次の朝、一番に目を覚ましたは体が軽くなってるのを感じ、んー、と大きく背伸びをした。
どうやら熱も下がったらしい、昨日までのけだるさが嘘のようになくなっていた。
はこれで、皆に迷惑かからないぞ、とにっこりと微笑む。
心配をかけてしまった皆の為に、モーニングティーでも用意するかと、はまだユーリ達が寝ているのを確認し、音を立てないように、扉の方に向かう。


「もう平気なのか?」
「・・・・・・!」


不意に後ろからかかった声に、は吃驚して身を竦ませる。
後ろを振り返ると、ユーリがいつのまにかに起き上がり、こちらを見ていた。


「なんだ、ユーリか・・・・・・」
「なんだとはなんだよ。・・・・・・おまえ熱下がったのか?」


ユーリはソファから立ち上がり、の傍まで歩いてくると、の額に手を当てた。
自分では治ったつもりだが、これでだめだと言われたらどうしようと、は内心ドキドキする。


「・・・・・・大丈夫そうだな」
「でしょでしょ、治りの早さだけは自信があるんだ、私」
「ずっと寝込んでいたやつの言う台詞じゃあないな」
「うっ・・・・・・」


は痛いところをつかれ、言葉に詰まる。
ユーリは深く溜息をついた。


「で、おまえ、何しようとしてたんだ?」
「あ、うーんとね、皆に心配かけちゃったし、御礼に飲み物でも用意しようかなって」


朝起きて飲んだら、すっきりするでしょ、とは続ける。


「そうだな・・・・・・じゃあオレもありがたくいただくとするか」
「任せなさいって!
 よっし、ユーリにはホットココアでも用意しますか!」
「ん?なんでココア?」


ユーリは訝しげにの顔を見る。


「やだなぁ、私にばれてないと思った?ユーリが甘い物好きなの」
「・・・・・・っ」


ユーリは図星をさされ、口をぱくぱくさせると、の顔から目を逸らした。
はうふふ、と笑うと、今度クレープも作ってあげるね、と手をひらひら振って言い、扉の方に向かった。















皆に飲み物を振舞い、カップを片付けようと、は階下に降りた。
宿屋の入り口の左側にあるソファでは、宿泊客であろうか、身なりの良い老夫婦がひそひそと何かを話していた。
彼らの顔色に、何か良くない事があったのかと、はその話にさりげなく耳を傾けた。
その話によると、どうやらここ最近、街からどんどん人が消えていっているらしい。
しかもその消える人々が皆、労働者階級だということに、は眉を顰める。
これはユーリ達にも知らせたほうがよさそうだ。
は宿屋の主人にカップを返すとすぐに踵を返した。





「ってことで、ノール港であったティグルさんだっけ?
 あの人もいなくなっちゃったみたいよ」
「あの噂、本当だったんだ・・・・・・」
「そんな・・・・・・」


は部屋に戻ると、老夫婦から聞いた話をそのままユーリたちに話した。
その内容にカロルとエステルは顔を暗くするが、ユーリとジュディスは黙って話を聞いていた。


「それで、怪しいと思うのが、結界魔導器の前にある関係者立ち入り禁止の昇降機なんだけど・・・・・・
 どう思う?」
「確かにあれ、怪しいよね・・・・・・」


カロルがそう答えると、ユーリは剣を肩に担ぎ、「ま、とにかく見に行ってみようぜ」と部屋の外に向かった。










宿屋を出て、昇降機前に辿り着いたはいいが、そこには見張りの騎士が立ちふさがっていた。
あれをどうにかしないと、昇降機は使えそうにない。
強行突破が単純で効果が高いとは思うが、カロルにそれだけは止めて、と泣きそうな顔で止められたので、ユーリ達はどうしたものかと考えていた。


「とにかく見張りを連れ出せればいいんだよ」


明確な案が出ないまま、しばらく時がすぎると、カロルが小さくそう呟いた。
その言葉にエステルはカロルを振り返る。


「どうやってです?」
「・・・・・・色仕掛け、とか?」
「色仕掛け!?」


はカロルからそんな言葉が出るとは思っていなかったので驚いて目を瞬いた。
しかし、その案はおもしろそうだ。
は悪戯を思いついた子供のような目をしてユーリを振り返る。


