「・・・・・・少し街の中も見て回るか」
新興都市ヘリオード、騎士団本部の前で、ユーリは首を掻く。
先程まで本部の一室でルブラン小隊から尋問を受けていたユーリ達だったが、
その最中に入ってきた、騎士団長であるアレクセイに赦免を通達されたのだ。
今は無事解放されて、仲間達も皆、各々行動している。
確か、エステルは宿屋で待機しているとアレクセイが言っていたか。
「よかったら案内しましょうか」
「!?
ったく、お前は案外神出鬼没だよな」
「世界中を飛び回るのが私のお仕事だから」
宿屋でも寄ってみるかと思ったところで、横から声がかかる。
トリム港で別れたきりのだ。
今日はシンプルなブラウスに、丈の長い薄いグリーンの長袖をひっかけて、
下はスカートといういでたちで、騎士というよりも秘書みたいな恰好だった。
「それよりもユーリ、無罪放免おめでとう?」
「なんだ、知ってるのか」
「ええ」
「殿下方のお計らいでね」
ユーリが釈放されたのはつい先程だ。
は騎士団繋がりで話を聞いたのだろうか。
ユーリの赦免はエステルとヨーデルの計らいによるとアレクセイは言っていた。
その際、ヨーデルの救出とエステルの護衛のお礼だと、
お金の入った袋を差し出されたが、ユーリは受け取らなかった。
「でもユーリ、謝礼は受け取らなかったでしょう」
「騎士団の為にやった訳じゃねえしな」
成り行きでそうなっただけで、やろうと思ってやった訳ではない。
そうに言えば、は小さく頷いた。
「そうね。ユーリはそういう人だわ。
私もユーリは受け取らないだろうって閣下に申し上げたのだけど・・・・・・。
けど無理強いはされなかったでしょう?」
「・・・・・・そうだな」
ユーリは謝礼を受け取らなかったが、アレクセイも無礼だと追及することもなかった。
そもそも、エステル達の口添えがあったとはいえ、
騎士団から平民であるユーリに謝礼が出る方が異例なのである。
ユーリが頷くと、は嬉しそうにふふっと笑う。
「・・・・・・はアレクセイを信頼してるんだな」
がずいぶん嬉しそうに笑うものだから、ユーリの口からつい言葉が出る。
もともとはアレクセイに心酔しているような様子を見せてはいたが、
どちらかと言えば、これは敬愛に近いだろうか。
「そうね・・・・・・閣下には返しきれない恩があるわ」
「恩?」
「ユーリに以前、私が閣下から稽古をつけて頂いているってこと話したわよね?」
「ああ」
騎士団時代に、の師は誰かという話で、
秘密よ、と彼女から教えてもらったのを思い出す。
の洗練された腕前はアレクセイの指導の成果であり、
こうして騎士団で働けているのは彼のお陰だとは言った。
「最近また閣下にご指南頂けたのだけど・・・・・・。
やっぱりまだまだ敵わないわ」
「そんなに強いのか?」
「ええ、アレクセイ様は騎士団最強の騎士よ」
は無意識なのだろうが、"騎士団長閣下"と言わず、
"アレクセイ"と言ったその言葉は親しみを帯びていて。
「おまえがそこまで言うのなら、一度手合わせしてみたいな」
「そうね・・・・・・私もそれはちょっと見てみたいけれど・・・・・・」
知らず握っていた拳を開いて再び握ってみせれば、が面白そうに目を輝かせる。
まぁ、騎士団のトップであるアレクセイと手合わせできる機会なんて、
余程の事がない限りありえない。
も残念そうにするものの、すぱっとこの話を切り上げた。
「それで、案内はどうする?」
「お願いすっかな」
「任せておいて」
得意げに頷いたに、ユーリはついて行くことにした。
ヘリオードはトリム港とギルドの街ダングレストの間にある、作られたばかりの新しい街である。
街の東側には先程まで居た騎士団本部があり、
そこから西に進んだ中央には、オブジェのような結界魔導器が据えられている。
「まぁ、案内するといっても、
