「ん・・・・・・?アレ?レイヴンは・・・・・・?」
ユーリ達が先に行った数刻後、目を覚ましただが、隣にいるはずのレイヴンの姿が見あたらない。
それを不思議に思ったは、寝ぼけ眼を擦りながら小さく呟いた。
「ワフ」
「あ、ラピード、おはよう・・・・・・。
―――って・・・・・・、ラピードがここにいるってことは
もうユーリ達来たってことじゃない!!
なに、もしかして私、置いてかれたの!?」
未だはっきり覚醒していない意識で、傍にいたラピードに挨拶を返すが、次の瞬間はっと我に返り、は立ち上がった。
「ちょっと、ルブラン達!
ユーリ達が来たなら起こしてよ!!!」
「嬢良く寝ていたから気を利かせたのだ」
が奥にいたルブラン達に怒鳴ると、彼らはこちらを振り返り、近づいてくる。
「そんな気の利かせ方いらないわ!」
「しかし、まだ顔色が良くありませんぞ」
心配そうにの顔を覗きこむルブラン。
それを否定するようには首を振って返す。
「このぐらい大丈夫よ。
それより、ユーリ達が先に進んだのどれくらい前?」
「数刻前ぐらいであ〜る」
「そう、それならまだ追いつけるわね・・・・・・」
親衛隊が邪魔をしてくると考えると、そう遠くへは行ってないはずだ。
はそう考え、頷く。
「そんな、嬢だけでは・・・・・・」
「大丈夫よ、ラピードもいるし。
ルブラン達は引き続き退路の確保をお願い」
「しかし・・・・・・」
「ルブラン」
心配してくれる気持ちは嬉しいが、ルブラン達について来られては、自分も本気を出せない。
それにラピードがいればユーリ達の匂いを追ってすぐに彼らに合流できる。
となれば、後は退路の確保の方が重要だ。
はそう諭すように、ルブランを見つめた。
「・・・・・・わかりました。我々はここでお待ちしております」
「ありがと。じゃあ行って来るね」
暫くしてしぶしぶと頷いたルブランにはにっこりと微笑んだ。
「行ってらっしゃいなのだ」「行ってこいであーる」「お気をつけて」
ルブラン達が口々に言った言葉に手をひらひら振り、返すと、はラピードの前にしゃがみ込む。
「ラピード、ユーリ達を追える?」
「ワン!!」
「そう、じゃあお願いね」
「ワフ」
ユーリもが自分達を追って来ると考えてラピードを残していってくれたのだろう。
ラピード自身もお手の物といった感じで吠えたので、は笑みを浮かべラピードの体を優しく撫でた。
立ち塞がる親衛隊を倒し、仕掛けを解除しながら、ユーリ達はやっと制御室らしき部屋の扉を開ける。
すると、部屋の中では何者かにやられたのか、幾人もの騎士達が倒れていた。
「なんだこりゃ?」
「親衛隊が倒されてる・・・・・・」
ある程度親衛隊の抵抗は覚悟していただけに、目の前の光景は拍子抜けだった。
誰が一体こんなことを、とユーリが周囲を見渡すと、
「待ちかねたぜぇ。ユーリ・ローウェル!」
部屋の奥から笑みを浮かべでてくるザギ。
「あなたがここの人たちを倒したのね」
ジュディスはザギを睨んだ後、油断なく槍を構える。
「余計な邪魔を入れられたくないからなぁ」
「てめえなんぞに用はねぇ。
アレクセイはどこだ?エステルをどこにやった!」
「くっくっく。居ねぇよ!そんなヤツは最初からここには居ねぇ」
ユーリがザギにアレクセイの所在を問うと、ザギはのけぞり笑った。
「なんですって!」
「くそ!アレクセイのヤツ!このデカ物すらオトリか・・・・・・」
「なるほどね・・・・・・ヘラクレスにオレたちや騎士団を引きつけて、
自分はその間にトンズラか・・・・・・」
「アレクセイ!どこまでもむかつくヤツ」
どうやらアレクセイはヘラクレスを囮にして、その隙に違う場所に向かったようだ。
まんまとその罠にはまってしまった事を悟ったユーリ達は悔しげに呻いた。
「おいおいおいおいおい!そうじゃないだろ!
