「あ〜なんで今日はこんなにヒマなんだろう・・・・・・」
ある日、は暇を持て余していた。
星喰みの脅威が去った今、医術に精通していたは、下町で診療所を開いた。
下町には他に診療所はなく、そのせいか彼女の診療所は連日患者で賑わっていた。
その中にはの優しい笑顔目当てで来る者たちもいるのだが、彼女はそんなことは露も知らず、わけ隔てなく彼らの相手をしてた。
だからこそ、訪れる患者の数は増える一方で、は目まぐるしい日々を過ごしていた。
そんな彼女を心配してか(本当はに悪い虫がつかないか見張っているのだが)、ことあるごとに顔を覗きに来る、ユーリやフレン。
手伝いに来たと称してをからかっていくレイヴンなどの相手をすることもしばしばあった。
そんな感じで猫の手も借りたいほど忙しかったのだが、今日に限って患者もユーリ達も一人も訪れてこない。
突然暇になってもすることがないは椅子の背もたれに体重をかけ、背伸びをすると、漏れそうになった欠伸を噛み殺した。
「う〜ん、今日はお休みにしてエステルの所に遊びに行こうかなぁ・・・・・・」
エステルが以前から古い伝承を聞きたがっていたのを思い出し、は椅子から立ち上がる。
「、いるかー?」
ユーリの声が診療所の入り口から響いた。
は白衣を脱ぎながら、「いるわよ」と返す。
ユーリはそのまま診療所の中に入り、「邪魔すんぞ」と奥の扉を開けると、珍しく白衣を脱いで出かける仕度をしているに目を瞬いた。
「ん、なんか用事あんのか?」
「ううん、ヒマすぎてエステルの所に遊びに行こうかと思ってたとこ」
「そっか、なら丁度良かった」
ユーリはにんまりと笑った後、ガシッとの腕を掴んだ。
「え?ユーリ?!」
はユーリの突然の行動に目を白黒させるが、ユーリはそれに構わず、ずるずるとを外に引きずっていく。
「ちょっと、どこ行くの」
「城、行くんだろ?」
診療所の外にでた所で、はやっと我に返り、ユーリの服を引っ張る。
ユーリはそこでようやく止まると、城の方角を指差して見せた。
「そうだけど、私仕事着のままなんだけど・・・・・・」
診療所は一人で切り盛りしていたので、何かと動き回ることが多く、その仕事着は装飾性より機能性を重視していた。
今の服装はとても豪華絢爛な城に伺いに行くにはとても見合いそうにない。
は自分の服を摘んで見せた。
「まあまあ、いいからいいから」
「なんなの、もう・・・・・・」
まったく取り合おうとしてくれないユーリに溜息を吐き、はユーリに引きずられるままに城へ向かった。
エステルの部屋を訪れたは着せ替え人形よろしく、エステルにとっかえひっかえドレスを着せられ、辟易していた。
どれもこれも自分の着たことのない豪華なドレスで、その装飾と色とりどりの布地のせいで段々目がちかちかしてきた。
未だにうきうきと服を取り出し、の体に当ててあーでもないこーでもないとしているエステルに呆れた顔を向けた後、
は額に手を当て、目を覆った。
「やっぱりにはこの色が一番です!」
暫くした後、エステルの嬉しそうな声が響く。
やっと終ったのか、とが目を開け、エステルを見ると、彼女は手に持ったドレスを「着てみて下さい」とに差しだした。
「ちょっと、エステル、何なのこの服」
「、素敵です!!」
言われるがままに差し出されたドレスを着てみたが、
そのドレスは装飾こそ控えめなものの、レースと刺繍がふんだんにあしらわれた豪華なものであり、
また、大きく開いた胸元と背中と、腰にかけてきゅっと細くなるライン、スカートの裾にかけてふんわりと広がるデザインは、
の白い肌とスタイルの良さを主張するものであった。
何よりもそのドレスの色はおおよそ、エステルが身に着けそうにない紫色のドレスで、
彼女の服を着せられていると思っていたは首を傾げ、彼女にそれを尋ねたのだ。
