「では、皆さんの家を訪問してみませんか?」
すべてはこの、エステルの一言から始まった。
―帰るということ―
眼下に広がるのは澄み渡る大空。
アスピオでユーリ達と無事合流を果たしたは、バウルが運ぶフィエルティア号のデッキの縁に寄りかかり空を眺めていた。
「そんなに身を乗り出したら落ちるわよ、」
「あ〜、ジュディス〜」
後ろからかけらた声にくるりと振り返る。
そこには少々呆れを含んだ表情をしたジュディス。
手をひらひら振り、へらりと笑ってみせれば、
「どうかしたのかしら?そんな腑抜けた声出して」
彼女は首を傾げ、そう問うた。
「ん〜。空がきれいだなぁって・・・・・・・」
「そうね、今日は雲一つないし、いい天気ね」
「でしょ〜」
再びへらりと笑ってジュディスに返すと、は両腕を上に伸ばし、ん〜っと精一杯背伸びをした。
それと共に、清浄な空気を胸いっぱいに吸い込む。
ここ最近いろいろありはしたが、空も、大地も、相変わらずの色で、前と変わらずを暖かく迎えいれてくれていた。
それだけで元気が出るような気がして、はうん、と小さく頷く。
まだまだ自分は大丈夫。
こうして心配してくれる仲間もいることだし。
ちらりとジュディスの方を覗くと、それに気付いた彼女はにこりと笑う。
一緒に行動している仲間の中で、お姉さん的存在のジュディス。
自分が今何を考えているのかなんて、彼女にはお見通しなんだろうなぁとは思う。
「ね、ジュディス。ジュディスの故郷ってどんなとこだったの?」
「あら、それはも知っているのではなくって?」
「ううん、そっちじゃなくって・・・・・・」
「テムザのことかしら?」
「うん・・・・・・。
―――あ、でも思い出したくなかったら別にいいんだけど!!」
自分の言葉を聞いて少し俯いてしまったジュディスに、は慌てて握った拳をぶんぶんと振った。
しかし、ジュディスはそれに小さく首を振り、ぽつりと言葉を漏らす。
「―――そうね。・・・・・・・いい街だったわ。
街の人も皆優しくて・・・・・・。まぁ性格はやっぱりあれなのだけど」
「あははー。あれはねぇ・・・・・・。
しょうがないとしかいえないわ〜」
「戻りたくないとは言えないけれど、それを乗り越えてこそ人間って生きていけるんじゃないかしら?」
「あー・・・・・・・やっぱりジュディスにはお見通しか〜」
過去を悔やんでも仕方ない。
それはもわかっているのだが、もっとああすればよかったとか、もっと一緒にいればよかったとか、
自分にもっと力があれば未来は違ったのではないかとか、そんなことばかりが頭の中を巡るのだ。
ぽりぽりとばつ悪げに頭を掻いていると向こうからエステルがやってくるのが見えた。
そちらに手を振ると、それに気付いたエステルは嬉しそうにこちらに走ってくる。
「!ジュディスも、何の話をしてたんです?」
「故郷の話だよ。
エステルの家は・・・・・・ザーフィアスだっけ?」
「はい。今はお城に部屋を頂いています」
「お城かぁ〜。
―――やっぱり、天蓋付きベッドとか、こう調度品もひらひら〜って豪華なんだろうなぁ」
「いえ、そんなことないです。普通です」
きらきらと目を輝かせるの出鼻を挫くように、きっぱりと断言するエステル。
しかしすぐにその声に、見知った男の声が重なる。
「普通っていっても、お姫様の基準がどうだかは分からないわねぇ」
「レイヴン!ちょっと、ユーリとカロルまで。
いつから聞いてたのよ」
その声は飄々と物陰から出てくるレイヴンのもので、
それに続いて、やはり空空としたユーリと、少し罰の悪そうな表情を浮かべたカロルまでもが顔を覗かせた。
が肩を怒らせて3人に詰め寄ると、
「空がどうのこうのってとこから?」
それに肩を竦めたユーリが答えた。
あくまでも悪気のないその態度に、は肩を落とし、小さく溜息を吐く。
「・・・・・・最初からじゃない・・・・・・」
「そんな怖い顔すんなって、それで、ベッドがどうしたって?」
「ベッドがじゃなくって・・・・・・!
