魔物たちが消え、早速エステルとは怪我人の治療を始めた。
夜が更けても怪我人は中々減らず、引っ切り無しに運ばれてくる患者に、
二人は休みなしで治療にあたっていた。
そこに、フレンとユーリの二人がやって来る。


、エステリーゼ様」
「二人ともあまり無理すんなよ」
「うん、でもまだ大丈夫」
「平気です」
「そっか」


彼らは心配して様子を見に来てくれたのだろうが、もエステルも首を振った。
やれることがあるならできるだけやりたい、と二人ともが同じ気持ちだった。
ユーリもそれが分かっているのか、強くは言わず、
エステルの近くで明星壱号を見ていたリタに近寄っていく。


「明星壱号、壊れちまったか。悪いことしたな」
「うん・・・・・・筐体(コンテナ)に使ってた素材が脆すぎたみたい」


作られたばかりの明星壱号は筐体(コンテナ)の部分が見事に壊れてしまっていた。
あれほどの威力があるのだから、普通の素材ではもたないのも無理はない。


「すまない、僕らのために」
「大丈夫、魔核も無事だし、修理はできるわ。ただ・・・・・・」


貴重なものを壊してしまったことをフレンが謝罪するが、リタは首を振った。
筐体(コンテナ)の修理は材料さえあればできる、けれど、足りないものがまだあった。
それを言いかけて、リタは口を噤んだ。
周囲の様子を見に行っていた、カロルとジュディスが戻ってきたようだ。


「思ってた以上にけが人が多いよ!」
「二人のおかげで皆命は取り留めたけど、すぐには動かさない方がいいわね」


二人が状況を報告するが、状況は余り思わしくないようで、ユーリ達は一瞬沈黙した。
怪我人が多く、命に別状はないものの、動かすことができない人がたくさんいる。
ならば。


「しばらくここで守り抜くしかないか」
「それならここを砦にしてしまえばいいんじゃない?」
「カウフマン!?」


この場に留まり、皆を守るしかない、とユーリが言えば、
いつの間に話を聞いていたのか、カウフマンが話に加わった。
カウフマンに会うのはノードポリカに行く際、船に乗せてもらって以来だ。


「お久しぶりね、ユーリ君。
 凛々の明星の噂、聞いてるわよ」


カウフマンはにこりとユーリに微笑むと、次にフレンの方へ顔を向けた。


「手配してた傭兵では充分じゃなかったようね。
 こちらの不手際で迷惑かけたわ」


その表情は先程とうって変わって、ギルドの責任者の顔だ。
ヒピオニアの避難民の護衛に当たっていたのは騎士団だけでなく、
カウフマンの手配した傭兵も任務に当たっていたのである。
思っていた以上に魔物がおり、その数では到底足りなかった。
しかし、手配して貰えたからこそ、この程度の被害で済んだともいえた。

フレンは小さく首を振ると、同時に頭を下げた。


「いえ、ギルドも今混乱しているでしょう。ご助力感謝します」
「お詫びと言っては何だけど、ここの防衛に協力するわ」
「でもカウフマン、砦にするって一体・・・・・・」
「商人には商人なりの戦い方があるってのを見せてあげるわ」


今いる場所は建物も何もない、広々としたただの野原だ。
先程、カウフマンはここを砦にすると言っていたが、どういうことなのか。
治療が一段落して休憩していたがカウフマンを見ると、
彼女は思わせ振りなセリフでウィンクを返して去って行ってしまった。


「フレン隊長、無事でよかった!!」
「ウィチル!なにかあったのか」


カウフマンと入れ替わりに現れたのはウィチルとソディアだ。
フレンの側までやってきて、彼の無事を喜ぶが、無事を喜んでいる割には顔色が悪い。
フレンがそれを問えば、ウィチルは神妙に頷いた。


「はい、例のアスピオの側に出現した塔ですが、
 妙な術式を展開し始めました。
 紋章から推測するに、何か力を吸収しているようです」
「デューク・・・・・・」


ウィチルの言葉に、は俯いた。
やはりデュークは自分の信じる道を進むつもりのようだ。

ウィチルの話によると、術式は段階的に拡大していて、
このままいくと全世界に効力が及ぶ可能性があるとの事。


「そんな・・・・・・!」
「ウダウダしてらんねえな」
「でも、思ったとおりこのままだと精霊の力が足りないわ。
 明星壱号を修理してもそれだけじゃ駄目ね」
「ええ?あんなすごい威力なのに!?」


ユーリ達の焦りが増す一方で、リタは小さく首を振った。
リタが先程、言いかけていたのは、明星壱号の出力の話だった。
四精霊が力を貸してくれてるとはいえ、星喰みを倒すまでには至らない。
直ぐにタルカロンに行きたいのはやまやまだが、素材を集め修理してもこのままでは駄目なのだ。


「・・・・・・やっぱ魔核を精霊に変えるしかないか」
「待ってくれ、僕らにも分かるよう説明してくれないか」


四精霊だけで駄目ならば、世界中の魔核を精霊に変えるしかない。
そうユーリが呟くと、フレンがそれを聞きとがめる。
そのはず、フレンには詳細を説明してないからであるが、ユーリ達にはその時間も惜しかった。


