「レイヴン、また一緒に飲みましょ」
「今度は私のお店に遊びに来てよね、レイヴン」
「次は二人っきりがいいなぁ、私」
時刻は空が白み始める明け方近く、レイヴンは3人の女性と街の大通りを歩いていた。
ほぼ連日連夜、遊びほうけるレイヴンには時間の感覚など無いに等しかった。
「はいはい、皆またねぇ〜」
「―――相変わらずのモテようね、レイヴン」
遠ざかっていく彼女達の背を、手のひらをひらひら振って見送った後、そちらにくるりと背を向ける。
すると、その背にかかる、呆れたような声音。
その声に、再びくるりと振り返れば、腕を組んで眉根を顰め、どこか怒ったような表情をしたがいた。
「え、なになに?ちゃん、もしかして嫉妬してくれてるの!?」
「私が?誰に?嫉妬ですって?
寝言は寝てから言いなさいよね」
キラキラと、瞳を輝かせて彼女に擦り寄れば、
ばっさりと、効果音がつくほどにそれは見事に完膚無きまで寸断される。
日頃、自分に対する彼女の態度は、それはもう、泣きたくなるほどそっけないものだが、
今日はそれに輪をかけた反応ではないか。
「・・・・・・そんなつんけんしなくてもいいのにぃ・・・・・・。
おっさん泣いちゃうよ!?」
よろりと、大げさにふらついた後、眦を拭う振りをしてみせる。
そうすれば、優しい彼女は口ではなんだかんだ言いながらも自分を気遣ってくれる。
それは今までの経験から分かったことだ。
今日もきっと彼女はすぐにでも心配そうな顔をして、飛びついてくれるだろう。
それを期待して、俯いたままちらりとの方を窺った。
「・・・・・・どうせ、本気じゃないんでしょ?」
「どうして、そう思うの?」
しかし、今日の彼女は困ったような表情を浮かべ、その場に立ち尽くすのみである。
小さく、彼女が呟いた言葉に、一瞬虚を衝かれ目を瞬くが、
すぐに表情を和らげ、レイヴンは優しく、声をかける。
「あの人たちの相手をしている時、レイヴン、いつも冷めた目をしてるから・・・・・・」
「・・・・・・まいったねぇ・・・・・・」
そこまでわかっておきながら、どうして自分の気持ちには気付いてくれないのか。
それきり俯いてしまった彼女に、小さく溜息を吐く。
彼女の言うとおり、今まで数々の女性達と交流してきたが、心はまるで満たされることはなかった。
それをどこか他人のように、鑑賞している自分さえいて。
けれども、レイヴンは女性と遊ぶのをやめなかった。
彼女達と遊んでいる時だけは、冷めた自分を忘れる事が出来たから。
それがなおさら虚脱感を煽ると知っていながらも。
「レイヴン?」
額に手を当てて黙り込んでしまった自分を不思議に思ったのか、の怪訝そうな声がかかる。
ついと、顔をあげてそちら見れば、やはり逸らされる視線。
それはいつもの、彼女の態度。
自分を心配してくれはすれども、彼女がその目を合わせてくれることは滅多にない。
それを仕方ないと思いつつも、残念に思う自分がいて。
「そうねぇ、本命は全然相手にもしてくれないからねぇ・・・・・・」
「・・・・・・何よ、この手」
「だから、本命は、ちゃん、って言ってるのよ」
戯けた顔に、にこりと笑みを浮かべて彼女の手をぎゅっと握る。
すると握られたその手を見つめ、首を傾げる。
ここまでしてもわからない彼女に、レイヴンはさらに一句一句丁寧に区切って言葉を続ける。
「・・・・・・はい?」
「っえええ、あんなに俺様アプローチしてたのに、
ちゃん、全然気付いてくれてなかったの!?」
それこそ、毎日毎日、しつこいほどに。
それでもなんら変わることのないの態度はレイヴンを諦めさせるには十分なもので、
ここ数日の女遊びの激しさは、その所為でもあったのだ。
「・・・・・・だって、レイヴン、皆に優しいから・・・・・・」
ポカンと口を開けて少々間抜けな声をあげてしまったが俯いて、小さく声を漏らす。
その肩は僅かに震えていて、レイヴンはそれにはっと目を見張る。
優しい態度に甘い嘘、それはほとんどの女性が喜ぶものである。
どうすれば女性が喜ぶか知っていた自分は、確かに率先してそれを使っていた。
けれど、他の女性には嘘をついても全く平気なのに、にはそれができなかった。
彼女にだけは、嫌われたくなかったのだ。
だからこそあやふやな態度を取る自分に、それが本気なのか、冗談なのか、彼女にはわからなかったのだろう。
「ごめんね、もっと早くちゃんと言うべきだったわね」
「・・・・・・嘘、じゃないのよね・・・・・・?」
ぽんぽんと、優しく彼女の頭を撫でれば、小さく、漏らされる彼女の言葉。
「ホントよ、ホント、嘘だと思うなら自分の頬でもつねってみなさいな」
「・・・・・・」
「いだぁっ!」
およそ数秒の沈黙の後、つねられる自分の腕。
その容赦のない行為に、レイヴンは今度こそ目尻に涙を浮かべ、悲鳴をあげる。
「ちょっとちゃん!
つねるのはおっさんじゃなくてちゃんの頬でしょ!」
「・・・・・・ホント、なのね・・・・・・」
ぽたり、ぽたりと、雫が落ち、地面の色が濃いものとなる。
涙を浮かべながら、ぽつり、ぽつりと、は言葉を漏らす。
レイヴンと一緒にいる女の人を羨ましいとは思いながらも、烏合の衆にはなりたくなくて。
かといって、それを言ったらレイヴンに嫌われそうで。
視線を合わせたら漏れそうになる自分の本音を押えるのに必死だった。
だからレイヴンと目を合わせられなかったのだと彼女は言う。
「ごめんね?」
そっと彼女の体を抱き寄せ、震える背中に手をやると、ぴくりと彼女の肩が小さく撥ね上がった。
その背中を、壊れ物を扱うかのように優しく、ぽんぽんと叩く。
すると今度はレイヴンの紫の羽織に、雫がぽたりと鮮やかな染みを作る。
『―――私を、好きになってくれてありがとう』
それは小さく、くぐもった声ではあったが、確かに彼女の口から漏れた言葉で。
レイヴンはその顔に優しい笑みを浮かべる。
「それはこっちの台詞よ〜」
こんな俺を、好いてくれる人がいる。
そしてそれを受け入れる事ができる自分。
渇いてやまなかった自分の心が、の涙と共に、潤っていく。
誰よりも綺麗で、何よりも透明な彼女の涙を掬い、レイヴンは再びぎゅっと彼女の体を抱きしめた。
涙の、色。
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拍手、ありがとうございました!!
そういえば、レイヴン単体の夢を書いてなかったことに気付く。
一番最初のはシュヴァーンの続きのようなそうでないような感じだったので。
てことで、拍手お礼のレイヴン夢でございます。
一見手馴れてそうだけど、レイヴンは自分の恋には臆病だと思うんですよね。
でもそれに気付かない夢主がいて。悪循環、みたいな?
まぁなんにせよ、言わなきゃ分かんないよ、ってことですね。
私の書く夢に擬音語が多いのは私が好きだからです。
なんか、いいよねぇ擬音語・・・・・・。
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