塔から下るのはそれほど時間がかからなかった。
が持っていた塔の設計図を駆使して近道を通って来たからだ。


「最初からその設計図があれば良かったのに・・・・・・」
「そうだよ!そうすればあんなめんどくさい仕掛けを解除して進まなくて済んだのに!」


よっぽど行きが大変だったのか、リタとカロルがに抗議する。
そうは言っても、が追い付くより先にユーリ達全員が先に行ってしまっていたのである。


「ごめんなさい。すぐ追いかけたのだけれど、
 あなた達、もういなくて・・・・・・」


仕方なく一人で歩いていたら、デュークに会えたわけだから、
としては結果良かったと言うべきなのだろうか。


「べ、別にが悪いわけじゃないよ!」
「そうよ。悪いのはあのめんどくさい塔を作った奴よ!」


が素直に謝ると、ただ言いたかっただけなのか、二人はすんなりと口を噤んだ。


「まったく、魔核が無事でよかったぜ」
「水道魔導器の魔核ってそんなに小さいものだったんですね」


バルボスが持っていた魔導器についていた魔核はやはり水道魔導器の魔核だった。
壊れた剣から外して懐に入れていた魔核を、ユーリは手の平に乗せた。
エステルが横から覗いてくる。
掌大の水色の魔核は、ヒビ一つなく無事だ。


「魔核も取り戻したし、これで一件落着だね」
「でも、バルボスを捕まえることができませんでした・・・・・・」
「そうね、捕まえることができたら一番良かったのだけど・・・・・・。
 多分それは無理ね」


カロルは明るい顔をするが、対してエステルは沈んだ表情だった。
確かに罪を裁くには捉えることができれば一番だったが、
それは不可能だと、は思った。

バルボスの矜持がそれを許さない。
無様な姿を見せるなら、死を選ぶ、
いっそ高尚とも言ってよい姿を、まざまざと見せつけられた気がした。


「まだ一件落着にゃ早いぜ。
 こいつがちゃんと動くかどうか確認しないとな」
「魔導器の魔核はそんなに簡単に壊れないわよ」
「ふ~ん、そうなんだ。知ってた、レイヴン・・・・・・?」


魔核を取り戻しても使えなくてはどうにもならない。
ユーリが魔核を手の平の上でぽんぽんと弾ませるが、リタはきっぱりと否定した。
興味深そうに頷いたカロルが後ろを振り返るが、
辺りを見回しても目当てのレイヴンの姿は無かった。


「また、あのおっさんは・・・・・・本当に自分勝手ね」
「それをリタが言うんだ」
「人それぞれでいいんじゃない?」
「ダングレストに帰ったんだろ。会いたきゃ会えるさ」


ユーリ達は口々に言うが、なんだかんだでレイヴンを受け入れてるように思える。
ふと、ユーリの方を見て、は口を開いた。


「浮かない顔してる」
「いや、まだデデッキの野郎をぶん殴ってねえと思ってさ」
「ユーリが気になっているの、それじゃないでしょう?」


本人は隠そうとしていたが、バルボスを倒してから、
ユーリがずっと考え込んでいるのに、は気づいている。
話を誤魔化さないでと、ユーリの顔をじっと覗き込めば、
ユーリは観念したかのように、はぁと息を漏らした。


「・・・・・・地獄で待ってる、てな、嫌なこと言うぜ」
「まぁ、一般論よね。
 人は多かれ少なかれ、罪を背負って生きる生き物だから。
 私だって自分が天国に行けるなんて思ってはいないわ。
 それに・・・・・・」
「それに?」
「いえ、何でもないわ」


罪を背負って生きる方が、地獄へ行くよりずっと辛い、そう言いかけては口を噤んだ。
訝しむユーリに、は首を振って返す。


「とにかく、先の事なんて誰にも分かりはしないし、
 今、ユーリの傍には私達がいる。そうでしょ?」
「そうだな・・・・・・」


ユーリの傍には仲間がいる。
たとえユーリが世界に敵を作ろうとも、それは変わらない。
それでも気になるのなら、何度だって慰めてあげるわよ、とは言ったが、
それはユーリにやんわりと断られてしまった。
さりとて、幾分その表情は和らいだかと思う。


「なんかって、達観してるところあるよね」
「そうね、少なくともこの中では一番大人なつもりだけど?」
「あんたも言うわね」


レイヴンを除けば、がこの中で一番年上だし、精神面においても彼らよりは上だ。
がそう言うと、リタが突っ込んできたが、
それを軽く受け流して、は一緒にいたクリティア族の女性を見た。


「それよりも。初めまして、よね。
 ・・・・・・とりあえずは」
「こいつ、オレと一緒に牢につかまってたジュディス」
「そう。私は
 よろしくね、ジュディス」
「ええ、よろしく」


十中八九、ジュディスはあの竜使いだ。
後半の言葉は他には聞こえないよう小さく呟いて、
はユーリの紹介の後、ジュディスににこりと微笑んで手を差し出した。
ジュディスも手を握り返し、にこりと微笑む。


「ほらほら、いいかげん、ダングレストに戻ろうよ」
「そうですね。フレンにバルボスのこと、報告しないと」
「フレンて言やあ、ダングレストの方はうまくまとまったのか」


いつまでもここにいても仕方がないと急かすカロルに、エステルが同意する。
ユーリはここにはいない幼馴染の騎士の事を思い出して、エステルを見た。
ダングレストの方は放置して来てしまったが、どうなったのだろうか。


「ええ、フレンのおかげで、帝国もギルドも刃を収めました。
 そのまま、フレンはラゴウのところへ行ったので、
 ラゴウもすぐに拘束されるはずです」
「そうか・・・・・・」


バルボスが倒れ、ラゴウが拘束されるとなれば、一連の騒動は決着が着いたと言って良いだろう。
エステルの言葉に頷くと、ユーリは手に持った魔核を見る。
そこでジュディスが動いた。


「じゃあ、私はここでお別れね」
「相棒のとこ戻るのか?」
「相棒?誰です、それ?」


相棒とはジュディスが一緒にいた竜のことである。
エステルがユーリの言葉に反応してジュディスを見るが、
ジュディスは小さく笑みを浮かべるばかりで。


「ここからは別行動。お互いの行動に干渉はなしね」
「そっか、じゃあな」
「ええ・・・・・・」


ジュディスとは行きがかり上、協力したに過ぎない。
彼女が行くというのなら、ユーリも止めることはしなかった。
ジュディスが横を通り過ぎるのを見送って、ユーリ達もダングレストへと向かった。