はレイヴンが出て行った後も暫くユーリ達の会話を聞いていたが、彼の去り行く姿がそのまま消え去りそうに見えた感がどうしても拭えなかった。
もしかしたらレイヴンはユーリ達の元を去るつもりなのかもしれない。
そう考えたは椅子から立ち上がる。
「どうした、?」
ユーリが自分に声をかけてくるが、それに構わず扉の方へ歩いていく。
「・・・・・・?」
今度はカロルの心配そうな声がかかる。
は扉の前で立ち止まると、ユーリ達を振り返り、レイヴンと話してくるね、とだけ伝え、扉を開けて外に出た。
残されたユーリ達は、顔を見合わせ首を傾げる。
「、なんか様子変だったね」
「そうね・・・・・・」
ジュディスがカロルに頷き返す。
ここ最近、とレイヴンの様子はおかしかった。
今までの二人は、こちらが羨ましくなるほどの睦まじさであったが、最近の二人おいては、会話をする時でさえ、互いに接するその態度はどこかぎこちないものであった。
どちらかというとレイヴンの方がを避けているようだったので、はそれに決着をつけにいったのだろう。
ユーリは小さく溜息を漏らす。
「まあ、二人の事は二人が解決するだろ」
「うん、そうだね」
カロルはじっと扉を見ていたが、ユーリの言葉に頷いて、扉から目を外した。
は外に出ると、すぐにレイヴンの姿を探した。
しかし彼の姿は街の中にはどこにも見あたらず、エステルの姿も見えなかった。
これはいよいよ自分の悪い予感が当たったかと、中央から外に向かう扉に向かう。
その時、扉の向こうから、ゴゥンと鈍い音を立てて何かが起動する音が聞こえた。
もしやレイヴン達かと思い、は慌てて扉を開けた。
扉を開けた先では、今はもう魔核が取り外され、棄て去られたはずの転送魔導器が動いていた。
遅かった・・・・・・。は目を瞑る。
レイヴンはアレクセイの命により、エステルを連れ、下界へと降りていったのであろう。
自分は彼に拒絶されたまま、彼を失ってしまうのだろうか。
は拳を握り締め、浮かんでしまった考えを首を振って打ち消すと、魔導器に駆け寄った。
これなら自分の力でも動かせそうだ。
は転送魔導器に乗り込むと、魔核に自身の手を翳した。
「魔導器が動いてる。どうして・・・・・・?」
が出て行って暫くした後、外から大きな物音が響くのに気付いたユーリ達は音のする方に向かった。
街の外へと続く扉をあけると、そこには動くはずのない魔導器の動いている姿があった。
リタは急いで、魔導器の傍に駆け寄る。
「・・・・・・魔核が装着されてる」
「ここに何か文字が・・・・・・転送魔導器・・・・・・?」
ジュディスも魔導器に近寄り、それを覗き込むと、魔導器に文字が書かれているのを発見した。
「つまりそいつで誰かがミョルゾから出たのか?」
「そう言うことになるわね」
ユーリの言葉にジュディスは後ろを振り返る。
すると、ちょうど街の長老が向こうからやってくるのが見えた。
ジュディスが長老に駆け寄ると、長老は魔導器を見やり、一体何事かねと尋ねてくる。
「誰かが街を出たみたい」
「エステル・・・・・・エステルはどこ?」
カロルが長老に答えると、リタははっとして、周りを見渡した。
そういえば、とユーリも周りを見る。
「おっさんともどこ行ったんだ?」
「え?まさか・・・・・・三人が?」
驚いて目を瞬くカロル。
ユーリ達の会話を聞いていた長老は顎に手を当てると、「ふーむ・・・・・・」と唸る。
「ここの魔導器はみな肝心の魔核をとうの昔に失ったものばかりのはずじゃが・・・・・・」
「多分、外から魔核を持ち込んだのよ。
調整なしにただ装着したって動くはずないんだけど、エステルなら別かもしれない。
エアルに直接干渉できるのなら、魔核の術式にあわせてエアルを再構成することも出切るかも」
「でも一体どうして・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
カロルが泣きそうな顔をしてユーリの顔をみたが、ユーリとしても事態を把握しきれていないので、言葉を発することは出来なかった。
ジュディスは長老に顔を向けると、街の人々にエステル達を探してもらえないか、と頼んだ。
長老がそれに承諾するのを見たユーリは「オレたちも探そう」と、皆を促した。
街の中をあらかた探し回ったユーリ達は、再び転送魔導器の所に戻ってきた。
長老も街の中からこちらにやってくる。
「やっぱり二人ともどこにもおらんのう」
「一体どうしちゃったんだろう」
「とにかく降りて探さなきゃ!」
リタが拳を握り締め、身を乗り出した。
しかし、長老は「三人で散歩かもしれないぞ?」とあくまでものんびりした態度である。
「ボクたちに黙って街をでる散歩?
