「それで、ヨーデル殿下やユニオンの皆に話をしにいくのだったわよね?」
朝になり、達は再び宿屋の一室に集まっていた。
ユーリ達が決めたこと、
それは世界中の魔導器の魔核をも精霊化させるというもの。
四精霊の力だけで上手くいけばその必要はないのだが、
万全を期すべきと話し合いで決めた事だった。
しかし、そうなれば、世界の理すらも変えてしまうことになる。
事態は一刻を争う所ではあったが、
帝国やユニオンに話だけは通した方が良いと、こちらも話し合いで決めていた。
「ああ」
「リタの準備は終わったのかしら?」
ユーリが頷くのを確認して、次にはリタに顔を向けた。
すると、リタはバッグから何か機械のようなものを取り出して、に見せる。
「ええ、これよ」
「それは?」
「精霊の力を収束する装置よ。
つまり、即席の宙の戒典ね」
「宙の戒典・・・・・・」
それ自体は何の力も感じないのだが、
は手を伸ばし、リタから即席宙の戒典を受け取った。
しげしげと長い筒状の装置を見つめた時、
いち早くラピードが何かに反応して起き上がった。
すぐさま、ゴゴゴという大きな揺れと共に地鳴りが聞こえてくる。
「な、なに!?」
「・・・・・・っ!」
驚くカロルの横をジュディスが通り抜け、もすぐに後を追った。
嫌な予感がする。
「ジュディ、!何があった?」
「ちょっと、あっちってアスピオの方じゃない!」
「な、何が始まるの!?」
とジュディスを追って外に出てきたユーリ、リタ、カロルが順に立ち止まる。
目の前で繰り広げられていた光景が予想だにしていないものだったからだ。
エフミドの丘の向こう、方角にして北東方面。
アスピオの地下から、巨大な塔のようなものが現れて、そのまま空へと浮かび上がっていく。
周辺の山々は崩落し、土煙が立ち上っていた。
リタはアスピオの出である。
アスピオが有ったであろう方角を見つめて、リタが小さく呻く。
「あれじゃ、アスピオは・・・・・・」
「あの馬鹿でかいのは何よ!?」
次いで出てきたレイヴンが指さしたのはもちろん、更に空高く昇っていく巨大な塔だ。
「タルカロン・・・・・・」
「え?」
「デュークよ、デュークがタルカロンを起動したの!
・・・・・・このままじゃ・・・・・・!」
まだ多少の時間はあると高をくくっていたが、
巨大な塔は正に古代文明の兵器、タルカロンである。
デュークの行動は思っていた以上に早かったようだ。
タルカロンをその目に映したは居てもたっても居られず、
その手に持ったままだった魔導器の筐体(コンテナ)を握り、駆けだそうとする。
そんなの肩を優しく掴み引き留めたのはユーリだった。
「落ち着け、。
あれがタルカロンってやつなのか?」
ユーリはを傍まで引き寄せると、
気持ちを落ち着かせるために、の頭を軽く二度叩く。
すると少しは落ち着いたのか、が小さく息を吐いた。
「そうよ。
タルカロンは・・・・・・」
「どいた、どいてくれ!」
と、そこで突然の地鳴りに俄かに町人で賑やかになっていた町中を横切るように、
男がコチラを目指してやって来る。
様子から察するに、この街の役人のようだ。
役人の男はユーリの目の前まで来ると、ユーリに声をかけた。
「黒くて長い髪のあんた、ちょっといいか!?」
「なんだよ」
ラゴウの一件以降、大幅な人事異動があったという話だが、
この街の役人にあまりいい印象のないユーリの返答はぶっきらぼうなものであったが、
男は構わず話を続けた。
「あんたみたいな風貌の人を見かけたら教えてほしいって騎士団の人に言われててな。
なんでも新しい騎士団長フレン殿について話したいことがあるとか」
「なんだと?」
そこまで聞いて、ぴくりとユーリの眉が吊り上がった。
ユーリの横で話を聞いていたも思わず息を呑む。
「人違いじゃなさそうか?」
「ああ。なあオレを探してたヤツって猫みたいなつり目の姉さんと、
リンゴみたいな頭したガキか?」
「あ?ああ。そうだが」
二人の反応で確信を得たのか、確認するように問う役人に頷くと、ユーリは逆に問い返した。
ユーリを知っていて、フレンについて話したいことが有る人物となると、
