を見渡す。
「町の名前?アルタミラだけどー?」
「アルタミラ・・・・・・」
答えてから、はて、とゼロスは首をかしげた。
メルトキオ程ではないが、アルタミラはテセアラを代表する街の一つだ。
それを知らないとはよっぽどの箱入りなのか。
たとえそうだとしてもお付きの所在より重要だとは到底思えなかった。
しかし疑念の心を口にする前に、がこちらをじっと見つめた。
「あの・・・そういえばこれってもしかしてナンパというものですか?」
―――ゼロスが唖然としたのは言うまでもない。
今、ゼロスの目の前には空になった大量の皿が並べられていた。
とはいってもゼロスがそれを食べたのではない。
大の男でも食べるのに困るような量を平然と平らげた人物は他にいる。
その人物はゼロスの目の前で食後のお茶を口にしていた。
「・・・・・・ちゃんって・・・・・・よく食べるのね・・・・・・」
「そうですか?あ、お茶もう一杯頂いても良いですか?」
けろり、とそんな表現がぴったりだった。
細い体のどこに入るのだろうか。
もう何度目か知れないの申し出に、ゼロスは奥に向かって手をひらひらと振った。
合図に応じた給仕がこちらにやってくると、今度はゼロスも一杯のお茶を注文する。
一口、口にしたお茶の香りはほのかに果実の匂いがした。
「それでちゃん、連れの人探さなくていーの?」
女性の喜ぶ姿は至上の極み。
ゼロスとしては一日中といても全く問題ないのだが、
彼女側の都合をも考えてあげるのが、真の紳士といえるのだ。
しかし意外にもはキョトンと目を瞬いた。
「ユーリのことですか?それなら・・・・・・」
「ったく、ちょっとは人の話を聞けよ、お前は」
の言葉を遮って、突然聞こえたのは男の声だった。
ポンとの肩に手を乗せた男は相当深く息を吐く。
どうやらこの男が彼女の護衛らしい。
だいぶ探し回ったのだろう、その姿は疲れきっていた。
「ユーリ」
それが彼の名前のようだ。
男を見上げてその名前を口にしたは、
次にゼロスににっこりと笑って男を指し示した。
「ゼロス様紹介しますわ。
こちらはユーリ。一応私の騎士をやっていますの」
「一応って何だよ一応って・・・・・・」
「あら、私の護衛の騎士なのに、探すのにこんなに時間がかかるんですもの。
一応、で十分ですわ。ね、ゼロス様?」
「え?あー、そーねぇ・・・・・・」
ゼロス達がいたのは、店内の奥まった席だった。
普通、連れが自分を探していると分かっているのなら、
その対象はもっと分かりやすい場所に居ようとするものである。
けれどもあえてはこの場所を選んだ。
探すのに手間取っても、さほどおかしくはなかった。
ゼロスとしてはとのお茶を邪魔されたくなかったし、それが男ならなおさらで。
だから一も二もなく賛成したのだが・・・・・・。
「あら、このケーキ美味しい」
ユーリの苦労がありありと脳裏に浮かぶようだった。
再びケーキを注文したの、呑気な感想を耳に、
視線はに向けたまま、しかしユーリだけに聞こえる範囲内でゼロスはぼそりと呟いた。
「なぁ、もしかしてこのお嬢様って天然?」
「・・・・・・」
つかつかと横まで歩いてきたユーリが、ぽんぽんとゼロスの肩を叩いた。
深い溜息が彼の口から零れる。
唐突過ぎて訳が分からなかった。
「え!?何何!?何で俺さまってば同情されちゃってるわけ!?」
求:説明。
頭の上にゼロスはそう看板を出すが、ユーリの横ではにこにこと微笑むばかりである。
「こいつがそんなかわいい玉なわけないだろ」
「へ・・・・・・?へ!?」
「つまりな、あんたはこいつに騙されてたんだよ」
今なんて言った?
