「あれ、ユーリ、どうしたの?」
がレイヴンと一緒に制御室から出ると、ユーリだけがその場に残り、壁に寄りかかってこちらを見つめていた。
「皆は先に行かせた。オレはこれ、おまえに渡すの忘れてたからな」
そう言って差しだしたユーリの手の平の上には神殿でアレクセイが投げ捨てたはずののイヤリングが乗っていた。
もう手元に戻ることはないと思っていたが、ユーリが拾っておいてくれていたとは・・・・・・。
は驚きに目を見開いた後、ユーリに近寄り、イヤリングを受け取った。
「・・・・・・拾っておいてくれたのね。ありがと、ユーリ。
でも、これなら後でもよかったのに」
「いや、オレの用はそれだけじゃないしな」
「え・・・・・・?」
の言葉に首を振った後、ユーリが厳しい目で自分を見つめてくるので、は困惑して首を傾げた。
「、おまえイエガーに『エステルの代わりに私を連れて行きなさい』そう言ったよな?」
「あれは・・・・・・」
「『あの子は私たちにとって、大切な仲間なの』とも言った」
「・・・・・・」
確かに自分はあの時そう言った。
しかし、アレクセイもエステルもこのヘラクレスにはいなかった。
結局自分はエステルを救う事が出来なかったのだ。
ユーリはそれを責めているのだろうか。
は申し訳なさそうに目を伏せたが、続くユーリの、
「、おまえもオレたちの大切な仲間だ。
エステルもおまえを犠牲にしてまで助かってどうなる?
あいつは喜びはしないだろうよ。
むしろそうさせた自分を責めるかもしれない」
と言う言葉で、自分の間違いを悟った。
ユーリはエステルを救う事が出来なかった自分を責めているのではない。
が自身を犠牲にする言葉を吐いたことを責めているのだ。
「ユーリ・・・・・・。
・・・・・・でも、でも私、ユーリたちを裏切ったのよ?
それは許される事ではないわ」
そう、自分があの場所でユーリ達の足止めをしなければ、彼らはエステルを救う事が出来たかもしれない。
直接的ではないにしろ、はユーリ達の大切な仲間を奪ったのだ。
その罪を償うためなら、自分の命など少しも惜しくはない。
がじっとユーリを見つめると、ユーリは諭すようにふっと表情を和らげる。
「あれはおっさんの命を握られていて仕方がなかったんだろ?」
「でも・・・・・・」
「それにケジメならレイヴンがすでにつけた」
「レイヴンが・・・・・・?」
いつのまにそんなことになっていたのか。
が驚いてレイヴンを振り返ると、今まで静かにこちらを見つめていたレイヴンが素頓狂な声をあげる。
「へ・・・・・・?あれ二人分だったの?
青年、それならそうと早く言ってちょうだいよ!」
どうりでやたら痛いと思ったわ、とレイヴンは続ける。
話の内容からすると、レイヴンはユーリ達にケジメとして殴られたようだった。
本来なら、も殴られなければいけないのに、彼が自分の分も余計に殴られてしまったらしい。
それに気付いたは泣きそうな顔でレイヴンを見上げた。
「レイヴン・・・・・・」
「そんな悲しそうな顔しないでよ、ちゃん。
あれはおっさんが全面的に悪かったのよ。
それに、ちゃんは俺様が守るって言ったでしょ。
ちゃんのためなら青年の拳なんておっさん痛くも痒くもないわ」
全部俺に任せとけと言うがごとくに、レイヴンが自身の胸を叩いて見せたのと、聞き捨てならないその台詞に、ユーリは半眼でレイヴンを睨んだ。
「ふーん・・・・・・。
それならおっさん、もう一度殴られるか?
