もう一つの兵装魔導器のある丘に向かう途中、先頭を進んでいたは再び、魔導器によるエアルの乱れを感じ取っていた。
魔導器の矛先はやはりこちらのようだ。
はユーリ達の方に素早く視線を向ける。
彼らが今いる場所は丁度崖の陰になっていて、伏せればやり過ごせそうだ。
無茶するなといわれた事だし、はユーリ達の方に向かって走った。


「皆、伏せて!!」


がそう言って伏せた瞬間、魔導器からエネルギー砲が発射された。
エネルギー砲は伏せたユーリ達の横を通りすぎ、遠くの地面を盛大に削った。


「全員、大丈夫か・・・・・・?」
「なんとか・・・・・・」
「レイヴン大丈夫!?」


皆ユーリに向かって頷いたが、ユーリ達の一番後ろで、ただ一人、レイヴンが苦しそうにしゃがみ込んでいた。
はそれに気付き、心配そうな声をあげた。


「おっさん、ここでリタイアするか?後はオレたちで行くから」


同様にそれに気付いたユーリはレイヴンに声をかけた。
しかし、レイヴンは首を振り、立ち上がる。


「ここで置いてかれたら、俺様行くとこ、なくなっちまう」
「ユーリだって本気で置いてくわけないじゃん」


レイヴンを見上げ、口を尖らせるカロル。


「それに行くとこないって、天を射る矢があるじゃない」
「んー?まああれはねえ、なんというか、ちょっとそういうのと違うのよ」
「そうなの?」
「ふーん・・・・・・」


どう違うのかは良く分からないが、レイヴンが違うというのなら違うのだろう。
ユーリはそれ以上追求しようとはせず、レイヴンの方を心配そうに見つめているの隣まで歩き、頭をぽんぽんと撫でる。


「おっさん大丈夫なら次充填して攻撃しかけてくる前にあの魔導器までいくぞ」
「あいあい〜。了解〜」


レイヴンはそれに手をひらひら振って応えた。















「・・・・・・どうだ、リタ」

ユーリは魔導器に走り寄ったリタに顔を向けた。
こちらの魔導器にももちろん警備の騎士はいたが、いわずもがな、誰かさんが瞬殺してしまった。
リタは顎に手をやり、じっと魔核を見つめる。


「案の定、こっちにも術式暗号がかかってるわ」
「解けそうか?」
「死ぬ気でやるって言ったでしょ」


ユーリに返すと、リタは制御盤を出し、操作し始めた。


「こうなったら、ミョルゾ行くための条件とかもう関係ないわ。
 騎士団のやつらの手にこの子そのまま残すなんて、絶対出来ないんだから」
「じゃ、そっちは任せたよ!」


カロルがそう言って元来た道を戻ろうとするのを見て、ジュディスが声をかける。


「あら、どこ行くの?カロル」
「さっきみたいにまた親衛隊が来るといけないから、下で見張ってる!」


カロルは一旦立ち止まって振り返ったが、ジュディスにそう言うと、再び走り出した。


「じゃあ、私もお手伝いさせてもらうわ」
「なんか、みんな、妙にやる気でコワイわ」


ジュディスがカロルの後を追い、下に向かうのを見届けると、レイヴンは呟いた。


「・・・・・・ユーリの影響ですよ」


エステルはにこりとレイヴンに笑う。
話が聞こえたのか、ちょうどその時、ユーリがこちらを振り返る。
しかし、ユーリが口に出した言葉は「とりあえずオレたちはこっちで待機だな」という、いたって普通の発言で、レイヴンは思わず苦笑する。


「・・・・・・当の本人はいたってクールなんだが」
「・・・・・・ですね」
「何の話だよ」
「ま、ヒーローは無自覚であるが故にヒーローってね」


何のことか分からず首を傾げているユーリに、は茶化すようにそう言った。
は尚も首を傾げるユーリの背中をポンポンと叩くと、リタの手元をじっと見つめた。
思った以上に、暗号は複雑そうだ。これはリタであっても解くのにかなり時間を要するだろう。
そう感じたは魔導器の傍の地面に座り込んで空を見上げる。

クリティア族の聖地というだけあって、森には清浄な空気が流れ、エアルに満ちているようだ。
は自分に力が溢れるのを感じていた。
部屋に篭りっきりで暴れたりないというのも本当であったが、実のところ力が有り余っているのだ。
兵装魔導器に相対した時、多少の傷は覚悟したのだが、ほとんど無傷ですんだのはその所為だ。

