「ん?なんだおまえたち」
ギルドユニオン本部は広場から進んで北にある。
本部の前まで来て中に入ろうとすると、脇にいた男に声を掛けられた。
「ドンに会って話したいことがあるんだ。取り次いでくれ」
「5大ギルドに関係あることなんだ」
ユーリに続いてカロルが説明をすると、男はじろじろとこちらを見た。
ドンの部下だろうか、筋骨隆々とした屈強な体はただのギルドメンバーには見えなかった。
「見ない顔だな。どこのギルドだ?」
「どこって、どこでもないけど」
そのうちカロルとギルドを作るかもしれないが、ユーリはギルドに入ってはいない。
ユーリ以外も同様で、はむしろ騎士団の人間だ。
「・・・・・・あいにくドンは魔物の群れを追って街を出てったぞ」
「魔物の群れを?」
「ああ、魔物の巣を一網打尽にするんだと」
ギルドに入っていなければドンに会えないのかと思えば、男はあっさり情報を教えてくれた。
どうやら、魔物の群れはある一定の方向からやって来たようで、
ドンはそれを追いかけて行ってしまったらしい。
魔物の巣を叩けば大元の原因を排除できるからだ。
「なるほど・・・・・・教えてくれてサンキュな」
「ああ」
男にお礼を言い、その場を後にして、ユーリ達は広場に戻ってくる。
ドンがユニオン本部にいないとなると、この先が手詰まりである。
「さて、どうすっかね」
街に情報でも聞きに行くかと思った時、ずっと思案気に腕を組んでいたが顔を上げた。
「魔物の巣、ね・・・・・・。
そういえば、この近くにケーブ・モックという魔物の活動が活発化している森があるわ」
「ケーブ・モック!?」
「ええ、確か大型の魔物も確認されたと聞いているわ。
もしかしたらそこが魔物の巣かもしれない」
ケーブ・モックはダングレストに近く、
そこに巣があるならこちらに魔物の群れが流れてきてもおかしくない。
そう説明したに、皆の視線が集まった。
「、それ本当?」
「?、どうしたの?」
彼らの視線は期待に満ちたものというより、驚きの方が多く含まれていて、
理由は分からないが、なんだか様子がおかしいとは首を傾げる。
「調査を依頼されてたのも確か、ケーブ・モックだったよな」
「はい」
「ちょうど良いじゃない、さっさと行きましょ」
リタがアレクセイから調査を依頼されたのは、正にそのケーブ・モック大森林である。
魔物の巣がそこならば、ドンにも会える。
一石二鳥だと皆の意見が一致しかけたところで、は仲間を遮った。
「ちょっと待って。
ケーブ・モック大森林が調査場所・・・・・・?」
「そうよ、何か問題でもあんの?」
不思議そうにリタがこちらを見るが、には死活問題だった。
ケーブ・モック大森林にはの苦手としている"アレ"が多く生息しているのだ。
「・・・・・・一緒に行かなきゃだめかしら」
「エステルの護衛が仕事なんだろ?」
行かなくても良いなら行きたくない。
そう思ったの願いは空しく取り下げられる事になる。
仕事はきちんと、とユーリに言われれば、は肩を落とすしかなかった。
「そ、そうよね。ごめんなさい、なんでもないわ」
「なら、決まりですね。ケーブ・モック大森林に行きましょう」
ワクワクとした表情で言ったエステルは、見るものすべてが新鮮で、面白いのだろう。
はうらめしそうに彼女を見つめた。
ケーブ・モック大森林は、大森林というだけあり、
奥に行くほど木々が鬱蒼とそびえ立ち、日は落ちていないというのに薄暗い。
普通の人からすれば見るだけで鬱々とした気分になりそうだった。
「世の中にはこんな大きな木があるんですね・・・・・・」
一際大きい木を見上げていたエステルが、木に近寄って手で触れた。
ユーリも上を見上げる。
「けど、ここまで成長すると、逆に不健康な感じがすんな」
「ヘリオードで魔導器が暴走したときの感じになんとなく似てるわ」
黒々とした木々は空を遮るほどで、大森林であっても、ここに来るまでの木々に比べ大きすぎる。
