は魅入っていた。
久しぶりに見る、ユーリ達の戦闘に。


「行くよ!!」


特に成長が窺えたのはカロルだ。
以前の彼なら真っ先に敵の懐に飛び込んでいくなど、ありはしなかった。
どこかおどおどしていて、敵を前に腰が引けていたのがカロルの印象ではあったが、
今は違った。
氷刃海の一件が彼を成長させたのだろう。
小さな体を生かして、誰よりも深く、クロームめがけて切り込んでいた。


「はぁああああ!!」


地を蹴り宙を跳び、敵をかく乱しているのはジュディスだ。
元々個人行動の多い彼女なので、戦闘能力にかけては是非もない。
けれどそれゆえ危うさもあった。
個人行動は、和を乱す原因ともなる。
だがそれすらも心配ないほどの連係プレーを今、彼女は見せていた。


「―――前途を阻む、障害を貫け!ロックブレイク!!」


地面がぐらぐらと揺れた。
リタの地の術が炸裂する。
彼女の術の威力は当初のものよりも、格段に上がっていた。
天才といえども、リタは努力を惜しまなかった。
旅をする中で出会った様々な魔術書を寝る間を惜しまず読みふけり、
時にはと夜通し術について話し合ったこともあった。
知識と努力によって裏づけされた実力は最早言うまでもなかった。


「今、治療します!!」


仲間を治癒の光が包み込む。
エステル、満月の子。
人一倍、悩んだであろう。
しかし、悩みつつも彼女は前へ進んだ。
そして光明を見出した。
諦めないと言うことを、彼女は教えてくれた。


「ジュディスちゃんそこよ!!」


レイヴン。
彼は元々器用な人だった。
弓を変形させて敵の懐にもぐりこんだかと思えば、
遠くから仲間の援護をする。
視野が広いのだろう、的確に指示をとばす姿は、かつての隊長主席を窺わせたが、
何よりそこには信頼があった。
在れる場所を彼は見つけたのだ。


「皆、後もう少しだ!!」


はほうっと息を漏らす。
ユーリ、彼にはいつも驚かされっぱなしだった。
彼の剣には迷いがないのだ。
ただ、自分の信じた道を貫き通す。
いや、彼にも迷いはあるのだ。
しかし、それをおくびにも出さない。
それがもどかしくもあった。


「くっ・・・!!」


仲間の援護により、クロームが怯んだ。
狙いたがわず、ユーリの剣が凪ぐ。
クロームの体がぐらりと傾ぎ、どうっと地面に倒れた。


「・・・・・・見事です・・・・・・あなたたちなら・・・・・・救えるかも・・・しれない・・・・・・」
「クローム・・・・・・」
「ワン!!!」


クロームの体から光が発せられ、姿が薄くなっていく。
小さく彼女の名を呟いたの元に、ラピードが駆け寄ってきた。
その体を受け止める。


「ふふ、ラピードも忘れてないよ」


ユーリの相棒。
彼はまさに縁の下の力持ちだった。
時に道を外しがちな仲間を叱咤激励する。
それは以外言葉が通じないとは思えないほど。
烈火のごとく走り、敵の裏をかく、その動きは目にも止まらなかった。


「ごめんねちゃん、痛かったでしょ」


いまや光は目も開けられないほどになっていた。
ラピードから身体を離すと、近寄ってきたレイヴンにはふるふると首を振った。
唯、じっとクロームの方を凝視する。

聖核になったクロームにリタとエステルが駆け寄った。
ひときわ強い光が発せられたかと思うと、次に宙に浮かんでいたのは小さな生物だった。

小さな触覚と羽根を持ち、ふわりふわりと浮かぶ姿は元の姿とは似ても似つかなかったが、
うちに秘めし力はひしと感じられた。


「それが・・・・・・精霊・・・・・・」


は耳の横に手を沿え、神経を研ぎ澄ませた。
研ぎ澄まされた神経は的確にエアルの流れを捉える。


「やっぱり・・・・・・エアルが安定してる・・・・・・」


穏やかな流れが、世界を満たしていた。
これは確実に4大元素の精霊が揃ったおかげなのだろう。
だが、まだ足りなかった。

意識をこちら側へと戻すと、はちらりと横目でレイヴンを窺った。
何気なさを装ってはいるが、が目覚めた時からレイヴンはの動きを警戒していた。
クロームとの激しい戦闘で体の至る所に傷を負って、息もまだ荒々しいというのにだ。
それほどデュークを追って欲しくないのだろう。
小さく、術を唱える。