そこまで考えると、はその時のレイヴンの行動を不意に思い出し、顔を暗くして俯いた。
あの時自分は無意識にレイヴンの服を掴んでしまったが、彼はそれを拒絶したのだ。
自分が彼にしたことを思えば、それは仕方のない事だとは思うが、今まで身近にいた彼が遠くに離れて行ってしまった気がして悲しかった。
もう、取り返しはつかないのだろか。はそっとレイヴンを見つめた。

があれこれ考えている間もリタはずっと制御盤と格闘していた。
ユーリは暫くそこら辺をうろうろとしていたが、あまりにも時間がかかっているので、魔導器にじっと目を据えた。


「そう簡単には解けませんってか・・・・・・?
 親衛隊つったか?結局、連中、この魔導器でなにをするつもり・・・・・・」


ユーリがそう言いかけた時、崖の下から--騎士団が戻ってきたのであろうか、鎧のガシャガシャと鳴る音が聞こえてくる。
は素早く立ち上がると、カロルとジュディスの加勢をしに走り出した。





「またきたよ・・・・・・!」


カロルの言葉どおり、見通せる範囲でもかなりの人数の騎士達がこちらに向かってくるのが見える。
人数では勝ち目はないが、魔導器の所に行くまでの道は細く狭いので、ユーリ達は多数を一辺に相手にしなくてすんだ。
しかし、逆に狭いとなると、術技等が一切使えないので、終わりのない敵の行列に、ユーリ達の体力は消耗する一方であった。


「やあっ!」
「ほいなっと!」


ジュディスが槍で敵を切り裂き、レイヴンが弓矢で敵を貫く。


「・・・・・・休ませてくれないみたいね」
「う、うん・・・・・・こっちがバテるのを待ってるんだ・・・・・・」


カロルはジュディスに頷きながら、目の前に来た敵に武器を振り下ろした。
はといえば、次から次へと沸いてでる騎士達にわなわなと肩を震わせ、術をかましたい衝動に駆られながらも針を構え、一人一人相手していた。
そんな中、目の端で、エステルが敵の攻撃をうけて倒れるのが見える。
は急いで駆けつけようとしたが、その前にユーリがエステルの前に飛び出し、敵を切り伏せた。


「エステル、下がれ!」


エステルはユーリの言葉に頷き、立ち上がると、リタの元へ向かった。

上に戻ると、リタが魔導器に向かって術の詠唱をしているのが見える。
エステルは驚いて目を見開いた。


「リタ!何を!」
「もうこいつ壊して・・・・・!そいつらぶっ倒す!」
「リタ・・・・・・そんな、どうして!?」
「もう時間かけていられないでしょ!」
 だってこのままじゃあんたらが・・・・・・」
「リタ・・・・・・」


リタの悲痛な決意に、エステルは俯き、両手を組んで握り締めた。
ジュディスは敵を相手しながらも上を見上げる。


「私たちが倒される、そう言いたいの?
 あなたは私を、私たちを信用できないの?
 死ぬ気でやるんでしょ?」
「そうそう、私今、力有り余ってるのよね〜。
 全然負ける気がしないわ〜」


はどこか楽しげにジュディスの言葉に続けた。


「わたしたち、負けませんから。リタ、その魔導器を助けてあげてください」


エステルが最後にそう言うと、リタは術の詠唱をやめ、腕を振り上げた。


「・・・・・・わかったわよ!死ぬ気でやってやるわよ。
 その代わり、あんたらも死ぬ気でやんなさいよ!」


そう言いながらキッとユーリ達がいる崖の方を睨むと、そちらに向かって指差した。


「はあ・・・・・・やれやれ、んじゃま・・・・・・死ぬ気でやりますか」
「輝いてる若人の仲間入りか?」


ユーリはレイヴンの言葉に、小さく笑った。
レイヴンはそれに「みたいね」と返すと、目の前に迫る敵に弓矢を放つ。


「とはいえ、こいつは・・・・・・なかなかしんどいね」
「軽口叩けるうちはまだ大丈夫だろ」
「いきなり前言撤回したくなってきた〜」


レイヴンがそう言って、ユーリを振り返ると、その隙を見計らった騎士がレイヴンの横を通り過ぎる。


「ちょっと遊んでないで、戦って!!」


それを見ていたカロルが批難の声をあげた。
その時、「・・・・・・止まったわっ!」というリタの嬉しそうな声が響いた。
は目の前にいた敵を倒すと、魔導器の所に駆け寄った。
確かに、魔導器の暗号は解除され、その動力は停止されていた。


