ダングレストを出た後、ユーリ達はとりあえずの目的地としてヘリオードに行くことにした。
騎士団に追いつかれないよう急ぎ足で歩いてきた為、
街から少し行ったところで、カロルが肩で息をして立ち止まった。


「はぁ、はぁ、街を出なきゃはわかるんだけど正直へとへと~。
 ていうか、なんでジュディス付いてきてんの?」
「ゆきがかり上、そういうことになったみたい」


カロルの横にはジュディスがいる。
橋で合流してから成り行きでそのまま付いてきたようだ。


「道連れが増えんのは構わねえけど、今はもうちょっと頑張って踏ん張ろうぜ」
「ユーリ、カロルももう限界みたいだし、そろそろ休憩しましょ」
「そうね。もう何も追ってこないようだし」


道中何事もなく来れたので、ヘリオードまであと半分といったところだ。
子供の体力には少々強行軍だったかもしれない。
ここまで来れば少し休憩してもいいのではないか、
そうが提案すると、ジュディスも賛同の意を示す。


「・・・・・・どうしてわかるんです?」
「勘、かしら」
「勘、ね・・・・・・」


エステルの問いに、ジュディスが答えた。
ジュディスのいう勘がどこまで当てになるかは測りようがないが、
様子を見る限りでは信用してもよさそうだ。
魔物にしろ、騎士団にしろ危ない気配は今のところない。


「ま、ここなら大丈夫か。とりあえず休もう」
「一休みしたらギルドの事も色々ちゃんと決めようね」
「一休みしたいのはカロル先生だけどな」


木の下の平たい場所を見つけユーリが座ると、カロルが正面に座って前に乗り出した。
よっぽどギルドを作れるのが嬉しいのか、目がキラキラと輝いている。


「ギルドを作って、何をするの?あなたたち」
「何を、か・・・・・・」


ジュディスが不思議そうな顔でこちらを見るが、ユーリは言葉を濁した。
ギルドを作るとは決めたものの、具体的に何をするかまでは決まっていなかった。


「ボクはギルドを大きくしたいな。それでドンの跡を継いで、ダングレストを守るんだ。
 それが街を守り続けるドンへの恩返しになると思うんだ」
「立派な夢ですね」
「オレはまぁ、首領について行くぜ」


前々からギルドを作りたいと言っていたカロルは既に何をしたいか決めていたようで、
壮大な夢を語る姿は希望に満ち溢れていた。
ユーリはそれなら、とカロルに任せることにする。


「え?ボ、首領?ボクが・・・・・・?」
「ああ、おまえが言い出しっぺなんだから」
「そ、そうだよね。じゃあ、何からしよっか!」


言い出しっぺの法則とばかりに、カロルの首領就任を決めれば、
カロルが恥ずかしそうに居住まいを正した。
しかしそれも一瞬で、再び前のめりになる。


「とりあえず落ち着け」
「うん!」


休憩したいと言い出したのはカロルだというのに、このままだと威勢よく飛び出していきそうだ。
とりあえず落ち着くようにユーリが言うと、カロルは素直にうなずいた。
とても素直で良いことである。
そんな掛け合いが面白かったのか、ジュディスが横でくすりと笑った。


「ふふっ・・・・・・なんだかギルドって楽しそうね」
「ジュディスもギルドに入ってはどうです?」


エステルが提案すると、ジュディスは首を小さく傾げる。


「あら、いいのかしら。ご一緒させてもらっても」
「ギルドは掟を守ることが一番大事なんだ。その掟を破ると厳しい処罰を受ける。
 例えそれが友達でも、兄弟でも。それがギルドの誇りなんだ。
 だから掟に誓いを立てずには加入は出来ないんだよ」


騎士団に規範があるように、ギルドには掟がある。
その掟を破ることはだれであっても許されないとカロルは言う。
そしてギルドに入るのは掟に誓う必要が有る。


「カロルのギルドの掟は何なんです?」
「えっと・・・・・・」
「お互いに助け合う、ギルドのことを考えて行動する、人として正しい行動をする。
 それに背けばお仕置きだな」


カロルの続く言葉を待たず、ユーリはすらすらと言葉を紡いだ。
前から考えていたというわけでなく、掟、と聞いてすんなり頭に浮かんだものだ。


「え?」


ユーリの言葉が思ってもみなかったものだったのか、キョトンとカロルが目を瞬く。
はカロルの隣に座って、ユーリをじっと見つめた。


「ひとりはギルドのために、ギルドはひとりのために。
 義をもってことを成せ、不義には罰を、ってことね?」
「ああ、掟に反しない限りは、個々の意思は尊重する」


ユーリ達もそうだが、ギルドはそもそも寄せ集めと言っていいもので、
ルールは必要だが、各個人に対するある程度のマナーも必要である。
掟の後に少々付け足して、ユーリは口を閉じた。


「ユーリ・・・・・・それ・・・・・・」
「だろ?首領」


目を大きく見開いて瞬き一つせずこちらを見るカロルに、ユーリはにっと笑みを浮かべて見せた。
ユーリの考えた掟、それはカロルが考えていた掟、そのもので。


「ひとりはギルドのために、ギルドはひとりのため・・・・・・。
 う、うん!そう!それがボクたちの掟!」


カロルは一人でひとしきり呟いた後、大きく頷いた。
嬉しさに溢れんばかりの笑顔だ。


「今からは私の掟でもある、ということね」
「そんな簡単に決めていいのか?」


ジュディスがカロルのギルドの事を聞いたのは今日が初めてだ。
掟も今決めたばかりだというのに、ほぼ即決で大丈夫なのか。
ユーリがジュディスに聞けば、ジュディスはすぐに頷いた。


