「レイヴン、いるー?」


ある日の午後。
夕食も食べ終わり、各々が部屋で寛ぐ頃。
レイヴンの部屋を訪れるものが一人。

トントンと軽い音を立てて扉が叩かれた後、の顔がちらりとこちらを窺った。


「はいよ、どうしたの?ちゃん」
「皆にお酒貰ったの。レイヴンも飲むでしょ?」
「え!?」


が手に持っていたお酒の瓶を揺らしてみせると、中の液体がぴちゃりと軽快な音を立てて鳴る。
その中身は心なしか減っているように見えた。


「・・・・・・って酒くさっ!!ちゃん酒くさっ!!」


現に中身は既に飲まれていたらしい。
驚くレイヴンの元へ、ぷーんとお酒の匂いが漂ってくる。
発生源はもちろん目の前に立つだ。

思わず鼻をつまみ飛び退ると、むーっとが頬を膨らませた。


「何よー。いいじゃない。
 今日はクリスマスなんだし、ちょっとぐらい飲んでも」
「でもちゃんが酒飲んだら・・・・・・」


大変な事になる。
それは以前、実証済みだ。
ギルドの連中も自身もそれを知っているはずなのに、どうしてに酒を渡したのか。

・・・・・・まぁそれは聞かずとも分かりきったものだが。

しかしそれとこれとは話が別なわけで。
未然に防ぐ事ができるならそれに越したことはない。

レイヴンが依然として渋っていると、徐々に不機嫌そうに吊り上がっていくの眉。


「も〜〜!良いわよ!皆と飲むからっ!!
 レイヴンのケチ!!」


もう我慢の限界だと、一息に叫びながら一度テーブルに置いた酒瓶を再びその手に取り戻し、
は踵を返そうとする。
それはレイヴンにとって聞き捨てならない台詞であった。


「ちょっ!ちゃんたんまたんま!!」
「何よ」


慌てての前に回りこみ、その行く手を遮ると、
がじろりと不機嫌そうにこちらを睨んだ。
の機嫌の悪さはピークであった。
こちらの対応如何によってはそれこそ魔法をぶっ放しかねないほどに。

それでも、レイヴンには彼女を止めなければならない理由があった。


「・・・・・・それだけはやめてちょーだい」
「どうして?」
「どうしても!」
「・・・・・・わかったわよ」


レイヴンの必死の懇願が効いたのか、は渋々といった感じで椅子に座り込んだ。


「だったらレイヴンが一緒に飲んでくれるわよね?」


先程までの不機嫌さはどこへやら、にこりと微笑んだは取り出した二つのグラスを重ね合わせた。
チィンと涼やかな音色が辺りへと響き渡る。


「・・・・・・しかたがないわねぇ・・・・・・」


しかしそれとは対照的に、重い溜息が一つ。
レイヴンはやれやれと肩を落とした後、の真正面の席、
すでになみなみとお酒が注がれたグラスが待つテーブルへと足を向けた。




















「―――だからね・・・・・・それで私が―――
 ・・・・・・ちょっと、レイヴン。ちゃんと話聞いてる!?」
「はいはい、聞いてるわよ。
 それでハリーがどうしたって?」
「このまえ風邪ひいて寝込んだからって、
 やれ外出禁止だとかうるさいのよ!!」
「ああー・・・・・・あれはねぇ・・・・・・」


ちびりちびりとお酒を飲む自分とは対照的に、は豪快に一杯を飲み干した。
それ以上はも飲むつもりはないらしい。
空いたグラスはそのままである。

替わりにハリーの愚痴へと発展したの口は止まる事を知らなかった。

小さい時から可愛がっているのこと。
ハリーの心配はごもっともなのだが、いささかやりすぎな所もある。

レイヴンが同意するかのように頷きかけると、がくたりとテーブルにへたり込んだ。


「って、ちゃん?」
「んー・・・・・・・」
ちゃん、こんな所で寝たらまた風邪ひいちゃうわよ」


どうやら酔いが眠気に来たようで、呼びかけには応じるものの、その瞼は殆ど閉じかけである。
今回は何も起こらないらしい。
それにほっとしつつも、残念に思う自分がいて。
ともあれこのままでは確実には風邪をひいてしまうであろう。
椅子から立ち上がりを揺り起こそうとすると、
それまでテーブルに伏せていたの顔が不意にこちらを向いた。