「さすが、リタね」


はリタに顔を向けるとにっこりと微笑んだ。
その微笑をうけたリタは顔を赤くしてそっぽを向く。


「あらら・・・・・・やったじゃない」


レイヴンは上を見上げ、そう言うと、武器を下ろした。
どうやら騎士団は諦めたようだ、あんなに沢山いた騎士達が今はまばらにしか見えない。
カロルが丘の向こうを見やり、指を差す。


「騎士団が引き上げてくよ!」
「魔導器が止まったから?なんだったのかしら、彼らの目的は」


ジュディスは不に落ちない顔をして首を傾げた。
ユーリにも騎士団の目的は検討がつかず、首を捻ったが、当初の目的である、謎の集団を追い払う事は出来た。
今はその事だけで十分と考え、ジュディスに顔を向ける。


「まあいいさ、とにかくこれでトートとの約束は果たした。ジュディ、頼む」
「ええ」


全員丘の上に戻ると、ジュディスはトートから受け取った鐘を取り出し、それを鳴らした。
森の中に鐘の涼やかな音が鳴り響く。
暫くすると、空の上に何か白い巨大な物が現れた。


「あ、あ、あ・・・・・・」
「なんだ、ありゃ・・・・・・!!」


カロルとユーリが上を見上げ、驚きの声をあげた。


「扉が開いた・・・・・・あれがミョルゾ。クリティア族の故郷よ」
「こりゃあ・・・・・・えらいもんだ」
「あまり長い事扉をあけておいてはもらえないみたい。
 急ぎましょ」


ジュディスはそう言うと、バウルを呼び出した。
バウルはすぐにユーリ達の目の前に現れ、ユーリ達はバウルに急いで乗り込んだ。










バウルに乗り込んだユーリ達は、目の前に浮かんでいるミョルゾを見つめる。
みたところ、街全体を白い物体が覆うように支えていて、それで空に浮かんでいるようだ。


「まさか飛んでる街とはねぇ」


レイヴンは感心したようにそう言い、顎を摩った。


「それ以前に、あのばかでかいのなに!?
 生き物みたいだけど・・・・・・」
「あれも始祖の隷長よ。クローネスと言うの」


リタの疑問には答えた。
リタはそれに驚いて目を見開く。


「あれが、始祖の隷長・・・・・・!?
 ―――ってか、なんであんたがそんなこと知ってんのよ」
「だって私、来た事あるもの」


訝しげにこちらを見るリタに、は事も無げに答えた。


「え、なんで・・・・・・?」
「じゃあお前、ミョルゾの行き方知ってたのか?」
「うん」


はユーリに平然と頷いてみせる。


「私、トートと知り合いなのよね〜。
 でも、教える前にユーリ達、情報仕入れてきたみたいだし、まぁいっかなーっと」


ユーリが何で早くそれを言わないんだと批難がましい目で訴えてきたので、は手をひらひらと振ってそう言った。
ユーリはそれに溜息をつく。


「・・・・・・いいけどな・・・・・・。
 ―――それより、何で始祖の隷長が街を丸ごと飲み込んでんだ?」
「さあ、そこまでは知らないわ。
 ジュディスは?」
「私も知らないわ」
「だそうよ」


はユーリに肩を竦めて見せた。
エステルは口に手を当てじっとミョルゾを見つめる。


「こんな街があるなんて、全く知りませんでした」
「気が遠くなるほど長い間、外界との接触を断ってきた街だからね、ミョルゾは」
「このまま近づいても襲ってきたりしないよね」
「そうね〜カロルならパクッと一飲みにされちゃうかも?」


カロルが怯えた声をあげるので、は手を後ろで組んで、楽しげにカロルの顔を覗きこんだ。


「えぇ!?」


の言葉を真に受けたカロルが後退りするのを見て、ジュディスは小さく笑う。


「大丈夫。バウルがいれば、中に入れてくれるはずよ」


その言葉を合図に、バウルはミョルゾに近寄っていった。