塔の頂上に着くと、再び爆発音が響いた。
中央には巨大な魔導器と魔核を抱く塔があり、
円盤状に広がった舞台の一段下にユーリ達の姿が見える。
そこで複雑な仕掛けが施された剣を持ったバルボスが対峙していた。


「あの剣は・・・・・・!?」


どうやらバルボスが持つ剣はそれ自体が魔導器になっているようで、
バルボスが剣を振るう度、とてつもない威力の衝撃波が、ユーリ達に襲い掛かる。
一撃で通常の何倍もの威力を発揮する剣を相手にどう戦えば良いのか。
ともかくユーリ達の加勢に行かないと、とが足を踏み出すと、
デュークがそれを手で制した。


「え・・・・・・?」
「伏せろ」


下を見下ろし口を開いたデュークが、手に持った剣を掲げた。
すると、刀身から眩しいほどの光が放射される。
光は塔の頂上を覆うように広がり尽くし、
その光が消えた後は、バルボスの剣の魔導器が光を失っていた。


「なに!?」
「すごい・・・・・・」


バルボスが驚愕し、はバルボスの大破した剣を見る。
これがリタの言っていたデュークの剣が持つ力なのか。
エアルを切ったその力に興奮して、は後ろを振り返ったが、
デュークは既に剣を収め、踵を返すところであった。


「デューク!」


は慌ててデュークを呼び止めるが、デュークは振り返らず、その場を去ってしまう。


「ヒマも興味も無かったんじゃないの?」
「あいつ・・・・・・!」
「リタ、今はよそ見すんな!」


下から、レイヴンやリタ、ユーリの声が聞こえた。
デュークを追うことも考えたが、今はバルボスを倒すことが先決だろう。


「・・・・・・くっ、貧弱な!」
「ユーリ、皆!大丈夫!?」
!」


バルボスが剣を振るうが、魔導器の部分からは煙が出るのみで、
はその隙に頂上からユーリ達の所へ飛び降りた。
驚く仲間を尻目に、ユーリの横で鎌を構える。


「形勢逆転だな」


が加わるとこちらは8人、対してバルボスは一人。
頼みにしていた魔導器は破壊され使えないときて、
ユーリが不敵に笑みを浮かべれば、バルボスが忌々し気に魔導器の剣を打ち捨てた。


「・・・・・・賢しい知恵と魔導器で得る力などまがい物にすぎん・・・・・・か。
 所詮、最後に頼れるのは、己の力のみだったな。
 さあ、おまえら剣を取れ!」


いつもの剣を取り出し吼えたバルボスの合図で、紅の絆傭兵団の団員が集まってくる。
流石の5大ギルドだけあって、一瞬で数の差の有利が無くなってしまった。


「あちゃ~力に酔ってた分、さっきまでの方が扱いやすかったのに」
「開き直ったバカほど扱いにくいものはないわね」


バルボスは自分の身長より大きい幅広の剣を易々と片手で振り回せる程の力を持っている。
先程まではこちらを舐めてかかっていた分、付け込みやすかったのだが、
そうもいかなくなってしまった。
レイヴンとリタが後ろでこそこそとしゃべるのを聞いて、は補助魔術を発動した。
淡い光と共に、身体能力が引き上げられるのを感じる。


「ホワイトホースに並ぶ兵、剛嵐のバルボスと呼ばれたワシの力と・・・・・・。
 ワシが作り上げた"紅の絆傭兵団"の力。とくと味わうがよい!」
「―――はぁっ!!!!」
「ぬぅっ!?」


バルボスが言い終えるや否や、は先手必勝とばかりに、鎌を薙ぎ払ったが、
バルボスに容易く防がれてしまう。
ぶんっと大きな音を立てて振り回されるバルボスの剣を、は後ろに跳んで避けた。
腕力を上げたというのに、まともに打ち合ったらこちらの手首がおかしくなってしまいそうだった。


「ユーリとカロルが前衛をお願い。
 レイヴンだけ残してあとは二人の援護を!!」
「ああ!」
「分かったわ!」
「おっさんは!?」


バルボスと正面から打ち合えるのは、ユーリかカロルしかいない。
仲間が指示通りに動くのを確認して、はレイヴンを見た。
一人だけ指示を出されなかったレイヴンが情けない顔をしてを見る。


