戦闘は思ったよりもあっけなく終わり、ユーリ達は息も切らさずに甲板に立っていた。
やはり、の活躍が効いたのであろう。
彼女が細く鋭い針を何本もその指に挟み、それを魚人の群れに向かって一斉に投げると、その針が当たった魚人達は、雷が当たったかのように1回跳ね、すぐにそのまま動かなくなったのだ。
どういう原理だかは分からないが、いつも今みたいにやる気を出してくれれば、自分達の戦闘はもっと楽になるのではないかとユーリは深く息を吐く。
が船室に避難していたカウフマンを呼びに行くと、カウフマンは甲板を見渡し、嘆息した。
「さすがね。私の目に間違いはなかったわ」
「とほほ・・・・・・凛々の明星はおっさんもこき使うのね。
聖核探したりと、色々やることがあるのに・・・・・・」
はレイヴンが溜息を吐きながら漏らした言葉に鋭く視線を送る。
「仕事って、聖核を探す事だったの?」
「そうよー。
あれ、もしかしてちゃん何か知ってるの?」
「何に使うの?」
はレイヴンの質問に質問で返す。
レイヴンは顎に手を当て暫く考えると、
「ドンに言われただけだから、おっさんは何も知らんよ」
と言った。
その言葉には眉を顰めて俯く。
「ドンが・・・・・・」
「・・・・・・?」
ユーリがのその様子にどうしたのかと声をかけようとすると、さっきまで晴れていたのが嘘のように、あたりは突然白い霧に包まれ始めた。
「霧が深くなってきたわよ、なんだか」
「不気味・・・・・・」
「こういう霧ってのは大体、何かよくないことの前触れだって言うわな」
「や、やめてよ〜」
レイヴンが呟いた声に、カロルは頭を抱えしゃがみこむ。
「余計なこと言うと、それがホントになっちまうぜ」
ユーリがからかうように皆に声をかけると、何か、奇妙な音が前方から聞こえてくる。
不審に思い、霧の中に目を凝らすと、いつのまに接近したのか、巨大な帆船が目の前に現れた。
「あっ!前、前!」
「これは・・・・・・ぶつかるわね」
「きゃぁああああ」「うわぁああああ」
必死に進路を変えようと頑張っては見たが、その努力はむなしく、横付けになるように船同士はぶつかり、音を立てて止まった。
その音と衝撃に驚いたのか、船室に行っていたカウフマンが出てくる。
「何・・・・・・!?」
「古い船ね。見たことのない型だわ・・・・・・」
「アーセルム号・・・・・・って、読むのかしら」
リタとジュディスが船に近寄り、調べるが、船は古く痛んでいて、とても人がいそうには見えなかった。
その時突然、アーセルム号からこちらの甲板にむかって渡り板が降りてきた。
人影がまったく見えないのに、だ。
その異様な光景にリタとカロルが悲鳴をあげ、後退る。
「ま、まるで・・・・・・呼んでるみたい」
「バ、バカなこと言わないで!フィエルティア号出して!」
カロルの言葉に声を震わせながらリタはトクナガに駆け寄る。
船同士がぶつかったときから駆動魔導器を見ていたトクナガは申し訳なさそうに首を振る。
「駆動魔導器が動きません!」
「え?」
リタは急いで駆動魔導器に近寄って調べるが、確かに、魔導器は動力を停止していて動きそうにない。
「いったい、どうなってるのよ」
「原因は・・・・・・こいつかもな」
ユーリは傍にある船を見上げた。
レイヴンはにやにやと笑みを浮かべている。
「うひひひ。お化けの呪いってか?」
「そんな事・・・・・・」
「入ってみない?面白そうよ。
こういうの好きだわ。私」
「何言ってんの・・・・・・!」
「原因わかんないしな。行くしかないだろ」
リタが怖がって声を上げるが、ユーリはこのまま船に止まるよりは、とアーセルム号の探索を決断した。
しかし、フィエルティア号を放っては置けないので、4人だけが探索にでることを提案し、ユーリは辺りを見渡した。
「あれ、は?」
お姫様を未知のところに連れていくわけにはいかないので、治癒術の使えるに来て貰おうと思っていたのだが、甲板にいるのはを除く仲間とカウフマンとトクナガのみでの姿は見あたらなかった。
「そういえば、さっきからいませんね・・・・・・」
ユーリの言葉に、仲間全員が辺りを見回した。
レイヴンはぴんと閃き、船の裏側を見やると、アーセルム号から反対側、船室の裏の方に銀の髪が靡いてるのを発見した。
半ばうきうきとそちらに向かい、を甲板まで引きずってくる。
は無抵抗のまま引きずられてきたが、アーセルム号を目に映すと、勢いよく目を逸らした。
「わ、私は行かないわよ!