リタの言う通り、ヘリオードの魔導器が暴走した時の周辺の木々がまさしくこんな感じだった。
リタに頷いて、ユーリが周囲を確認しようとした時、が警戒を露わにした。
「気を付けて・・・・・・誰かいるわ」
「よっ、偶然!」
の言葉に後ろを振り返ると、場にそぐわない飄々とした声が届く。
こちらに向けて手を上げている男は、城の牢屋で会って以来、度々登場するレイヴンだ。
「こんなとこで何してんだよ?」
「自然観察と森林浴って感じだな」
ユーリが鋭い目で見据えても、レイヴンはどこ吹く風である。
「うさん臭い・・・・・・」
毎度のことながら、呆れてカロルがレイヴンを見た。
「あれ?歓迎されてない?」
「本気で歓迎されるなんて思ってたんじゃないでしょうね」
「そんなこと言うなよ。俺、役に立つぜ」
諸々の出来事から、苦々しい思いを持つリタがレイヴンをぎろりと睨むが、
そこでもレイヴンは小さく肩を竦めるばかりだ。
しかも、言った言葉は同行を匂わすもので。
「役に立つって、まさか、一緒に来たい、とか?」
「そうよ。一人じゃ寂しいさ。何?ダメ?」
「背後には気を付けてね。変な事したら殺すから」
カロルが問えば、レイヴンは即座に頷いてくる。
リタが物騒な雰囲気を漂わせ始めた。
「なあ、俺ってば、そんなにうさん臭い?」
「ああ、うさん臭さが、全身からにじみ出てるな」
「どれどれ・・・・・・」
その行動こそがうさん臭いのだが、レイヴンには自覚が足りないらしい。
自分の体をくんくんと嗅ぎはじめた彼を、ユーリは放置することに決めた。
「余計な真似したら、オレ何するかわかんないんで、そこんところはよろしくな」
そう言って、ユーリは森の奥へと進んでいく。
ユーリ他、仲間の皆が続く中、はその最後尾についた。
そこでくるりと後ろを振り返る。
「えっと、何かしら?」
先程から妙に視線を感じていたのである。
自分に何か用があるのだろうかと、がレイヴンを見ると、
レイヴンは頭の後ろで手を組んで、つま先でトントンと地面を叩いた。
「んん、お嬢さんのお名前なんてったっけ」
「よ。・クロフォード」
「今日はこの前と違う服来てんのね」
「あれは頂きものだから、汚したくなくて」
すらすらと問いに答えるに、レイヴンがそこでぴたりと動きを止めた。
こちらを見つめる瞳が、これまでと違って、真剣味を帯びている。
「・・・・・・?」
「やーっぱ、ちゃん俺様の知り合いにそっくりなのよねえ。
何か思い出せない?」
その理由が分からなくて、が小さく首を傾げると、レイヴンがにぱっと笑った。
しかし、それも普段の癖のある振る舞いとは違い、どこかこちらを探るようだ。
「・・・・・・もしかしたら会った事あるかもしれないわ」
「ん?どゆこと?」
知り合いかもしれないが、断言はできないと言えば、今度はレイヴンが首を傾げる番だった。
「私、3年より前の記憶がないの」
「そうなの?とてもそんなようには見えないけども」
が何気なく言った言葉に、レイヴンの肩がピクリと動いた。
それはほんの僅かな動きで、は気が付かなかった。
「日常生活に支障はないから。
でも少しは思い出すよう努力しなきゃだめね」
「問題ないなら無理するこたないんじゃない?」
「そうね・・・・・・でもちょっと頑張ってみるわ」
生活に支障はないが、最近記憶が無いことに不安を感じることが増えてきている。
無理することはないと言うレイヴンに頷きはしたものの、
は少しずつ思い出す努力をしようと決意を固めた。
「おーい!、何してるんだよー!」
「ごめんなさい、今行くわ!」
「記憶喪失、か・・・・・・」
長く話し込んでしまったようだ。
カロルの催促の呼び声に、は慌てて奥へと走っていく。
続く、レイヴンの小さな声は彼自身にしか、聞こえなかった。
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