「おじさんたち、だぁれ?」


気付いたら、鎧を着た沢山の人々に囲まれていた。
彼等は普段、親を訪ねてくる人達とは違う、異様な雰囲気を纏っていて、
はきょとんとして首を傾げた。


「連れて行け」
「はっ」


一際豪華な銀の鎧を纏った男が、短く指示を飛ばす。
すると、周りの男達がの体を手荒に取り押さえだした。

一体何が起こっているのか、幼いには全くわからなかったが、
この男達は自分をここから連れ出そうとしている。
それだけは感じ取る事が出来たは、恐怖に全身を逆立たせる。


「やだ!!離して!!
 私はここでおとうさんたちを待ってなきゃいけないの!」


自分はここで両親を待つと約束した。
約束は守らなければならない。
は拘束を振り解こうと必死にもがいた。


「お前の両親はもうこの世にいない」
「え・・・・・・?」


再び、豪華な鎧の男が短く言葉を口に出す。
その言葉は、自分の待ち望んでいたものでは決して無く、は何度も目を瞬いた。


「そんな・・・・・・だっておとうさんたち、絶対帰ってくるって言ったもん。
 嘘言わないで!!」


信じられないと言うように、は大きく首を振った。
男はそんなの様子を見て、口元に小さく笑みを浮かべる。


「嘘ではない、現にこうしてお前の所には誰も来なかったではないか」
「、っ・・・・・・」


男の言葉がするりとの胸に浸透する。
両親が出て行ってから、数え切れない月日がたった。
彼等がここまで家を開けることは嘗て無かった。
それはこの男の言うとおり、彼等がこの世からいなくなってしまったに、他ならないのではないか。

確かにあの日、二人の様子は変だった。
けれど、の両親は約束を違えたことはなかった。
だからこそは二人を信じて待っていたというのに・・・・・・。

事実を受け止めきれず、呆然と立ち尽くしていると、男の合図での体が宙に浮かぶ。
その時、の脳裏に戦慄が走った。


「嫌っ・・・・・・!!!」


このまま彼等に連れられるわけにはいかない。
頭の中に警鐘が鳴り響く。
が無意識に放った衝撃波は、を拘束していた男達にぶち当たり、男達は声も無く倒れた。


「くっ・・・・・・。
 このまま連れて行くのは無理か・・・・・・。
 ―――仕方あるまい。機が熟したら、必ず・・・・・・」


一人、生き残った銀の鎧の男が、悔しげに言葉を漏らす。
しかし、その言葉はの耳には既に届かず、


「おとうさん、おかあさん・・・・・・」


色を失ったの瞳は宙を漂い、その声は虚しく宙に消えた。




















―何かが壊れる、がした―




















暗い部屋の中で、ぴちゃり、ぴちゃりと水の滴り落ちる音が響く。
その中心に佇むのは、闇よりもなお暗い表情をした、一人の小さな女の子。





デュークの友エルシフルと、の両親は親しい友人同士であった。
その関係で、エルシフルに連れられて、デュークも度々彼等を訪ねていた。

何故かは誰よりもデュークに懐いた。
遊んでと毎回せがむに、困り果てる自分を笑いながら見守るエルシフルとの両親。
この部屋全体を、いつもあたたかな空気が包み込んでいた。





デュークは久しぶりに訪れたその部屋の豹変ぶりに戸惑い、女の子--に声をかけるのを躊躇ったが、
足元につつ、と流れてきた水の正体に気付き、息を呑む。


「、っ!、お前何をしている」
「・・・・・・デュークお兄ちゃん・・・・・・?」


デュークの呼びかけに、がゆっくりと振り返った。
その顔色は土気を帯びていて、その細い手首からはぴちゃりと赤い色をした水が滴り落ちる。
デュークの視線の先に気付いたは、その手を胸元に引き寄せ、にこりと微笑む。


「あのね、こうしたらね、私の中の人間の血が全部流れるんじゃないかと思ったの。
 大好きなおかあさんの血だけれど、おかあさんたちを殺した人間の血なんていらない!
 人の血を全部抜き取って、私は始祖の隷長として生きるの!」
「・・・・・・・・・・・・」


