が水場の方に行くと、リタとカロルが水辺にしゃがみ、足を浸していた。
見るだけでもひんやりと冷たそうだ。
は自分もと、水の中にざぶざぶと入っていく。


「生き返った・・・・・・」
「ほんと、もうダメかと思った」
「おお、おお、これからの未来をしょって立つ若者が情けないね」


リタとカロルが思わず安堵の声を漏らすと、レイヴンは呆れたように頭を振り、肩を竦めた。
リタはそんなレイヴンを見上げ、「うっさい」と睨む。


「このまま進むのも危険だよね・・・・・・」
「でも、ここで引き返したら、あの子たち悲しむわね、きっと」


ここまできてもアルフとライラの両親は見つからなかった。
もっと奥に居るのだろうか。
自分達でもここまで来るのはそう容易くなかったのに、見あたらないとなると、さらに二人の命が危ぶまれる。
リタはそう考え、ジュディスを振り返り、見上げる。


「とりあえず力の続く限り、行くわよ」
「あわよくば、フェローだって見つかるかもしれないですから」
「だな。水場も見つけたし、もうしばらくは捜索できるだろ」


ユーリはそう言いながら、水場に近寄り、自分の水筒に水を入れる。
それを見たもカロルに返してもらった水筒を手に持ち、水を補給した。
ひんやりとした気持ちいい感触が手を通して伝わってくる。


「毒を食らわば、皿までってことね」
「そっか、そうだよね」


カロルはユーリとレイヴンの言葉に頷くと、ジュディスの方を見上げる。


「ところで、ジュディス、こんな砂漠に何しに来てたの?」
「ここの北の方にある山の中の街に住んでたの、私。
 友達のバウルと一緒に。
 だから、時々、砂漠の近くまで来てたのよ」
「砂漠に・・・・・・?」
「そんなことよりカロル、ちゃんと水筒に水入れたか?」


カロルはユーリのその言葉に、そういえば、と立ち上がるが、ジュディスがカロルを振り返り、水筒を差し出す。


「はい、汲んどいたわ。はい、リタも」
「さっすがジュディス」
「あ、ありがと・・・・・・う・・・・・・」


リタは心なしか赤くなりながらジュディスにお礼を言った。
そんなリタの姿に、は小さく笑みを漏らした。
ユーリは立ち上がると、仲間を見渡し声をかける。


「他は平気だな」


その言葉にエステル達が頷く中、は自分の手を見つめ、にんまりと笑い、ユーリの傍に忍び足で近寄る。


「てや!!」
「どわっ!」


が水に浸して冷たくなった手をユーリの頬に当てると、ユーリは驚いて飛びのいた。


「何すんだよ、
「えへへー冷たい、冷たい?」


へらりと笑う


「元からお前の手は冷たいんだろ」
「いや、そうなんだけどさー。
 氷嚢代わりにならないかなって」
ちゃん、それおっさんにやって、やって」


目を輝かせながら、レイヴンが近づいてくる。


「えー、レイヴン元気そうじゃん」
「えー、それだったら、青年も同じじゃない」


が不満そうに返すと、レイヴンも不満そうにそう返した。


「んー、そう?」


は口に一指し指を置きながら、首を傾け、ユーリの顔を覗く。
一瞬ユーリは目を瞬くが、の髪をぐしゃぐしゃとかき回すと、「バカやってないで先行くぞ」と言い、水場から離れた。
はぐしゃぐしゃになった髪に口を尖らしたが、ユーリはどこ吹く風であった。















オアシスから北西に向かって進んでいくと、倒れている二つの人影を発見した。
どうやら、そんなに倒れて時間はたっていなかったらしい。
エステルが駆け寄ってすぐに治癒術をかけ、水をあげると、すぐに起き上がった。
二人に詳しく話を聞くと、二人は捜し求めていたアルフとライラの両親である事が分かった。
それにユーリ達は安堵の息を漏らす。
その時、すぐ近くから鳥の鳴き声が響いた。
それはフェローの鳴き声に違いないと、ユーリ達は頷きあい、夫婦にはつかず離れずついてくるように言い、そちらに向かって走り出した。






「なにかおかしい・・・・・・気をつけて」


達が向かった先には何もいなかったが、相変わらず鳴き声は鳴り響き、異様な空間を作り出していた。
はユーリ達に注意を飛ばすと、上空をじっと睨んだ。
その瞬間、今まで鳴り響いていた鳴き声の調子が変わり、空間が歪み始める。
ラピードはその変化を感じ取ると、尻尾をぴんと立て後退った。
エステルは口に手をやり、目を瞬く。