男4人で行ってきなさい!」
「ちゃん、またおっさん働かせるの・・・・・・」
「たまには働かないと、腕がなまっちゃうわよ!」
「それ、おまえが言うのか・・・・・・」
ユーリはがっくりと肩を落とした。
「とにかく、私はエステル達とここで待ってるから、早く行ってらっしゃい」
「あら、私は面白そうだし、行ってみたいわ」
「ダメダメ、かわいいジュディスを男共の中に放りこめないわ!」
乗り気なジュディスに釘を刺し、とくにレイヴンには近寄っちゃダメよ、とは続けて言う。
「あら、そう?」
「ちゃん、それおっさん傷つくわ・・・・・・」
レイヴンは顔に手をあて泣く真似をする。
はそれを無視して、ユーリ、ラピード、カロル、レイヴンを一まとめにすると、船の方に押し出した。
「ほら、さっさと行く!」
「・・・・・・しょうがねえな。んじゃ行ってくる」
「皆さん、お気をつけて。駆動魔導器が直ったら発煙筒で連絡しますね」
「サンキュ」
ユーリ達男4人は、に強引に押し切られる形で、アーセルム号に乗り込んでいった。
「何が悲しゅうて、野郎どもと幽霊船なんか・・・・・・」
船の内部を少し進み、鏡の間のような通路に差し掛かると、レイヴンがそうぼやいた。
ユーリは呆れたようにレイヴンを振り返る。
「それはこっちのセリフだ。
どうせならエステルやと・・・・・・」
「ああ、ダメダメ。嬢ちゃんは知らないけど、ちゃんは死ぬほど怖いの嫌いだから」
「それならなおさらじゃないのか?」
「青年がその気ならおっさん止めやしないけど〜」
レイヴンの含みのある言い方に、ユーリは首を傾げる。
「なんかあんのか?」
「ん〜。きゃ〜とか言って抱きついてくるならともかく、
ちゃんの場合怖さのあまり、所構わず武器を投げまくるから・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
ユーリの脳裏に、先ほどの戦闘の際の魚人の姿が浮かんだ。
レイヴンも何かを思い出したのか、体を縮ませ、小さく身震いをする。
「あれは大惨事だった・・・・・・」
レイヴンは遠くを見つめ、うんうん、と頷いた。
ユーリはそれを見て、今後は絶対怒らせまいと固く心に誓った。
ユーリ達が帰ってくるまでの間、は何か楽しい事を考えようと、悶々と考え込んでいた。
もちろん、アーセルム号から一番遠く離れた、フィエルティア号の反対側の船の縁まで下がってだ。
しかし何もいいものが思いつかず、エステル達と話をして紛らわそうと周りを見たが、リタは依然として魔導器をいじっているし、エステルはそれを面白そうに覗き込んでいた。
じゃあ、ジュディスと・・・・・・と甲板の上を探そうとしたとき、何かギギィ・・・・・という音が聞こえてくる。
音が聞こえる方、アーセルム号の上方を見ると、一本の大きいマストが大きな音をたてて倒れていくのが見える。
マストは他の柱をも巻き込み、アーセルム号の甲板を突き破ると、そこでやっと止まった。
幸いこちらには倒れてこなかったのだが、船同士が隣接していた為、振動がこちらまで伝わってくる。
達は船から振り落とされないよう、手近な物に掴まった。
「ツツ・・・・・・何があったの?」
「突然マストが倒れるなんて・・・・・・」
振動が収まり、辺りが静かになったのを確認すると、は顔を上げた。
皆は大丈夫かと、周りを見渡したが、特に被害はなく、皆無事のようだ。
しかし、直接被害のあったアーセルム号のほうはどうだろうか。
は探索の為に乗り込んでいったユーリ達を思い、アーセルム号を振り返った。
「ユーリ達、大丈夫かなぁ・・・・・・」
「今の衝撃で無事とは言い切れないわね。
放っておけないと思うのだけれど、ダメかしら?」
の言葉にジュディスがそう答えた。
しかし、カウフマンが気難しげな顔をしてこちらに近寄ってくる。
「ちょっと。船の護衛はどうすんの」
「大丈夫、私はここに残るから。
行くのはジュディスとエステルとリタだけよ」
「え?は行かないんです?」
「ユーリ達のこと心配だけど、見に行くだけなら3人でも十分だし、
何にしても船の護衛は必要でしょ?」
はエステルにそう説明すると、カウフマンに向き直る。
「と、いうことだから、護衛は私一人で勘弁してね?」
