「よ、よく来てくれました。あ、ありがとうございます。
 とりあえず、こちらへ」


ユーリ達が闘技場の受付のところに行くと、入り口の丁度右手にラーギィは立っていた。
話しかけると、ラーギィは階段裏の暗がりに案内するので、ユーリ達はそれについて行った。
皆が階段裏に入ったのを確認すると、ユーリは話を切り出す。


「受けるかどうかはまだ決めてないぜ。話を聞いてからだ」
「じ、実は、戦士の殿堂を、の、乗っ取ろうとしてる男を倒していただきたいんです」
「乗っ取り・・・・・・!?」
「この街を!?」


ユーリの言葉に、頷き、ラーギィは話し始めたが、その内容に、エステルとカロルが驚きの声をあげた。


「いきなり、物騒な話ね、それ」
「でも、なんであんたがそれを止めようとしてんの?
 別のギルドの事だし、放っておけば良いじゃない」


リタの言葉ももっともな話だ。
戦士の殿堂のことなら、戦士の殿堂で処理するだけのことだ。
そうするだけの力がベリウス率いるギルドにはある。


「パ、戦士の殿堂には、と、闘技場遺跡の調査を、させてもらっていまして」
「そっか、そういや、この街、すっごく古いんだよね」
「も、もし別の人間が上に立って、こ、この街との縁が切れたら、始祖の隷長に申し訳ないです」


は始祖の隷長という、その言葉に、目を細めた。
まさかラーギィの口からその言葉が出るとは・・・・・・。
やはりこの男は注意した方がよさそうだ。
はさり気なくレイヴンの後ろに寄った。


「始祖の隷長ってなに?」
「あ、すみません・・・・・・ご、ご存知ないですか
 こ、この街を作った古い一族で、我がギルドとこの街の渡りをつけてくれたと聞いています」


カロルの問いにラーギィは答えた。
ユーリは顎に手をあて考え込む。


「ふーん、古い一族・・・・・・ね」
「それって・・・・・・クリティア族のこと?」


ギルドの仲間であるジュディスはクリティア族だ。
クリティア族であるなら、何か知っているであろうとカロルは彼女をみる。
しかし、ジュディスがその問いに答えようとすると、レイヴンがラーギィに、


「んで、どこの誰なのよ、その物騒なヤツって」


と、尋ねた。


「と、闘技場のチャンピオンです」
「はあ?なに、それ?」
「や、奴は大会に参加し、正面から戦士の殿堂に挑んできたそうです。
 そ、そして、大会で勝ち続け、ベリウスに急接近しているのです。
 と、とても危険な奴です。ベリウスの近くからは排除しなければ・・・・・・」
「そりゃ、戦士の殿堂も、追い出すに追い出せないわ」


正規の手続きを踏んで、勝ち続けているのならば、戦士の殿堂も文句は言えまい。
たとえそれが危険な輩であったとしてもだ。
レイヴンは手を顎にあて摩った。
暫くしてユーリはラーギィを見る。


「で、早い話が、オレたちに大会に出て、そいつに勝てって話なんだな」
「え、ええ、きょ、恐縮です」
「まわりくどい・・・・・・」


リタは話のややこしさに目を半眼にさせ唸った。


「そいつの目的って本当に闘技場の乗っ取りなわけ?」
「もも、もちろん、おお、男の背後には、海凶の爪がいるんです!」


ユーリ達はラーギィのその言葉に驚愕して目を見開く。
海凶の爪と言えば、ユーリ達の行く先々で暗躍していたギルドの名前だ。


「海凶の爪は、この闘技場を資金源にして、ギ、ギルド制圧を・・・・・・!」
「キュモールの野郎あたりが考えてそうな話だな・・・・・」
「まさか・・・・・・」
「キュモールと海凶の爪は繋がってる。
 さて、藪をつついたら何が出るか・・・・・・」
「どちらにせよ、海凶の爪が関わっているなら止めないと!
 帝国とギルドの関係が悪化するばかりです」


