森の中を、ユーリ達は奥へ奥へと進む。
最初は道に沿って進めばよかったが、登れない程の大きな根に行く道を遮られたり、
根腐れして倒れた木が前を塞いでいて、道なき道を進む羽目になる。

入口から引き続き最後尾に位置したは、内心びくびくしながら歩いていた。
先程から"アレ"の存在を主張する音がそこかしこから聞こえてくるからだ。
先頭を進む、ユーリとラピードは既に何度か"アレ"と対峙しているが、
が手を出すには及ばない。
一番後ろにいて良かった、と安堵の息を漏らした時、の耳元を何かが掠めた。


「きゃあ!!!」
「なんだあ?」


の少し前を歩くレイヴンが、の悲鳴を聞いて振り返った。
どうやらの耳を掠めたのはただの葉っぱだったようで、
少々涙目になりながらも、はぶんぶんと首を振る。


「いえ、な、なんでもないわ。
 ちょっとびっくりしただけ」
「ふーん・・・・・・」


レイヴンにはばれてしまったかもしれない。
レイヴンがこちらの顔をじっと見るので、は急いで目を逸らした。
逸らした先に、運よく奥につながる道を発見する。
こんな所はさっさと進むに限る。


「あ、ほらっ!
 あそこから奥に行けるみたいだわ。さっさと進みましょ」
、おい!!!」


が指差したのは、木と木が重なり合い、アーチになっている所だ。
ユーリが止めるのも聞かず、は奥へと走って行ってしまう。


「すっごいスピードで行っちゃったわね」
ってもしかして・・・・・・虫が怖いのかな?」
「みたいだな」


いつも冷静なが見る影もない。
が消えた行く先を目で追って、ユーリ達は顔を見合わせた。














焦って思わず走って来てしまったが、一人で奥に進み過ぎたようだ。
後ろを振り返ってもユーリ達の姿はなく、は息苦しさを感じて立ち止まった。
横にあった木に手を付き顔を上げると、数歩先の木の洞から、
オレンジ色の光が立ち上っているのが見える。

どくん、と心臓魔導器が音を立てた。


「ヘリオードと、同じ・・・・・・」


オレンジ色の光はエアルの光だった。
普段は薄い黄緑色の光なのに、なにがしかの理由で、暴走している。
どくん、と再び魔導器が音を立て、は苦しげに膝をついた。

木の陰から、魔物が飛び出してくる。

避けられない―――そう思った時、木の上から何者かが、飛び降りた。
魔物が切られ倒れる音共に、の視界が銀の色で埋まる。
目の前にいるのは確かに人で、を助けた時に掠ってしまったのか、
その手の甲から、血がぽたりと流れ落ちた。
血で、地面が、黒く染まる。


銀の髪、赤、黒、血、血、血。

巨大な、黒い影―――

過去の光景が、フラッシュバックする。


「あ、あ、ぁあああああ!」


喉から、悲鳴が迸った。


どうした!?」


悲鳴を聞きつけたのか、バタバタと音を立てて、ユーリ達が駆け付けてきた。
頭を抱え、崩れ落ちたに、皆が息を呑む。


「あんたは・・・・・・・」


の前、こちらに目を向けた人物に、レイヴンは覚えがあった。
銀の長い髪に、赤と黒の服、紅い瞳。
人魔戦争の真の英雄、デュークだ。
レイヴンが息を漏らすように言葉を発したが、デュークは微動だにしない。


「ユーリ!魔物が!!」


の元へと駆け寄ったエステルが辺りを見回した。
いつのまにか大量の魔物に囲まれている。
しまったとユーリが思った瞬間、デュークが動いた。
剣を一振り、それだけで大量の魔物が塵と化す。


「す、すごい・・・・・・」


人間技ではないと、呆然とカロルがデュークを見ると、
デュークはオレンジの光を放つ木に近づき、その手に持った剣を掲げた。
剣が光を放ち、エアルの光が、オレンジから黄緑色へと変化する。
エアルの暴走が収まったのだ。

それを確認して、剣を収めたデュークはこの場を立ち去ろうとした。


「待てよ。に何をした」
「何も」


睨むユーリに、デュークはその顔に何の感情も浮かべていない。


「ユ、ユーリ。大丈夫よ。
 私は、た、助けてもらった、だけだから・・・・・・」


ユーリが剣の束を握ろうとした時、弱弱しいの声がかかった。
苦痛に歪むその顔は真っ白で、デュークは何もしていないと、
それだけを告げて、は気を失う。


!」


再び崩れ落ちるの体を支えるために、ユーリは彼女に駆け寄った。


「・・・・・・エアルクレーネには近づくな」
「エアルクレーネ・・・・・・?」


低く呟かれたデュークの言葉は、今までに聞いたことがないもので、
訝しげに顔を上げた時にはデュークの姿はもうなかった。














『あなたがデューク?』
『―――まぁ、いいわ。明日はよろしくね、デューク』




ゆらゆら、ゆらゆら、体が揺れている。
それは心地よい揺れで、暖かな温もりも感じる。
穏やかな心地に身を任せて、このままずっと眠っていたかった。

しかし、のそんな思いとは裏腹に、瞼に明るい光が差す。
眩しさに、重い瞼がピクリと動いた。


「あ、あれ・・・・・私・・・・・・」
「起きたか」


目を開けると、の目の前に、ユーリの頭があった。
どうやら気絶したをユーリが背負って運んでくれていたらしい。
いつの間にか、は森の入り口まで戻って来ていた。


「ユーリ、ごめんなさい。
 すぐ降りるわね」
「別にいーぜこのままでも。
 オレとしても、悪い気はしないし」
「え・・・・・・?」


もう問題ない、とはユーリの背から降りようとしたが、ユーリが軽く拒否をする。
がキョトンと目を瞬くと、レイヴンががばっと目の前に躍り出た。


「ずるいせーねんっ!
 おっさんにもその幸せわけ・・・・・・」
「天誅!!」
「あだぁっ!」


リタに本の角で殴られたレイヴンが頭を抱えて座り込む。
あれはものすごく痛そうだと思いかけて、はた、と気づいた。
の今の状態は、ユーリと密着状態ではないか、と。


「自分で歩くわ・・・・・・!」
「それは残念」


慌ててユーリの背から降りれば、ユーリはひょいと肩を竦める。
その様は本気なのか、冗談なのか分からない。
は顔が赤くなりそうなのを堪えて、ユーリを見た。


「・・・・・・それで、ドンには会えたの?」
「ああ、ユニオンで待ってるってさ」
「そう、よかった」


が意識を失っていた間、森の中腹の辺りで、ドンと会えたとユーリは言う。
話の途中でドンが呼び出されて街に戻ってしまったので、
ユニオンに行けば話を聞いてくれるとの事だ。
気絶して背負われているのが初対面とは、
ドンにみっともない姿を見せてしまったな、とは少し憂鬱になった。