「の瞳の色に合わせたんですよ」
「聞いてるのはそう言うことじゃなくって・・・・・・」
「さあ、次行きますよ」
エステルもまた取り合わず、の腕をガシッと掴む。
「え、ちょっと、どこ行くの!?」
慌てるを引きずり、エステルが部屋の扉を開けると、そこには騎士の正装をしたフレンが胸に手をあて立っていた。
「え、フレン・・・・・・?」
が驚いて声をあげると、フレンはにっこりと笑う。
「凄く似合っているよ、」
フレンの笑顔を凝視し、口をぱくぱくさせているに、「そのドレス、フレンの見立てなんですよ」と囁くエステル。
最初から着るドレスが決まっていたのならあの着せ替えはなんだったのかとか、なんでここにフレンがとか、
いやそもそもなんでドレスを着る必要があるのかとか、色々なことが目まぐるしくの頭を巡る。
半ば呆然と立ち尽くすを尻目に、エステルはフレンに顔を向ける。
「フレン、のエスコートお願いしますね」
「はい。お任せください、エステリーゼ様」
フレンはエステルに会釈を返すと、に向かって手を差し出した。
「それでは、行きましょうか、姫」
そう言って笑みを浮かべたフレンは、自分の手に重ねられたの手を引き城の奥へと誘った。
先程は反射的にフレンの手に自分の手を重ねたものの、未だどうなってるのかさっぱり見当もつかず、
は為すがままにフレンに連れられ、城の謁見の間に来ていた。
普段眩しいほどの明かりを湛えるその場所は、いまはその影もなく、暗闇にしんと静まり返っている。
「ちょ、ちょっと、フレン、私怖いの嫌いなのよ」
ただでさえ、古く趣のある城だというのに、闇に沈んだただっ広いその空間は今にも何かが出てきそうな雰囲気を醸し出していた。
「大丈夫だから。、そこ足元気をつけて」
今にも泣きそうなの顔に、フレンは笑顔を向けた。
はフレンの手を半ば握り締めるように掴み、びくびくとしながら広間の中ごろまで進む。
すると、いきなり広間の明かりが一斉についた。
その眩しさに、は一瞬目を瞑る。
ようやく目がなれてきた頃、広間の正面を見ると、そこには大勢の人が集まっていてこちらを見ていた。
「、誕生日おめでとう!!」
「え・・・・・・?え?」
自分に向かって口々にお祝いの言葉を言う人々は、
ユーリ達仲間はもとより下町の皆、ルブラン達、ハリーや果ては皇帝陛下であるヨーデルまで。
その錚々たる顔ぶれには目を白黒させた。
「この日のためにみんなで準備してたんですよ」
エステルがにこやかに言う。
だから今日、誰も診療所に訪れてこなかったのか、とはようやっと合点が行った。
このドレスも正にこのために着せられたのだ。
「フレン、おいしいとこ取りやがって」
「これも日ごろの行いだよ、ユーリ」
のエスコート役を終えてこちらにやってくるフレンをユーリは突いたが、フレンはさらりと受け流した。
それにユーリはくそう、と悔しそうに毒づく。
「さあ、。
これはわたしとリタからのプレゼントです」
エステルはに近寄り、リタはその隣で顔を赤くしながら、綺麗に包装された包みを差し出した。
はありがとうと言ってそれを受け取り、リボンを解く。
すると、開いた包みの中では手乗りサイズのラピードがちょこんと座っていた。
「わぁ。ラピードのぬいぐるみね、かわいい!!」
は両手を合わせ、目を輝かせる。
「ラピードも一針入れたんですよ」
「そうなの?ありがと、ラピード」
「ワフ!!」
がお礼を言うと、ラピードは嬉しそうに一声吠えた。
次にジュディスが歩み寄る。
「私からはこれ。
最新の医術書よ。前から欲しがってたわよね?」
「うんうん。さすがジュディス気がきくぅ!」
ジュディスから渡されたのは、今度まとまったお金が入るまでと、が我慢していた代物だ。
気が利くジュディスならではのプレゼントに、は笑みを浮かべた。