「フレン、一刻を争う事態なの。
 何とかヨーデル殿下をここに呼べないかな?」
「ヨーデル殿下を?」
「私たちはギルドの皆に話をつけてくるわ」


皇帝であるヨーデルを呼びつけるなど不敬な事この上ないが、
帝国としてではなく、またギルドとしてでもなく、それぞれの代表が世界の事を話し合うのには、
どこの管轄でもないこの場所に、集まって貰うのが一番良い。
がそうフレンに伝えれば、真剣な目をしてフレンが頷いた。


「・・・・・・わかった、なんとかしてみるよ」
「ありがとう、フレン」
「じゃあ、まずはノードポリカか」
「ええ、ジュディス、お願い」


ここから近いのはノードポリカの方だ。
バウルに運んでもらえるようジュディスにお願いして、は立ち上がった。















一夜明け、ギルドユニオンの幹部と戦士の殿堂のナッツの快諾を得たユーリ達が戻って来ると、
野原だったその場所は見事な街になっていた。
入口から向かって左には騎士団本部が、右に進むと宿屋があり、他にもいくつか建物が立っている。
貫徹したのか、作業員や騎士達があちらこちらで疲れて眠っているのが見えた。
あの短期間によくもここまで、とユーリ達は思う。

しばらくして、各首脳陣が無事到着したので、騎士団本部に集合して対策会議を始めた。


「精霊・・・・・・星喰み・・・・・・デューク・・・・・・」
「世界中の魔核を精霊に変える・・・・・・」
「途方もない話ですね・・・・・・」


会議が始まり、事に至った経緯を一切合切説明したが、
ナッツやカウフマン、ヨーデルが各々、呻る様に呟く。
俄かには信じられない話である。
それでも、魔核を精霊に変える他に、星喰みに勝てる要素はないのだ。


「信じがたいだろうがな。これが今オレたちのぶつかってる現実だ」
「魔導器がこの世からなくなる・・・・・・結界もなくなる。大混乱になるな」
「でなきゃデュークか星喰みにやられて一巻の終わり」


生活に根付いた魔導器がなくなる事を考えると、頭が痛くなる思いで、皆が即答は出来なかった。
しかし、そうするしかないのだと、レイヴンが声に出すと、ハリーが顔を上げた。


「選択の余地はないが・・・・・・果たして受け入れられるか?」


ハリーはギルドユニオンの代表として、この場所に来ている。
果たして、ギルドの皆、ひいては世界中の人々が現実を受けられるのかどうか、
それだけが心配だった。


「誰も破滅の未来を望んでいないと思います。
 つらくても生きていれば前に進めます」
「うん。だからボクたちはやるんだ」
「・・・・・・人々の混乱を防ぎ、明日へ導くのは帝国の務め。
 今こそ人々の為の治世を敷く時なのですね」


エステル、次いでカロルの言葉に、ヨーデルがようやく大きく頷いた。
こういう時だからこそ、主導者が先導して人々を導くのだと。


「人々の生活基盤を整えて魔導器に代わる産業を確立・・・・・・燃えるわね」
「結界なしで魔物を退けるための方法も考えなければ」
「傭兵ギルドや魔狩りの剣だけじゃまかなえねぇしな」


ギルドの皆も同じ考えだった。
各々、大きく頷き合うと、早速この先の事を考え始めた。

会議が白熱して来たところで、が部屋をそっと出ていく。


・・・・・・?)


会議を途中で抜けて一体どこに行くのか。
はどこか思いつめた顔をしていて、それに気づいたユーリはその後を追った。














騎士団本部の外に出て周囲を見渡すと、
本部より左の少し向こうの木の前に、がいるのが分かった。


、どうした?」


近寄って声を掛けると、の肩がピクリと動く。
それでもは無言のままで、もう一度ユーリが声を掛けようと思った時、が口を開いた。


「・・・・・・人は、本当に魔導器を捨てられるのかしら・・・・・・」


ともすれば聞き逃しそうな小さな声で、は言う。


「今まで、始祖の隷長の皆が何度も忠告してきた。
 それでも人は、同じことを繰り返すのよ」


こちらを振り返り、ユーリを見たその瞳は、不安定に揺れていた。
人は何度も過ちを繰り返す、は始祖の隷長側としてそれを知っているから、
人を、信じきれないのだと。


「デュークがあの道を選んだのも、私には分かるの」
「でも、俺たちと行くことを選んだんだろ?」


はユーリ達と一緒に行くことを選んだ。
ユーリ達と一緒に、デュークを止めに行くと、が決心したのをユーリは知っている。
ユーリがそう言うと、は小さく頷いた。


「そうね。私はユーリ達を信じてみようと思った」
「人もだろ?」
「そうね・・・・・・人も・・・・・・」


揺れる瞳はひとえに不安の表れで。

彼女が思うほど人は弱くない、そう言うのは簡単だが、それではは納得しないだろう。
しかし、狭間で揺れながらもはこちら側を選んだ。
それが答えじゃないかとユーリは思う。

ユーリはを引き寄せると、の頭を優しくポンポンと叩いた。


「ま、なんにせよ、デュークを止めようと思った。
 今はそれでいいんじゃないか?」
「そうね・・・・・・ありがとう、ユーリ」


ああ、とユーリが頷けば、の表情は先程までと比べてだいぶ和らいでいた。