もう!ホントに話聞いてたの?!」
「はっは、―――そういえばフレンも城に住んでんだよな」
頬を膨らませて怒るに、ひとしきり笑った後、ユーリは幼馴染の事を思い出す。
城の警備や隊の統率の関係から、小隊長クラス以上の騎士には必ず城の部屋が与えられていた。
ユーリ自身、何度か忍び込んだことがあるし、またエステルと出合った時にそこを訪れたばかりだ。
それを言えば、
「え、そうなの!?」
カロルが目を丸くして、驚いた声をあげる。
「ああ、何度かオレも行ったことあるし」
「いいな〜お城」
「城なんて、ただ古いだけじゃない」
頬に手を当てて、再びきらきらと目を輝かせ始めたに、リタが呆れた顔を向ける。
魔導器にしか興味のないリタにとって、
がどうしてそこまで城に興味を抱くのか、さっぱりわからなかった。
しかし、それを否定するかのように、足を踏み鳴らしたカロルが叫ぶ。
「そんなことないよ!!
お城暮らしは誰でも一度は憧れるものだと思うよ」
「そうかしら?」
「そーゆうもんなのか?」
「もう、ジュディスとユーリまで・・・・・・」
仲間の誰にも賛同を得られず、しょんぼりとカロルはに顔を向けた。
憧れというより、単に好奇心で目を輝かせていたが肩を竦めて見せれば、ついにカロルは半分泣きべそになる。
それを見たは慌ててフォローを入れた。
「で、でもちょっと見てみたいなぁ・・・・・・!
ユーリの家もザーフィアスなんだよね?」
「ああ。城みたいに豪華なものも何もない下町だけどな」
「ユーリが育った街かぁ・・・・・・。
これはぜひとも行かなければ!
どうしたらこんな捻くれた男に育つのか街の人に聞きに!」
「おい!」
の言った余計な一言に(それもわざとなのだが)、ユーリはぽかりとの頭を叩く。
それは当然全く痛くなかったのだが、は「ユーリ、ひどーい」と笑いながら頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「それでしたら、丁度いいですし、皆さんの家を訪問してみませんか?」
『え!?』
「お〜いいね。そうしよ〜」
エステルの爆弾発言に、皆が目を丸くする中、一人乗り気にぽんと手のひらを叩く。
それをじと目で睨みながら、ユーリはエステルに顔を向けた。
「本気かよ?」
「本気です!!」
「あっ、そう・・・・・・」
しかし、返ってくる態度は真面目そのもので、
これは言ってももう聞かないだろうな、と肩を落とし小さく溜息をつく。
それににこりと笑い、誰ももう反論がない事を確認したエステルはそれじゃあ・・・・・・と話を切り出した。
「えっと・・・・・・リタの家は先程までいましたけど、どうします?」
「そうねぇ〜。あ、でもまだ物色したい本あるしもう一回行っても・・・・・・」
「ダメ!!」
しょっぱなから目的が摩り替わっているの言葉を、リタの声が遮る。
結局がリタの家で目をつけた本は今、の懐にあったりして、
これ以上自分の本を減らされたくないのであろう、リタは今までになく必死であった。
「え〜。いいじゃない」
「ダメったらダメ!!」
「・・・・・・リタのけちぃ〜」
ぶーぶーと頬を膨らませて言った抗議は華麗に無視を決められた。
「で、結局ザーフィアスと」
「まぁ、一番近かったしね」
先程までバウルで飛んでいたのはペイオキア平原の上空。
直線距離から考えても帝都が一番近かったのだ。
若干呆れた声色のユーリの言葉に、リタにはダメだしをされてしまったしと、返す。
「それで、エステルの部屋はここ?」
「はい」
エステルに確認を取り、彼女の部屋の扉をぱたりと開ける。
しかし、期待とは裏腹に、真っ先に目に入るのは膨大な本が詰まった本棚で、
「え〜と・・・・・・普通?」
直前まで期待に膨らませていたの胸は一気にしぼんでいく。
心なしか、声にもいつもの張りが見られなかった。
それに追い討ちをかけるかのように、後ろからエステルの声が響く。
「だから言ったじゃないですか」
「いや、だって、さぁ・・・・・・お城といったらもっとこう・・・・・・」
まぁ、エステルの性格からして、さすがにきらびやかな装飾はないだろうなとは思っていたが、
せめて天蓋つきベッドぐらいはあってもいいのではないかとは思う。
しかし、目の前にあるのは通常よりも少し大きめのベッド(スプリングの良く利いたふかふかのベッドではあるのだが)で、
なんらそこらの部屋と変わらないものであった。
「ま、エステルらしくていいんじゃないか」
「うう・・・・・・」
「それにしても、よく忍び込めたよね・・・・・・」
全くフォローになっていないユーリの言葉には肩を落としたが、
