「ユーリ、今日もご苦労様」


野営中にふと目を覚ましたわたしは、今日も寝ずの番をしているユーリに声をかけた。
その声にユーリがこちらを振り返る。


「ん、か、どうした?」
「んー、星が綺麗だなぁって思って」


一度寝た筈なのにわたしが起きてきた事を不思議に思ったのだろう、
ユーリが首を傾げてきたが、わたしは空を見上げる。
この世界には夜を明るく照らすネオンも、夜空を遮る建物も何もない。
たくさんの星たちが、気ままに瞬き、夜空を明るく照らし出していた。


「そうだな・・・・・・」
「・・・・・・あのね、ユーリ。
 わたしのいた世界では、今日は七夕っていう日なの」


こちらに来た際、唯一身に着けていた日時入りのデジタル時計が7月7日の深夜を告げる。
それをちらりと見やった後、わたしはユーリの隣に座り、彼の顔をじっと見つめた。


「七夕・・・・・・?」
「うん、七夕。
 ―――七夕にはね、それに纏わる伝説があるの」
「へぇ、どんなんだ?」
「えーとね・・・・・・」


働き者だった彦星と織姫が結婚した途端働くなったこと。
それに怒った天帝が天の川のこちらとあちらに二人を分け隔ててしまったこと。
その事を嘆き、悲しみに暮れる二人を見かねて、ちゃんと働く事を条件に、天帝が再びチャンスを与えたこと。
それをわたしは順を追ってユーリに説明する。

七夕とは、二人が一年に一度だけ逢うことを許された日。
織姫の織る美しい布に似た短冊に願いを込めてお祈りする習慣はその伝説から派生したものである。


「それでね、短冊に願い事を書いて笹の葉につるして星にお祈りすると、
 その願い事が叶うんだって」
「ふーん」
「よーし、笹の葉はないけど、短冊、作っちゃおうかなっ」


そう言って書くものを取り出すと、わたしはその紙にさらさらと、願い事を書き出していく。
この世界にきたばかりの頃は、この世界の言葉も文字も何も分からなかった。
けれど、わたしを拾ってくれたユーリが、出来るようになるまで懇切丁寧に教えてくれたのだ。
おかげで喋る事も読み書きも、お墨付きが貰える程出来るようになった。


「これでよしっと」


文字を書いた短冊を折りたたむと、わたしは笑みを浮かべた。


「何て書いたんだ?」
「うふふ、ユーリには内緒」


ユーリが興味深げに手元を覗いて来るが、わたしはそれを防ぐために短冊を持った方の手をユーリの反対方向に伸ばした。


「―――まさかお前、元の世界に戻れますようにとか書いたんじゃないだろうな」
「えっ・・・・・・」


その、思っても見なかったユーリの言葉に、わたしは目を見開いた。

わたしは元の世界に戻りたかった。
確かに最初の頃はそればかりを口にしていた。
だからこそユーリはそれを問うているのだろう。

この世界にはわたしの両親も、友達も、知っているものは何もない。
それどころか、魔物という恐ろしい生物がはびこる世界だ。
何の変哲もない普通の生活をしていたわたしにとって、それは居辛いを通り越して、苦痛そのものであった。

しかし、わたしの傍には常にユーリがいてくれた。
服装がおかしく、言葉も通じない、みるからに怪しい人物であっただろうわたしを、彼は優しく迎え入れてくれた。
ユーリの暖かな温もりは、見知らぬ世界に怯え、大切な人と会うことが出来ず、途方と悲しみに暮れるわたしの心を溶かした。
彼の傍にいるうちに、いつのまにかわたしはこの世界にいることが苦痛ではなくなっていたのだ。


「そんなんじゃ、ないよ・・・・・・」
「・・・・・・そうみたいだな」


そんなわたしの心の内を見透かしたのか、小さく呟いたわたしの言葉に、ユーリの宵闇の瞳がすっと細まった。


「わたしが書いたのはもっと違う事。
 ユーリに関係する事だから見せてあげないよ」
「なんだよ、気になるじゃないか」
「だーめ」


身長の差からしてこちらが不利である。
わたしがユーリに取られまいと目一杯手を伸ばしているのに対して、
ユーリは事も無げに上から短冊を取ろうとする。
このままでは取られてしまう。そう思ったわたしは短冊を握り締め、ユーリから反対方向に走り出した。


