「いた、ユーリだわ」
「ぐっすり眠っちゃって、いい気なもんね」


クオイの森の中央、少し開けた広場になっている場所に、
ユーリが横たわって寝ているのを発見する。
がそちらを指差すと、リタが呆れたような声を漏らした。


「そうね・・・・・・カロル、やっちゃいなさい♪」
「うん!」


きらりと目を光らせて、がカロルに満面の笑みを送れば、
カロルもやはり笑顔を浮かべて大きく頷く。
その手には当然のごとく握られた、大きなハンマーがある。
ユーリを起こさないように、そろりそろりと近づき、再び頷きあうと、
ラピードが素知らぬフリをして地面に寝そべった。
それを合図に、カロルのハンマーがユーリの頭上へと振りかざされる。


「・・・・・・ユーリの」
「・・・・・・?」
「バカーーーーッ!!」
「おわ!?」


カロルの叫び声と共に下ろされた怒りの鉄槌は、
直前で異変に気付いたユーリによってすれすれで避けられてしまった。
行儀が悪いながらも舌打ちしかけたに、
起き上がったユーリが驚いた顔を見せる。


「なっ?」


しかし、カロルの攻撃は未だ続いているわけで。


「え、あ?カロル!?」
「バカ!アホ!」
「ちょ、まて、おい!」
「トーヘンボク!スットコドッコイ!!」
「スットコって・・・・・・待てって!」


わなわなと肩を震わせながらカロルがハンマーを何度も振り下ろすのを、
ユーリは慌ててかわし、飛び退った。


「言い訳はあとで聞いたげる」


カロルの攻撃からはようやく抜け出せはしたが、
まるで訳が分からないと顔にかいてあるユーリを尻目に、
詠唱を始めるリタの周囲に、赤い火の玉が浮き上がる。
普段その術の対象になる魔物など今この場にはおらず、火の玉の行き先はもちろんユーリだ。


「へ!?」


それに気付いたユーリが驚いて目を見開いた時、リタの術が完成した。


「一回、死んどけ!!」
「ごわ!!」


すかさず放たれた炎の玉がユーリに炸裂する。
当然、全くの身構え無しにそれを受けたユーリは見事に吹き飛ばされることとなった。
吹き飛ばされ、落ちた先、そこには胡坐をかいて座り込んだレイヴンがいて。


「はぁい。生きてる?」
「・・・・・・多分」


かけられた言葉に、ユーリは地面に突っ伏しながらも小さく呟く。
むしろ起き上がる気力もないというか。
しばらくそのまま突っ伏していると、近づく気配が二つ。
それに気付いて顔を上げれば、
ジュディスとが空恐ろしい程の笑顔を浮かべてこちらを見下ろしていた。


「目も覚めたみたいね。よかったわ」


ぎこちない笑みを返し、思わずそんな彼女達から目をそらすと、
聞く分には優しい、ジュディスの声が掛かる。
指の骨をポキポキとならした音のオプション付きともなれば、
あくまでも優しい、とつけるべきであろうが。


「んじゃ、ユーリ、後で治癒術かけてあげるから歯くいしばってね♪」
「へ!?」


それに追い討ちをかけるように、の非情な言葉が続き、
術式がの周囲にふわりと浮かびあがった。
の口元は清清しいほどににこやかで、けれどもその目はまるで笑っておらず、
問答無用!と放たれた術は、術式の大きさにさあっと顔を青くしたユーリ目掛けて飛んでいった。




















「・・・・・・」
「やだなぁ、本気で当てるわけないじゃない」


焦げた地面を無言で見つめるユーリに、のへらりとした笑顔が向けられる。
確かに発動した術の矛先はユーリより遥か後方の地面で、自分にはかすりもしなかった。
しかし、焦げた地面の面積が異様に広く、またそれが未だにぷすぷすと黒煙を上げていたりすれば、
渋い顔の一つもしたくなるというものである。


