どうやら、カロルが乗り気ではなかったのは他にも理由がありそうだった。
広場を進むにつれ、カロルがやけに落ち着かなく、キョロキョロし始める。
「あんた、何してんの?」
「え?な、なにって、別に」
リタの指摘に、カロルがぶんぶんと大きく首を振った。
明らかに挙動不審なのに、その理由を告げようとはしない。
しかし、その理由はすぐに分かった。
「ん?そこにいるのはカロルじゃねえか」
「どの面下げてこの街に戻ってきたんだ?」
「な、なんだよいきなり」
ユニオン本部に続く道の前まで来たところで、二人の男が近づいてきた。
カロルがびくっと怯えるように後退る。
「あんたらがこいつ拾った新しいギルドの人?相手は選んだ方がいいぜ」
「自慢できるのは、所属したギルドの数だけだし。あ、それ自慢にならねえか」
男達はカロルが前に所属していたギルドの元ギルドメンバーのようだった。
人を嘲り笑う姿は、とても性格が良いとは思えない。
「カロルの友達か?相手は選んだ方がいいぜ?」
「な、なんだと!」
ユーリが男達を挑発するが、もそれには同感だった。
「カロルはカロルなりに良い所があるのだから、
気にする必要はないわよ」
「あ、あんたは!」
同行してからまだ1日と立っていないが、カロルが良い子なのは分かっている。
少なくとも目の前の男達よりは遥かに好印象なのは間違いない。
の登場に、今度は男達がびくりと怯えるように後退った。
「私?・・・・・・どこかであったかしら?」
「酒場であそこまでしておいて、忘れたとは言わせねえぞ!!」
彼らはを見たことがあるようだが、には覚えがない。
覚えるに値しなかったというべきか。
酒場、と言われてようやく彼らに思い当たる。
「ああ、酒場でやんちゃしてた子達ね」
「そう、それだ!!」
思い出されて嬉しいのか、男達はコクコクと頷くが、それがどうしたというのだろう。
以前、情報収集のために酒場でお酒を飲んでいたら、この男達を含む数人が酒場で暴れ始めた。
酒を飲み過ぎて暴れる客など、この街では珍しくないので、暫く静観していたのだが、
酒場で働いていた娘にまで危害を加えようとするのなら、も黙ってはいなかった。
「それで?貴方達はまた私に注意されたいって事かしら?」
「ひぃっ!!」
眼光鋭く男達を見据えれば、叫び声をあげて彼らは逃げて行ってしまった。
「何したの・・・・・・」
「特別なことは何もしてないと思うのだけれど・・・・・・」
あの時、はただ"おいた"していた彼らを"お仕置き"しただけだ。
カロルの呆れたような声にが小さく首を傾げた時、街に警鐘が鳴り響いた。
遠くの方から、地鳴りのようなものが聞こえてくる。
「何の音・・・・・・?」
「魔物・・・・・・魔物が来たんだ」
「魔物って・・・・・・まさかこの振動、その魔物の足音・・・・・・」
「だとすると、こりゃ大群だな」
警鐘は魔物の襲撃の合図だ。
と、なれば地鳴りは魔物の足音と推測されるが、いささか規模が大きすぎる。
「ま、でも心配いらないよ。最近やけに多いけど。
ここの結界は丈夫で、破られたこともないしね。
外の魔物だって、ギルドが撃退・・・・・・」
ダングレストの結界は強固だ。
街の結界を見上げつつ、言ったカロルの言葉の途中で、その結界が瞬いて、消えた。
「・・・・・・って、ええ!!」
「結界が、消えた・・・・・・?」
どんなに目を凝らしても、常に街を覆っていた結界の薄い膜は見えなかった。
まるでハルルの街のようだ。
ハルルの時は騎士団が魔物をなんとか退けたが、今回の魔物の襲撃はその比ではない。
「一体どうなってんの!魔物が来てるのに!」
「ったく、行く場所、行く場所、厄介ごと起こりやがって・・・・・・」
「何か憑いてんのよ、あんた」
「・・・・・・かもな」
リタが縁起でもない事を言って、ユーリが小さく肩を竦めた。
ユーリがトラベルメーカーなのは激しく同意するが、異変は以前から起きていた。
ユーリ達に会う前、はそれを調べていたのだ。
「ユーリ、魔物を止めに行きましょう!」
「リタとエステルはこっちへ!」
魔物を討伐しに行こうとするエステルと、リタの腕を取り、
は広場から向かって左に引っ張っていく。
広場の西にはこの街の結界魔導器がある。
「え、ちょっとあんたどこ行くのよ!」
「結界魔導器を直さないと、いつまでも魔物が襲ってくるわ」
「は結界魔導器の場所を知っているんです?」
「ええ」
「案内しなさい!」
こと魔導器に関してはリタに任せるのが一番良い。
結界魔導器を直す事ができれば、街に入り込んできた敵を掃討するだけで済む。
が結界魔導器の場所を伝えると、
リタはの手を振りほどいて、一目散に走り出した。
この異変の中、リタ一人では、何が起こるか分からない。
「ユーリ達は魔物の討伐をお願い!」
「ちょ、ちょっと、―!?」
リタに遅れじとスピードを上げたに、慌てたカロルの声は届かなかった。
仮にも騎士であるがリタに追いつくのは簡単なことで、
