洞窟の最奥らしき所に着くと、ラーギィが大量の蝙蝠に道を遮られ、立ち往生しているのが見えた。


「いた・・・・・・!」


カロルがそちらを指差し叫ぶと、ラピードがラーギィに飛び掛った。
それに驚いて飛びのいた弾みで、ラーギィが小箱を地面に落としたので、ラピードはそれをすぐさま尻尾でこちらに弾いた。


「よくやった、ラピード。鬼ごっこは終わりだな」


ユーリはしゃがんで箱を受け取ると、立ち上がり、ラーギィを見据えた。


「くっ、こここ、ここは・・・・・・・・・・・・
 ミーのリアルなパワーを・・・・・・!」


ラーギィが悔しそうにそう言うと、ラーギィの体が突然光り、次の瞬間にはいつもの高級そうな衣服に身を包んだ、イエガーの姿がそこにあった。


「うそっ・・・・・・」
「ふん。そういう仕掛けか」
「どういうことです?ラーギィさんに変装して・・・・・・?」


目の前で起こった事が信じられなくて、エステルは口に手をあて目を白黒させた。


「今はあれこれと考えてる暇はなさそうよ」
「おーコワイで〜す。
 ミーはラゴウみたいになりたくないですヨ」


ジュディスがイエガーを睨むと、イエガーは手をひらひらと振りながら、そう言った。
エステルはイエガーの言葉に訝しげに首を傾げる。


「ラゴウ・・・・・・?ラゴウがどうしたんですか?」
「ちょっとビフォアにラゴウの死体がダングレストの川下でファインドされたんですよ」


ははっとして口元に手をやると、決してユーリの方を見ないようにして、仲間の様子を探ったが、 特にあの夜のことは気付かれていないようだ。
程度の大小はあれ、皆一様に驚いた顔をしていた。


「ミーもああはなりたくネー、ってことですヨ」


イエガーはなんらかの形で事件の真実を知ったのであろうか、ユーリの口調の真似をした。
はその事に気付き、肩を怒らせ、イエガーをキッと睨んだ。


「ラゴウが・・・・・・死んだ・・・・・・?どうして?」
「それはミーの口からはキャンノットスピークよ」


イエガーはエステルの問いに人差し指を立ててそれを横に振った。
ユーリは鋭い眼光をその目に宿しながら、イエガーの行動を目で追った。
その視線を受け流したイエガーは、洞窟の出口、蝙蝠が大量に群れる方に歩いていく。


「あっ・・・・・・そっちは・・・・・・!」
「イエガー様!」


エステルが叫んだ瞬間、ゴーシュとドロワットがどこからか現れ、イエガーとの間に立ちふさがった。


「お助け隊だにょーん」


ドロワットはそう言って、武器を構えた。


「ゴーシュ、ドロワット、後は任せましたヨー」


イエガーはゴーシュとドロワットを振り返ると、片手を挙げた。


「了解」
「アイアイサー♪」


ゴーシュ達はイエガーに応えると、そのまま蝙蝠の群れに突っ込んでいった。
蝙蝠達がゴーシュ達に向かってる隙に、イエガーはその間をすり抜ける。


「逃げられちゃう!」
「行かせるかよ!」
「イエー、また会いましょう、シーユーネクストタイムね!」


ユーリはイエガーを追おうと、走り出したが、イエガーはそれに笑みを浮かべて自分の前髪を払うと、片手を挙げて洞窟の外に出て行った。
暫くゴーシュ達を相手していた蝙蝠達は、身を震わせると、中央に集まりだし、合体する。
その姿は大きな翼を持つ竜の様で、これがカロルの言っていた危険な魔物だろうか、とはカロルを振り返る。


「こいつだ!プテロプスだよ!」


カロルがそう叫ぶと、プテロプスはその翼を羽ばたかせ、衝撃波をゴーシュ達に放った。
その直撃を受けた彼女達は、後ろに跳ね飛ばされる。
エステルはその様子を見て、すぐにゴーシュ達に駆け寄り、治癒術を詠唱し始めた。
しかし、敵の施しは受けない、とゴーシュがエステルの手を払いのける。