ユーリの言った内容が理解できず、ゼロスが聞き返すと、ご丁寧にも彼は言い方を変えてくれる。
横目で見たの笑顔が、眩しかった。
「えー!?!?!?」
ゼロスは思わず大きな声で叫んでいた。
それがよほど間抜け面だったのか、前方でぷっと噴き出す音がする。
「あははは!!もうっ駄目・・・・・・!」
先程までのおっとりとした雰囲気は微塵もなかった。
見れば苦しそうに腹を抱えて、が笑っていた。
「ごめんごめん、からかいやすそうだったんで、つい」
「あんたも災難だったな」
ようやく笑いが収まったころ、滲んだ涙をぬぐいながらは謝罪の言葉を述べた。
それに追従するかのように、ユーリがゼロスの肩をポンと叩く。
もう絶句するしかなかった。
「おーい!ゼロス!道具屋に行くのにいったい何時までかかってんだよ」
「ロ、ロイド君・・・・・・」
しかし救いの手は意外なところから現れた。
そういえば忘れていたが、道具屋に用があってゼロスは仲間と別行動をとっていたのだ。
なかなか戻ってこない自分を心配して、ロイドは探しに来てくれたのだろう。
「もしかして、ゼロスってばまたナンパしてたのか?」
ロイドの視線の先で、は正に女神の微笑を浮かべていた。
「ゼロス様を責めないであげてください。
私が断りきれなかったのがいけないのですから」
「ほら、この人困ってるじゃないか。
駄目だぞ、ゼロス」
「ちょっ、ロイド君・・・・・・!」
ゼロスは慌ててロイドに飛びついた。
数分前のゼロスと同じく、ロイドも完璧に騙されていた。
ロイドの目には悲しげに瞳を伏せたが、奥ゆかしい令嬢そのものに映っているのだ。
空恐ろしいお嬢様だった。
「ロイド様、といったかしら?
素敵な剣をお持ちですね」
駄目男を一人追加したところで、の視線は今、ロイドの持つ二振りの剣に向けられていた。
フランヴェルジュとヴォーパルソード、共にロイドが二人の親から譲り受けた剣だ。
「この剣のことか?
これ、親父たちの剣なんだぜ」
「少し見せていただけます?」
「ああ」
ロイドの二つ返事で鞘から引き抜かれた剣は、ブゥウンと低い音を発していた。
それは魔剣と呼ばれる剣の性質の一つで。
何をそんなに興味をひかれるのか、磨き抜かれた刀身には、の真剣な表情が映っていた。
「これは・・・・・・」
"宙の戒典"。
小さくて聞き取り辛かったが、は確かにそう呟いていた。
ゼロスには聞きなれない響きの言葉だった。
「おい、その剣がどうかしたのか?」
「黙って」
ユーリと二人、ぼそぼそと小さな声でやり取りを交わすと、
はロイドに向けてにっこりと笑う。
「ありがとうございます。
気持ちのこもった良い剣ですね」
「だろお?それがなー」
気分を良くしたロイドが自慢話を始めようとしたところ、
こちらに向かって走ってくる者たちがいた。
「ロイドー!」
「ロイド!ミイラ取りがミイラになってどうするの」
「ゼロスもゼロスだよ。道具屋に行くのにどうしてこんな所にいるのさ」
「また、いつものナンパか?」
「あんたもこりもせずよくやるねぇ・・・・・・」
「ゼロスくん・・・・・・遅いです」
コレット、リフィル、ジーニアスにリーガル。
そしてしいなにプレセア。
全員ゼロスの仲間だ。
ゼロスは皆に事情を説明しようとしたが、それより先に、がにこりと微笑を浮かべる。
「ゼロス様とロイド様のお連れの方達です?」
「わぁー、きれいな女の人だね!」
「ホントだ!もしかしたら姉さんより美人かも・・・・・・あ痛っ」
いまや皆の視線は全てに移っていた。
身を乗り出したコレットや、姉のリフィルにぽこりと叩かれたジーニアスはもとより、
女であるしいなまでもが見惚れた様にを見つめていた。
「ありがとうございます。よく言われますの」
「へ・・・・・・!?」
「えーっと・・・・・・・?」
ぴしり、という音が、仲間の間に響き渡るのが分かる。
できることなら聞かなかったことにしたい。
皆、そう思っているのだろう。
本当にいい性格をしている。
そう、ゼロスは思った。
「おい、皆固まってんぞ」
唯一、突っ込みを入れたのはユーリだ。
しかしそんなユーリを退けて、はコレットに笑顔を向ける。
「ええと、あなた・・・・・・?」
「コレットだよ!」
元気良い返事だった。
コレットにはの発言によるダメージは全くないようだ。
「じゃあコレットちゃん、あの建物って何なのかしら?」
そう言って、は街の奥にある遊園地を指差す。
「あ、あれ?あれは遊園地だよ〜」
「遊園地・・・・・・?」
「コレットのお勧めは観覧車かなー」
遊園地の中心部には、観覧車という円形の装置がある。
所謂、高いところから眼下の景色を楽しむために作られた、
正に遊園地の花形とも言える乗り物だ。
「コレットちゃん。案内してくれる?」
「うん!いいよ!」
「じゃ、早速行きましょ」
「え、あ、ちょっとなんであたしまで・・・・・・!?」
非常に興味を引かれたのか、止める暇もなかった。
はコレットのみならず、