心当たりはソディア、ウィチルの彼ら二人しかいない。
やはり予想は的中である。
しかし、ウィチルはともかくソディアまでもがユーリを探しているとなれば、
どうにも良い話ではなさそうだ。
「・・・・・・。宿で待ってりゃいいか?」
「ああ。それでいい。呼んでくる」
すぐにソディア達を連れてくると男が走り去った後、
一人、事情を知るはそっとユーリを見上げた。
ソディアはユーリを殺そうとした。
直接的にではないにしろ、一部始終をは見ている。
しかし、ユーリの傷を治療した時、はユーリに何も聞かなかったし、
ユーリも何も言わなかった。
ユーリの表情からは何も窺い知れなかったが、
と目が合うと、ユーリは宿に戻るぞとポンとの背中を押した。
役人の男の言葉通り、ソディア達はすぐに宿屋にやってきた。
慌てた様子の彼らはレイヴンに宥められながらも、
ユーリ達に実情を一気に話して聞かせた。
「フレンが魔物の大群に、ね・・・・・・」
彼らの話によると、
星喰み出現以来、大勢の人間が大陸から避難しようとしていて、
それらを帝国は護衛していた。
しかし、ギルドの一部船団が拒否。
フレンがそれを放っておけずにいたところ、
その船団が魔物の大群に襲われて、あえなくヒピオニアに漂着したという事だ。
「もう、皆さんにお願いするしか方法はないんです」
フレン達も一緒になって戦ったというが、
余りの魔物の多さにだんだん追い詰められて、救援を求めるため二人だけが脱出させられた。
だが、助けを求めようにも、騎士団は各地に散っている。
憔悴しきった表情のウィチルが縋るようにユーリを見つめた。
は座っていたベッドから立ち上がると、窓に寄って外を見る。
遠く視線の先、浮上したタルカロンは、今は不気味なほど沈黙を保っていた。
「しかし・・・・・・時が経ちすぎた・・・・・・隊長はもう・・・・・・」
後ろから、ソディアのそんな声が聞こえた。
振り返ろうとした、その時、ピリッと空気が張り詰めた。
「相変わらず、つまんねぇ事しか言えないヤツだな」
「な、なに!」
ユーリだった。
ユーリはソディアに目を向けると、厳しい視線で見つめた。
「諦めちまったのか?
おまえ、何のために今までやってきたんだよ?」
「私は!私はあの方・・・・・・フレン隊長のために!
あの時だって・・・・・・!」
あの時とは、ザウデの一件の事だろう。
いつもの気の強そうな態度は見る影もなく、
ソディアはユーリを前に力なく項垂れていた。
「ふん。めそめそしててめぇの覚悟忘れて諦めちまうやつに、
フレンのためとか言わせねぇ」
「覚悟・・・・・・」
「リンゴ頭!ヒピオニアだったな」
「え、ええ」
ソディアとのやり取りの後、突然話しかけられウィチルは目を白黒させたが、
大陸の地図を広げると、船団が漂着した場所を指し示す。
船では時間がかかるが、バウルに頼めば一っ飛びの距離だ。
「ユーリ」
「?」
「私も行くわ」
ソディアの視線を遮るように、はずいとユーリの傍に寄った。
デュークのことはあるが、フレンのことはも見過ごすことは出来なかった。
「いいのか?」
「ええ、ヒピオニアのことは私も無関係ではいられないから」
ヒピオニアはアスタルが統制していた大陸である。
アスタルが死んで秩序が無くなったのだろう。
が頷くと、ユーリがふっと小さく笑う。
「そうか」
「僕たちも行くよ!!」
「時間ないならちゃっちゃと行って片付けようじゃないの」
「ったく付き合いいいのな」
カロルも、レイヴンも、他の仲間も皆同じ意見だった。
ユーリも最初はタルカロンに行く準備を仲間に任せ、
一人でフレンを助けに行くつもりだったが、最後は皆に折れた。
勇んで外に出ていく仲間に続いて、ユーリも宿の外へと向かう。
「頼みましたよー!
じゃあソディア、僕たちは引き続き、救援部隊の再編を!」
「あ、ああ・・・・・・。
・・・・・・ユーリ・ローウェル・・・」
扉越しに聞こえた、ソディアの最後の呟きは、
小さすぎて以外聞くものはいなかった。
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