「ボクからはこれだよ!!」
「これは・・・・・・ロケットペンダントね」
「ボクの手作り第一号だよ」
「すごいすごい、カロル手先器用だもんねぇ」
「えへへ、たいした事ないんだけどね!!」
続いてカロルからのプレゼントは、細い金の鎖がついた、中に写真が入れられるロケットペンダントであった。
前々から手先が器用だとは思っていたが、ここまでの細工ができるとは、カロルはそういう仕事も向いているんじゃないかとは思う。
それをカロルに伝えると、彼は照れながら考えとくよ、と言った。
はそんなカロルをよしよしと撫でながら、目の前に立ったユーリの顔を見る。
「そんで、あそこにあるでっかいケーキはそこでへばってるおっさんから。
甘いもの嫌いなくせになんだかんだで一番作るのうまいからなぁ」
ユーリは奥のテーブルの上にある大きなケーキを指差し、続けてハリーの横で座り込んでいるレイヴンに呆れたような顔を向けた。
それを見たは小さく笑い、レイヴンに手を差し伸べる。
「あはは、レイヴン大丈夫?」
「俺様、生クリームの悪夢に溺れそう・・・・・・」
そう言うレイヴンは息も絶え絶えである。
「もう・・・・・・それなら無理しなくて良かったのに」
「いやいや、ちゃんのためならなんのその、よ」
レイヴンはへらりと笑い、差し伸べられたの手を取り立ち上がった。
「で、最後にオレからは・・・・・・・」
ユーリは広間の真ん中に黒い布を被せて置いておいた一際大きいプレゼントの横に立つと、それをぽんぽんと叩いた。
「なあに?これ」
が近づいてしげしげと眺めると、ユーリは黒い布を取り払った。
すると、そこには見たことのない巨大な機械が現れる。
「モルディオ製写真機だ」
「ちょっと、それあたしが作ったんだから、
あんたからのプレゼントにならないじゃない!」
リタがそれを見て不満の声をあげる。
「固いこと言うなって、カロルのペンダントに入れる写真、必要だろ?」
「あ、そっかそうだよね」
ユーリの言うとおりだ。入れる写真のことを失念していたカロルは慌てて頷いた。
「それにこれ、ここまで持って来るの大変だったんだからな」
ユーリはやれやれと肩を竦めてみせる。
魔導器が無くなった今、リタが寝る間を惜しんでそれに変わる物を発明しているが、
実用性はともかく、なかなかそれを軽量化するのは難しいらしい。
作り出される物は、今目の前にある写真機のように持ち運びするには大きく、重量があるものとなっている。
確かにこれを一人で持ってくるのは骨が折れそうだ、とは苦笑した。
「それじゃ皆並んで並んで!!」
カロルが皆を促す声が聞こえる。
しかし、は頬に手を当て、小首を傾げた。
「どうしたんです?」
それを不思議に思い、声をかけるエステル。
「んー・・・・・・せっかく写真撮るんだからデュークもいれば良かったなぁなんて・・・・・・」
そう言ってはみたが、はそれはさすがに望みすぎかな、とエステルに笑ってみせる。
「ふふ、そう言うと思ってました」
「え?」
エステルが小さく笑って言った言葉には目を瞬く。
エステルの隣にいたジュディスはにこやかな笑みを浮かべると、謁見の間の奥へと歩いていく。
「ほら、あなたもそんなところに隠れてないで出て来なさい」
「・・・・・・・・・・・・」
「デューク!!」
奥にあった王座の裏から引っ張りだされたのは今まさに話題に出したデュークであった。
デュークは至極無表情であったが、は顔を輝かせ、彼に駆け寄った。
がジュディスとバトンタッチして、デュークの手を取ると、静かな声がの耳に響く。
「おめでとう」
それはそっけないお祝いの言葉だったが、確かにデュークから発せられた言葉で、は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「なんだあんた、せっかくの誕生日なのにプレゼントなしか」