しいなの腕を取って、さっさと遊園地へと向かっていってしまう。
「・・・・・・いったい何が起こってるのかしら」
「いつものことだから気にしなくていーぜ・・・・・・」
残されたものたちはただ、呆然と立ち尽くしていた。
最初は感じていたユーリの言葉遣いの違和感も、今では理解ができた。
護衛騎士であろうとも、あのお嬢様をまともに取り合うほうが馬鹿げている。
ユーリの苦労に合掌。
ゼロスは勝手にユーリに賞賛の意を送ると、たちの向かった遊園地へと目を向けた。
「で、ここでお前どうするわけ」
「ふぅん、確かにここならいけそうかも」
満足いくまで遊園地で遊び終えたゼロスたちは(主にだが)、
異界の扉と呼ばれる、遺跡に立っていた。
「これは・・・・・・石碑・・・・・・?」
が不思議そうに石碑を見上げる。
「ロイド、また剣貸して貰える?」
「え?あ、ああいいけど・・・・・・」
遺跡の中心に立ってはロイドへと声をかけた。
そして彼から二振りの剣を受け取る。
「んじゃ、ゼロスはこっちもってあっちへ。
コレットちゃんはそっちね」
「何をするつもりなのかしら・・・・・・」
リフィルが不安そうにを見つめていた。
遊園地で遊びながらも、ゼロスたちはたちの事情を聞かされていた。
もちろん説明したのはユーリだが、
どうやって帰るか、という話になって唯一、がリフィルに尋ねたのだ。
どこか異界に続くような場所はないのか、と。
リフィルが提示したのはこの遺跡だった。
「ほら、ユーリはぼさっとしてないでこっちくる!」
もはやの言葉遣いは素に戻っていた。
向かって左にゼロス、右にコレットが立って剣を掲げると、
がユーリに向かって呼びかけた。
自身は胸の前で手を組んで、祈るようにして。
「はい集中!」
「光ってる・・・・・・?」
頭上の雲が、風で流れた。
一筋の光が、遺跡へと落ちてくる。
石碑同士が、共鳴を始める。
ゼロスとコレットが持つ二つの剣が眩い光を放ち始めた。
「うん、いけそう」
中心に向かって強く吹き始めた風にドレスをはためかせながら、はにっこりと笑う。
もはや目も開けていられないほどの風の流れだったが、
ドレスの裾を持ち上げて、出会った時と同じように女神の微笑を浮かべて、はお辞儀をする。
「ごきげんよう皆様」
「世話になったな」
ユーリのその言葉を最後に、光と風が、吹き荒れた。
「―――また遊びに来るわ」
「!!」
眩い光と風が収まるのを確認すると、ゼロスは顔を上げた。
そこにはもうとユーリの、二人の姿はない。
「嵐が去ったって感じだね・・・・・・」
「王族って全員あんな感じなのか?」
「さすがに特別だと思うけど・・・・・・」
「そうかなー?かわいい人だったよ?」
「・・・・・・」
コレットの呑気な声に、答える者は誰もいなかった。
ゼロスは一人、考える。
最後に聞こえた言葉、風にほとんど掻き消されてしまっていたが、
また来る、はそう言ってなかっただろうか?
「まさかな・・・・・・」
もうあんな騒ぎは御免こうむりたかった。
「おい・・・・・・また行くって・・・・・・・」
いつもの見慣れた城内に降り立って、ユーリは真っ先にに尋ねる。
の横にいたユーリにはばっちり聞こえていたのだ。
「あら、あんな楽しいとこ、1回きりじゃ勿体無いじゃない?」
「・・・・・・おまえな」
「何か文句ある?」
ツンと顎を逸らすに、ユーリが逆らえる筈がなかった。
ユーリは返事の代わりにと溜息を返す。
「よーし、じゃあ早速エステルに知らせにいこうっと」
「は!?」
「やっぱり独り占めはよくないわよね」
嬉しそうにうんうん頷くと、は階段を駆け上がった。
エステルとはの従妹で、彼女もまた、帝国の皇女である。
そしてに似て、冒険を好む。
つまりは面倒事が2倍に増えるということだ。
「ちょっ、まて、、おい!」
「エステルー待っててねー今行くからねー、あはははは!」
の笑い声が城内に響き渡る。
ユーリがばたばたとを追いかける。
皇女と護衛騎士ユーリのその不毛な追いかけっこは、
の自室にたどり着くまで続いたとかなかったとか。
破天荒プリンセス
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ええと・・・ほのぼの・・・?ギャグ・・・?どこが・・・?
あ。はい、5万HIT企画、りらさんのリクエストでTOVかTOSオールキャラほのぼのギャグです。
せっかくなのでにわかクロスオーバーで。
ていってもキャラ偏ってますがなー!!
ほとんどしゃべってるのゼロスとヒロインだけじゃないかー!!
趣味丸出し(苦笑
ともかくお待たせしました。期待に添えているかは別として(汗
あんな性格のヒロインを書いてみたかったんです!!
むしろヒロインの無茶振りをもっと書きたかったんですが!!
収まりつかなかったんでやめました、ぐう。
りらさま。よかったらもらってやってくださいなー!!
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