「ええ。気に入ったわ。ひとりはギルドのため・・・・・・いいわね」
「じゃあ・・・・・・」
「掟を守る誓いを立てるわ。私と・・・・・・あなたたちのために」


ジュディスの瞳が、カロルとユーリを映し、ジュディスはにこりと微笑んだ。
これでギルドのメンバーはカロル、ユーリ、ジュディスの3人となる。


「ラピードはギルドに入らないの?」
「はっは、ラピードはナンバー2だろ?」
「ワンッ」
「そうなの、さすがラピードね」
「ワン!」


ラピードはどうなのかと思ったが、もうメンバーに数えられていたらしい。
しかもすでに首領に続くナンバー2の地位に決まっていたようで、
が褒めると、ラピードが大きく吠えた。


「あんたの相棒はどうすんだ?」
「心配してくれてありがとう。でも、平気よ、彼なら」


ジュディスは相棒の竜と共に旅をしていたが、今は近くに見当たらない。
ギルドメンバーとして一緒に旅をするようになるなら、素性を明かす必要がある。
しかし、ユーリの心配は無用だったようで、ジュディスは小さく首を振った。


「相棒って・・・・・・?」
「前に一緒に旅をしてた友達よ」


この中で事情を知らないのは、エステルとカロルだ。
カロルがジュディスに聞くと、ジュディスは嫣然と微笑む。


「へえ、そんな人がいたんだね。
 じゃあ今日からボクらがジュディスの相棒だね」
「よろしくお願いね」
「よろしく!」
「ワン!」
「わたしは・・・・・・」


カロルとジュディス、次いでラピードが締めくくると、エステルが小さく俯いた。
騎士であるはともかくとして、ギルドに入っていないのはエステルだけである。
だが、人生を左右する事はすぐに決められるものではない。
ましてやエステルは王位継承権のある帝国の姫だ。


「とりあえず今日はもう休みましょ」
「そうだね。クタクタなの忘れてた」


夜も更けて来た事だしと、が提案すれば、カロルがへにゃりと姿勢を崩した。














夜、枝をくべた焚火の火がぱちりと音を立てる。
近くにある木の根元に腰掛けて、はじっと焚火の火を見つめていた。
そこに、見回りに行っていたユーリが戻ってくる。


「寝ないのか、
「ええ、寝ずの番が必要でしょ?」
「それはオレがやるからは寝な」


この近辺は魔物がそんな活発化してないとはいえ、魔物の暴走が相次いで報告されているのも事実。
全員が寝てしまうと、いざという時に動くのが困難になってしまう。
任務で徹夜なんてざらにあるので、は寝ずの番には慣れている。
そこで率先して申し出たのだが、ユーリは首を振った。


「だめよ。ユーリばかりに負担はかけられないわ」


一緒に行動する以上、役割を分けられるところは分けるべきである。
ただでさえ最近迷惑をかけてしまっているのに、これ以上はも面目なさすぎる。

が頑なに拒否すると、トサッという音と共に、ユーリが隣に座った。
そちらに顔を向ければ、ユーリが顔色を窺うように、じっとを見つめていた。


「・・・・・・なぁ、
 おまえどっか体の具合悪いんじゃないか?」
「え・・・・・・どうして?」


言われ、ぎくりと一瞬の動きが止まった。


「3度目だろ、体調崩すの」


ユーリはその3度を挙げ連ねる。
ヘリオード、ケーブ・モック、そして巨大な魔物が襲ってきた時。
どれも最近のことだ。
しかし、先2つのことはともかくとして、最後の一つの変調は微々たるものであった。
にもかかわらず気づくとは、ユーリには本当に恐れ入る。

ヘリオードの時の原因は明確だが、残り2つの原因はにも分からなかった。
否、それが過去の記憶に関係するという事には気づいている。
気づいていても、今それを思い出そうとすると、何故だか体が震えてしまうのである。


「具合が悪いわけじゃないの。ただ・・・・・・最近よく眠れなくて・・・・・・。
 駄目ね。騎士たるものが寝不足だなんて」


寝ようとするとうなされて、よく眠れていないのも本当の事だ。
小さく首を傾げてが笑うと、ユーリが真剣な眼差しでを見る。


「じゃあなおさらだ。おとなしく寝とけ」
「でも・・・・・・」
「なんなら膝でも貸してやんぞ」


尚もは拒否しようとしたが、
ユーリが茶目っ気たっぷりに自分の膝をポンポンと叩いてみせるものだから、
はふふ、と笑ってしまう。


「それは今のところ遠慮するわ。
 でもそうね。ありがとうユーリ、やっぱり少し寝るわ」


寝不足だというのもあるが、ユーリと話していたら、少し眠くなってきたようだ。
今日はお言葉に甘えて、寝ることにする。


「ああ、おやすみ」
「おやすみなさい、ユーリ」


は木にもたれかかって目を閉じると、すぐに眠りについた。