の指がシーツの上でピクリと動く。
「う、あ・・・・・・」
異変は夜が明けた頃だったろうか。
胸をさす痛みに、は声を漏らす。
苦しい。
徐々に増していく痛みを堪えるように、指に力を入れるが、
シーツに皺が増えるだけで、痛みは紛れそうになかった。
額から脂汗が流れ落ち、顔色は蒼白を通り越して真っ白になっていた。
痛い。
限界は、直ぐに来た。
「うぁ、あ・・・・・・あぁあああああああああ!」
今までで一番激しい痛みにの身体が跳ねるように起き上った。
掻きむしるように開いた胸元から、赤い光が迸る。
「君!どうしたんだね!?!?」
の叫び声が聞こえたのか、アレクセイが部屋に飛び込んでくる。
部屋に入り、すぐにアレクセイは異変に気付いた。
「っ・・・・・・!これは・・・・・・!!」
「あ、アレクセイさま・・・・・・。
くっ、あぁあああっ」
手に血管が浮き出るほどが強く握りしめている襟元が、
目を開けていられないほど強く、赤く光り輝いている。
否、光っているのはの心臓魔導器だ。
脂汗がぼたぼたと白いシーツに落ち、もはやは顔を上げていられなかった。
アレクセイに手を伸ばそうとするが、その手は1mmとも動かない。
アレクセイは急いでベッドまで駆け寄り、の身体を起こしてその心臓魔導器を見た。
触れれば異常な程に熱を持っていて、早鐘を打つような鼓動に僅かな違和感を感じる。
「何かに共鳴している!?」
ぐっと眉を顰めた時、大きな地響きと共に窓の外が光った。
反射的にそちらを見れば、街の結界魔導器が煌々と光を放っていた。
「―――ッ!
君はここにいたまえ!!
すぐに戻る!」
すでに意識は半ば朦朧としていたが、が何とか頷くと、
アレクセイは部屋の外へと飛び出していった。
次に目が覚めた時は、すべてが終わっていた。
掛けられていた薄いシーツを持ち上げ起き上り、襟元を確認すれば、
掻きむしってしまった胸元もいつの間にか治療が施されていて、
まるで傷がなかったかのように、いつもの白くて滑らかなの肌に戻っていた。
(あんなに焦っているアレクセイ様を見たのは初めてだわ・・・・・・)
あの時は痛みでそれどころではなかったが、
今となっては不謹慎にもそれが少し嬉しく、はくすりと笑ってしまう。
あの後アレクセイが部屋に戻ってきた時、は痛みで気絶してしまっていたようで。
頬を叩かれて目を開けると、目の前にあったのは心配そうにこちらを見つめる赤い瞳だった。
の心臓魔導器の異変は、
街の結界魔導器の暴走により引き起こされたと、アレクセイは言っていた。
今にもエアルが暴発しそうだった魔導器はリタによって沈静化され、事なきを得たとの事。
あれほど苦しかった胸の痛みが綺麗に無くなっていたので、おそらくはそうなのだろう。
暫くアレクセイから詳細を聞いていたが、思ったより体力を消耗していたのか、
はいつの間にか眠ってしまった。
「リタとエステルが怪我をしたっておっしゃってたわね・・・・・・」
ベッドから立ち上がり身支度をすると、は鏡を覗き込んだ。
幾分やつれては見えるが、化粧で誤魔化せる範囲だ。
ができることなど殆ど無いが、見舞うぐらいはできる。
軽く屈伸し体が動くことを確認して、は部屋の扉を開けた。
「―――」
「――――――」
騎士団本部を出て中央に向かうと、結界魔導器の辺りにユーリ達が集まっているのが見える。
ユーリの側には元気そうなエステルとリタが居て、はほっと胸を撫でおろした。
考えてみればエステルは治癒術を使えるし、一夜明けてれば状況が変わっていてもおかしくない。
何かを話すユーリ達の前にはアレクセイが立っている。
「―――お願いです、アレクセイ!私にも手伝わせてください」
「しかし、危険な大森林に、姫様を行かせるわけには・・・・・・」
彼らに近づくにつれて、話の内容が段々明瞭になってきた。
エステルは帝都に戻るという話だったが、一転、ユーリへの同行を希望しているようだ。
「青年、姫様の護衛をお願いする。
一度は騎士団の門を叩いた君を見込んでの頼みだ」
「・・・・・・なんでもかんでも勝手に見込んで押し付けやがって」
「私も行くわ」
アレクセイのすぐ傍まで歩み立ち止まったは、そこで彼らに声をかけた。
アレクセイが後ろを振り返り、と目を合わせる。
「君。大丈夫なのかね」
「はい、ご心配お掛けしました」
今は見ての通り、身体に支障はない。
アレクセイに心配を掛けてしまった事を謝罪すると、は小さく首を傾げた。
「閣下、暫く任務の予定はなかったですよね」
「ああ。だが、しかし・・・・・・」
エステルはユーリについていくだろうというのが、昨日フレンとが話した結果である。
正にその通りの展開になっている訳で、それならばとも同行を願い出たのだが、
アレクセイは僅かにためらいを見せる。
「ユーリだけじゃ、姫様の護衛は心もとないですから」
「よくゆーぜ」
がふざけて見せると、ユーリが乗って来てくれた。
多分アレクセイはの体を心配してくれているのだろう。
しかし、魔導器が暴走するなど、そうあることではない。
「そういえば二人は既知だったな。
・・・・・・頼めるか」
「はい、お任せください」
最後にはアレクセイも納得したようだった。
とユーリを見、頷くと許可を出してくれた。
びっくりした顔でこちらを見るエステルに、は微笑みで返す。
勝手にこちらで進めてしまったが、彼らは特に否とは言うまい。
「・・・・・・オレにも用事がある。
森に行くのはダンレストの後だ」
「致し方あるまい」
ユーリの言葉に頷き、アレクセイはもう一度を見た後、この場を去っていく。
はアレクセイに小さく頭を下げてそれを見送った。
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