アレクセイと別れた後は、各々出発の準備をして、街の出口に集合することにした。
が着いた頃にはユーリ達は全員揃っていて、少年少女達が楽しそうに話している。
余程話に夢中になっているのか、ユーリだけがが来たことに気づき、歩み寄ってくる。


「で、体調は大丈夫なのか?」
「え・・・・・・?」


心臓魔導器の事は秘すべきことだ。
騎士団関係者以外には昨日が倒れたという事は伝わって居ない筈である。
がキョトンと目を瞬けば、ユーリは小さく肩を竦めた。


「さっきアレクセイが聞いてただろ、
 大丈夫かって」
「それだけで?今はもう問題ないわ」
「ならいいけど」


どうやらユーリは余程目端が利くようで、
とアレクセイのやり取りだけで、の体調不良の判断をしたようだ。
ユーリに隠し事をするのはなかなか骨が折れそうである。
とはいえ、今は体調に問題はない。
そう答えてがエステル達の方に歩き出すと、ユーリも特に追及せず、その後に続いた。


「さて、同行するにあたって改めて自己紹介するわね」


そこまで言って、はユーリ達一人一人の顔を見た。
一緒に旅する以上、情報は共有しておく必要が有る。


「私は・クロフォード。
 主な武器はこの鎌で、あとは補助魔術が使えるわ」
「補助魔術?」


腰のベルトにつけていた仕掛け式の棒を取り出し、は鎌へと変形させる。
丁寧に研がれたその刃は曇り一つない。
手に馴染んだ柄をそのまま抱えたに、カロルが首を傾げた。
補助魔術とは、戦闘の際、自身を含む味方をサポートする術である。


「ええ、例えば俊敏性をあげたり、筋力を上げたり、かしらね」
「うわっ!?」


説明を言い終えるや否や、の体がぽぉっと光った。
目にも止まらぬ速さで道の脇にあった大きめの石を蹴り上げて、
はその石の塊を宙で掴み粉々に破壊する。
身体能力を底上げする術なので、女子供でもこれくらいの芸当ができるようになるのだ。
カロルのすぐ目の前でやってしまった為、必要以上に驚かせてしまったのか、
カロルが大きく仰け反ってしまったので、は軽く謝罪した。
エステルが、興味深そうにこちらを見る。


「攻撃魔術は使えないんです?」
「残念ながら使えないわ」


に攻撃魔術は使えない。
一通り理論を教わりはしたが、術を発動させようとしても、どうにもうまくいかないのだ。


「デイドンのアレは何だったんだ?」
「あれは私のとっておきよ」
「あれって?」


ユーリが言っているのは、デイドン砦でユーリ達を助けた時の事だろう。

攻撃魔術の手解きを受けたものの、扱えなかったに、
言葉にこそ出していなかったが、アレクセイは少し落胆していたように見えた。
それが申し訳なくて、攻撃魔術に代わるものをは独自に編み出したのである。
ただ、それは裏技にも近いものなので、今は秘密にすることにする。


「内緒よ。そのうち分かると思うわ」
「内緒って。・・・・・・まぁいいか」


が唇に人差し指を当ててウィンクすると、ユーリが肩を落とした。
どちらにせよ、使い勝手が良いので、そのうち披露することになるとは思うが。


「ていうか、術の発動速度が半端ないんだけど・・・・・・」
「簡単なものだけだし、大したこと無いわよ?」
「だからって・・・・・・」


詠唱短縮を突き詰めれば、簡単なものなら、ほぼ無詠唱で発動することができる。
訓練すれば誰でもできるようになるわよ、と言っても、リタは納得いかないようだった。
そもそも、その域に達している人は一握りだという事をは知らなかった。


「さ、行きましょ。
 1日目から野宿は避けたいわ」
「そうだな」


ヘリオードからダングレストはそう遠くないとはいえ、
出るのが遅くなれば、野宿になる可能性もある。
さすがにそれは避けたいので、ユーリ達は足早に歩きだした。














ダングレストへの道行きは順調で、程なくして、ダングレストの街中に続く大橋が見えてくる。
街に入った瞬間、空が黄昏色に染まった。
陽が沈んだというわけでなく、ダングレストの結界によるものだ。


「ここがダングレスト、ボクのふるさとだよ」
「賑やかなとこみたいだな」
「そりゃ、帝都に次ぐ第二の都市で、ギルドが統治する街だからね」
「私、この街好きよ、活気があって」


帝都は完璧に街並みが縦に連なっていて、階層によって住む場所が分かれている。
貴族街は喧騒には程遠く、かろうじて下町が多少似ているかといったところだが、
雑多で自由な雰囲気はダングレストならではの物だ。
街に入り、物珍しそうに目を輝かせていたエステルがを見る。


は来た事あるんですか?」
「ええ、任務で何度か」


何度かどころか情報取集の為に頻繁に来ていたりするのだが、
敵地でそんなことを公開する程、は馬鹿じゃない。
表立って対立こそしてはいないが、ギルドユニオンは騎士団にとって警戒すべき相手なのだ。
は曖昧に頷くに留めた。


「で、バルボスの事はどっから手つけようか」
「ユニオンに顔出すのが早くて確実だと思うよ」


カロルの提案でダングレストに来たものの、街は広い。
ユーリがこれからどうしようかと問えば、カロルがすぐに答えた。

ユニオンは5大ギルドによって運営されている、ギルドを束ねる集合組織のことだ。
街の自治もユニオンが取り仕切っていて、ユニオンに聞けば大抵のギルドの情報が手に入る。


「そうね、私もドンに話すのが一番良いと思うわ」
「そのドンってのが、ユニオンの親玉なんだな?」
「うん、5大ギルドの元首"天を射る矢"を束ねるドン・ホワイトホースだよ」


ドンはかつての人魔戦争にも参戦した猛者だ。
彼の豪胆さと、ユニオンを纏めるカリスマ性に憧れる者は多い。
バルボス率いる紅の絆傭兵団は、5大ギルドの一つで下手に手を出す事ができないのだが、
ドンであれば、何かしらの手を打ってくれるだろう。


「んじゃ、そのドンに会うか。カロル、案内頼む」
「ちょっとそんなに簡単に会うって・・・・・・。ボクはあんまり・・・・・・」
「お願いします」
「・・・・・・ユニオン本部は街の北側にあるよ」


ユーリがカロルに案内を頼むが、カロルはあまり乗り気ではないようだ。
ユニオンのトップであるドンには簡単に会える筈もないから無理はない。
エステルが重ねて頼むと、ようやくカロルは俯きながらも歩き始めた。