のためなら本望だろ?」
「い、いや、もうそれは勘弁・・・・・・」
さっきまでの勢いはどこへやら、及び腰になってユーリから後退りするレイヴンに、はくすりと笑った。
ユーリはそれに目を向け、の頭にポンと手を置く。
「まあ、そういうことだ。
いいか、、もう二度と自分を犠牲にする言葉なんて言うんじゃないぞ」
「ユーリ・・・・・・」
「いいな」
「・・・・・・わかったわ」
念を押すように重ねて言ったユーリの言葉に、が遂に折れた。
ユーリは彼女の頭の上に置いてあった手でくしゃくしゃとの頭を撫でると、それでよし、と笑みを浮かべた。
くしゃくしゃになった頭に口を尖らせながら、がユーリから受け取ったイヤリングを耳につけるのを見て、そういえば、とユーリは疑問を口にする。
「それ、一体何なんだ?」
「今はそのことは後よ。
エステルを助け出せたらちゃんと説明するわ」
もちろん、私自身のこともね、とは続ける。
「・・・・・・わかった」
色々と知りたいことはあったが、確かに今は急いだ方がいい。
ユーリは静かに頷いた。
動力室の前の警備を倒し、部屋に入ると、部屋の中には圧倒されるほど、真っ赤になったエアルが溢れかえっていた。
「これは・・・・・・!」
「魔導器の暴走?!」
「ザギが制御板、ぶっ壊したせいでやばいことになったみたいだな」
「おいおい!どうすんのよ、これ!」
どうやら、制御板が壊れた影響で、動力である魔導器が暴走したようだった。
以前にもヘリオードで魔導器の暴走をみたが、あの時より規模が違いすぎる。
しかもあの時はエステルとリタが揃って初めて暴走を止める事が出来た。
今、エステルはいない。
どうするのか、とユーリがリタに声をかけようとすると、その隣でジュディスが槍を構えるのが見えた。
「まって!」
ユーリ同様にそれに気付いたリタは制止の言葉をかける。
「待てる状況じゃないと思うけれど?」
「わかってる!あれ見て!!」
そう言って上を指差すリタ。
その先には上空に向かって伸びる光の柱。
「わ!あれ何?」
「エアルがものすごい勢いで送られてる。
このデカ物でこんなとんでもパワーが向かう先なんて一つよ」
「主砲、ね・・・・・・」
ただでさえ、このヘラクレスはエアルを盛大に乱しまくっているのに、この主砲においてはその比ではない。
そして、魔導器によるエアルの乱れを音によって感じるにとってはそれは堪ったものではなく、以前ダングレストで感じたものよりもはるかに酷い頭痛には頭を強く抑えた。
「こんな状態でこの魔導器壊しちゃったら
ヘラクレスの動きは止まっても主砲ぶっ放しちゃって目の前のザーフィアスは吹っ飛んじゃうわ!」
「え!ど、どうしよう?!」
「何にせよ、このエアルの暴走を止めないと」
「宙の戒典か」
皆の視線がユーリの持っていた剣に集まる。
「そっか!デュークはそれでエアルの暴走を鎮めてたもんね」
「できるの?」
「やるしかねぇんだ。やってみるさ」
確かに今できる手段はこの剣でエアルを鎮めることしかなさそうだ。
ユーリは宙の戒典を持ち直し、上を見上げた。
「あれは・・・・・・聖核・・・・・・」
「制御できなくなった魔導器と干渉し合って暴走してるんだわ」
ユーリ達が光の袂に走ると、下からでは見えなかったが、光の柱の中央に聖核が浮かんでるのが見えた。
聖核も魔導器同様に暴走して、赤い光を発していた。
異常なほどのエアルの氾濫はこの聖核のせいのようだ。
「壊すの・・・・・・?