そんなワケないよ!」
カロルがそれに異を唱える。
不意にユーリの脳裏に、レイヴンがエゴソーの森の時に呟いた言葉と、アレクセイが牢屋に彼を迎えに来た時の光景が浮かんだ。
深くは考えていなかったが、何故、天を射る矢のメンバーであるレイヴンをアレクセイは直々に迎えに来たのだろうか。
何故、レイヴンは信念も覚悟もないと言ったのだろうか。
あれはこの事態を引き起こす前兆だったのだろうか。
深く考え出すときりがない思考の渦をユーリは首を振って、断ち切った。
「なんか嫌な予感がしやがる」
「早く追っかけよう!」
「しかしのう・・・・・・。いなくなった二人にはがついておるのじゃろう?」
急かすカロルの声とは対象に、長老がのんびりとした声を発した。
それにユーリは小さく頷く。
「核心はもてないが、たぶんそうだろうな」
「だったら平気じゃろうか」
「どうして、そう思うのかしら?」
ジュディスが不思議そうに首を傾げた。
すると、長老はユーリ達を見やり、ふむ・・・・・・と顎に手を当てる。
「は言っておらんのか・・・・・・。
そうさのう、本人が言っておらんのならワシは言うべきではないのう」
「どういうこと・・・・・・?」
「そういえばボクたちのこと何も知らないよね・・・・・・」
「本人があまり言いたがらないから・・・・・・」
確かにカロルの言うとおり、のことは全くといっていいほど知らなかった。
けれど彼女が自分達の傍にいることはごく自然なことに感じて、誰も何も言わなかったのだ。
もしかしたら素性の得体の知れなさはレイヴンよりも遥かに勝るのかもしれない。
しかし、彼女の浮かべる笑顔や、時折見せる悲しげな仕草や表情が、それらを覆い隠していたのだ。
「じいさん、それが少しでもエステル達を探す手がかりとなるのなら、
頼む、教えてくれ」
「ふむ・・・・・・。
そうじゃな、手がかりになるかはわからんが、
それをおぬしらが必要とするなら教えるかのう。
―――は、彼女はのう、始祖の隷長に近しい存在なのじゃよ」
「え・・・・・・?それって一体・・・・・・」
長老の言っている意味が分からず、訝しげに首を傾げるカロル。
リタは腕を組み、頬に手をあて考え込むように、それを指でトントンと叩く。
「そういえば、前に、始祖の隷長は自分の同胞であるとかないとか言ってたわ・・・・・・」
「どういうことだ?」
「あたしにもよく分かんないけど、あいつ、エステルの力のことを知っていたって言ってたわ。
その時に、始祖の隷長の話をしたのよ。
詳しく話を聞けなかったからその後に何度か聞こうと思ったんだけど、
いつも上手く誤魔化されちゃって・・・・・・」
ユーリの問いにリタは首を振り、もっとよく聞いておけばよかったと悔しげに俯いた。
しかし、カロルが再び首を傾げる。
「でも、それがエステル達とどう関係あるの?」
「は始祖の隷長と近しい存在であるが故に、エアルの流れを見守る宿命をもっておる。
その彼女がついていったのであれば、何か訳があるということじゃの」
と、いうことは、彼女はフェローと同じく満月の子であるエステルを監視するために旅についてきたのであろうか。
エステルの力を知っていたというし、その可能性はないとも言い切れないが、とてもそうは思えない。
なによりもがエステルを大切に思っていることは、彼女の言葉の端々から感じとることができた。
けれど最近が不安定だったのも事実だ。レイヴンと何かしらあったからなのだと思っていたが・・・・・・。
「・・・・・・ともかく、今は三人を追いかけよう」
何か良い方法はないか?とユーリが長老に向かって問うと、長老はゆっくりとした動作で空を見上げる。
「そうさのう。ミョルゾの主ならなにかご存知かもしれんのう」
「始祖の隷長だものね。魔導器のエアルの流れを感じ取っていたかも」
「聞いていたでしょう?おしえてもらえるかしら?」
ジュディスはナギーグを通して、クローネスに話しかける。
「・・・・・・なんとなくの方角でしか・・・・・・西の方、砂の海・・・・・・街?