「フェローじゃない・・・・・・」
「ああ・・・・・・・声の調子が変わりやがったな」
「あ、あれ・・・・・・!」


カロルが指差した先、歪んだ空間のひずみから何か、黒くぶよぶよとした体を持つ、空に浮かぶ魔物が現れた。
その異様な姿にリタは思わず目を逸らす。


「何!?気持ちワルッ!」
「あんな魔物・・・・・・ボク知らない・・・・・・」
「魔物じゃないわね、あれは」
「魔物じゃなかったら、何よ!?」
「ワン!ワン!ワン!」
「ラピードがびびるなんて・・・・・・やばそうだな・・・・・・」


普段どっしりとかまえ、何事にも動じないラピードが、魔物に威嚇する姿を目に映したユーリは目を険しくさせ、魔物を睨んだ。


「に、逃げよう・・・・・・!」
「こっちに来ます!」
「ちっ、やるしかねぇってことか」


カロル達は後退ったが、魔物は鋭い鳴き声を上げ、こちらに襲い掛かってくる。
ユーリは鞘を飛ばし剣を構えると、アルフとライラの両親に下がってるように言い、魔物に向かって駆け出した。


魔物は見た目の通り体が無形状で、ユーリ達が剣で切り付けてもその衝撃は全て緩和されてしまい、戦いは長引く一方であった。
ただでさえ、砂漠の暑さに参っている中で、この持久戦はユーリ達の体を徐々に蝕んでいく。
は心配そうにユーリ達を見やるが、唯一、リタの魔術が当たった際に魔物が小さく身を震わせたのを思い出し、リタに顔を向ける。


「リタ、一番強い炎系の術、まだ詠唱できる?」
「・・・・・・ええ」


リタは訝しげにを振り返るが、すぐに頷いた。
は「私と同時に詠唱お願い」とリタに言うと、自分も術の詠唱を始めた。


「スパイラルフレア!!」
「フリーズランサー!!」


リタと同時に発動させた術は魔物を取り囲むと、炎と氷で反作用を起こし、爆発した。


「・・・・・・消えた?」


目の前の視界がすっかりはれると、魔物はその姿を消していた。
ふと、が上空を見上げると、紅い色合いの見事な鳥の羽根の様なものが落ちてくる。
はそれを拾うと、じっと見つめた。


「これは・・・・・・」
「はあ・・・・・・ボク、もうだめ・・・・・・」


カロルの弱弱しい声に振り返ると、リタとカロルが地面に倒れるのが見えた。
他の仲間も同様に、皆ふらふらと、倒れ始める。


「さすがの俺様も、もう限界・・・・・・」
「・・・・・・こりゃ、やべえ・・・・・・」
「レイヴン!ユーリ!」


レイヴンとユーリまでもが地に倒れる。
は悲鳴をあげ、ユーリ達に駆け寄った。
必死に治癒術をかけるが、全員体力の限界が来ていたのか、起き上がりそうにない。
このまま放っておけば、確実にユーリ達は干からびてしまうだろう。
が途方にくれ、上を見上げると、カドスの喉笛で会った魔物、クロームが空から舞い降りてくるのが見えた。


「クローム!!」


は目を輝かせクロームに駆け寄ると、ユーリ達をお願い、と言い、ユーリ達を運ぶ作業に移った。















「・・・・・・うっ」


ユーリは見知らぬ部屋の中で目を覚ました。
横を見ると、リタとカロルも同様にすやすやと寝ている。
ユーリは起き上がり、辺りを見回したが、見たことのない場所に首を捻る。


「確か、砂漠で・・・・・・
 天国って訳じゃなさそうだな・・・・・・
 ここは・・・・・・どこだ?」


じっと考えていてもしかたないし、とりあえず、外に出て状況を確認するか、とユーリはベッドから立ち上がり、扉を開き外に出た。

建物の外もやはり見たことのない街で、ユーリが首を傾げながら歩き出すと、奥に見えた橋のところにジュディスとエステルが立っているのが見えた。


「おはよう」
「あ、ユーリ、もう大丈夫ですか?」
「ああ。おまえらこそ、大丈夫なのか?」


ユーリがジュディスとエステルの方に向かうと、二人はこちらに声をかけてくる。
ユーリはそれに頷き、逆に問い返した。


「ええ、とりあえずは」


ジュディスはそれに頷き返した。


「オレら、砂漠でぶっ倒れたよな?
 それが何で街にいるんだ?」
「誰かが助けてくれたようだけれど・・・・・・
 誰だか、わからないんです」
「ふーん・・・・・・
 ・・・・・・あれ、そういえば、は?」