しゃべってる暇あるのか?
さっさとお楽しみに入ろうぜぇ」
ユーリが自分に構わず、考え込んでいるので、ザギは手のひらをこちらに向け、挑発するかのように振った。
「何度も言わせるなよ。おまえに用はねぇ。消えろ!
邪魔するってんなら容赦はしねぇ!」
そう言いながら睨むユーリ。
しかし、それはザギにとっては逆効果だったようで、ザギはさらに面白そうに仰け反って笑う。
「くっくっく・・・・・・。
そうだ・・・・・・ユ〜リ。
もっと怒れ!たかぶれ!憎め!
それこそが最高のスパイス!はーっはっはっは!」
「こいつ・・・・・・怒らせるためだけに邪魔してきてるの?」
「救いようのない人ね」
狂気としかいえないそのザギの姿に、カロルとジュディスが呆れた顔を向けた。
「あれは・・・・・・制御室ね」
元はバリアが張ってあったのであろう、柱に手を掛け、はその先にある扉を見やった。
ユーリ達が仕掛けの解除と警備の騎士達を倒して進んで行ってくれていたお陰で、だいぶ早く先に進む事ができた。
ここからではまだ少し距離があるが、ここまでの厳重な警備と、仕掛けを見る限りではあそこは制御室に違いない。
そしてユーリ達はそこにいる。
途中動力室の扉の前も横目で見たが、あそこにはまだ警備が沢山いたし、なによりもラピードがこちらだと言ったのだ。
まだあまり体調が良くないので余計な体力の消耗は避けたいし、ラピードが残っていてくれて本当に助かった。
お礼の意味も込めてはラピードの豊かな毛並みをそっと撫でる。
そこら辺に転がっている騎士達を見ると、ユーリ達がここに来たのはそんな前ではなさそうだ。
彼らの腕前ならよほどのことがない限り、大事には到らないとは思うが、今は回復役がだれもいない状態だ。
万一のことがあるし、とラピードを促そうとすると、奥の方から叫び声が響き渡ってくる。
「あの声は・・・・・・ザギ!?」
その声は以前も耳にしたザギのものに違いない。
ユーリに付き纏い、理解しがたい言動が目立つ男だが、腕前は確かなものだ。
ユーリ達がザギと戦っているのなら、急いだ方がよさそうだ。
はこちらを見つめていたラピードに頷き返し、制御室に向かって走り出した。
「ぐふっ!
くくく・・・・・・おまえは最高だ・・・・・・
ユ〜〜リ〜〜〜!」
「この粘着野郎!いい加減にしやがれ!」
「ぐはぁ!」
何度退けても立ち向かってくるザギに、遂には呆れ、ユーリは彼を吹き飛ばすように衝撃波を放った。
すると、ザギの体は窓ガラスにぶち当たり、ガシャーンと大きな音を立てて割れたガラスと共に海に落ちていった。
「リタ!」
やっと静かになった室内に目を向けると、ユーリはリタに声をかけた。
ユーリの目の前にはヘラクレスの制御をしている機械が鎮座している。
リタはすぐにそれに目を向け駆け寄った。
「わかってる!
これで・・・・・・おしまい!」
制御板をひたすら叩き、最後のボタンを力いっぱい押すと、機械のパネルの光がいっせいに消えた。
「・・・・・・止まったわ」
「さすが天才魔導少女」
「これでヘラクレスはフレンたちが抑えてくれるだろ」
ひとまずは肩の荷が下りたユーリはほっと安堵の息をもらした。
しかし、追ってきたはずのアレクセイとエステルはザギの言うとおりだとすればここにはいない。
それにリタは顔を歪ませる。
「・・・・・・エステル・・・・・・どこに連れてかれちゃったの?」
「リタ・・・・・・」
「アレクセイはエステルを道具としか見てない!