ユーリが手ぶらであるデュークを見てそう言った。
「いいのよ、来てくれただけで嬉しいわ。ね、デューク」
確かにデュークからのプレゼントが無いのは少し寂しいが、きっと突然エステル達に連れて来られて準備も何もなかったのだろう。
はそう考え、デュークに笑いかけた。
しかし、デュークは暫く無言での顔を見つめた後、
「・・・・・・この後で」
と、の耳に囁いた。
その言葉には口元に手を当て、とろけるような笑顔を浮かべた。
「ほら、さっさと並ぶ!!」
中央からリタの急かすような声が聞こえる。
そちらに慌てて顔を向けると、はデュークの手を引っ張った。
「デュークもこっちこっち」
「んじゃ撮るぞー」
とデュークが誘導されて真ん中に立つのを確認したユーリは、写真機の前に立つ。
「はーい」
「ユーリ、早く早く」
「ちょっ、待てよ」
カロルがタイマーをセットしたユーリを急かし、急かされたユーリは慌てて列の端に入り込んだ。
カシャリ
「ふふ、皆いい顔ね」
梅雨の晴れ間の太陽の光を浴びて、紫陽花の葉から朝露がきらり流れ落ちる。
人々が忙しそうに、通りを行き交う中、は診療所の奥の部屋で椅子に座ってじっと写真を見ていた。
開けた窓からは爽やかな風が、朝の日差しに照らされるカーテンを靡かせ、部屋に入り込む。
写真の中には笑顔の仲間達。
デュークは相変わらずの表情だけど、とはくすりと笑う。
あの後は皆で食べて飲んで大騒ぎだったっけ。
ユーリとフレン以外は皆まだ未成年なのに、レイヴンがふざけてお酒飲ませちゃって、泣くは喚くは、眠りこけるはで大変だったし、
とくにユーリなんかはエステルが酔っ払って絡むもんだったから大変そうだった。
その光景を思い出し、は笑みを浮かべる。
そんなレイヴンもジュディスのおじ様攻撃でケーキを食べさせられていたし、なんだかんだで皆楽しんでいた。
あの日は今迄で一番最高の誕生日だった。
なによりも旅が終わって以来、皆全員が揃うことがなかったから、凄く嬉しかった。
それにあの日の夜は・・・・・・。
がその時のことを思い出そうとすると、診療所の扉がバタンと開き、元気な声が響く。
「先生ー、さっきそこで転んで怪我しちゃった」
「はぁい、ちょっと待ってね」
は写真の縁に掛けていた手を離し、膝の上に置いていたラピードのぬいぐるみを机の上におくと、椅子から立ち上がった。
そして椅子に掛けてあった白衣を素早く羽織ると、再びじっと写真をみつめ、ふわりと微笑む。
「先生ー?」
「ごめんごめん、今行くわ」
そう言って診療所の扉を開けるの右手の薬指には、銀色の細い指輪があり、それは柔らかな太陽の日差しを浴び、きらりと光り輝いた。
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自分誕生日オメデトウ夢です。
む、虚しい・・・・・・。
いいんだ、私はこれで幸せさ・・・・・・。
てことで皆に祝ってもらいました。
それぞれのプレゼントはこのキャラだったらこんなのを渡しそうだなー
ってのを考えて書いてみました。
誕生日が近い方(いるかどうかはわからないけど)にも差し上げます。
良かったらもらってやってくださいな!!
そうそう、なんか連載のEDぽい設定になってますが、似て非なるものです!!
連載とは別物としてお考えくださいなー
ヒロインが甘いもの好きだから、レイヴンは甘いもの作るの得意です。
むしろ作らせられまくって必然的に上手くなったというか・・・・・。
それにしてもラピードのぬいぐるみ、私も欲しい・・・・・・。
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