ここ、新興都市だからあまり何もないのだけれど・・・・・・」
そう言いながらはふと結界魔導器を見上げた。
「どうした?」
「いえ。気のせいみたい」
感じた違和感は一瞬で、耳鳴りのようなキーンとした音もすぐに聞こえなくなる。
疲れがたまっているだけなのかもしれない。
最近休みを取ったのがいつだったか分からない程だ。
気を取り直して道を進んでいくと、宿屋のある建物の近くで、フレンとヨーデルを見つけた。
「なんだ、ご両人やっぱ居たのかよ」
「ユーリ、殿下に対して少し口の利き方が失礼だ。
せっかくご厚意で君の罪を全部白紙にしてくださったのに」
ユーリがいつものような気安い態度で二人に声を掛ければ、早速フレンのお小言が飛んでくる。
今更ではあるが。
「いいんですよ、フレン。
私とエステリーゼで勝手にやったことですから」
ヨーデルにそう言われてしまえば、フレンはもう何も言えなかった。
はぁと小さく溜息を吐いてユーリを見る。
「エステリーゼ様のことは、もう聞いてるみたいだな」
「ああ」
「ユーリと一緒に居る方がエステリーゼ様のためになると思ったんだが・・・・・・。
―――?君は今ユーリと一緒に?」
エステリーゼの事を言いかけて、フレンは途中で声を詰まらせた。
はユーリの身長より少し低いので、ユーリの陰に隠れて見えていなかったのだ。
ようやくその存在に気づいたフレンは、に声を掛ける。
「なんだ、嫉妬か?」
「なっ!ユーリ、君は何を・・・・・・!」
フレンとの合同任務は先日終わってしまったので、は今フリーだ。
任務がなければ、馴染みのユーリと一緒に行動するのも、まぁ無くはない。
無くはないが、なんだか癪だ。
そう考えたフレンの心を見透かしたかのように、ユーリが図星をついてくる。
「少し手が空いていたからここをユーリに案内していたの」
「そうだったのか・・・・・・」
がここにいるのは騎士団長閣下に同行していたからで、
たまたま手が空いたからユーリと一緒にいたとは言う。
その言葉にあからさまにほっとした顔をしてしまったら、ユーリがにやにや笑っていた。
放っておいてくれ、とフレンは思う。
「エステルは帝都に戻ることになったのね」
「ええ、皇族がむやみに出歩くものではありませんからね」
「それ、あんたが言っても説得力ねえよ」
「はは、面目ない」
ヨーデルが評議会に拉致られ監禁されていたのは、つい最近だ。
不可抗力とはいえ、皇族二人ともが帝都を離れたここ、へリオードに居ることになる。
ユーリがそれを指摘すると、ヨーデルは恥ずかしそうに頭を掻いた。
「両殿下は騎士団が責任もって帝都にお送りするから心配しないで」
「心配はしてないが・・・・・・も行くのか?」
「そうね・・・・・・どうかしら。
閣下次第だとは思うのだけど・・・・・・」
エステルは対立する評議会擁する皇族だが、騎士団が警護に手を抜くわけにはいかない。
ヨーデルと一緒に護衛するともなれば、それなりの人数が必要となる。
この後の任務は特に聞いてはいないが、も警護の任についても良いかもしれない。
それもアレクセイ次第ではあるが。
「今日の所は騎士団本部に泊まると思うから、
何かあったら声かけて」
「ああ、分かった」
「フレンはあとで時間あったら話しましょ」
ああ、と嬉しそうに返事をするフレンに、はにこりと微笑む。
最後にヨーデルに会釈をすると、は去っていった。
「なんだい、ユーリ」
「いや、別に・・・・・・。
んじゃ、オレ宿屋に行くわ」
案内されている途中でフレン達に会ってしまったので、
こっちは余りと話せなかったというのに、フレンは後で彼女と話すという。
色々な思いを込めてフレンを見てはいたが、決して声に出してはいない。
「ああ、エステリーゼ様に宜しく伝えておいてくれ」
返事の代わりに手をひらひら振ると、ユーリは宿屋へと向かった。
|