もうひとつはっきりしないけど、砂漠の街・・・・・・多分、ヨームゲンの方だと思うわ」
「前にデュークと会った、コゴール砂漠の街だね」
ジュディスの言葉にカロルが付け足すと、ユーリはそれに頷き、
「すぐに向かおう」
と言った。
「待って、レイヴン、お願い待って!!」
転送魔導器で地上に下りてすぐに素早く回りを見渡すと、砂漠の瓦礫の向こうに、レイヴンの姿を発見することができた。
は遠ざかっていくレイヴンの背中を、砂に足を取られそうになりながらも必死で追いかけた。
思うように進まない足を叱咤し、やっとレイヴンに追いつくと、は彼の紫の羽織を掴んだ。
「・・・・・・っ!お前・・・・・・」
突然後ろに引っ張られる感覚を感じ、レイヴンは驚いて振り返ったが、ここにいるはずがない彼女のその姿を見て、目を見開いた。
「、お前どうしてここに来た?!」
「っ・・・・・・。
私も・・・・・・お願い、私も連れて行って」
乱れた息を整え、はレイヴンのじっと目を見つめた。
それは覚悟を決めた瞳であった。
「付いて来るのがどういうことか分かって言ってるのか!?」
「・・・・・・分かってるわ・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
レイヴンが諭すように怒鳴るが、はそれに頷き返した。
すると、何かを思い悩むように、レイヴンの瞳が宙を揺らいだ。
その時、
「これはこれは、よもやそちらから来ていただけるとは、
迎えに行く手間が省けましたな」
アレクセイが瓦礫の奥から笑みを浮かべながら現れた。
「アレクセイっ・・・・・・!」
はアレクセイをキッと鋭い目つきで睨んだ。
「・・・・・・間違えないで、私はあなたについて行く訳ではないわ。
レイヴンについていくのよ」
「どちらでもかまいませんよ。
あなたが手に入る事には変わりありませんし」
「どういう・・・・・・・ことだ・・・・・・?」
とアレクセイのやり取りの真意がわからず、レイヴンは眉を顰めた。
それにはにっこりと笑う。
「大丈夫よ、私はレイヴンについて行くって決めたの。
だから、あなたは何も気にする事はないわ」
「・・・・・・?」
「さあ、アレクセイ。私たちはどこへ行けばいいの」
あやすようにレイヴンに声をかけた後、はアレクセイに顔を向けた。
「そうですな・・・・・・あなた方にはバクティオン神殿に向かってもらいたい」
「バクティオン神殿・・・・・・」
「すぐに私も姫さまと一緒に向かいますので」
裏で何を考えているのか分かったものではないが、アレクセイはあくまでも紳士的な態度を崩さず、に笑いかけた。
バクティオン神殿とは、始祖の隷長アスタルを祀った神殿だったはずだ。
一度も行ったことはないが、場所は知っているのでここからでも飛べるだろう。
アレクセイに頷き返すと、は術を唱え、その姿を砂漠の地よりかき消した。
太古にそういった術があるのは知っていたが、実際に瞬間移動の術を見たアレクセイは口元に笑みを浮かべる。
「さすがは、人ならざるもの、か・・・・・・。
しかし、あの力が今は私の手元にある・・・・・・。
―――くくく、はははははっ!」
その心底おかしいといったアレクセイの笑い声は、暫く砂漠の瓦礫の中に響き渡っていた。
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