始祖の隷長の魂みたいなものなんでしょ?」
「しゃあないわな」
カロルの言葉に肩をすくめるレイヴン。
「このままヘラクレスがつっこめばザーフィアスはぺしゃんこ。
主砲も暴発するかもしれない」
「だな。迷ってられねぇ!」
ユーリはそう言って、剣を掲げかけたが、
「ユーリ、待って!」
というの制止の声に訝しげに彼女を振り返った。
「私に、やらせて」
「・・・・・・?」
はどこか思いつめた表情をしていた。
それに顔色が再び悪くなっている。そんな状態で大丈夫なのか、とユーリはの顔を覗いたが、大丈夫、と彼女は首を振る。
「宙の戒典とこのイヤリングは元は対になっていた物なの。
だからこの二つが揃えばより安定した力が出せる。
それに、聖核は始祖の隷長の魂。
・・・・・・だからせめて、私の手で眠らせてあげたいの」
「・・・・・・わかった」
立っているのもやっとという状態なのに、の決意は固く、覆りそうになかった。
ユーリは持っていた宙の戒典をに手渡すと、聖核の正面の場所を譲り渡した。
はユーリにお礼を言うと、目を伏せて剣を高く掲げた。
すると、の周りを術式が取り囲み、剣が光り輝き始めた。
やがてそれは光の奔流となっての髪を巻き上げる。
露になった彼女の耳元ではイヤリングが光り輝き、その光は剣の光と合流して目の前の聖核に注がれていき室内を真白に染めた。
「え・・・・・・?」
「収まった?」
徐々に眩い光が収まっていくので、目を凝らして周りを見ると、溢れていたエアル、聖核共に綺麗さっぱり消え去っていた。
はそれを確認すると、剣を下ろしたが、未だ頭痛が収まっていないことに気付き、魔導器の方を凝視した。
「主砲はどうなった?!」
を心配げに見ていたユーリは彼女の行動が意図するものにすぐに気付き、リタを見やった。
リタはすぐに魔導器に駆け寄って、制御板を操作し始めたが、どうやっても主砲は止まりそうにない。
「ダメ!このままじゃ発射される!」
「そんな!動力はもう止まってるのに!」
カロルが悲鳴をあげると、突然、ヘラクレスの船体がぐらりと傾き始めた。
驚いて外が見える窓に駆け寄ると、フレン率いる騎士団の船団がヘラクレスに必死に体当たりして、主砲の軌道を変えようとしていた。
しかし、ヘラクレス自体が船体を水平に保とうとするパワーも強く、なかなか思うようにいかないようだった。
その間にも主砲のエネルギーは先端に溜まっていく。
ユーリ達はただ固唾を飲み込んでそれを見守るしか出来なかった。
再び船団の突撃がヘラクレスの船体を傾かせると、発動した主砲のエネルギーはザーフィアスを大きく外れた遠くの丘に向かって飛んで行き、その地面を大きく削り取った。
どうやら被害は最小限に留めることが出来たようだ。
ユーリ達は皆ほっと安堵の息を漏らした。
カロルなんかは安心して腰が抜けたのか、その場にへたり込んでしまった。
「すごいわね。あなたのお友達」
「はは・・・・・・まったくだ。無茶ばっかりしやがる」
一歩間違えればフレン達も、中にいる自分達も危ないというのに、フレンの猪突猛進ぶりは相変わらずのようだ。
ジュディスの言葉に、ユーリは腰に手を当て苦笑いを浮かべた。
「ねぇ、聖核を斬ったとき、何か声聞こえたよね?」
座り込んだままレイヴンを見上げるカロル。
それにレイヴンは頷き返す。
「ああ。聖核になった始祖の隷長の声、だったのかもねぇ」
「聖核に宿っていた始祖の隷長の意志がエアルを鎮めたようだったわ」
聖核が消える瞬間、『ありがとう』と言う声が響き渡った。
それは聖核に宿る始祖の隷長のココロであり、意思でもあった。
暴走した聖核はいわば、エアルを鎮め続ける始祖の隷長の意思とは対極にあるもので、その存在自体がエアルを乱し続ける。
それは聖核になってしまった始祖の隷長の本意では決してない。
だからこそ、彼は自分達に力を貸してくれたのだろう。
はきゅっと胸の前で手を握り締め、祈るように目を瞑った。
「もうここに用はねぇ。ザーフィアスにエステルを救いに行こう」
「バウルを呼ぶわ。空の見えるところに行きましょ」
「ヘラクレスをオトリにされて随分時間稼がれちゃったねぇ」
「急ごう!」
ユーリ達は急いで外に向かう扉を探しに行ってしまったが、リタはその場に立ち止まり、先程まで聖核があった場所を見上げた。
「意志がエアルを鎮める・・・・・・聖核とエアル・・・・・・
リゾマータの公式とエステル・・・・・・」
「リタ・・・・・・?」
「ううん、なんでもないわ」
いつまでも来ない自分を心配して戻ってきたに、頭を振って返すと、リタはユーリ達の後を追った。
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