「待て、こら!見せろって」
「あははははっ」


逃げ出したわたしをユーリが追いかけてくる。
わたしはそれにきゃーと叫びながら、傍にあった木の陰に駆け込んだ。


「捕まえた」


そう言って、ユーリがわたしを後ろから抱きしめる。
その優しい温もりは、わたしをいつも幸せな気持ちにさせてくれる。
わたしは余韻に浸るように目を閉じると、腰に回されたユーリの手の上に、自身の手を重ねた。


「・・・・・・ねぇ、ユーリ?」
「なんだ?」
「・・・・・・やっぱなんでもない」
「こら」


くるりと体を反転させられて、ユーリの呆れたような顔がわたしの目の前にくる。
こつんと叩かれた額に手をやると、わたしは意を決してユーリの目をじっと見つめた。


「―――わたしたち、織姫と彦星みたいに離れ離れにならないよね?」


織姫と彦星は天の川を隔てた所に住んでいた。
それは遠いようで近い。
世界が同じなら、橋が架かるだけで会うことが出来る。
しかし、世界が違うならどうであろうか。
一度離れたらもう一生会えないのではないだろうか。
言い知れぬ不安がわたしの胸の中を駆け巡った。


「・・・・・・ああ」


そう頷くユーリの瞳には力強い光が宿っていた。
その光は、不安に強張っていたわたしの心を優しく溶かしていく。
ああ・・・・・・。やっぱりユーリとは離れたくない。
ユーリの傍にいられるのなら、わたしはなんだってする。


「―――けどその二人だって一年に一度は会えるんだろ?」


握り締めたままだった短冊にわたしが目を落とすと、ユーリの静かな声が響く。


「ま、オレだったらそのまま掻っ攫って離さないけどな」
「もう、ユーリったら・・・・・・」


片目を瞑って笑みを浮かべるユーリに釣られて、わたしは小さくくすりと笑った。



「なあに?」
「・・・・・・やっぱなんでもない」
「もう、これじゃさっきの反対じゃない」


そう、それは先程のやりとりの間逆であって、それがおかしかったわたしはユーリの胸を軽く叩いた。


「そうだな」
「・・・・・・ユーリ?」


彼の胸を叩いていたわたしの手はぎゅっと握り締められ、彼の腕に抱かれていたわたしの体には強く圧力がかかる。
わたしはそれに首を傾げ、ユーリの顔を見上げた。
彼の強い意志を宿した眼差しが、わたしの瞳に映りこむ。


「どこにも行くなよ、


ユーリのその瞳に射抜かれて、動けないわたしの耳に、囁くように呟くユーリ。
それはユーリの心からの想いだった。
ユーリの心はわたしと一緒だったのだ。
わたしは湧き上がる涙を必死で堪え、うん、うん、とユーリに何度も頷いて見せた。
すると、ユーリは嬉しそうに笑い、再びぎゅっとわたしの体を抱き締めた。
ひらり、ひらりと、わたしの手から離れた短冊が、地面に舞い落ちる。




『ユーリといつまでも、いつまでもずっと一緒にいられますように』




その願いは、たった今、叶えられた。

頭上には満天に光り輝く星々たち。
そのやわらかな光は、夜が明けるまでの間中、木の下で抱き合う男女を温かく見守っていた。



































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「ボクたちいつまで寝た振りしてればいいのかな・・・・・・」
「だめですよ、カロル、二人に気付かれちゃいます」
「青年もやるねぇ・・・・・・」
「あら、もっとくっつけばいいと思わない?」
「馬鹿っぽい・・・・・・」
「ワフ」

そんな会話が後ろで繰り広げられてたりなかったり。
あれだけ騒いでりゃそりゃ気付きますよねー。
でも空気を読む仲間達。
そんなヴェスペリアメンバーが大好きです。

天の川が世界の歪、織姫側が地球、彦星側がテルカ・リュミレース。
そんな感じで書いて見ました!!
なので初のトリップ夢。
まぁ七夕自体ヴェスペリアにはありそうにないですしね・・・・・・!