、どうしたのその服?』
『これ?これはね、アレクセイ様が下さったものなの。
 ・・・・・・どうかしら?』
『凄く似合ってるわ。ね、ダミュロン』
『ん?あー、いいんじゃないの?
 馬子にも衣装って感じで』
『もう!』
『ちょ、何も殴るこたないでしょ』
、程々にしてあげなさいね』
『キャナリはダミュロンに甘すぎるのよ!
 全く、デリカシーがないんだから・・・・・・』







、か・・・・・・」


リタから逃げるために滑り込んだ先、路地裏の建物の壁にもたれ、レイヴンは思案する。
先程、ユーリは彼女に対してと呼んだ。
それにあの服。


「偶然にしても、できすぎてるわよね・・・・・・」


・メイアンディナ。
それはかつての隊長主席の名前である。
そして、大切な友の名。

人魔戦争より前、レイヴン―ダミュロンはキャナリが率いる小隊に所属していた。
とキャナリの仲が良く、何かと一緒にいるうちに、
自分にとっても気の置けない友となった。
しかし、戦争によって小隊は全滅、生き残ったのは自分一人のみで。

人魔戦争後、が生きているという噂があったが、
噂は噂でしかなく、アレクセイに聞いても返事は"否"だった。
隠す必要性はないからそうだと思っていたが・・・。
あの容姿、声。
黒髪であるということを除けばまるでそっくりだった。

聞いた彼女の名前には心当たりがあった。
・クロフォード、最近アレクセイが編成したという、特務師団隊長の名前だ。
という名前は取り立てて珍しくもなく、あまり気にしてはいなかった。
いずれにせよ。


「一度戻る必要があるか・・・・・・」


壁から体を離し、レイヴンは路地裏から姿を消した。














「ユーリ・ローウェルとその一味を罪人として捕縛せよ!」


廃墟の街、カルボクラムに少ししわがれた男の声が響く。
オレンジ色の隊服を着た騎士、ルブランはシュヴァーンの部下の小隊長である。
シュヴァーンの指示によりカルボクラムまでやってきた小隊は、
廃墟の入り口で、黒衣の青年―ユーリと、紫色の隊服の騎士、キュモールと対峙していた。
ルブランの指示を受け、小隊が武器を構え彼らを牽制する。

シュヴァーンはその様子を高台から見ていた。
ユーリ達の側に、はいない。
一緒に行動していると思ったが―――





「報告は終わりか?」
「・・・・・・任務中、という騎士に会いました」
「ほう?偶然だな。君は会うのは初めてだろう」


帝都へと戻る前、持ち前の情報網でシュヴァーンはのことを調べた。
しかし彼女は素性も、経歴も、年齢も、何もかもが違う。
それはいっそ出来過ぎと言っても良いぐらいで。


「どうした?」
「閣下・・・・・・。あの者の本当の名は・メイアンディナではないのですか」


なにより、自分の例がある。
シュヴァーンはもとより、レイヴンも彼の本名ではない。
アレクセイが意図的に情報操作していても、なんらおかしくはないのだ。
それを含めアレクセイに問えば、
アレクセイは呆れたように机に肘をついて、米神を指で叩いた。


「蘇生に成功したのは君だけだったと以前にも言った筈だが?」
「しかし!」
「くどい」
「・・・・・・はっ」


彼女は・メイアンディナとしか考えられない。
シュヴァーンは尚も食い下がろうとしたが、
話は終わりだ、と鋭い眼光で睨まれてしまえば、
もはや膝をつき、引き下がるしかなかった。


「姫様の居場所を知っているといったな」
「はい」
「評議会が妙な動きをしているようだ。
 一度姫様にはお戻りいただくとしよう」
「御意のままに」


後はこちらから彼女に接触するしかない。
シュヴァーンはアレクセイの指示に頷き、立ち上がった。







―――辺りに、キュモールのわめき声が響く。
キュモールは貴族出身で、その身分だけで隊長に成り上がった騎士だ。
貴族であることを鼻にかけたそのやり口は、時に市民の生活を脅かすものだった。
平民出身の騎士が多いシュヴァーン隊とはその度、対立することが多く、
今回もルブランに噛み付いてくる。


「待ちなよ!こいつは僕の見つけた獲物だ!むざむざ渡さんぞ!」
「獲物、ですか。任務を狩り気分でやられては困りますな」


ルブランはユーリとキュモールの間に割り込むように歩いていくと、キュモールに目を据えた。
その横に彼の部下のアデコールとボッコスが並ぶ。


「それに先ほど、死ね、と聞こえたのですが・・・・・・」
「そうだよ、犯罪者に死の咎を与えて何が悪い?」
「犯罪者は捕まえて、法の下で裁くべきでは?」
「・・・・・・ふん・・・・・・そんな小物、おまえらにくれてやるよ」


罪は法の下で裁くべきである。
それが分からぬ者は居るまい、と正論を重ねれば、
キュモールは悔しげに捨て台詞を吐き、何かをぶつぶつ言いながら去って行った。
それを見届けたルブランが、エステリーゼに向き直り手を差し出した。


「ささ、どうぞ、姫様はこちらへ。あ、足元にお気をつけて・・・・・・」
「あの、わたし・・・・・・」
「こちらへどーぞ!」


ボッコスがエステリーゼに駆け寄ると、
ルブランは成り行きに逃げられずにいたユーリ達を指差した。


「こやつらをシュヴァーン隊長の名の下に逮捕せよ!」
「ユーリ一味!おとなしくお縄を頂戴するであ~る」


それを合図に騎士達はユーリ達を取り囲み、武器を突きつける。
ユーリは抵抗する意思を見せず、暴れるのはリタやカロルだけだ。


「一味って何よ!なにすんのよ!
 はなせ!あたしを誰だと・・・・・・」
「ボ、ボクだって何もやってないのに!」
「彼らに乱暴しないでください!お願いです・・・・・・!」


エステリーゼが声を上げるが、ユーリが首を振るのを見て安心したようだった。
ルブラン達はユーリと馴染みが深いと聞いている。
もとより、彼らに危害を加えるつもりはない。
ユーリ達を連行していく部下を見送ったルブランが、こちらを見上げた。


「シュヴァーン隊長、不届き者をヘリオードへ連行します」


高台にシュヴァーンがいることを知っているのはルブランだけだ。
小さく手を掲げ合図を送ると、ルブランは小隊の先頭へと向かった。