焦るリタを宥めた後、はエステルが来るのを待って、結界魔導器の元へと向かった。
魔導器の周辺には、警備の者達だろうか、男達が数人倒れている。
男達の状態を確認したエステルが口元に手をやり、痛ましそうに表情を曇らせた。
「・・・・・・もう手遅れです。なんてひどい・・・・・・」
「ちょっとどいて。これなら、なんとかなるかも」
結界魔導器を見上げて状態を確認したリタが、魔導器に走り寄ろうとすると、
階段の上、物陰から、武器を持った黒装束の男達が現れる。
「結界は直させんぞ!」
「リタ、危ない!」
エステルの悲鳴が響く。
―――瞬間
は階段を踏み込んで、跳躍した。
鎌を一閃。
切り伏せた男を足場にして次に右の男を蹴り上げる。
リタの頭上を影がよぎった。
蹴り上げた勢いのまま、宙を舞ったは、
真後ろにいた男に鎌を振り下ろし、取り出した短剣を奥に向かって投げた。
ドサドサッときっちり4人分の音がして、ストッとは地面に降り立った。
「おそろしく強いんだけど、あいつ」
「さすが特務師団隊長様ってとこだな」
「ユーリ!」
安全な場所に避難したリタとエステルの後ろから、見知った声がかかった。
エステルが後ろを振り返ると、そこには剣を鞘から抜いたままのユーリと、
その更に後ろに息を切らせたカロルがいた。
「手助けも必要なかったね・・・・・・」
「ユーリ、広場の方は?」
「ドンが駆け付けたから心配ないよ」
エステルの問いに、カロルが答えた。
広場の方はドンに任せておけば問題なさそうなので、
達の元へと駆け付けてみたが、こちらも心配は無用であったようだ。
ユーリは剣を鞘へと戻した。
そこに、投げた短剣を回収したがやって来る。
「結界が消えたのはこいつらの仕業みたいね」
「でも、どうして?」
エステルが首を傾げた。
黒装束の男達に、ユーリもエステルも見覚えがあった。
最初はお城で、次はカプワ・ノールだ。
こうも頻繁に見かけるとあれば、誰か裏で糸を引く者がいるかも知れない。
丁度その時、向こうから騎士たちを引き連れフレンがやって来た。
フレンは倒れている男達を見て、目を見開いた。
「こっちも大変な騒ぎだね」
「なんだ、ドンの説得はもう諦めたのか?」
「今は、やれることをやるだけだ。
それで、結界魔導器の修復は?」
「天才魔導士様次第ってやつだ」
魔物の襲撃があった直後、ユーリは小隊を引き連れたフレンが広場に走ってきたのを見たが、
フレンはドンに魔物の討伐の協力を申し出て、拒否されていた。
ギルドの事はギルドで解決する、それがこの街の意志だとドンは言う。
討伐の手伝いができないならば、魔導器の修復を、とこちらにやって来たという所のようだ。
魔導器の事はリタに任せてある。
が黒装束の男達を片付けた後、結界魔導器の元に走り寄ったリタは、
ぶつぶつ言葉をつぶやきつつも、パネルを操作している。
フレンの問いにリタをちらりと見たユーリは、視線をフレンへと戻した。
「魔物の襲撃と結界の消失。同時だったのはただの偶然じゃないよな?」
「・・・・・・おそらくは」
「おまえが来たってことはこれも帝国のごたごたと関係ありってわけか」
「わからない、だから確かめに来た」
現状は掴めていないが、ユーリの言う通り、周りが怪しい動きをしているのは確かだ。
本来ならば、ギルドに騎士団が介入する事はできないが、
それを押して、フレンがこの街にやって来たのはそれが理由だ。
「フレンも気が休まらないわね」
「、君も大丈夫かい?」
「ええ、平気よ」
ヘリオードを出る朝、が起きた時にはもうフレンはいなかったが、
の体調不良を伝え聞いたのだろう、フレンが心配そうに見上げてきた。
結界魔導器の横にある階段を下り、はユーリの側まで歩く。
エステルがユーリについて行くとなった場合、
も彼女に同行する、と既にフレンには告げてあった。
「・・・・・・それが、あれで、これが、こう!」
ピピ、ピピピッと音を立てて、リタがパネルを叩いた時、空にある結界の要のリングが光を放つ。
リングからは町全体を覆う様に薄い膜が広がり、次の瞬間には結界が見事に復活していた。
それを見たエステルが嬉しそうに小さく手を叩いた。
「さすが、リタ」
「よし、外の魔物を一掃する!外ならギルドも文句を言うまい」
結界が修復したとなれば、あとは残った魔物を一掃するだけで良い。
街の中がダメなら外で、とフレンは小隊を率いて走っていった。
「魔物の方はフレンに任せて、オレらはユニオンにバルボスの話を聞きに行くぞ」
「フレンのこと、信頼してるんですね、やっぱり」
「他が信頼できないだけの話だろ。比較の問題ってやつだな」
「時々、ユーリの言うことは、難しいです」
ユーリの言葉に、分からないとエステルが小さく首を傾げた。
ユーリが捻くれているだけだと、は内心思ったが、
それは言わないでおいてあげることにした。
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