バシャバシャと、足音を立てて山道を二人の男女が走っていた。
山の天気は崩れやすいというが、
突然空が暗くなったかと思うと、急に土砂降りの雨が降ってきたのだ。


「ユーリ、見て!建物があるわ!
 あそこで雨宿りしましょ。
 ほら早く!」


先を行くのは
うっすらと遠くに見えた建物は山小屋であろうか。
後ろからやってくるユーリを急き立てて、は走った。
雨の備えなどまるでしてこなかったので、正に天の助けだった。
ばたばたと小屋の中に駆け込む。

入った小屋の中は薄暗かった。
辛うじて奥にある暖炉の火が周囲をぼんやりと照らしてはいるが、
そちらを見たとき、の目が大きく瞬いた。


「・・・・・・デューク・・・・・・?」


暖炉の傍に見えたのは、赤い瞳。
それはの見知った赤い光のように思えた。
しかし、数瞬後、ははっと息を呑む。


「ご、ごめんなさい、先客がいると思わなくって」


よくよく見てみれば、その赤い瞳の持ち主は、デュークとは正反対の黒い髪の男であった。
は慌てて謝る。
デュークと間違えてしまったのもそうだが、
人がいるとは思わなくて、かなり乱暴に小屋に入ってきてしまったからだ。
先客の彼らはさぞかしびっくりしたことだろう。


「なぁ、おれ達突然雨に降られちまって、
 しばらくお邪魔してもいーか?」
「ちょ、ちょっと、ユーリ。
 ものにはちゃんとした頼み方ってものが・・・・・・」
「いいじゃねーか、山小屋は誰の物でもないだろ?」
「そうだけど・・・・・・!」


ユーリはいつものユーリというべきか、
その遠慮の無い物言いに再びは慌てるが、
ユーリの言い分ももっともだった。
登山者のために作られた山小屋は、基本的に誰でも休憩できる場所なのだ。



「ガイアス?私はかまわないわよ?」
「しかし」
「困ったときはお互い様、そうでしょ?」
「・・・・・・そうだな」


男に隠れて見えなかったが、暖炉の傍にはもう一人いたようだ。
僅かに渋い顔をする男の影からひょいと身を乗り出したのは若い女性で、
こちらの姿を見ると、すぐににこりと微笑を投げかけてくる。


「こんばんは。
 突然の雨で大変だったでしょう?
 そこの彼女、ずぶ濡れじゃない、さ、火にあたって」
「すみません・・・・・・」


指摘されたとおり、の全身はびしょ濡れ状態であった。
服からぽたぽた落ちた雫が、床に盛大な染みを作っている。
言葉に甘えて暖炉の傍に寄ると、は荷物からタオルを取り出した。


「貸して、拭いてあげる」


再びにこりと微笑んだ女性が、の手からタオルを取る。
の髪を拭く手つきは優しく、暖かい。


「綺麗な髪ね」
「え?」
「空に輝く月のように、綺麗な色だわ」


純粋な目がこちらをじっと見つめている。
そういう女性の髪こそ綺麗な赤い色をしていると、は思う。
暖炉の火よりも赤く、情熱的な色。
率直な意見を述べれば、嬉しそうに彼女は笑う。


「ありがとう、自慢の髪よ。
 それにね、・・・・・・ほら、こうして見ると私達、姉妹のようじゃない?」


後半の言葉は、男に向けて放たれたものである。
どうにもの銀の髪は今、暖炉の火によって赤く照らし出されているらしい。
数瞬後、確かに、と男の言葉が返ってくる。


「でしょう?こんな妹欲しかったのよね!」


女性は心底はしゃいでいるようだった。
ぎゅっと強く抱きしめられて、は目を白黒させるばかりだ。


「それで、あんたらはどうしてここに?
 おれ達みたいに雨に降られたってわけでもないみたいだし」
「ちょっと、ユーリ」
「それに・・・・・・」


そこで言葉を切らして、ユーリは男を見る。


「あんた、ただもんじゃないだろ」
「私たちは・・・・・・」


その鋭い眼光といい、隙の無い身のこなしといい、この男、ガイアスが只者ではない事は明らかであった。
山小屋に入った時からずっと気になっていたのだ。
あまり饒舌ではないのか、黙りこくったガイアスの代わりに女性が口を開くと、
その時、ぐらりと家が傾いだ。
次いでドシーンと何か重いもののぶつかった音がする。


