救援部隊の再編をするために残ったウィチルとソディアと別れ、
ユーリ達はバウルの飛行船に乗り込んだ。
ヒピオニアに向かうまでの間、皆が思い思いに過ごす中、
は仲間と離れたところにいたユーリに近づいて、話しかける。
「相応しくない、ね。フレンはそうは思っていないと思うけど?」
「・・・・・・聞こえていたのか」
「ええ、少しね」
小さく頷くに、ユーリはそうか、とだけ返す。
バウルへと乗り込む前、殿にいたユーリをソディアが呼び止めていた。
すでに他の仲間は船に乗り、も梯子に足をかけたところで一瞬動きを止めたが、
そのまま何事もなかったかのようにユーリを残して船に乗り込んだ。
ユーリの位置と、仲間たちとの距離はかなり離れている。
会話の内容まではさすがに聞こえない。
しかしにはその会話を聞く手段があった。
常人の耳では聞こえない音も、の耳は正確に捉える事ができた。
『ああ、あんたの言うことでひとつだけ同意できることがあるんだ。
オレは罪人。いつ斬られてもおかしくない。
そしてフレンは騎士の鏡。
今後の帝国騎士を導いていく男。その隣に罪人は相応しくない』
静かに、そうソディアに言っていたユーリに、は溜息を漏らす。
「まぁ、いいわ。
こればかりは当人同士の問題だから。
きっちりフレンを助けて、
それで納得がいくまで話し合うといいわ」
「・・・・・・」
ユーリがまっすぐを見つめた時、
船首の方からカロルの声が聞こえた。
「見えてきたよ!!!」
どうやらヒピオニア大陸の近くまで来たようだ。
船べりから身を乗り出して見れば、そう遠くない場所にヒピオニアの森の緑が見えた。
「行きましょ、ユーリ。
時間はあまり残されていないわ」
「・・・・・・ああ」
アスピオの空に浮上するタルカロンは今は不気味なほどの静けさを保っているが、
デュークがいつ何を仕掛けるか分からない。
しかし、ははやる気持ちはおくびにも出さず、ユーリと共にカロルの元へ向かった。
ヒピオニア大陸に降り立ったユーリ達は、空にまで届くほどの土煙の中、
魔物の大群相手に奮闘しているフレン達を見つけた。
フレン達は逃げ惑う人々を守るため、魔物の進行を食い止めようとしていたが、
余りの魔物の多さに徐々に押されつつあったようだ。
フレンも、シュヴァーン隊の3人も傷だらけで、正に間一髪のところである。
「生きてるか?」
「フレン!ルブラン達も大丈夫!?」
「ユーリ!もどうしてここに!?」
フレン達の疲労による一瞬の隙をついて飛びかかろうとした飛行型の魔物を蹴散らし、
ユーリとが駆け寄れば、フレンの驚く顔が迎えた。
ソディアとウィチルに頼まれたということを告げると、納得したようで。
すぐに真顔に戻ったフレンは周りを見渡した。
「そうか……。だが、こんな状況だ。
このままではいつかやられてしまう」
「切り札は我にありってね」
「なんだって?」
ユーリ達が戦力に加わったとはいえ、数の差は歴然としている。
そう簡単にやられはしないにしろ、疲労は蓄積する一方であろう。
そう話すフレンの横で、やってきたレイヴンがぴょこんと顔を出した。
ユーリは懐から明星壱号を取り出すと、フレンに振って見せる。
「こいつを、敵の真っ直中でスイッチポン。
するとボン!ってわけだ」
「敵の中心で、か。
この数だ、簡単じゃないよ」
ここに来る前、ユーリ達は魔物の大群をどう退けるか話し合っていた。
その方法が、リタ製宙の戒典(カロルによって明星壱号と名付けられた)を使って魔物だけを排除するというものだった。
それには、魔物が一番集まっているところで明星壱号を起動する必要がある。
周囲は魔物に囲まれていて、そう簡単にはいかないだろう。
けれども、ユーリには自信があった。
「簡単さ、オレとおまえがやるんだぜ?」
「ワォン!」
「フッ。分かった。やってみよう!」
ラピードも同意見なのであろう、一声高く鳴いたラピードに笑って、フレンも頷いた。
「みんな、こいつの起動はオレたちがやる。
ここは頼んだぜ!」
「あんたらだけで行く気?!無茶でしょ!」
「分かったわ」
「!?」
驚きの目を向けるリタに小さく首を振ると、はじっとユーリとフレンの顔を見た。
「ここの守りを手薄にするわけにはいかないのでしょう?
ここを守りきらなければ、たとえ魔物を退けられても意味がないもの」
「・・・・・・ああ、頼む」
達の後ろには、逃げ遅れた人々がいる。
フレン達騎士団が護衛していたので、少なくとも大きな傷を負ったものはいないようだが、
大半の人が極度の緊張状態に疲れ果ててしまったのか、地面に座り込んでしまっている。
達は魔物を倒しに来たのではない、人々を守りに来たのだ。
それにユーリとフレンの二人が組むなら、大丈夫だ。
小さく頭を下げてフレンと共に走っていったユーリ達を見送って、達は改めて辺りを見渡した。
もうもうと立ち込める土煙は相変わらずで、ユーリ達の背中もすぐに見えなくなる。
「それにしてもすごい状態ですね・・・・・・」
「本当に二人だけで行かせて良かったのかな?」
魔物の大群はどこから湧いて出てくるのか、倒しても倒してもきりがなく、
人々を中心に扇型に戦闘配置した中央にいたカロルがぼやいた言葉に、
隣にいたはにこりと笑った。
「あの二人なら大丈夫よ。
私たちは陰ながらサポートするだけ、よ!!」
は手のひらに高濃度の光のエネルギーの塊を出現させると、
それをユーリ達の進行方向に向けて放った。
魔物のど真ん中で眩しいほどの光の爆発が起こった後は、
周辺の魔物はきれいさっぱり消え失せていた。
知らないものが見れば、思わず目を疑うほどの破壊力である。
「ったく、何が陰ながらだよ、のヤツ」
「ふふ。は相変わらず頼もしいな」
まだそう遠くは離れていないため、の声はユーリにも届いている。
ユーリが小さく愚痴をこぼせば、フレンが小さく笑みをこぼした。
ユーリはそれににっと笑みを浮かべる。
「ああ、全く頼りになる仲間だよ、っと!」
ユーリ達の周囲の魔物はがほぼ一掃してくれたとはいえ、まだまだ魔物は大量にいる。
脇から飛び出してきた大型の魔物を剣の一振りで倒すと、
ユーリは引き続き魔物の群れの中心部を目指し走った。
フレンも肩を並べるかのように、ユーリの隣を走る。
「そろそろ群れの中心だ!」
「まだ戦いたりねぇけどな!」
「フッ、こんな時だというのに君は楽しそうだな」
「ヘッ、おまえこそ」
群れの中心部まであと少しといったところ、声をあげたフレンにユーリは軽口をたたいた。
フレンの言うように、この状況下であってもユーリの心は高揚としていた。
それはフレンも同じなのであろう。
楽しそうに、互いに笑い合う。
そして中心部にたどり着いた。
「さあ!ユーリ!」
「おう!くらいな!」
ユーリはフレンと顔を見合わせると、すぐに明星壱号を地面へと突き立てた。
明星壱号が地面に突き立った瞬間、空中に展開された魔法陣が光を放つ。
ユーリ達を中心に、ぶわっと勢いよく広がった強い光は、群がる魔物を次々と消し去っていった。
|