エステルは拳を握り締め、前のめりにそう叫んだ。
エステルのその様子に呆れ、ジュディスはエステルに声をかける。


「フェローはどうするの?こんなのじゃいつ会えることか」
「で、でも・・・・・・」


さっきまでの勢いはどこへやら、エステルは顔を暗くさせ俯いた。


「あなた、本当にやりたい事ってなんなの?」
「本当にやりたいこと・・・・・・」
「あ、あの、すみません。難しいでしょうか?」
「難しくはないわ」
「え?」


ラーギィに対しジュディスが言った言葉に、エステルは驚いて顔を上げる。
ジュディスはカロルの方を見やり、小首を傾げる。


「やるんでしょう?話を聞いてしまったし」
「う、うん。ギルドとしても放っておけない話、かもしれないし・・・・・・」


話はまとまった、とレイヴンは耳の中をほじると、皆に声をかける。


「んじゃ、誰が出るわけ?」


レイヴンの言葉に、カロルが皆を振り返る。
その時、突然、ラーギィがの方を向き、


「そ、そちらのお嬢さんはでないので・・・・・・?」


と、言った。


「え、私?」
「そういや、ちゃん、こういうの好きだっ・・・・・・
 ・・・・・・あだぁっ!」
 

はレイヴンの話の途中で思いっきり彼の足を踏んづけた。


「ちょ、ちゃん。足、足踏んでる」
「余計なこと言わないで」


はレイヴンの耳にそう囁き、奥のほうに彼を引きずっていく。


「で、でもちゃんお祭り好きでしょ!?」
「そうだけど、今はダメなの」


小さい頃お祭りに良く引っ張っていかれたし、とレイヴンが言うのには頷くが、先ほど大人しくしようと誓ったばっかりだ。
特にラーギィが関わっているとなると、これは出ない方が良いに決まっている。
自分の勘が当たることを確信しているはユーリ達の所に戻ると、ラーギィに首を振ってみせた。


「私は出ないわ。
 楽できるところは、楽したい性質なの」


ユーリが呆れた顔でおいおい・・・・・・と呟いていたが、カロルはに小さく頷き返す。


「もとよりにはお願いできないよ。
 これは遺構の門に対して凛々の明星が受ける話だもん」
「それじゃあ・・・・・・」
「悪ぃけど、ジュディと、どこかでぶつかるのは勘弁だな」


エステルの言いかけた言葉を遮り、ユーリはジュディスを振り返る。


「あら?私はやってもよかったのに、残念。今回はおとなしくしてるわ」
「首領が出るまでもない。オレで良いだろ?」


ユーリは今度はカロルの方に顔を向けた。


「あ、う、うん・・・・・・」
「あの・・・・・・お、お引き受けくださるので・・・・・・」


ラーギィが会話が途切れた隙を見計らって声をかけてきた。
ユーリはそれに振り返り、頷いてみせる。


「ああ。チャンピオン倒しゃギルドの名もあがるしな。
 オレ達にとっても悪い話じゃない」
「うん、そうだね・・・・・・」


カロルもそれに頷く。


「では、じゅ、準備が出来たら、う、受付で、手続きしてください」


ラーギィはそう言うと、こちらに背を向け、光の当たるほうに去っていく。
はその背中が消えるまで、顎に手をやり、じっとそれをみつめていた。















は闘技場の観客席で、下を食い入るように見つめていた。
下では何故か、ユーリとフレンが戦っている。
というのも、ユーリが闘技場で3連戦して雑魚を片付け、チャンピオンとの対戦だというときに、フレンがその入り口から出てきたのだ。
間違いなく、フレンが無敗と名高い現チャンピオンであるなら、ベリウスに近寄る危険な奴なはずなのだが、どうもそうは思えない。
やはり、ラーギィという男は温厚そうにみえて、油断のならない男であったらしい。
はもっと注意すればよかったと、後悔した。
それで現在、成り行きのままにユーリとフレンは友人同士で戦うはめになり、剣を打ち合わせているのだ。

それにしても、ユーリとフレンは強い。
は魅入るようにその戦いを見つめる。
ユーリが剣を走らせると、フレンが盾で防ぎ、フレンが前方に剣で強く突くと、ユーリが後方に跳んで避ける。
剣と剣を十字に重ね合わせて睨み合い、剣と剣とを打ち合わせ、踊るように跳ぶ。
どちらも引かない、その様は美しい戦神の戦いを見ているようであった。
また、その実力は拮抗していて、お互い、どこかその戦いを楽しんでいるように見えた。


