「うーん・・・・・・バレンタインかぁ・・・・・・」


来るべき明日はバレンタイン。
は先程からそのことで少し悩んでいた。

既に今日の旅は終えていて、皆思い思いに部屋で寛いでいる時間。
隣のベッドに腰掛けていたエステルが、
の言葉を聞きつけたのか、首を傾げてくる。


「?、どうしたんです?
「んー、明日のバレンタイン、どうしようかなぁって思って」
「バレンタイン?それ何です?」
「え!?エステルバレンタイン知らないの!?」
「はい」


叫んでしまってからはっと、は声のトーンを落とした。

女性部屋、男性部屋と分かれてはいるものの、すぐ隣が男性陣の部屋だ。
話が聞こえてしまっていたらせっかくのバレンタインも台無しである。


「ダングレストにね、チョコ菓子で有名なお菓子屋さんがあるんだけど、
 そこが打ち立てたイベントみたいな物かなぁ・・・・・・」


それにしてもエステルがバレンタインを知らないことに驚きで。
隣に聞こえないように細心の注意を払いながら詳しく説明すると、
話が進むにつれエステルの目がきらきらと輝き始めた。


「なんか面白そうです」
「それで、どうして困ってるのかしら?」
「いつもそんな店の思惑に乗るものか!!って思うんだけど、
 あげないとハリーとレイヴンが泣いて縋るし・・・・・・。
 今年はユーリとカロル、ラピードもいるでしょ?
 それでどうしようかなって思って」


今でこそ女性が好意を持っている男性にチョコレートを贈る日として定着してはいるが、
もとはといえば、チョコレート店の販売戦略の一つであった。
ある意味意固地なとしてはその陰謀に陥るのは不本意で。
けれどもいつもお世話になっている二人にそこまで言われては、あげない訳にもいかない。
結局毎年チョコをあげることになっているのだが、今は旅の途中。
しかも今年は男性の数が増えたとあって、
どうしたものかとは悩んでいたのだ。


「全員にあげればいいんじゃないかしら?」
「うーん、そうなんだけど、
 さすがにダングレストに買いに行くわけにも行かないじゃない?
 ここからだとちょっと遠いし」


狭い部屋の中だ。ジュディスも話を聞いていたのだろう。
ひょっこりとエステルの横から顔を出したジュディスに、
はうーん、と唸って見せた。
しかし、ジュディスがそんなににっこりと笑顔を向ける。


「あら、バウルなら一飛びだわ」
「・・・・・・それもそうよね。
 じゃあジュディス、バウルにお願いできる?」
「ええ、もちろんよ」


確かにどこにいようが空を飛べるバウルなら、遠い場所でも一飛びである。
ここはジュディスのお言葉に甘えることにして、
やっとは安心してベッドに潜り込んだ。

今日はもう遅いし、行くにしても明日だ。
思いの外ふかふかなベッドにすぐに眠気を誘われて、
ふわあと一つあくびをつくと、頭上から明るい声が降ってくる。
エステルであった。


「わたしもついて行っていいです?」
「どうせならエステルも皆にあげたら?」
「!、そうですね、そうします!!」


よっぽどバレンタインに興味を抱いたのか、
物欲しげな顔をしているエステルはまるで子犬のようだった。
特に断る理由もなく、掛け布から顔を出したはエステルを見上げると、
一つ提案をした。

バレンタイン自体やったことがないのなら、
ただついて来るより参加したほうがなお良いのではないか、と。

エステルみたいなかわいい子にチョコをもらえるなら男たちも喜ぶだろうし、
色とりどり種々様々なチョコからお気に入りを選ぶのは、
ショッピング感覚でもなんだかんだいって楽しんでいた。
だからこそエステルも楽しんでくれるだろうと、そう思ったから。


「リタも行くわよね?」
「は!?あんた何言って・・・・・・」
「リタも行きましょう!!」


同じ部屋にいるのに先ほどからちっとも会話に加わってこないリタに、
がちらりと視線をよこすと、リタが驚いた声をあげる。
どうやら話だけは聞いていたらしい。

そしてリタの言葉をさえぎるように、
エステルが今度はリタに物欲しげな視線を送った。
もはや問答無用の勢いだった。


「ちょ、ちょっと、エステル!?」
「行かないんです?」
「あ、あたしは・・・・・・」


しどろもどろにリタは言葉を続けようとするが、
リタの言葉にエステルがしゅんと肩を落とすのを見ると、
リタは「あ〜、もう!!」と髪をかき回しながら大きく唸った。


「行くわよ、行けばいいんでしょ!!」
「リタ!!」


エステルがリタに嬉しそうに抱きつく。
どうやら決まったようだ。
エステルに抱きつかれて赤い顔でわたわたするリタを眺めた後、
はベッドと同じくふかふかの枕に顔を埋めさせた。
そろそろ眠気が限界だった。