「うーん・・・・・・レイヴン?」


にっこりとが顔に浮かべていたものは、正に天使の微笑みであった。
きらきらと輝かんばかりの笑顔で自分の名を呼ぶに、
うっと思わず声をあげて後退りするレイヴン。

しかしそんなことには構わずに、にこーっと微笑みながらはレイヴンに近づいた。
ちゅっと可愛らしい音と共に伝わる柔らかい感触。
それはがレイヴンの頬にキスをしたものだった。


「ちょっとちゃん!?!?」
「えへへーレイヴン好きー」


驚くレイヴンにがにへらと笑顔を向けた。
すると今度はレイヴンの首に腕を回して、んーと唇を寄せてくるではないか。
それにはさすがのレイヴンも必死に抵抗する訳で。


「ちょっと、レイヴン逃げないでよぉ」
「これが逃げずにいられますかっての」


狙いすましたとおりにいかないのが不満なのか、
むーっと不機嫌そうに頬を膨らませる
しかし次の瞬間何かを閃いたのか、目を輝かせる。


「あっ!レイヴンの後ろにハリーが!!」
「えっ!?」


命なハリーなこと。
もしこの現状を見ていたのなら、何をされるか堪ったものじゃない。
レイヴンがぴしりと固まると、の嬉しそうな声が響いた。


「隙ありっ」


それと共に何かが唇に覆いかぶさる。
目の前にはの顔が、彼女の長い睫毛が一本一本分かるほど迫っていて、
潤んだ紫翠の瞳がレイヴンのそれと合わされると同時に伏せられた。
ちゅーと先程よりも長いキスに、レイヴンは呆然とするしかなかった。


「うふふ。レイヴン、だぁいすき」
「・・・・・・」


反則である。

天使の微笑を再びその顔に浮かべて嬉しそうに自分に抱きつくに、
レイヴンはもう何も言えなかった。

時間にしてほんの数秒。
けれどもレイヴンにはそれが凄く長い時間に感じられた。

徐々に熱くなる顔を手で覆いながら、ずるずるとレイヴンはその場に滑り落ちた。




















「どうしたおっさん。
 疲れきった顔して」
「・・・・・・俺様精魂共に尽き果てたって感じ・・・・・・」


翌日、ふらりと皆の前に顔を出したレイヴンに、ユーリが声をかける。
ユーリの言うとおり、レイヴンは憔悴しきった顔をしており、
彼の声に応えるものの、ぐったりとテーブルに寄りかかったまま動こうとしなかった。


「そんなにすごかったのか?」
「!?」
「ギルドの連中にはお酒を飲んだら暴れまくるって聞いたんだが・・・・・・。
 違うのか?」


もしや詳細が彼にまで伝わっていたのか。
ユーリの言葉にがばっと勢いよく顔をあげると、ユーリは少々驚きながらも話を続けた。


「いや、違くはないんだけども・・・・・・」
「??」


どうやら詳しくは聞いていないらしい。
言葉を濁すレイヴンに、ユーリが訝しげな顔を向けてくる。

確かに暴れるには違いない、違いないが・・・・・・。


「・・・・・・青年。ちゃんにだけはお酒飲ませちゃダメよ。絶対」
「?、わかった」


ユーリは訳が分からないといった感じだが、
には絶対お酒を飲ませてはダメなのである。
他の男がいる所では尚更で。

以前よりも性質が悪くなったのソレに、レイヴンは再びテーブルに突っ伏しながらも深く溜息をついた。






Kiss,Kiss,Kiss!


































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クリスマスフリー、レイヴン夢でございます。
読んでくださっている皆様に差し上げますです。

酔うとキス魔になる連載ヒロインさんでした。
あれ、いつもと変わらなくない?
・・・・・・そんなことないよ・・・・・・。
たぶん。

そしてそれとなくエンディングその後な設定。
だから場面はダングレストなのですよー。
もちろんギルドの皆は確信犯でございます。
前スキットで書いた話をこんな所で消化してみました。
レイヴンの苦難の日々はおわらなそーです(笑