このままエステルの力を使われちゃったら・・・・・・
ホントにエステルが星喰みを引き起こしてしまうかもしれない!」
「させないさ。
だからオレたちがいる。そうだろ」
リタに向かってそう、力強く頷いてみせるユーリ。
「もう一刻の猶予もないわ。
このヘラクレスもきっとヘルメス式魔導器を使ってる。
これだけのものを動かしているんだもの」
「早くアレクセイを見つけないと!」
カロルが息巻いて拳を握り締める。
「バウルにお願いしてエアルの乱れを追ってみましょう」
「わかった。じゃあ・・・・・・」
ジュディスがカロルに頷き、ユーリが先を促そうとすると、
「きゃっ!」「うおぉ!」「くぅ!」「わぁぁ!」「ぐあ!」
頭上から眩い光が降ってきて、それは衝撃波となってユーリ達に襲い掛かった。
それの直撃を受けたユーリ達は堪らず悲鳴を上げて床に倒れこむ。
「ひゃはぁ〜!ユゥゥリィ!まだ終わっちゃいねぇぇぇ!」
海に落ちたと思ったザギが窓枠に立ち、奇声を発した。
どうやら先程の攻撃はザギによるものだったらしい。
「せ、制御板が・・・・・・!」
「・・・・・・また動き出しちまった!」
今の衝撃で無理がかかったのか、ピピーッと機械音を立てて、止めたはずの制御板が動き出してしまう。
「はーっはっはっは!ユーリ!のぼりつめようぜぇ!」
そう言って、笑い続けるザギの姿はもう狂気の沙汰としか思えないほどである。
「や、やべぇ・・・・・・体が・・・・・・」
「だめだ・・・・・・エステルやみたいな高度な治癒術じゃないとみんな同時に治せないよ」
「ここで倒れるわけにはいかない・・・・・・!」
ユーリ達は武器を構えようと、身じろぎするが、思ったよりも先程の攻撃が効いたのか、体が全く動かない。
カロルの言うとおり、せめてだけでもいてくれればと、今更ながらを置いてきた事を後悔した。
そんなユーリ達の姿を目に映したザギは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「くっくっくやっといい声で鳴いたなぁ・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・いっちまいな!!」
武器である魔導器の腕を振り上げるザギ。
万事休すか、とユーリは身構えるが、その時、頭上を二つの影が通り過ぎた。
「ぬぁ!」
影はゴーシュとドロワットであり、二人がザギに蹴りを食らわすと、階段上にいたイエガーが矢を放った。
「ああああああぁぁぁぁ!」
それに吹き飛ばされたザギは叫び声をあげて、再び海へと落ちていった。
「ふっふん。ビュリフォーなシャウトですねー」
そう言ってイエガーが武器を下ろすと、ゴーシュとドロワットが発動させた治癒術が、ユーリ達の身を包んだ。
「イエガー!てめぇ何のつもりだ」
「ミーのビジネスにとって帝国ばかりがパワフルになるのは都合がバッドバッドなのでーす」
今まで散々自分達の敵にまわってきた海凶の爪が自分達を助けるとは一体どういう了見だ。
ユーリは鋭くイエガーを睨みつけたが、イエガーは何の気もするでもなく、口元に笑みを浮かべ制御室の扉の方を振り返った。
その行為を不思議に思い、釣られて扉の方を見ると、バタンと大きな音を立てて扉が開き、
「皆、大丈夫!?!?」
「ワォン!!」
とラピードが駆け込んできた。
「、っ!イエガー!!」
さっと部屋の中を見渡せば、丁度下に下りる階段の踊り場付近に憎きイエガーがいるではないか。
イエガーはドンを策略に陥れた張本人だ。
例えそれがアレクセイの命令によるものでもあっても、許す事は出来ない。
は声を荒げ、武器を構えながらイエガーを睨みつけたが、
「!」
「、ユーリ・・・・・・」
ユーリの声にはっと我にかえる。
そう、今はエステルのことが先決だ。
自分達の犯した失態は償わなければならない。
は構えていた武器を下ろすと、イエガーをじっと見つめる。
「・・・・・・イエガー、あなた、アレクセイと繋がっているのでしょう?