「大丈夫よ、デュークの所へ行ったりはしないわ」


レイヴンが警戒を露わにするのが分かったが、それを制しては彼の腕に手を翳した。
手の平に、ぽうっと暖かい光が宿る。
唱えていたのは転移の術ではなく、治癒の術だ。

傷を優しく撫でるように手を動かすと、
治癒の光はぱっくりと裂けていたレイヴンの腕の傷を、みるみるうちに小さくしていった。


「で、どうするんだ?」
はボクたちと行くんだよね?」


エステルと協力してあらかた癒し終わった頃、
ユーリと期待の籠もった目をしたカロルがこちらを見た。
他の皆もこちらを注視しているのが分かる。
は大きく首を振った。


「いいえ、私は誰とも一緒に行けないわ」
「それはどうしてかしら?」
「デュークは・・・・・・人類の命を犠牲にしようとしている」


はっと、皆が息を呑んだ。
ユーリ達もデュークが何かをしようとしている事は薄々感じていたのだろうが、
そこまでの規模だとは思ってもいなかったのだろう。


「ちょっと、どういうことか説明しなさい!」
「タルカロンのエネルギーに人の命を使おうとしているのよ」
「タルカロン・・・・・・?」
「古代文明の兵器よ。
 タルカロンならば星喰みを倒せる可能性があるかもしれない、とデュークは考えているの」
「でもそうしたら彼も・・・・・・」


エステルの小さな呟き。
はリタとカロル、順に彼らの問いに答えていたが、
それを耳にした瞬間、その表情を強張らせた。
しかしそれも一瞬のことで、すぐに薄く笑みを浮かべる。


「ええ。人の世界を捨てたとはいえ、デュークも人間。
 例外ではないわ。
 彼もまた、命を捧げるつもりなのよ」
「覚悟の上なのか」
「・・・・・・全くあの御仁はまた・・・・・・」


じっとこちらを見つめるユーリ、呆れたように溜息を漏らすレイヴン、
双方に向かってはこくりと頷く。

落ち着いているように見えるが、デュークは案外突っ走りやすいのだ。
言わば頑固一徹。
彼が覚悟を決めたら、それを揺らがすことはにもできない。
けれど。


「私は・・・・・・デュークと話をしなければならない。
 彼が考えを変えてくれるまで。
 希望を・・・・・・未来を捨ててはならないということを。
 ―――ユーリ達が教えてくれたのよ」


は小さく笑みを浮かべた。

最初はデュークが望んでいることならば、それでもいいと思っていた。
はただ、彼の傍にいるだけ。
最後までずっと一緒に。

しかしユーリ達とクロームの戦いを見ていた中で、は感じたのだ。
敵わぬと思った相手に果敢に挑んでいく姿に。
未来への希望を。
諦めない強い意志を。


「だったら別に一緒に行ってもいいんじゃねーの?」
「え・・・・・・?」


突然のユーリの言葉に、はぱちくりと目を瞬いた。
ユーリはにっと口角を上げる。


「つまり目的は同じなんだろ?
 駄目な理由はねえよな」
「確かにね。タルカロンが起動したらあたしたちもただでは済まされないわ」
「でも・・・・・・」


は返事を渋った。
ユーリとリタの言っていることは決して間違いではない。
けれどデュークを止めるのはでなければいけないのだ。
ずっと傍にいると誓った、でなければ。


「固いこと言いっこなしよ、ちゃん。
 おっさん、青年と一緒にちゃんがいないとわかった時、
 涙がちょちょきれそうだったわ」
「とても心配したわ」
「そうですよ!!私たちがどれだけ心配したか!!」
「ぼく、がいない間、寂しくてしかたなかったよ」
「ま、まぁあたしも、寂しかったのは認めてあげなくもないけど」
「ワン!!」


レイヴンの言葉が皮切りだった。
口々に言いたいことを言って、皆がに詰め寄ってくる。


「だとよ」


にっと笑みを浮かべたユーリはしたり顔だ。


「・・・・・・全く」
「なんか言ったか?」


溜息を漏らすように小さく呟いた言葉が、ユーリに聞きとがめられる。

全く皆、分かっててやっているのではないだろうか。
溜息も吐きたくなるというもの。
ここまでされてが断れる筈がなかった。


「・・・・・・わかったわ。
 ユーリ、また仲間に入れてもらえる?」
「ああ」
「けど」
「?」


クエスチョンマークを浮かべるユーリを、はじっと3拍、その瞳で見つめた。
あの人に似て、非なる存在。
環境が違っていれば、と思わずにはいられなかった。


「デュークを止めるのは、私がやる」
「・・・・・・わかった」


命にも等しい愛しい人。
もう、簡単に手を離したりはしまい。