カロルの漏らした言葉にすぐに自信ありげに顔をあげる。
「あら、私に掛かればちょろいもんよ」
その目はきらりと光り、その唇には艶然とした笑みが宿っていた。
城に入るとき、当然ながら門の前にも城の中にも見張りがいたのだが、
自分達を残してが先に行き、彼女が戻ってきた時には見張りは忽然と姿を消していたのだ。
それに空恐ろしいものを感じていたカロルは、怪しく微笑むを見てさらに後退りした。
「・・・・・・その方法は聞かないでおいとく・・・・・・」
「そうしといて」
「―――それで、あなたのお友達の部屋は?」
「ん?ああフレンの部屋か?」
カロルとの会話を尻目に、ジュディスがユーリに顔を向けた。
いきなり聞かれたので一瞬何のことか分からなかったが、
ユーリはすぐに思い当たり、問い返すと、それにジュディスが頷く。
「え!?本人いないのに見に行くの!?」
「せっかくここまで来たんだから見ないと損よ!」
パーティ1の常識人、カロルがやはり声をあげるが、
本人がいようがいまいが、お構いなしなは張り切って扉を開け、外へと出る。
成り行き任せなのかなんなのか、他の仲間もに続いて扉の外へ出て行ってしまうと、一人取り残された形となるカロル。
「い、いいのかなぁ・・・・・・」
そう呟く後姿は、心なしか寂しげに見えた。
再び似たような通路をいくつか通りすぎ、エステルとユーリの指し示した扉をぱたりと開ける。
そうすれば、やはり何の変哲もない家具たちが出迎えるわけで、
しかもそれらは几帳面に整えられている始末。
ベッドの横の棚には訓練用であろうか、少し長めの竹刀などが置いてあって、
「・・・・・・普通、ね」
「・・・・・・普通よね」
「そうか?こんなもんだろ」
ジュディス、、ユーリの順に感想を漏らす。
特に幼馴染の性格ぐらいはっきりと把握しているユーリはあっけらかんとしたものである。
「まぁ、フレンの性格がよく現れているというか・・・・・・」
「〜〜〜〜も〜!次!ユーリの家!」
遅れて出たカロルの呟きを遮り、が叫んだ。
よっぽどエステルとフレンの二人の部屋が期待はずれだったのだろう、
その肩はわなわなとふるえ、拳はぎゅっと固く握り締められていた。
「オレかよ!」
「何?今更行かないとか言い出すわけ?」
「、怖いよ・・・・・・」
「いや、そんなことはないけど」
「だったらさっさと案内する!!」
抗議の声をあげるユーリに、の鋭い視線が奔る。
それにカロルがおびえた声をあげたが、当のユーリは平然としたものであった。
いらただしげながバタンと扉を開け、ユーリ達を引き連れて出て行ってしまうと、
あわやバトルか!?という前方のやりとりを尻目に、後ろでは、
「は何をそんなに怒ってるんです?」
「さあ?」
という、エステルとリタの気楽な会話が繰り広げられていた。
「これまた青年らしいというか」
「そうね、らしいわね」
「ユーリの部屋、初めて見ました」
「意外ときれいにしてるじゃない」
「ワン!」
「あ、そこラピードの寝床?」
場面は変わって、帝都ザーフィアスの下町、宿屋箒星の二階、ユーリの部屋。
そしてそれぞれに感想?を漏らす仲間達。
それらを目に映し、再びがっくりと肩を落とす。
「・・・・・・まぁ、こんなものか・・・・・・」
「何を期待してたんだ一体」
恨めしげに部屋の端端を睨むにユーリが呆れた声を漏らす。
しかし、気を取り直したはそれを一切合切無視して、カロルへと尋ねる。
「それで、カロルの家はダングレストでいいんだっけ?」
「え、ボク!?
ボク家なんて持ってないよ」
「でも、ギルドの根城みたいなものはあったでしょ?」
「そりゃあるけど・・・・・ボク、クビ・・・・・・クビになったし・・・・・・」
魔狩りの剣のメンバーであったカロルが、同じくメンバーのナンという少女にクビを言い渡されたのはまだ記憶に新しい。
レイヴンの言葉は正に痛いところを突付いたわけで、カロルの顔は徐々に俯き、声は段々と小さくなる。
これはまずったかな、と皆が顔を見合わせる中、リタは腰に両手を当て、原因を作った張本人、レイヴンへと顔を向けた。
「そういうおっさんはどうなのよ」
「え、俺様!?
おっさんの家は・・・・・・ひ・み・つ」
「あんたに聞いたあたしが馬鹿だったわ」
あくまでも飄々としたレイヴンの態度に、リタは深く溜息をつく。
いや、溜息をつくまでもなくわかりきったものであった。
「なによぉ〜根無し草の風来坊の方がかっこいいじゃない」
「はいはい。勝手に言ってなさいな」
いじいじと、しゃがみ込んでいじけるレイヴンには無視を決め込んで、ユーリ達は会話を続ける。
「んで、の家っていうか部屋はユニオン本部にあるんだろ?