「な、何!?」
「!、外へ出ろ!」
「ええ!?」
「早く!!」


ガイアスに言われ、訳も分からず急いで外に出てみれば、
そこにあったのは山小屋に覆いかぶさるようにとりついた大きな魔物の姿だった。


「何だ、あんな魔物見たことねーぞ。
 始祖の隷長か・・・・・・?」
「ううん、違うわ。でも、彼らに近い・・・・・・」


ユーリに向かって大きく首を振ると、は目の前の魔物を直視した。
通常の魔物と比べて僅かに意思のようなものが感じられるが、
始祖の隷長と違い、言葉というものをこの魔物は持たないようだった。


「っ、ごめんなさい、ガイアス。
 私が外に出たいと言ったばかりに・・・・・・」
「お前の所為ではない、
 それより、後ろに下がっていろ」


どうやらこの珍客が用があるのは後ろの二人のようで、
ガイアスが刀を振り抜き構えると、魔物がぐるるると、低い呻き声を上げた。
がこくりと頷いて、すぐに後ろへと下がる。


も・・・・・・」


同様に下がっていろ、と言いかけて、ユーリの動きがぴたりと止まった。
後ろを振り向けば、当然のように武器を構えているがいたからだ。


「私がそんな殊勝な性格じゃないこと、ユーリ、わかってるでしょ?」
「・・・・・・だよな」


庇われて後ろで大人しくしている、がそんな可愛げのある性格をしていたら、
ユーリはこんなところでこんな苦労はしていないはずである。
小さく溜息をつきつつもユーリは口の端で笑う。
だからこそ、おもしろい。


「油断すんなよ!!」
「分かってる!」


必要なのはただ、信頼の心であった。
声を掛け合って、周りに集まってきた魔物を互いになぎ倒しつつ、ユーリは奥の男の様子を窺った。
巨大な魔物相手に長刀を難なく振り回す男の腕は、ユーリから見ても相当なものである。


「やっぱ、強えなあいつ」
「そうね、戦い慣れてるみたい。
 ―――戦ってみたい?ユーリ」


返事は聞かずとも分かりきっていた。
にっと不敵な笑みを浮かべて目の前の敵を切り裂いたユーリに、は苦笑する。


「まったく、戦闘狂なんだから・・・・・・。
 ま、私も人のこと言えないけど、っと」


くるりと、体を反転させたの手から放たれた細い針状の武器が、
寸分違わず背後から迫っていた魔物の眉間に無数に突き刺さった。
はくすりと笑うと、舌で小さく唇を舐める。


「よお、こいつら、あんたらの知り合いか?」
「違う」
「道を歩いていたら突然襲われたの!」


魔物に知り合いなどいる筈もないであろうが、
あえてちゃかすようにそう聞けば、が、詳しく説明を始める。
ようするに、隠れるように山小屋の中にいたのは、この魔物の所為だということだ。


「ふーん。
 あんたほどの腕なら逃げなくてもよさそうなんだが・・・・・・」


ユーリはそこでちらりとを見た。
否、というより、彼女の腹部を。


「―――ま、身重の女庇いながらじゃしょうがねーか」
「え!?彼女、お腹に子供がいるの!?」
「だろ?」
「・・・・・・」


が逃げるとき、お腹を庇っていたのにユーリは気がついたのだ。

質問に対し、返ってきたのは沈黙の肯定だった。
お腹に手をやり、が申し訳なさそうに目を伏せる。


「んじゃま、胎教にも悪そうだし、ちゃちゃっと片付けることにしますか!」
「・・・恩に着る」


最小限の言葉を口にして、ガイアスが走った。
剣の柄を握りなおしたユーリはにっと笑って続いて魔物に向かって走り出した。




















「我はガイアス、ア・ジュールの王だ」
「私は。ガイアスの妻よ」


たとえ少しばかり強そうな魔物が寄って集まってきても、
腕に覚えのある3人が揃えば、もはや敵ではなかった。
物の数分で最後の1匹を倒し終えると、たちは互いに自己紹介をしていた。


「ア・ジュール・・・・・・?聞いたこと無い名前だが・・・・・・」


思いつく限りの街の名前を頭の中で挙げ連ねてみるが、
どうにもユーリが知る限りでは存在しない街の名前である。
ましてや、帝都以外の国がある等、考えられる筈も無い。
首を大きく捻ったユーリに、ぽつりと小さくが呟く。


「・・・・・・やっぱり」
「どうした?