「はぁ・・・・・・。しょうがないわ・・・・・・」
カウフマンは小さく溜息をついた。
トクナガがエステル達にむけて「皆さんお気をつけて」と声をかける。
エステル達はいってきます、とこちらに軽く会釈をすると、渡り板を越えてアーセルム号に乗り込んでいった。
彼女達の背を見送ると、は甲板に座り込み、幽霊船にいかなくてすんだ事にほっと安堵の息を漏らした。
しばらくして、中で無事合流できたのか、ユーリ達が全員船の中から出てきてこちらに手を振った。
先ほど、駆導魔導器が直った事を知らせる発煙筒をトクナガが打ち上げたばかりなので、それを見て出てきたのであろう。
大して心配もしていなかったが、ユーリ達の無事を確認して、は顔を綻ばせた。
「おかえりなさい。駆動魔導器、直ったみたいよ」
「みたいだな」
「まったく次々トラブルに巻き込まれて・・・・・・
ここに残ったのが私じゃなかったら、あんたたち置いてくわよ」
カウフマンが頭をかきながら、アーセルム号からフィエルティア号に戻ってきたユーリ達にそう言った。
「そりゃ悪かった。今後の教訓にするよ」
「まったくもう・・・・・」
「駆動魔導器が壊れてた原因はなんだったのかしら?」
「それが、急に動き出して・・・・・・」
そう、あれほど何やってもうんともすんともいわなかった魔導器は、エステル達が行って暫くすると、突然動き出したのだ。
不思議に思い、も魔導器に寄って調べたが、原因はまったく分からなかった。
「やっぱり、呪いってやつ?」
レイヴンは何故か凄みのある顔をして、そう言った。
はその顔を目に映したが、すぐに目を逸らす。
「きっと、アーセルム号の人が澄明の刻晶を誰かに渡したくて、わたしたちを呼んだんですよ」
「ん?何それ?」
エステルの方に顔を向けると、彼女が見知らぬ小箱を手に持っているのに気付き、は首を傾げ、尋ねる。
「船の中にあったんだ。ヨームゲンっていう街に届けに行こうと思って」
「ヨームゲン・・・・・・?」
「ちょっとそれ、みせてもらえる?」
「はい」
エステルから小さな紅の小箱を受け取ると、は目の前に掲げてみる。
小箱の中には何か入っているのか、ちょっとした重量が手にかかる。
それをじっと見つめていると、自分の手の平に、微量ながらもエネルギーが流れ込んでくるのが感じられた。
はそれに驚き目を見開く。
「・・・・・・これは・・・・・・」
「ん?何かわかったのか?」
ユーリが怪訝そうにこちらを見てきたが、は小さく首を振る。
「ううん、なんでもないわ。
でも、そうね・・・・・・・。これ、私が持っててもいい?
もしかしたら開けられるかも」
「そうなのか?」
「うん」
「じゃあが持っていてください」
「ありがと」
はエステルにお礼を言うと、自分の荷物の中にその小箱を仕舞った。
その後、カロルを振り返る。
「それで、ヨームゲンだっけ?」
「うん、結界を作る為に澄明の刻晶が必要らしいんだ」
「船長室で、白骨化した遺体が大事そうに持っていたんよ」
レイヴンはそう言い、うひひ、と面白そうに笑う。
は頭に浮かんでしまった光景を目を閉じ頭を振って打ち消した。
ヨームゲンは、以前デュークに連れて行ってもらったことがある。
しかしそれはフェローによって作られる幻であったはずだ。
実はそれは幻ではなくて、実在する街であったのだろうか、とは首を傾げる。
「まぁ、なんらかの意思が働いたのは間違いなさそうね」
そうじゃないと、一連の謎に説明がつかないし、とは続ける。
「あるはずない!死んだ人間の意志が働くなんて・・・・・・」
「扉は開かなくなる、駆動魔導器は動かなくなる、呪いっぽいよな」
「違うったら、違うの!」
とユーリの言葉にリタは大きく首を振り、叫ぶと、やつあたりよろしく目の前にあったカロルの頭にチョップをした。
カロルはその痛さのあまり、頭を抑え、その場にうずくまる。
「なんで、ボク・・・・・・」
「でも、皆無事でよかったです」
トクナガがその光景にも動じず声をかけた。
ユーリはそれに肩をすくめる。
「うちの首領が、無事じゃないけどな」
「ほら、さっさと出るわよ。ノードポリカに行くんでしょ」
「そうね、そろそろ向かってもらえると私も嬉しいわ」
カウフマンはトクナガを振り返り、彼に船を出すよう合図をした。
|