行かなくていいのか?」
「ん〜〜。そうねぇ・・・・・・。
ジュディス、バウルにもう一っ飛びお願いできる?」
「ええ、いいわよ」
の要望に、二つ返事で頷くジュディス。
それをみたは「んじゃ、お願い」とだけ言って宿屋の階段を下りだした。
慌ててユーリ達はを追いかける。
「おい、どこいくんだよ」
「まあまあ、つけばわかるって」
それ以外なんの説明もしないに、皆は顔を見合わせたが、
今日のは何故かいつもよりも強引で、それ以上は聞ける雰囲気ではなかった。
行けばわかるというのなら、ついていくしかない。
触らぬ神()にたたり無し、それを暗黙の了解に、ユーリ達はバウルへと乗り込んだ。
「で、ここどこなんだよ」
見渡す限りは一面の花畑。
道中、やはり何もから説明がなく、ユーリは訝しげにを振り返った。
説明を求める皆の視線を一身に浴びるが、はその場にしゃがみ、摘んだ花びらをぱぁっとその場に散らした。
「私の家」
「ここが!?」
「どう見たって花畑にしか見えないんだけど・・・・・・」
「でも、綺麗です」
さらりと言われたその言葉に、驚くカロルと呆れるリタ。それにエステルの感動した声が続く。
「でしょ?
ここはね、私の両親と、皆との思い出の場所なんだ」
あれ以来来たことは無かったのだけどね、とは続ける。
ここは死んでしまった両親と、エルシフルと、それにデュークと遊んだ、思い出の場所である。
変わらず咲き乱れる花々は、変わらぬ彼らの面影を抱き続ける。
にとってそれは悲しみの象徴であり、だからこそ今までずっと、この場所を訪れることはしなかったのだ。
「ふーん。ここがね・・・・・・」
「あ、ほら、!あっちの花のほうが綺麗ですよ!!」
「え!?ちょっとエステル待ってよ〜!」
ユーリが周囲を見渡し、エステルが奥を指差しそちらに向かって駆けて行く。
野生の花畑は通常のものより背が高く、しゃがんだのであろうエステルの姿を、完全に覆い隠してしまう。
慌てて追いかけはしたものの、そのおかげでエステルはなかなか見つからず、
きょろきょろ辺りを見回すと、突然の頭にぱさりと何かが乗せられた。
驚いて振り返れば、
「はい、差し上げます」
「花冠?」
後ろには探していたエステルが立っていて、頭の上に手をやると、そこには花を組んで作られた花冠が乗せてあった。
「あら、似合うわね」
「・・・・・・そう?
―――ありがとうエステル」
ジュディスの誉め言葉に嬉しそうに小首を傾げ、
にこりと微笑んでいるエステルに、はお礼を言う。
「どういたしましてです」
「よーし、私もユーリに作っちゃおっかな」
やはり優しげに微笑むエステルに釣られて微笑むと、
は腕をぶんぶんと振り回し、近くの花を摘みだした。
「何でオレ!?」
「ユーリ、似合いそうじゃない?女顔だし」
「確かに・・・・・・」
ユーリの抗議も虚しく、エステルがの言葉に同意するかのように頷いた。
それだけでなく、カロルやジュディスや他の仲間までもが頷く始末。
「・・・・・・あのなぁ・・・・・・」
人が何気気にしていることをずばりといってのけたや仲間達の反応に、
ユーリは肩を落とし、深く溜息をつく。
「あはは、ユーリが怒った〜!」
きゃ〜〜!!と叫びながら逃げていくを、「こら、まて!」と追いかけるユーリ。
それを笑いながら見守る仲間達。
さぁっと風が通りすぎ、いくつもの花びらを、上空へと舞い上げる。
悲しい記憶は、いつしか、必ず楽しいものへと変わる。
舞い上げられた花びらは、の頭上をくるくると舞い踊り、
優しく撫でるかのようにの白銀の髪に触れた後、空へ天へと溶けていった。
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サイドストーリー4「帰るということ」です。
時期はアスピオからミョルゾに行く前の所な感じで。
本編はちょっと暗いとこだったんですがー!
あえて明るく?ギャグちっくに?
なってるようでなってないか・・・・・・ふぅ。
最後シリアスになってしまったし。
そもそも本編の設定ちょっと無視してる所があったりね><
レイヴンと夢主が普通に喋ってるとことか・・・・・・!
故郷の話です。
今後のお話にもちょこっとだけ関わったりしまふ。
花畑は原作OPのエステルがいる花畑を思い出していただければと!
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