「やっぱりおもしろそう・・・・・・」


はつい、本音を漏らす。
その言葉を聞きつけたのか、レイヴンがほらやっぱり、という様な顔で見てくる。
はレイヴンを睨みつけようとしたが、闘技場の奥のほうから、殺気のようなものを感じ、そちらに鋭く目を据える。
そこには観客を掻き分けて進む、いつぞや船で戦ったザギがいた。
海から飛び降りて行方は知らなかったが、どうやら生きていたらしい。
ザギは観客席の縁から身を乗り出し下に向かって叫ぶ。


「ユーリ〜〜〜・・・・・・ローウェル!」
「あれは・・・・・・!」


ザギがユーリの方に向かって飛び降りる際、その腕の異様な姿に気付いたは口に手をあて声を上げる。
すぐさまジュディスの方を見て、頷くと、観客席の縁に飛びついた。
ザギの腕は魔導器に改造されていて、それに何個も魔核が取り付けられていた。
魔核は鈍く不気味に光り、ザギの狂気ともいえるその姿をいっそう引き立てる。


「うわっ、あれ何!?」
「魔導器よ!あんな使い方するなんて・・・・・・!」
「なんか気持ちが悪くて、動悸がするわ」


カロルとリタもそれに気付き、驚いた声を上げたが、レイヴンは暗い顔をして胸を押えた。
それを聞きつけたはレイヴンに素早く駆け寄る。


「レイヴン、まさか・・・・・・」
「いやいや、大丈夫よ。気のせいだったみたい」
「そう・・・・・・?無理はしないでね」


が心配そうにそう言うと、レイヴンはを確固たる眼差しで見つめ、頷いた。


「あ、ジュディス!」
「ちょっと何なのよ・・・・・・!」


ジュディスが険しい目つきをして、観客席の縁から飛び降り、ザギの方に走っていってしまったので、カロルとリタは慌てて後を追って飛び降りる。
とレイヴンもすぐに後を追うと、ユーリの隣に並んだ。


「どうだ、この腕は?おまえのせいだ。おまえのためだ!くくくく!」


ザギは見せびらかすかのように、その腕をぶらぶらさせる。
はその腕の魔導器を厳しい目で凝視した。
魔核には複雑な術式が刻まれ、それ自体が生きているかのように、明滅を続ける。
やはりあれは、このまま放置してはいけない物のようだ。
ザギをキッと睨むと、は武器を取り出し、構えた。


「さぁ、この腕をぶちこんでやるぜ!ユーリ!」
「しつこいと嫌われるぜ!」


ザギが自分に向かって踏み込んできたので、ユーリは武器を構え、走り出し、それを受け止めた。
しばらく、ユーリはそのままザギと二人で打ち合いを続ける。
ユーリとザギのその戦いは、拮抗していて、なかなか達は手を出せずにいた。
はザギの腕をじっと見つめると、リタを振り返る。


「リタ!!あの腕の魔導器を狙って術撃てない!?」


その声にリタは驚いての顔を見る。


「あんたも術つかえるでしょ!」
「私じゃ無理よ!攻撃魔術のコントロールにはあまり自信ないの!」
「・・・・・・しょうがないわねっ!」


リタはそう言うと、術の詠唱を始めた。
リタが放ったファイアボールが見事にザギの腕の魔導器に当たると、魔導器は黒い光を発し、爆発した。


「むっ・・・・・・ぐわぁっ!!」


ザギが腕を押えて蹲る。
魔導器は黒く光る筋を発しながら、明滅を激しく繰り返し始めたが、「魔導器風情がオレに逆らう気か!」とザギが腕を振り上げると、その光を衝撃波に変え、辺りに飛び散った。
光が収まった瞬間、そこにはどこからか出てきたのか、大量の魔物が姿を現していた。


「ま、魔物!」
「どうして、こんなところに!?」
「見世物のために捕まえてあった魔物だ!」


魔導器が放った光は、闘技場にはってあった魔物を閉じ込める為の結界魔導器を壊したらしく、魔物は次から次へと現れ、ユーリ達を囲む。
は武器を構えると、それらを見据え、牽制した。
その鋭い眼光に魔物達は一瞬怯み、後退る。