を連れ去ろうとした人間達--彼等が、の両親と、
度々自分と遊んでくれていた、優しい始祖の隷長の長、エルシフルを殺したと言う事を、は後から知った。
平気で人を裏切る、そんな汚れた人間の血などいらないと、
の言い放った言葉に、じっと彼女の赤く濡れた手を見つめた後、デュークはその手をそっと掴む。


「お兄ちゃん?」


どうしたの?とは小さく首を傾げる。
デュークはそれには答えず、掴んだ彼女の手の上に自身の手を掲げて目を伏せた。
すると、の手をあたたかな光が包み込んでいく。
暫くしての手首の傷は、何事もなかったかのように綺麗さっぱり消えうせた。
それを確認して、デュークはようやくの手を離す。


「もう、こんなことはやめるんだ」
「どうして?私こんな血いらないわ」
「どうしてもだ。いいな、


言っている事が理解できないのか、が目をぱちくり瞬かせるが、
デュークは言い聞かせるように、の頭にぽんと手を置いた。


「・・・・・・お兄ちゃんがそう言うなら・・・・・・」


大好きなデュークお兄ちゃん。
めったに笑ってはくれなかったが、時折頭を撫でてくれるその手は、
優しくて、あたたかくて、は彼の手が大好きだった。
そのお兄ちゃんが言う事なら間違いないのだろう。
はそう思い、こくりと小さく頷く。


「・・・・・・・また来る」


の頭の上に置いた手で、彼女の頭を優しく撫でると、すぐにデュークはその部屋を後にした。




















「珍しいなお前さんが俺のところに来るなんてよ」


デュークはその後、ダングレストのドンを訪ねていた。
突然の訪問にも驚かず、理由を問うてくるドンに、デュークは真剣な目を向ける。


「ドン、あなたに頼みがある」
「ん?なんでぇ?」
「一人の女の子を、預かって欲しい」
「どういうことだ?」


訝しげに眉を顰めるドン。

デュークはこれまでの経緯を語って聞かせる。
特にが始祖の隷長と人との子で、騎士団に狙われているということを言い含ませて。

どこから知ったのか、騎士団はに特殊な力があることを見抜いていた。
それを狙って彼等は、先日を連れ去ろうとしたのだ。
からくものその力のお陰で、彼女は連れて行かれずにすんだようだが、
デュークはそれを知って、の元を訪れた。
そこであの事態だ。


「なるほどな、しかしお前さんはついていてあげなくていいのか?」


状況を把握したドンが大きく頷き、そう尋ねてくる。


「私は・・・・・・」


口を開きかけて、言い淀む。
あの事態になるまで、デュークがの元を訪れなかった理由。
それは自分の決意によるものに他ならない。

自分は、友を失くしたことで、人と、過去と、決別した。
の部屋には過去の想いが、面差しが、色濃く残る。
だからこそデュークは、あの家を訪れるわけには行かなかったのだ。


「まあ、いい。他ならぬ大戦の英雄の頼みだ。断るわけにはいくめぇよ」


小さく息を漏らし、自身の胸に拳を当てて、ドンはにやりと口元に笑みを浮かべた。
デュークはそれに目を伏せ、礼を述べる。


「・・・・・・助かる」
「それで、その女の子ってぇいうのは今一体どこに?」


ドンの目は回りを探るが、いるのは自分たちだけである。


「家にいるはずだ」
「そうか、じゃあこっちで準備はしておくからお前さんが連れてきてくれ」


そう言いながら、ドンは人払いを解き、部下に指示を送った。


「わかった」


デュークはそれを横目で見ながら、踵を返す。
ドン以外には誰もいなくなった部屋の扉を閉めると、


「始祖の隷長と人の子、か・・・・・・」


と言うドンの言葉だけ、後ろから漏れ聞えてきた。
























































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過去の夢主とデュークの話です。
ちょこっとあの人と、ドンも絡んでますが。
暗めなのが苦手な人には申し訳なかったかなーと。
でももう少しこんな感じで話が続きます・・・・・・!
あーいう夢主になるまではこういう過去があってこそなのですよ・・・・!

あ、ちなみに呼び方については私の趣味であるわけがないかもしれなくもないです。
見た目からしてそう呼ばせるのが妥当かなーと思ったわけですよ(力説)
でもデュークお兄ちゃん・・・・・・いいなぁ・・・・・・。
あんな兄欲しい。

お話は長くなりそうだったので2部構成です。
続きはまた次回・・・・・・!