「どうだかな・・・・・・」


なんら何の問題もないでしょと笑みを浮かべるに溜息をついた後、
ユーリは呆れた顔を彼女に向ける。


「それにお前、こんな所でエアルの無駄遣いするなよな。
 まだまだ本調子じゃないんだろ?」
「あら、こうでもしないとユーリわかんないでしょ?」


だからついつい本気出しちゃった、とは悪びれず言ってのける。


「やっぱり本気かよ・・・・・・」


自分に術を向けたということより、未だ本調子じゃないくせにが術を使ったということに、
ユーリは深く溜息を漏らした。


「ったくラピード、てめえ見張りはどうしたんだよ」
「この子が私たちを案内してくれたのよ。
 賢い子ね」


素知らぬ顔をして寝そべっていたラピードを、半ば八つ当たり的に睨めば、
ジュディスがラピードの傍にしゃがみ込み、その背中を優しく撫でた。
どうやらこの事態は全てラピードの仕業だったらしい。

再びラピードを恨めしげに睨むと、呆れたようなリタの声が掛かる。


「そこ行くと、どっかの馬鹿は大違い」
「おまえら分かってんのか?
 これから、なにしようとしてっか本当に分かってんのかよ?」
「わかってないのはユーリだよ!」


ユーリが柄にも無く声を張り上げて返すと、すぐにカロルの怒る声が返ってくる。
はっとしてカロルを見れば、固く握られたその拳はワナワナと震えていて、
その顔は泣きそうに歪められていた。


「ユーリだけで・・・・・・・
 ユーリだけでなんて駄目だよ!」
「あんたひとりでなにするってのよ。
 あたしら差し置いて何ができるっていうのよ!」
「カロル、リタ・・・・・・」
「ま、ようするに、だ」


カロルやリタの言葉に、小さくユーリが顔を俯かせると、飄々とした声と共にポンと肩が叩かれる。


「ひとりで格好つけんなってことよ」
「もう少し、信じてみてもいいんじゃないかしら?」


顔を上げてそちらを見れば片目を瞑って笑みを浮かべたレイヴンと、
胸に手を当てて小首を傾げたジュディスがいて。


「そうよ。年上の言うことは聞くものよ」


ついでかけられたの言葉に、ユーリは一瞬目を瞬いた。


「・・・・・・誰が誰の年上だって?」
「私が、ユーリの、年上」
「・・・・・・は?」
「何よ、そこまで驚くこと?」


思わずポカンと口を開けて間抜けな声をあげたユーリに、がすねた顔を向けた。
そんな表情はますますの顔立ちの幼さを際立たせ、
彼女が言うように、自分よりも年上のものとは到底思えるものではなかった。


「えぇ!?だって、、どう見ても10代・・・・・・」
「あー!!!あそこに見えるのは微熱に効く薬草!!
 ―――カロル、待ってて、今取ってくるから!」
「え?おい!!?」


やはりユーリと同じことを思ったのか、カロルが驚きの声をあげると、
それを遮るように叫び、が向こうへと駆けて行く。
制止の声も聞かず走っていくを、ラピードが追いかけるように向かうのを見届けると、
横で小さく溜息を漏らす声が聞こえた。


「まいったねぇ・・・・・・」
「レイヴン?」
ちゃんが覚悟決めたならしょうがないわね」
「何のことかしら?」


レイヴンが何でそんなに困った顔をしているのか、
皆目検討もつかないユーリ達は皆一様に首を傾げる。
それに再び深く溜息を漏らすと、レイヴンは決心したかのように顔を上げ、喋り始めた。


ちゃんの年齢、知りたくない?」
「そりゃ知りたいかと聞かれれば知りたいと言うしかないな」


今まで何回か年齢の話になりはしたが、毎回ことごとくのごまかしが入り、未だ知らずじまいだ。
人の年齢など知らなくてもさしたる支障はないのでそのままにしてはいたが、
時たま見せるの表情や言葉は、見た目のそれより遥かに上な気がして、多少気にはなっていたのだ。
レイヴンの言葉にユーリが素直に頷くと、やっぱりね、とレイヴンは僅かに笑みを浮かべた。


