はぁ・・・・・・。

場所は小洒落たカフェテラス。
低価格で美味しいケーキが食べられると評判のこのカフェは、
が普段からよく利用するお店である。
いつもなら甘ーいケーキを一口食べるだけで幸せになれるのに、
ケーキを一皿完食しても、の心はどんよりと沈んでいた。

はぁ・・・・・・。

腹の底から搾り出すような深々とした溜息。
そんな溜息を吐くのは、もはや今日何度目かも分からなかった。
口元まで運んでいたカップをだらんと下に下ろすと、
カップと皿がすれて、かちゃんと大きな音が響く。
見上げた空は眩しいほどに青かった。


「ねぇ、見た?新しい王様の顔」
「見た見た!
 前の王様を倒した強者だって言うから、どんな強面かと思ったら・・・・・・」
『ものすごく、かっこいいよねぇ〜』


は静かな場所が好きだった。
だから普段はあまり人が来ないような端の席を陣取るのだが、
今日に限って、その席には先客がいた。
仕方なく空いていた中央の席に座ったのだが、どうもその選択は誤りだったらしい。
二つ先のテーブルの女性客のかしましい噂話が、こちらまで聞こえてくる。


「・・・・・・ガイアス陛下はおもてになりますこと」


見事にはもった感声まで正確に聞き取ったところで、
はお替わりのカップの中に砂糖をぼちゃぼちゃと落とし入れた。
そうして、おおよそ淑女らしからぬ仕草で、ずずずと音を立てて紅茶を飲み干す。
もちろん許容範囲を超えた砂糖は溶けきってはおらず、
ざらついたその感触は、まさに今のの心境を表しているかのようだった。


「そういえば聞いた?
 ガイアス王に何度も告白してフラれている人の話」
「聞いた聞いた〜。
 正直、ナシだよね。
 私ならそんなの絶対耐えられない!!」


はい、それは私です。生きていてすいません。
もはや後ろ向き過ぎる考えしか出ず、はテーブルに突っ伏した。
つい先程まで正にはガイアスの所に行っていて、
そして100回目の告白をしてフラれてきたところだったのだ。

まさか街の噂にまでなっているだなんて思ってもいなかった。
少しでも気分転換になればとここに来ては見たが、気分は晴れるどころかどん底だった。


「昔はよかったな・・・・・・」


そう、昔はまだ良かった。
昔はガイアスのお嫁さんになることを単純に夢見ていられたから。

とガイアスは所謂、幼馴染の関係で。
そしてはガイアスの許婚候補でもあったのだ。
ガイアスとはが一番仲が良かったし、
もゆくゆくはガイアスの妻になるのだと思っていた。
しかし、あの時を境にガイアスの意識は変わった。
いや、以前からそうだったのかもしれない。
も薄々は感じていたのだ。
ガイアスの並外れた力や固い信念は、小さな一部族で収まりきるものではない、と。
それでも・・・・・・。

今は王様にまでなっちゃって、ガイアスはさらに遠い存在と成り果ててしまっていた。


「でね、・・・・・・なんだって」
「え、それホント!?」


トーンの高い女性客の声は、未だ良くこちらまで聞こえていた。
沈みきった気分を奮い立たせ、どうにか席を立っただったが、動きがそこでぴたりと止まる。
これまでにないくらい耳をそばだてて、女性客のテーブルを窺った。
漏れ聞こえた話が、今のにはすごく気になる話題だったのだ。


「本当にそれをすれば好きな人と両想いになれるの?」
「うん、最近の話題はそれで持ちきりよ」
「そうなんだ〜。私もやってみようかな〜」 


ガタンとテーブルが大きな音を立てる。
それまでの緩慢な動きはどこへやら、一瞬で身を翻したは勢い良く店を飛び出していった。















「待て、。お前の家はそちらではないだろう」
「いいの」
「いいのって・・・・・・、
 祖母が危篤だからすぐに一緒に来て欲しいと頼んだのは、お前だろう」
「いいから」


ガイアスの言葉に、まるでは聞く耳を持たないようだった。
本来、一緒にいることすら今となっては憚れるのだが、
泣いて縋ったに、ガイアスは殆どなにも聞かされず、ここまで連れて来られていた。
脇目も振らずずんずん先へ進んでいくに、ガイアスは小さく溜息を漏らす。
がこうなると頑固なのは良く知っていた。


「着いた・・・!」
「ここは・・・・・・湖?」


がようやく歩みを止めた場所は、小さな湖だった。
気温の低さに、水面が凍りついている。
道すがら頭の中の地図と照らし合わせて、湖に向かっているとは思ってはいたが、
こんな所に一体はなんの用があるというのか。