明日は男性陣には何かもっともらしい理由をつけてバウルを出してもらうことにしよう。
今度こそ眠気に身を任せると、すぐには夢の中へと落ちた。















「んー・・・・・・これでよしっと。
 ―――エステル?」
、すごいです!
 これなんて周りがきらきらしてます」
「ホントだ可愛い」
「あっちのチョコも猫の形してるんですよ!!」
「あ、エステル!?」


大体の買い物を終えて、が後ろを振り返ると、
エステルがあっちこっちとショーケースを覗き回っていた。

形や色、飾り付けに工夫を凝らされたチョコレートを初めて見たときはも興奮したものであった。
エステルが目を輝かせて指す方向には、
かわいいリボンと銀のブローチで飾り付けされたチョコレートの箱があって。
向こうのケースには猫の形をしたチョコレートもあるらしい。
興奮した様子のエステルはの声も聞こえていないのか、
リタの手をとりそちらへ駆けていってしまった。


「楽しそうだね、エステル」
「そうね」


思わず苦笑をもらしたに、隣にいたジュディスが相槌をかえす。
ジュディスのその手には綺麗にラッピングされたチョコレートの箱が乗っていた。


「ジュディスは誰にあげるの?」
「バウルよ」
「バウル?」


てっきり男性陣の誰かにあげるのかと思っていたのだが、違ったらしい。
バウルといえば始祖の隷長で、始祖の隷長がチョコレートを食べるなど、聞いたことがない。
がキョトンとしていると、ジュディスが「あら」と微笑を返した。


「こういうのは気持ちの問題よ。
 そうでしょう?」
「うん、そうだね」


ジュディスの言うとおり、大事なのは人に何かをあげるという気持ちであった。
バレンタイン商戦に乗るのは乗り気ではないではあったが、
それに関しては賛成派であった。


「エステルー、そろそろ帰るよー」
「はい!!」


いつのまにそんなに買ったのか、
手にいっぱいのチョコの箱を持ったエステルが、の所へと戻ってくる。
その顔は今までで一番良い笑顔をしていた。















「と、いうわけで。はい、チョコレート」
「何がと言うわけなのか分からないが・・・・・・。
 サンキューな」


宿屋に戻り何の脈絡もなくチョコレートを差し出したに、苦笑をもらすユーリ。
しかし心なしか口元は嬉しそうに微笑んでいて。

チョコレート=甘いもの。
甘いもの=ユーリである。


「ちょっとちゃん!!おっさんの分は!?」


よし、と満足げにが頷いていると、その横にいたレイヴンがあわてた様子で飛びついてきた。


「レイヴンのもちゃんとあるわよ。
 全く、甘いの苦手なくせにバレンタインだけは欲しがるんだから・・・・・・」
「わかってない!わかってないわねちゃん!!
 こういうのは気持ちの問題なのよ!!」
「はいはい」


毎年同じようなやり取りを繰り返していれば、それを適当にあしらうのはもはや必然だ。
今年もあーだこーだ言っているレイヴンは放置することにして、
はカロルとラピードにもチョコレートを差しだした。


「カロルとラピードにもあるわよ。はい」
「すごいんですよ、
 一人一人にあったチョコを一瞬で作っちゃったんです」
「大したことはしてないわよ」
「へぇ、さすがだな」


いつもは既成のチョコレートで済ましていたのだが、
今日一日時間をもらったことだしと、は手作りでチョコレートを用意していた。

エステルの言葉をは否定するが、料理上手なが作ったものである。
レイヴンの甘さ控えめなビターチョコレートケーキに、
カロルの目に鮮やかな色とりどりのチョコレートトリュフ。
ラピードの骨型のチョコレートクッキー。
どれもそんじょそこらのものに引けをとらない出来栄えであった。

それらを覗き込んで確認したユーリが感心の声を漏らすと、
エステルがごそごそと荷物から綺麗な包みを取り出した。


「わたしもみんなにプレゼントです!!」
「お、ありがとな」
「嬢ちゃんから貰うなんて思ってもみなかったわ」
「ありがとう!エステル!」
「ワン!!」
「どういたしまして!」