一度、ユーリに目を向けて、はその瞳にガイアス達の姿を映す。
よくよく注意して見なければ分からないほどではあったが、
の目にはガイアス達が異質なものとして映っていた。


「この人たち、この世界の住人じゃないのよ。
 内に、エアルとは違う力のようなものを感じるわ」
「そうなのか?」
「どうやらそのようだな」


問えばすぐに小さな頷きが返ってくる。
が言う、異世界からのトリップなど、全く非常識なことではあったが、
ガイアス達もうすうすは感じていたということらしい。


「帰る方法は・・・・・・」


ふむ、と相槌を打ったユーリは再びガイアスを見たが、
首を横に振ったのは、ガイアスの後ろにいた、だった。

方法が分かっていれば彼らがここにとどまっている理由はもとより無いのである。
わかるわけねーか、と舌打ち交じりに小さく呟くと、ユーリは次にを見た。


は?」
「彼らならあるいは・・・・・・」
「じゃあジュディに頼んでバウルを・・・・・・」


彼らとはこの世界の古くからの住人、始祖の隷長のことであり、
世界のあらゆることに通じている彼らならば、自分達が知らないことでも知っているかもしれない。
が言うことに一理はあった。
可能性があるならばやらない手筈も無い。

馴染みの仲間の名前を口にして動こうとしたユーリの前を、しかし突然の白い手が遮った。


「待って!」
「・・・・・・光ってる・・・・・・?」


不思議そうな声を出したの身体が、淡い光に包まれ始めている。
それは横にいたガイアスも同様で、
光は徐々に強さを増し、いまや渦を巻いて天にへと駆け上るほどとなっていた。


「心配は無用みたいだな」
「ああ、そのようだ」


それは尋常ではない様子であったが、不思議とユーリ達は落ち着いていた。
その光が、ガイアス達が元の世界に戻るためのものだと直感で察したからだ。


「ユーリ、ありがとう!」
「体にきーつけてな」
「元気なお子さんを生んでね!」
「ありがとう、・・・・・・さようなら!」


眩い光に包まれて、もはやその姿は見えなかったが、
の口から深い感謝の言葉が発せられる。
気にしないで、とは叫ぶが、
その瞬間、光がいっそう眩い光を放ってぱあっとはじけた。
直前までそこにいた筈のガイアス達の姿は綺麗に消えて、後はただ僅かに残った淡い光が漂うのみである。

しばらくして、の口から小さく吐息が漏れる。


「いいなぁ〜あんな関係、憧れちゃう。
 ねぇ、ユーリ?」


たちが山小屋に入ったときも、魔物が襲ってきたときも、
ガイアスは真っ先にを庇っていた。
彼女を余程大事に思っているのだろう。
もまた、ガイアスに安心して身を任せていたように思う。


「それをお前がおれに言うか」
「もう!そんな意味で言ったんじゃないのに、ユーリの馬鹿!」


は純粋な憧れを口にしただけなのに、
ユーリときたら、全く乙女心を理解していないのだから。
ぷうと頬を膨らませてそっぽを向くと、
はガイアスたちが消えたあたりに眼を向ける。


「・・・・・・奥さんのほうも相当な腕だよね」
「そこに行き着くあたり、お前もやっぱり同類だよな」
「そーかも」


組んだ両手をうんと大きく空に伸ばして、はくすりと笑う。
雨はいつの間にかにあがっていて、雲の隙間から光が差し始めていた。


「また、会えるといいね」
「そうだな」


今度は二人の馴れ初めでも詳しく聞いてみようか。
偶然起こった素敵なご縁に。
たとえ住む世界が違っても、きっとまたいつか会えるとは確信していた。
見上げた空は青く、どこまでも青く、続いていているのだから。






蒼空






















































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遅くなりましたが、サイト開設3周年記念夢です!
皆様のご愛顧に感謝感謝です。
今回は記念ということでTOVヒロインTOXヒロイン両方を出してみました!
が、名前は同じでもちょっと設定が違ったりします。
なのでパラレルってことでお願いしまーす。
そしてすいません!二人出した所為で名前変換がスクリプトプロンプトになってます。
変換めんどくさい方は連打でお願いいたします・・・。

しかし、ふふふん。ガイアスが旦那!!ガイアスが旦那!!
重要なことなので二度言いました。うん、私得。