「ガイアスはここで待ってて。
 私はあっちに行くから」
「おい、・・・・・・」


続くガイアスの言葉を無視したは、湖の縁を回り対岸へと向かう。
対岸にたどり着いて、凍った湖の上にそうっと乗った。
分厚い氷は人一人乗ってもひび割れることもなく、
はほっと安堵の息をもらす。

ガイアスに言った、祖母が危篤という話は勿論嘘の話であった。
取り乱したを宥めすかそうとしてくれるガイアスには少し罪悪感を感じたが、
どうにかしてはガイアスと一緒にここまで来たかったのだ。

一歩、二歩、さらにもう一歩、進んだところで、
はガイアスめがけて氷の上を走った。

女性客がきゃあきゃあと話していたのは、この湖にまつわる逸話であった。
それは所謂、恋のお呪い的な話で、
好きな人と岸をはさんで向かい合わせになり、
氷が張った湖の上を最後まで氷が割れずに渡りきれると、
その相手と両思いになれる、といったものだった。

ちょうど湖の真ん中まで来たところで、足元でぱきりと乾いた音が鳴った。
次いでぱきぱきぱきと嫌な音が響き、氷がみるみるうちにひび割れていく。


「きゃっ・・・・・・!!」
!」


落ちる、とそう思った。
恐怖で反射的に目を瞑ったは、
しかしぐいと引っ張られる感触に暫くしてそぉっと目を開いた。


「・・・・・・全く。昔からお前は目が離せないな、
「・・・・・・アースト・・・・・・」


目の前に、ガイアスがいる。
間一髪のところで、はガイアスの腕に抱きとめられていたのだ。
久しぶりの暖かい感触だった。
自分を見つめるその優しい瞳が懐かしくて、の口からガイアスの本名が零れ出る。


「こんな薄い氷の上に乗ったら割れるのは目に見えているだろう」
「・・・・・・だって」


は唇を尖らせた。
好きな人と両思いになれるという話を聞いては、いてもたってもいられる筈がないのだ。


「とにかく岸に戻るぞ」
「ごめんなさい・・・・・・」


ガイアスはすごく呆れているようだった。
はついに彼を失望させてしまったのだろうか。
そう思うと、体の震えが止まらなかった。


「ごめんなさい、私、どうしてもアーストと両思いになりたくって・・・・・・」
・・・・・・」
「っ、ごめんなさい!本当にもうしないわ!
 それに・・・・・・もう・・・・・・諦めるから」


岸に着いたところで、ともすれば掠れそうになる声を絞り出して、はガイアスに謝った。
本当に、藁にも縋る思いだったのだ。
ガイアスと両思いになれるなら、はどんなことでもした。
しかしそれも失敗に終わってしまった。
それどころか、のしたことはガイアスを怒らせてしまったのだ。
もはやもう望みはないのだと、は力なく項垂れた。


「諦めなくていい」
「え・・・・・・?」


一瞬、にはガイアスが何を言ったのか、分からなかった。
瞬きを繰り返すに、ガイアスは真剣な瞳を向ける。


「諦めなくていい。
 ・・・・・・お前から目を離すと何をしでかすか分からないからな」


ならば、目の届くところにいつもいろと、ガイアスは笑って言う。
の瞳が、驚愕に見開かれた。


「アースト!
 ・・・・・・私・・・、私・・・・・・!!」


もう、我慢する必要はなかった。
感極まったがガイアスの胸に思い切り飛び込むと、
ガイアスがその肩をそっと抱きしめる。


「ずっと俺の傍にいろ、


溢れ出る涙を止める術はなく、
涙に濡れた顔を上げたは唯、小さく頷く。

100の告白は101にはならず、
100と1の告白は幸せな恋人たちの姿に。

は変わらず泣き続けていたが、
の頭を撫でるガイアスの優しい手も、が泣き止むまで止まることはなかった。






100と1の告白

(はい、コレ)(これは・・・なんだ?)(バレンタインチョコレート、貰ってくれるよね?)(・・・ああ)




































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バレンタイーンガイアス夢です。
陛下はすごくお近づきになりたい人なのですが、
夢書くときもなかなかお近づきになれないですね・・・・・・。
設定が難しいんだよガイアス!!!
雲の上な上に結婚しないって!!どうなの!!
そこは腕の見せ所だって?
はい、そうですね・・・。
エクシリア夢はまだあまり書きなれていないのでもっと書きたいところです。
読んでくださったすべての皆様にささげます。
もはや内容はバレンタインでもなんでもないのですが・・・陛下、もらってやってくださいませ!