「ユーリ、ここは頼む!」


フレンには魔物が何故怯んだのか分からなかったが、ユーリに声をかけると、その隙にどこかに向かって走り出した。


「え、あ、おい!」


同じく、魔物の行動に訝しげに首を捻っていたユーリだが、フレンの言葉に彼を振り返り、声を上げる。
その時、


「ぐわあああっ・・・・・・!」
「逃がさないわ・・・・・・!」


やはり、魔導器を制御しきれなかったのか、ザギが苦痛の声をあげ、闘技場の外に向かって走り出した。
ジュディスはそれを追おうと、走りかけるが、魔物と対峙していたエステルが「きゃっ!」と悲鳴をあげ自分の前に弾き飛ばされたのを見て、足を止める。
ユーリはエステルを弾き飛ばした魔物に切りつけると、ジュディスを振り返った。
ジュディスは逡巡したが、槍を構えると、魔物に切りかかっていった。


「ちっ、魔物の掃除が先だな」


ユーリはエステルが起き上がるのを確認すると、そう言って、走り出す。
エステルも頷くと、魔物に立ち向かっていった。










「こりゃ、ちょいとしんどいねえ」
「口じゃなくて、手動かして」


ユーリたちは全力をもって魔物の相手をしているのだが、如何せん、魔物の量は思ったより多く、なかなかその数は減らなかった。
も全力ではないものの、自身の武器である針を魔物に投げつけて、相手をしていたのだが、その量に閉口し、肩をわなわなと振るわせ始めた。


「ああ、もうまだるっこしいっ!!!!」


はついに痺れを切らし、髪を盛大にかきあげイヤリングをはずすと、それを上に突き上げ詠唱を始める。


宙に耀ける白銀の星々よ――


その詠唱にあわせて、胸の前で握った手から光があふれ出す。
その光は徐々に勢いを増し、の周りを取り巻き、風となって上昇する。
白銀の髪はその風に吹き上げられ、周囲に舞い踊る。
その様は神々しくもあり、どこか空恐ろしい雰囲気も感じさせられた。

ユーリ達は唖然として、その光景を遠巻きに見つめる。
リタは拳を握り締め、食い入るようにを見つめていた。


が詠唱を終え、紫翠の瞳で鋭く敵を睨んだその瞬間、の荷物から、眩い光が発せられ、小箱が宙に浮き上がった。


「な、なに?」
「ちょっと・・・・・・どういうこと!?」
「あれは・・・・・・」


がカロルとリタの驚くような声に振り返ると、宙に浮く小箱を凝視した。
しまった、と思ったときにはもう遅く、発動を取り消しても、小箱は光を発し続ける。
はとりあえず、仕舞おうと、紅の小箱を手に取ろうとしたが、その時、横合いから影が飛び出してくる。
その影はラーギィであった。
ラーギィは箱を素早く奪うと、闘技場の外に逃げ出していった。


「あいつ!」


はそう叫ぶと、ラーギィを追いかけるために脇目もふらず走り出した。
横にはジュディスとラピードが並走するのが見える。
はジュディスに頷くと、進行を邪魔するすべての敵に対して、渾身の力をもって薙ぎ倒していった。


「ったく、あの力をもっと普段からだしやがれってんだ・・・・・・」


ユーリはの後姿を見送ると、肩を落とし、そうぼやいた。


「騎士団に告ぐ!ソディアは小隊を指揮し、散った魔物の討伐に当たれ!
 残りは私と、観客の護衛だ!魔物は一匹たりとも逃がすな!」


フレンがいつのまにか司会席に上がったのか、マイクを持って騎士団に指示を飛ばす。


「ちゃんと隊長らしさも板についてんじゃねえか」


ユーリは上を見上げ、満足げに口の端を持ち上げると、カロルたちを振り返る。


「オレたちは行くぞ」
とジュディスと犬っころが先にいったわよ」
「ああ」


ユーリはリタに頷き走り出す。
「やれやれ・・・・・・」と腰に手をあて、頭をぽりぽりと掻いていたレイヴンは、当然のごとく置いていかれる。


「ちょっと待てよ、おいってば」


レイヴンはユーリ達の背にそう叫び、あわてて後を追った。