「バカにしちゃ、や〜なのよぉ・・・・・・」
「でも、その傷では・・・・・・!」
「撤退する・・・・・・」
「ばいばいだよぉ・・・・・・」


動くのも辛いほどの傷を受けているのにも関わらず、ゴーシュ達は立ち上がる。
そのまま、後ろに後退ると、ドロワットが煙玉を地面に向かって投げつけた。
その煙はユーリ達の視界を覆い、ゴーシュ達の追跡を困難な物にさせた。


「くさっ・・・・・・なんだこの煙・・・・・・!」
「ク〜ン」


どうやら、以前の物とは違い、匂いも工夫された物らしい。
ユーリは手で匂いを払うが、ラピードは堪らないのか蹲ってしまった。


「これじゃ、ワンコも匂いおえないってか・・・・・・」


レイヴンはラピードのその姿を見て、肩を竦める。
煙がはれると、プテロプスはどこかへ行ってしまったようで、は光の漏れる先に向かって走り出した。


「うっ・・・・・・な、なに、この熱気」


リタもそれに続いて走り出したが、出口から漂ってくる熱気に息を漏らした。
は出口の先を覗き込み、ユーリ達を振り返る。


「すぐ先はコゴール砂漠みたいね」
「あらら・・・・・・来ちゃったわねぇ」
「コゴール砂漠・・・・・・フェローがいる・・・・・・」


ユーリは顎に手を当て小さく呟いた。


「・・・・・・わたし・・・・・・やっぱりフェローに会いに行きます」


何かを考え込んでいたエステルが拳を握り締め、決心したかのように身を乗り出しそう言った。
はそんなエステルをじっと見つめる。


「んじゃ、いきましょーか」
「え?」
「砂漠、行くんでしょ?」


はきょとんとした顔のエステルに小さく笑い、そう返す。


「ちょっと待って、本当に行くつもり?」
「え、だっていつまでもイエガー達追っていてもしょうがないし。
 箱はとりあえず戻ってきたんだからそれでいいわ」
「そうじゃなくて・・・・・・!」


リタは拳を握り締め、それをもどかしげに上下に振る。


「わかってんの?砂漠よ?暑いのよ?死ぬわよ?なめてない?」
「だいじょぶ、だいじょぶ、なんとかなるって」


リタの必死な訴えにもは楽観的に手をひらひら振り応えた。


「とりあえず、すぐ近くにオアシスの街があるはずだから、そこへ行って話しましょ」
「それがいい、おっさん底冷えしていかんのよ」
「しゃあねぇ・・・・・・あいつらには次会ったらケリつけるぜ」


レイヴンはの提案に二つ返事で応え、ユーリは剣を肩に担ぎ、洞窟の出口を見据えた。


「・・・・・・リタ・・・・・・」


エステルがリタを見つめると、リタもエステルをじっと見つめ返したが、やがて諦めたかのように溜息をつくと、


「・・・・・・わかったわよ。とりあえず、そこまで行きましょ」


と、言った。




















「・・・・・・影一つない、ですね」
「この暑さ、想像以上だね・・・・・・」


マンタイクの宿屋で一夜休息を取って準備を整えたユーリ達は、街から北にでたコゴール砂漠の中央部の入り口に立っていた。
そこにはエステルの気迫に負けて一緒について来る事にしたリタの姿もあった。
しかし、リタが忠告していた通り、砂漠の暑さは想像以上に酷かったようだ。
エステルとカロルはその暑さに息を漏らした。


「準備なしで放り出されたらたまんねえな」
「あのおっさんは準備なしでも平気そうよ」


リタが視線を送った先ではレイヴンが元気良く宙返りを繰り返していた。
確かに見た感じ、レイヴンには珍しく異様に元気そうだ。
ユーリはそんなレイヴンに苦笑し、声をかける。


「おっさん・・・・・・暑くないのか?」
「いや暑いぞ、めちゃ暑い、まったく暑いぞ!」


レイヴンはそう言いながらも宙返りを繰り返す。


「うっとうしい・・・・・・」


リタは半眼でレイヴンを睨み、額に手を当てた。
エステルもそれに同意するかのように頷く。


「暑いって言われるたびに・・・・・・温度があがっていく気がします」
「そう言うユーリの方が、髪も服も黒いしものすっごい暑そうなんだけど」
「まあ、それはそうなんだが・・・・・・。
 は大丈夫なのか?なんか涼しい顔してるけど」