エステルが一人一人チョコレートを差し出していくと、それぞれがお礼言うが、
チョコをもらった本人達よりもあげたエステルのほうが嬉しそうであった。


「リタは?」


本人は見つからないようにしていたつもりであろうが、
リタがチョコレートを買っていたことを、は目撃済みであった。


「あ、あたしは・・・・・・」


見られていたと分かって、ぼっと顔を赤くしてそっぽを向いたリタだったが、
ちらりとエステルのほうを見たかと思うと、
すぐにかわいい包み紙のチョコレートがそちらへと差し出された。


「え、わたしにですか?」


あまりに突然だったので、キョトンとエステルが問い返すと、
リタはこくりと小さく頷く。
その顔は耳まで赤くなっていた。


「ほら、あんたにも」
「!、リタありがとう!!」
「ありがとう、リタ」


照れ隠しなのか、ぶっきらぼうに、けれどもエステルのと同様かわいいチョコレートが、
次いでとジュディスにも差し出される。
所謂友チョコであった。


「リタっちも微笑ましい事するのねぇ」
「うっさい!!」
「あだっ!!」


よせばいいのにちょっかいを入れるレイヴンに、リタの鉄拳が決まるのはいつものことだ。


「それじゃ私、ハリーとデュークの所に行ってくるね」
「はい」


とりあえず一段落着いたところで、
ユーリ達にあげたチョコレートとは別のチョコを手に、は部屋の外へと出て行った。

その背中を追っていたのは二つの視線。


「やっぱ今年もあいつにあげるのねぇ・・・・・・」
「・・・・・・」
「そういえば、ユーリ達はにあげないんです?」
「!?」


漂う重い空気もなんのその、エステルの言葉に一同絶句。


「・・・・・・嬢ちゃん、ホワイトデーって知ってる?」
「知らないです」
「・・・・・・」


エステルはバレンタインを知らなかった。
ならばそれと対になるホワイトデーを知らないのは道理で。


「ま、別にいいんじゃねえの、珠には男からあげても」
「そういう決まりは特にないわよね」
「決まりですね!」


肩を竦めてユーリが提案すると、ジュディスの同意の言葉が返り、
それにエステルが嬉しそうに手をぱちりと叩いた。


「それじゃいっちょ腕によりをかけるとしますかぁ!」
「帰ってきたら、驚くよね」
「そうね」


甘いものを作るのはいつも渋るレイヴンだが、今日は乗り気のようである。
腕まくりをしてキッチンへと向かうレイヴンを横目に、
カロルがジュディスを見上げると、ジュディスは微笑みながらも小さく頷いた。















ハリーとデューク、それぞれ二人にチョコレートを渡し終え、
宿屋へ帰り着いたを待っていたのは、
テーブルに載っていた、大きなチョコケーキであった。


「ただいま〜ってどうしたのこれ!!」


目を丸くしてケーキを凝視すると、
満足げな表情をしたユーリたちがを出迎えた。


「オレ達からへのプレゼントだ」
「ユーリ!!」


驚いてユーリに駆け寄ると、その横から、レイヴン、カロル、ラピードまでもが声をかけてくる。


「おっさん、がんばったわよぉ・・・・・・」
「レイヴン・・・・・・」
「ボクも手伝ったんだよ!!」
「ワン!!」
「カロル、ラピード!!」


どうやらが出かけている間に4人が作ってくれたらしい。
誰もがその体から甘い香りを漂わせていた。


「ありがとう皆!!」
「どーいたしまして」


まさかこんなサプライズがあるとは思っていなかったが、素直に嬉しかった。
一人一人にお礼を言うと、は皆を椅子に促した。


「それじゃ、皆で食べましょ」
「え、一人で食べないの?」
「私一人じゃ食べきれないし、
 それに皆で食べた方が楽しいでしょ?」
「そうですね」
「てことで、はい、皆座って座ってー」


何回かに分けて食べれば食べられない量ではなかったが、
今は皆と一緒に食べたい気分だった。
喜びを分かち合いたかった。


「おっさん、甘いものはもういいんだけど〜」
「つべこべ言わずに座る!!」


一人渋るレイヴンを無理やり椅子に座らせると、
も椅子へすとんと座った。
一口頬張ったケーキの味は甘くて、美味しくて、何よりも4人の気持ちが篭っていた。
嬉しそうに笑うに釣られて皆も嬉しそうに笑う。

旅の途中の、何の変哲もない日の一つ、けれど幸せな、そんな一日。





























































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にゃー。
ぎりぎり、ということに・・・してください・・・。
バレンタイン夢でございます。
オールキャラ目指しました。
甘甘はどっかへすっ飛んでます。
こんなバレンタイン夢もあってもいいよね、ってことで。
ホワイトデーは甘いのかくよ・・・!!(甘くなれればいいn(ごほ)