「ま、ジュディが妥当だよな」
「えぇー!!!」
「そうね、私が妥当よね」
「なに、その自信・・・・・・?」


ユーリはの視線を無視すると、ジュディスを見た。
ジュディスはその視線をうけ、任せてと言うがごとくに頷いて見せた。
私もやってみたいのに・・・・・・とは恨みがましい目つきでユーリを睨む。


「おまえは病み上がりなんだから大人しくしてろ」
「そうよ、大人しくしてなさい」
「うう・・・・・・」


大人組み二人にそう言われては黙るしかない。
はしょぼんと肩を落として噴水の縁に座り込んだ。


「じゃ行きましょ」
「どこ行くんです?」
「もちろん、ドレスを買いに行くのよ。
 この服装じゃ、色仕掛けなんてできないもの」
「十分だろ」
「それは私のプライドが許さないわ」
「よくはわかんねーけど、服を買いに行くんだな」
「じゃあ、お店だね」


ふてくされた自分を置いて進むその会話に、はちらりと目をやった。
確かにジュディスの服装は露出が高く、それだけで色仕掛けは出来そうだと思う。
しかしそれはジュディスのプライドが許さないらしく、お店に服を買いに行く事になった。
再びは悪戯を思いついたような目をして不敵に微笑むと、るんるんとした気分でユーリ達の後に続いた。










「うーん、これかなー」

はジュディスが服を選んでいる隙に、部屋に戻ると、自分の荷物をごそごそ漁り、目当てのものを見つけ、取り出した。
それをいそいそと着込み、部屋に取り付けられた鏡でチェックすると、ユーリ達のいる1階に向かって降りていった。

階下に降りると、ジュディスももう服を選び終わっていたらしい、いつもとちがう、さらに大胆な服を身につけユーリ達の目の前でポーズを取っていた。
自分も負けちゃいられないと、はジュディスの横に飛び出し、ポーズをとった。
ちょっと長めのシャツをワンピースみたく緩めに着込み、胸元のボタンを大胆に開けた格好でくるっと回転してみせる。
その遠心力で、ふわりと捲れたシャツの隙間から、際どく白い太ももがちらりと見える。


「ふふん、どう?」
「・・・・・・・何をしに部屋に戻ったかと思えば・・・・・・・」
「あら、素敵ね」
「わぁ、、素敵です!」
「ちょっ、、それって・・・・・・」


は一部のやつらの言葉は無視して、でしょでしょ、と満足げに微笑む。
ユーリは額に手をあて、盛大に溜息をつく。


「大人しくしてろと言ったのに・・・・・・」
「ユーリが無視するから意地悪しただけよ。
 色仕掛け作戦はちゃんとジュディスに任せるわ」


はユーリの顔を覗くと、くすりと笑い、片目を瞑った。
一部始終を見届けたジュディスは、自分の胸の前に手を当てると、「じゃあ、行くわよ」と宿屋の出口に向かって歩き出した。
ユーリは慌ててジュディスを止める。


「ちょっ・・・・・・本当にそれで行くつもりか?」
「え?どこかおかしいかしら?」
「どこかって全部・・・・・・。
 ・・・・・・ま、いっか」
「うんうん、ジュディスならもうそれだけで悩殺よ。さあ行こー!」
「その前に、おまえはその格好なんとかしてな」


がジュディスに続いてそのままの勢いで飛び出していこうとするのを、ユーリは呆れたような顔で止めた。















ジュディスの色仕掛け作戦は大成功で、見張りの騎士を噴水裏に連れ込み、気絶させ、騎士の服を手に入れることが出来た。
しかし、その後カモフラージュ用に騎士の格好をさせたユーリが、詰め所で暴れる魔導士を押えるのを手伝えと言ってきた騎士に何故かついていってしまったのだ。
心配した達は、後を追ったが、騎士団本部の詰め所は煙が立ちこめていて中がどうなっているか分からない状態だった。
部屋に立ち込める煙を掻き分けて進むと、ユーリに押えられ、そこに立っていたのは先日別れたはずのリタであった。
とりあえず、ここではなんだしと、建物の中からでた後、エステルはリタが落ち着くのを見計らい、声をかけた。


「それでリタはどうしてこんなところに?」
「ここの魔導器が気になったから、調査の前に見ておこうと思って寄ったの」
「で、余計な事に首を突っ込んだと。面倒な性格してんのな」