「・・・・・・ちゃん、ああ見えて25歳なのよ」
「「は!?」」


素っ頓狂な声が端々からあがり、衝撃の事実に場が凍りついた。
予想通りの皆の反応に、レイヴンは苦笑を返す。


「まぁ、みえないわよねぇ」
「え、だって、ほら、ねぇ?」


未だ頭の整理が追いついてないのだろう、わたわたと手足を上下させ、
カロルがこちらを見上げてくる。
気持ちは分からなくもない。
あれで20台後半は詐欺に近い。
自分も事情を知らなければ普通に17,8ぐらいに見ていたであろう。
と出会った当初の事を思い出し、再びレイヴンは苦笑いを浮かべた。


「あながち間違ってはいないんだけどね」
「どういうことだ?」
ちゃんの肉体年齢は10代ってことよ」
「・・・・・・それは始祖の隷長であることと関係しているのかしら?」


ユーリとジュディスが訝しげな顔を向けると、レイヴンは小さく頷いた。


「そういうこと。素性については俺様も知らなかったんだけどねぇ・・・・・・。
 見た目10歳ぐらいの子供が、
 いきなり15歳ぐらいに成長したのにはさすがのおっさんも吃驚したわ」


そう、今から5年ほど前、丁度の20歳の誕生日に当たる日に、
の体はいきなり成長を遂げたのだ。
それでも成人したというにはまるで足りない、15歳ぐらいの外見ではあったが、
ドンから多少の事情は聞いていたレイヴンでさえそうであるなら、他の人の動揺は幾許か。
彼女を10歳の可愛い女の子とずっと思っていた回りの反応は、推してはかるべしである。
要するに、始祖の隷長の子供であるの体の成長は人間と違って特殊であり、
外見と年齢が伴うことはないのである。
しかして、それは普通の人間にとって奇異なものに映るのは間違いなく、
結束の固い天を射る矢のメンバーはともかく、
ダングレストの連中の、に向けられる目は、
一時期の人間不信が復活するほど、それは酷いものであった。
今でこそドンの一喝によりそれは緩和されたが、
が年齢をひた隠しにするのはその事に起因していたのだ。


が・・・・・・」


包み隠さずレイヴンがそれを全て話し終えると、ユーリが小さく唸るように言葉を漏らした。


「ま、そういうことだからあんまり年齢については触れないであげてちょーだいな」
「良かった・・・・・・レイヴンロリコンじゃなかったんだね」


ひらひらと手のひらを振り、話を締めくくると、
返ってきたのはその場の空気をひっくり返すようなカロルの発言であった。


「ちょっ!?少年どういう目でおっさんのこと見てたのよ!?
 それにそれがちゃんとどう関係があるの!?」
「何、あんた気付いてなかったの?」
「へ?」
「レイヴン、といるときいつも優しい顔してるじゃん」
「そうね、見ているこっちが恥ずかしくなるほどよね」


聞き捨てならないカロルの言葉に、目を引ん剥き抗議すれば、
返ってくるのは呆れかえった仲間達の声だった。

自分では抑えられていると思っていたへの想いが、
仲間達にはばればれだと知って、レイヴンは半ば絶句する。


「あ、待て、!足元ちゃんと見ろ!」


そんな中、ユーリの慌てたような声が木々の合間に響き渡った。
そちらを見れば、嬉しそうに片手に薬草を持ち、がこちらに走ってくる。
しかし、その足元には大きく張った樹の根があるわけで、
注意も虚しく、見事にそれに引っかかって転んだに、ユーリが慌てて駆け寄っていった。


「ユーリも、なんだけどね・・・・・・」


やはり知らぬは本人ばかりで、
レイヴン同様、に接するユーリの態度をいつも見ているカロルは、
を抱き起こすユーリを見て小さく、そう一言呟いた。