「レイヴンは私と一緒に周りの排除よ。
 あれ、見えるでしょ」
「・・・・・・ああ、あれねぇ」


が示す方向、塔の頂上から中央の舞台に繋がる橋の奥から、
増援がわらわら来るのが見える。
もそれを使ってここに来たのだが、奥には昇降機のようなものが有って、
そこから団員が上がって来ているのだ。
近くに機械を制御している魔導器があるので、
それを破壊してしまえば、しばらく増援の足止めが可能となる。

の意図を一瞬で理解したレイヴンは神妙に頷いた。


「私が邪魔なものを排除するから、
 レイヴンはあれの破壊をお願い」
「まかせてちょーだいな」


が走り出すと、レイヴンもすぐにその後に続く。

が向かってくるのに気づいたのか、剣を握った団員が複数でこちらに立ち向かってくる。
それを鎌で薙ぎ払いつつ、はちらりとレイヴンを見た。
短距離はが、中長距離は弓を持ったレイヴンが、
お互い担当分野を分けて戦っているが、思っていた以上に戦いやすい。


(前にも一緒に戦ったことがあるみたい・・・・・・)


レイヴンも少なからずそう思っているのか、なんだか楽しそうな顔を浮かべていた。
とにもかくにも戦いやすいならそれで良い。
橋の根元まで辿り着いて、レイヴンが装置を破壊した。


「よし、これで!」
!!」


とりあえずの足止めができたと、ユーリ達の元に戻ろうとした時、
の横をレイヴンの弓矢がビュンッと音を立てて飛んで行った。
と共に何かがドサッと落ちる音がする。
驚いて振り返れば、柱の陰に杖を持った男が一人、倒れていた。
どうやら男は隙を見て攻撃しようと柱の陰に潜んでいたようで、
それに気づいたレイヴンが男を撃ち取ってくれたようだ。


「助かったわ、ありがとう」
「最後まで油断しちゃだめよ、ちゃん」
「ええ」


小さく頷いて、レイヴンの元まで走ると、はユーリ達の方を見た。
増援はもう見込めず、1対多数でさすがのバルボスも肩で息をしていた。
あともう少し、とは前衛に腕力と敏捷力上昇の補助魔術を重ねて掛ける。
目に見えて動きが良くなったユーリが、剣でバルボスの肩を大きく切り裂いた。


「ごはっ!」
「・・・・・・もう部下もいない。
 器が知れたな。分をわきまえないバカはあんたってことだ」


致命傷には及ばなかったが、それでもバルボスはもう動けないだろう。
ユーリが鋭い目で見据えると、バルボスは大きく笑った。


「ぐっ、ハハハっ。な、なるほど、どうやらその様だ」
「ではおとなしく・・・・・・」
「こ、これ以上無様をさらすつもりはない。
 ・・・・・・ユーリ、とか言ったな?
 おまえは若い頃のドン・ホワイトホースに似ている・・・・・・そっくりだ」


バルボスが観念したならばと、エステルが身を乗り出すが、
バルボスはそちらを見ず、ユーリだけを見ていた。


「オレがあんなじいさんになるってか。ぞっとしない話だな」


ユーリはそう言うが、はドンとユーリは似ていると思った。
外見ではなく、その本質において、確かに二人は似ているのだ。
ギルドにおけるドンのように、皆がユーリに惹かれるのはその本質からなのかもしれない。

バルボスが、じりと後ろに一歩下がる。
今やバルボスは舞台の縁ギリギリの所に立っていた。


「ああ、貴様はいずれ世界に大きな敵を作る。あのドンのように。
 ・・・・・・そして世界に食い潰される。
 悔やみ、嘆き、絶望した貴様がやって来るのを先に地獄で待つとしよう」


にやりと笑ったバルボスに、ユーリははっと気づいて駆け寄ったが、
呪いのような言葉を最後に、バルボスは塔から身を投げ出した。
深い、深い奈落にバルボスの体が落ちていく。
こんな高いところから落ちたら、もはやひとたまりもないだろう。
バルボスの姿が底の見えない暗闇に落ちるまで、言葉を発するものは誰もいなかった。