ユーリは腕を組み、呆れたような声で言った。


「一体、何に首を突っ込んだんですか?」
「夜中こっそりと労働者キャンプに魔導器が運び込まれてたのよ。
 その時点でもう怪しいでしょ?」


リタの話によると、彼女は怪しい使い方をされそうな魔導器が放っておけなくて、労働者キャンプに忍び込んだところ、見張りに見つかり、捕まったらしい。
捕まる前にみたキャンプの光景は、街の人が大勢、騎士に脅されて無理やり働かされていたということだ。
どうやらキュモール達は兵装魔導器をかき集めて、戦う準備をしているらしく、その準備に街の人が借り出され働かされているようだ。
ティグルさんもきっとそこで働かされているのだろう。
キュモール達はダングレストを攻めるつもりなのだろうか、はその考えを頭に浮かべ、きゅっと唇を噛み締める。
リタの話が終わると、こうしてはいられないと、ユーリ達は急いで昇降機に向かった。















ユーリ達が広場の前に差し掛かると、キュモールと一緒に見知らぬ男が向こうからやってくるのが見えた。
しばらく彼らの様子を見ようと、ユーリ達は結界魔導器の裏に隠れる。


「おお、マイロード。
 コゴール砂漠にゴーしなくて本当にダイジョウブですか?」
「ふん、アレクセイの命令になんて耳を貸す必要はないね。
 僕はこの金と武器を使って、すべてを手に入れるのだから」
「その時がきたら、ミーが率いる海凶の爪の仕事、誉めて欲しいですよ」
「ああ、わかっているよ。イエガー」


どうやらキュモールと共に昇降機に乗り込んだ男は、海凶の爪の首領でイエガーというらしい。
上下を高級そうなスーツに身を包み、長く垂らした前髪と、その独特な喋り方が印象的な男である。


「ミーが売ったウェポン使って、ユニオンにアタックね!」


イエガーの自信たっぷりな声に、カロルは俯き、は眼光を鋭くし、口の端を結んだ。
やはり兵装魔導器を使ってユニオンを攻撃するつもりらしい。
その驚愕の事実に、ユーリ達は息を呑む。


「ふん、ユニオンなんて僕の眼中にはないな」
「ドンを侮ってはノンノン、彼はワンダホーなナイスガイ。
 それをリメンバーですヨ〜」
「おや、ドンを尊敬しているような口ぶりだね」
「尊敬はしていマース。
 バット、海凶の爪の仕事は別デスヨ」
「ふふっ・・・・・・僕はそんな君のそういうところが好きさ」


キュモールはイエガーにそう言うと、何かを思い描くかのように目を瞑り、空を見上げる。


「でも心配ない、僕は騎士団長になる男だよ?
 ユニオン監視しろってアレクセイもバカだよね。
 そのくせ、友好協定だって?」


がはっとして、キュモール達の方を見ると、イエガーがこちらを横目で見ていることに気がついた。
これは気付かれたかと、身構えるが、イエガーは口の端で笑うと、昇降機の昇降ボタンを押した。


「イエー!オフコース!」
「僕ならユニオンなんてさっさと潰しちゃうよ。
 君たちから買った武器で!
 僕がユニオンなんかに、つまずくはずがないんだ!」
「フフフ、イエースイエース・・・・・・」


昇降機が音を立てて下りていく。
その間にもイエガーとキュモールの声が響く。
ユーリ達は追いかけようと、結界魔導器の裏から飛び出したが、時既に遅く、彼らの姿は労働者キャンプの方へ消えていった。
リタは拳を握り締め、肩を怒らせると、ユーリ達を振り返り、声を上げる。


「あのトロロヘアー、こっちを見て笑ったわよ」
「明らかにオレたちのこと、気付いてたな」
「あたしたちをバカにして・・・・・・!」


リタの言葉にユーリは肩を竦め、リタは憤りにさらに肩を怒らせる。


「本当にくだらないことしか考えないな、あのバカども」
「本当よね」


は虚空を睨み、ユーリに同意した。


「とりあえず、この下に閉じ込められている人たちがいるんだな。
 みんな、開放してやろうぜ、あのバカどもから」


ユーリはそう言うと、キュモール達を運んで行った昇降機が再び上がってくるのを見て、そちらに向かって歩き出した。