ユーリはの方を見やると、その涼しげな顔に不思議に思い尋ねた。


「私?私は暑くないもの」
「え!?うそ!?」


カロルがの言葉に目を丸くして叫んだ。
はカロルに近寄り微笑むと、「ほら、触ってみて」と手を差し出す。
カロルは恐る恐るその手に触ってみたが、の手は砂漠の中でもひんやりとしていて気持ちよかった。


「なんか私体温低いみたいなのよねー」
「人間冷却器みたいなもんか」
「そんな感じね」
「羨ましいです・・・・・・」


そこ、羨ましがるとこなのか、とユーリは内心思ったが、苦笑しただけで済ました。
レイヴンの方を見ると、彼は「ちゃんに引っ付いておけば暑さもへっちゃらね」と言ってに近寄ろうとしていたが、にしっしっと手で払われ、軽く肩を落として落ちこんでいた。
ユーリは小さく溜息を吐き、皆を振り向くと、


「ま、水の補給を忘れないようにすれば大丈夫だろ」


と、言い、砂漠の奥へと進んでいった。










サボテンで水分を補給しながら進んで行くと、ジュディスが突然立ち止まった。
は首を傾げ、ジュディスを振り返る。


「ジュディス、どうしたの?」
「あの子たちの両親は、何も準備してないのよね」


の問いに水筒を持ち上げ、ジュディスはそう答える。


「アルフとライラの両親のこと?」
「ええ」
「そうね・・・・・・」


はマンタイクで会った二人の子供を脳裏に思い浮かべる。
アルフとライラの両親は、マンタイクの執政官にフェローの調査の為といって、無理やり砂漠に連行されてしまったらしい。
それを心配したアルフとライラが両親を追いかけようと砂漠に向かおうとしていたところに、達は会った。
子供の両親を想うあまりのその無謀な行動に、達は胸を痛め、自分達が代わりに両親を探すと約束したのだった。


「フェローも探さなきゃだけど、アルフとライラの両親を先に探した方がよさそうね」


どっちにしろ探すと言う行為自体は変わらないし、人命を最優先にした方がいいに決まっている。
ユーリ達もそう思ったのだろう、すぐにの言葉に頷いてみせた。


「・・・・・・よし、二人の両親を探そうぜ」


ラピードの様子を見ていたユーリが立ち上がり皆を促すと、上空から鳥の鳴き声のようなものが聞こえてくる。


「今のフェローの?」


エステルは空を見上げ言った。


「やっぱりフェローはこの砂漠にいたんだ!」
「急かすなって。あの子供たちからの依頼が終ったら、存分に相手してやるからさ」


ユーリはどこかにいるであろうフェローにそう言うと手をひらひらと振った。















「う、もう水がない・・・・・・」

ちょうど、砂漠の中央辺りに着いたころだろうか、カロルが自分の水筒を逆さに振り、そう呟いた。
はカロルに近寄り、自分の水筒を手渡す。


「これ、飲んでいいよ。
 私そんなに喉渇いてないから」
「ありがと、


カロルは目を輝かせてにお礼を言った。


「ちょっと・・・・・・このへんで・・・・・・休憩に、しない・・・・・・?」


リタが体をほぼ半分に折り曲げ、膝に手をつき、苦しそうに息を吐く。
エステルや毛に覆われているラピードも熱がこもるのだろう、非常に辛そうにしている。


「まったくしょうがないねぇ」


そんなときにもレイヴンは元気なもので、再び宙返りをしてそう言った。
そんなレイヴンを横目に映しつつ、はどうしたものかと考え始める。
しかしその時、「あ〜!」とカロルが突然叫び、奥に向かって走り出した。


「お?ついに一人壊れた?」
「水っ!」


カロルが向かった先にはオアシスがあったらしく、リタもそちらを億劫そうに見たが、次の瞬間には目を輝かせてカロルの後に続いた。


「あ、ちょっと、気をつけて、砂に足をとられたら危ないですよ!」
「なんだよ・・・・・・まだ元気じゃねえか」


エステルもリタの後を追って走って行ってしまったのでユーリは呆れて溜息を吐いた。


「おっさんも行くか!」
「みんなして、力の出し惜しみしやがって」
「あはは、あんだけ元気ならまだ大丈夫そうだね」


レイヴンの走っていく姿も見送ると、ユーリは肩を落としたが、がユーリの隣に並び、そう言ったので、ユーリはそうだな、と返した。