だったら、エステルの代わりに私を連れて行きなさい。
あの子は私たちにとって、大切な仲間なの。
あの男の狙いが聖核なら、私だけで十分なはずよ」
「!?」
「残念ながらそうもいかないのでーす」
「どういうこと・・・・・・?」
アレクセイは以前から自分の力を欲しがっていた。
エステルとアレクセイが共にここにいるのなら決して無理な相談ではない筈だ。
「アレクセイはザーフィアスにいる」
「・・・・・・まさか!!」
首を傾げるこちらに静かに歩み寄り、ゴーシュが告げた言葉、それはにとって驚愕のものであった。
ザーフィアスとエステル、それに聖核、アレクセイの狙いは聖核だけではなかったのか。
の脳裏に悪い予感が過ぎる。
それがもし自分の予想通りのものであるのなら、エステルを早急に取り戻す必要がある。
「宙の戒典がキーとしてニードなはずだったのに、
ユーたちのプリンセスで代用しようとしてマース」
の予感を裏付けるかのようにイエガーが言葉を続ける。
「なんですって!」
「やっぱり・・・・・・」
「どういうことだ?」
「帝都ザーフィアスの御剣の階梯という所に秘密があるのよ。
一般には知られていないはずなのに、どうしてアレクセイが・・・・・・」
暗く沈んだ顔をあげてがユーリの問いに答えると、ヘラクレス全体がいままでになく強く振動した。
「話し込んでる場合じゃなさそうよ」
「こりゃまずいな。このままじゃザーフィアスの下町はぺしゃんこだ」
驚いて窓の外を見れば、肉眼で視認できるほどにザーフィアスの町並みが近づきつつあった。
このままヘラクレスが進んでいけば、帝都は無事では済まないだろう。
それに気付いたジュディスとユーリの声が焦りを帯びる。
「ちっ!リタ!」
「無理よ!完全に壊れちゃってる!」
「動力を止めるしかないよ!」
「えっ、どういうこと?」
制御板を操作すればヘラクレスは止まる筈ではなかったのだろうか。
それとも自分が来るまでになにかあったのか。
事情がわからず、うろたえるの横をイエガーが通りぬける。
「あ、待ちなさい!!」
「がんばるでーす!じゃ、そういうわけでシーユー!」
はイエガーに手を伸ばしたが、それは一歩届かず、ゴーシュとドロワットに守られてイエガーは姿を消した。
「イエガーめ。ヤツの狙いはなんなんだ?」
「それはあとで考えましょ。
はやくヘラクレスを止めないと」
「わかってる。動力室へ向かうぞ」
ユーリ達の話によると、動力は一旦止めることが出来たが、動力を制御していた魔導器がザギとの戦闘の際に傷つき、制御不能になってしまったようだ。
こうなったら動力室の前にいた大量の警備兵を倒して部屋に入り、動力の源を断つしかない。
ユーリ達は急いで部屋の外に走り出る。
「カロル?レイヴン?」
もユーリ達と一緒に部屋の外に走りかけたが、二人がいつまでも動こうとしないので訝しげに後ろを振り返った。
その視線に気付いたカロルが、
「イエガー・・・・・・次は絶対逃がさない!」
そう小さく呟き、ユーリ達の後を追うと、レイヴンがその後姿をじっと見つめる。
「凛々の明星の首領とはいえ、イエガーだけは、譲るわけにゃあいかないよね」
「レイヴン・・・・・・」
は泣きそうな顔でレイヴンに近寄った。
そんなの頭をレイヴンはあやすようにポンポンと撫でる。
「さ、ちゃんも急ごうや」
でないと青年達においてかれちまう、とおどけた口調で返し、レイヴンはの背中を押した。
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