達はウェケア大陸からバウルで飛び立った後、
話し合いの結果、カプア・ノールに立ち寄っていた。
それぞれ準備があると言う事で方々に散ったが、
は何をするでもなく、ごろんと宿屋のベッドの上で寝返りをうった。
「暇ね・・・・・・」
もう何度寝返りをうったか分からない。
こんなことなら買い物をするといったリタとエステルについていけば良かった。
そう考え始めた時、は不意にがばりと起き上がった。
ここはノール港、ならば・・・・・・。
「―――そうよ」
至った考えに、何でもっと早く思いつかなかったんだと不甲斐なくなる。
こうなれば一時でも無駄にしてはならなかった。
膳は急げとばかりに乱暴に外套を引き寄せると、は部屋の窓を開け放った。
来た時もそうであったが、街に人気は見当たらず、
かろうじて街に残った者も屋内に閉じこもっているのだろう。
それでもは用心深く辺りを見渡した後、窓枠からひらりと飛び降りた。
さやさやと葉ずれの音が鳴り、
緩やかな風が運んでくる潮の香りが鼻腔をくすぐる。
何度季節が廻ろうとも、ここはまるで変わらなかった。
「エルシフル様、お久しぶりです」
宿の部屋から一転、はエフミドの丘の頂上に立っていた。
しかし、声をかけた方向には誰もいない。
ただ、あるのは静寂のみで。
「やっぱりここからの景色が一番ですね」
風にくるくる揺れる銀の髪を遊ばせながら、は小さく微笑んだ。
この丘からは"世界"が見渡せる。
背後にあった崖から眼下を望むと、
崖下に広がる水平線はどこまでも青く、きらきらと輝く水面は光を反射してとても美しかった。
ここは誰よりも世界を愛した友のために、デュークが用意した場所。
しばらくの間、はその景色に魅了されたかのようにじっとして動かなかった。
かさりと、手に持った花の包みが音を立てる。
はっとしたは地面にしゃがみこんだ。
足元には草木に隠れるように小さな白い石があって、
けれどよくよく見ればそれが手入れの行き届いたものだと分かる。
手早く包みを開き花を供えると、はじっとその墓石を見つめた。
一瞬揺れた瞳を瞬きで覆い隠して、再び彼に声をかける。
「エルシフル様、私は―――」
長い祈りを捧げ終えて、ようやくは立ち上がる。
ずいぶん時間が経ってしまったのか、木々から伸びる影が少し長くなっていた。
書置きは残しておいたが、遅くなれば仲間たちが心配するであろう。
エルシフルに別れを告げようとした時、奥の木立ががさっと揺れて音を立てた。
「誰!?」
「あ、良かった。ようやく追いついたわー」
身構えたの目に映ったのは、
こちらを見つけてへらりと笑うレイヴンだった。
「レイヴン!?どうしてここに・・・・・・」
書置きには行き先までは書いてなかったはず。
目を瞬かせて見れば、レイヴンが紫の羽織の先をひらひらとはためかせる。
「ごめんね。おっさん、後つけてきちゃった」
それはあくまでも軽い言い方で、そのままレイヴンはの足元に目を向けた。
「それがエルシフルのお墓?」
「・・・・・・ええ、そうよ」
一体何時から居たのだろうか。
レイヴンの突然の登場には驚くばかりではあったが、問われ、小さく頷く。
レイヴンの目をしかと見つめるの瞳は深い色を湛えていた。
「決めたのね」
「うん」
「そっか」
そんな短いやりとりでも充分だった。
墓石の前に進んで黙祷すると、レイヴンはを振り返る。
「そろそろ皆の所に帰ろっか、ちゃん」
にへらと再び笑ったレイヴンにそうねと頷きかけて、は思わず噴出した。
「あっは、どうしたのその格好・・・・・・!」
今まで気がつかなかったが、
もともとぼさぼさだった髪の毛には木の枝や葉っぱがこんがらがり、
着古した羽織はあちこちを引っ掛けたのか、見るも無残な状態であった。
「いやいや。
おっさん、ちゃんみたいに崖をかるーくなんて登れないんだからさ。
全く、もっとおっさんを労わってほしいわー」
そういえば、と思う。
墓参りをしようと思ったはいいが、未だ街道は塞がってしまっていて、
道なき道をは登ってきたのであった。
それをレイヴンはつけてきたというのだから、苦労もひとしおだろう。
「そうね、ごめんなさい。
お詫びに帰りは下まで抱えていってあげよっか?」
「ソレどんな拷問よ、ちゃん・・・・・・」
「あはっあはははっ!」
レイヴンがあまりにも情けなさそうな顔をするものだから、
再びこみ上げた笑いに、は眦をぐいっとぬぐった。
すると、ぽんぽんと頭をなでられる。
「レイヴン?」
「ちゃんはそのままでいいのよ」
「うん・・・・・・ありがとう、レイヴン」
多くを語らずとも、伝わるその意味。
は暖かなぬくもりに手を添えると、にっこりと微笑を浮かべた。
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