自分が倒れるときに、が心配そうに駆け寄ってきた事を思い出す。
は無事なのであろうか。
部屋に姿は見えなかったしと、ユーリは腕を組み、周りを見回し、エステルに尋ねる。


「それが・・・・・・わたしたちが目を覚ましたときにはもういなかったんです」
「この街に来ていることは間違いないみたいだけど」


街の人がらしき人物を見かけたというのは先程唯一仕入れられた情報だ。
ジュディスはそれを説明する。


のことだから、そこら辺を歩き回っているんじゃないかしら」


その言葉にユーリはそうだな、と頷くと、「んで?ここはどこで、なんていう街なんだ?」と尋ねた。


「それは優しいおじさんが調べてくれているわ」
「優しい・・・・・・?ああ、おっさんね」


ユーリは顎に手をあて考え込んだが、すぐにレイヴンだと思い当たり、頷いた。















一方その頃、は街の一番奥にある建物の中にいた。
目の前には自分に良く似た美しい長い銀髪を持つ男が立っている。
は銀髪の男、デュークに近寄ると、声をかけた。


「デューク、久しぶり」
「・・・・・・か」


デュークはの声に振り返ると、目を細める。


「どうしてここに?」
「んー。クロームに連れて来てもらった」
「奴らはどうした」
「あーえっと、そのぉ・・・・・・」


はユーリ達一緒にここに来てしまったことを言っていいかどうか悩み、言葉に詰まらせる。


「そ、それより、デューク!髪のことユーリ達にばれちゃった!!」


は無理やり話題を変えることにしてデュークにそう伝えた。


「・・・・・・・・・・・・」
「あ、でも、髪のこと以外はばれてないし、それにユーリには元からばれてたって言うか、
 そもそもエアルクレーネで澄明の刻晶が暴走したのがいけないと言うか、
 まぁそれはクロームが何とかしてくれたんだけど・・・・・・」


はデュークの射るような視線に慌てて捲くし立てる。
そんなの様子にデュークは小さく溜息を吐くと、その表情を和らげる。


「少し落ち着け」
「うん、ごめん・・・・・・」


はデュークの宥めるような声に落ち着きを取り戻し、深呼吸をすると、デュークの顔を見つめた。
デュークもの顔を見つめ返す。


「それで他の事はまだ奴らには知られていないんだな?」
「うん、それは大丈夫だと思う」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・デューク?」


黙り込んでしまったデュークを不思議に思い、は首を傾げた。
何か考え込むように俯いていたデュークはやおら顔をあげる。


「澄明の刻晶とは?」
「あ、うん。旅の途中に手に入った箱の中にはいってるんだけど、
 今はユーリが持っているのかな。
 聖核独特のエネルギーが感じられたから聖核に間違いないと思う。
 後で持ってくるよ」
「・・・・・・そうか」


デュークが頷くのを確認すると、はデュークに駆け寄りざまに抱きつき、そのまま彼の顔を覗きこむ。


「えへへ。こうするのも久しぶりね」
「・・・・・・そうだな・・・・・・」
「ダングレストでは一瞬だったしね・・・・・・」


あの時は自分は風邪を引いていて、心配するデュークに旅を止められるんじゃないかと思ってその手を振り解いてしまった。
本当はもっと一緒にいたかったのに、だ。
そのことを思い浮かべたは小さく呟く。
すると、デュークも思い出したのか、の額に手を当ててくる。


「風邪はもう平気なのか」
「うん、もうこの通り、元気元気!」
「そうか」


デュークのその声を聞きながら、は手をデュークの背に回し、その背中に流れる銀の髪を掬い上げた。


「やっぱりデュークの髪は綺麗だなぁ・・・・・・」
も同じ色だろう」
「や、デュークのは艶が違うというか、きめが細かいというか、
 ・・・・・・とにかく私のと違うんだよ!!」
「・・・・・・・・・・・・」


がいうその違いがまったく分からず、じっと彼女の髪を見つめるデューク。
は顔をあげると、


「デューク、髪絶対切っちゃダメだからね!
 頑張ってお揃いにするんだから」


と言った。
デュークはその言葉にふっと苦笑したが、の目を見つめると、小さく頷き返した。
はそれでよし、と満足げに微笑むとデュークから離れる。


「そういえば、私デュークに伝えたいことがあったんだ」
「なんだ」
「あのね・・・・・・」


がその続きを言おうとしたとき、館の扉が開く音が響いた。