「ごはっ!」


ユーリ達に部下を全て倒され、自身も深く傷を負ったバルボスは地面に膝をついた。
ユーリは剣を下ろし、バルボスを鋭く睨む。


「・・・・・・もう部下もいない。
 器が知れたな。分をわきまえないバカはあんたってことだ」
「ぐっ・・・・・・ハハハっ。な、なるほど、どうやらその様だ」
「では、おとなしく・・・・・・」
「こ、これ以上、無様をさらすつもりはない」


バルボスはユーリを見据える。


「・・・・・・ユーリ、とか言ったな?
 おまえは若い頃のドン・ホワイトホースに似ている・・・・・・そっくりだ」
「オレがあんなじいさんになるってか。ぞっとしない話だな」
「ああ、貴様はいずれ世界に大きな敵を作る。あのドンのように。
 ・・・・・・そして世界に食いつぶされる。
 悔やみ、嘆き、絶望した貴様がやってくるのを先に地獄で待つとしよう」


バルボスは息を荒く、肩を上下させながらユーリの顔をみると、にやりと笑った。
ユーリはバルボスのその言葉の真意を悟り、急いでバルボスの元に走る。
しかし、それは既に遅く、バルボスの体は地面を離れ、奈落へと落ちていった。
も駆けつけ、下を見るが、バルボスはどこか、何かに満足したような笑みを浮かべていた。
自分の死は自身の手によって与えるという、いっそ高潔さも感じさせるその行為は、
5大ギルドの一つのギルドの首領という矜持を垣間見せるものであった。
嘗てはドンと共にユニオンを盛り上げる幹部の一人であったのだろう、その貫禄のある最後の姿に、は目を閉じた。















水道魔導器の魔核をバルボスから無事取り戻した一行は、塔を降り、入り口に立っていた。
バルボスの残した言葉に、後味の悪さを感じつつも、魔核泥棒の一件が一段落したことで、ユーリは軽く息をつく。


「まったく、魔核が無事でよかったぜ」
「水道魔導器の魔核ってそんなに小さいものだったんですね」


エステルがユーリの掲げた魔核を覗いてそう言った。
皆の一歩先を歩いていたカロルは、顔を明るくしてこちらを振り返る。


「さて、魔導器も取り戻したし、これで一件落着だね」
「でも、バルボスを捕まえることができませんでした・・・・・・」
「何言ってんの、あんな悪人、死んで・・・・・・ふぎゃ・・・・・・!」


ユーリはリタの言葉を遮り、彼女の顔に裏鉄拳を決めた。
リタは顔を抑えながらも、ユーリを恨めしげに見る。


「まだ一件落着にゃ早いぜ。こいつがちゃんと動くかどうか、確認しないとな」


ユーリは何事もなかったかのようにその視線を受け流し、そう言ったので、そんなに簡単に壊れないよと、はユーリが持つ魔核を覗きこんだ。
バルボスも手荒には扱わなかったようだ。
見たところ、傷一つないし、大丈夫だろう。
そう確認し、が魔核から目を離して皆を振り返ると、レイヴンがいつのまにかにいない事に気がついた。


「あれ・・・・・・?レイヴンは?」


カロルがのその言葉に後ろを見、辺りを確認したがレイヴンの姿は見当たらなかった。


「また、あのおっさんは・・・・・・本当に自分勝手ね」
「それをリタが言うんだ」


カロルがそう言うと、リタは殴る真似をし、カロルは頭を両腕でかかえ防御する。
見ていて微笑ましいその二人のやり取りに、は頬が緩むのを感じた。
カロルにしてはたまったものじゃないのだろうけども。


「ま、ダングレストに帰ったんだろ。会いたきゃ会えるさ」


ユーリのその声にいつもの覇気がないのに気づき、はユーリを振り返る。


「ユーリ、あの言葉、気にしてるの?」
「いや・・・・・・」


ユーリは顔を覗きこんでくるに否定の言葉を返したが、暫くの無言の後、から顔を背けて何かを呟いた。
「・・・・・・地獄で待ってる、か。やなこと言うぜ」という、ユーリの小さく呟く声を聞いたは軽く瞬きをする。


「う〜ん、ユーリがドンにねぇ・・・・・・?
 まぁ、確かにその態度がでかい所とか似てるかもだけど、
 娘の私の目から見てもドンのほうが数倍かっこいいし、ユーリなんか目じゃないよ!
 ・・・・・・それにユーリって殺しても死にそうにないしね」


わざと明るい声でそう言うと、はユーリの腕に抱きつき、顔を覗きこむ。
ユーリはの頭をくしゃくしゃかき回すと、「言ったな、こら」と小さく笑った。
は自分のぐしゃぐしゃになった髪に頬を膨らませながらユーリに抗議したが、ユーリの腕から自分の腕をはずすと、他の皆を振り返った。


「んじゃ、ダングレストに戻ろうか」
「そうですね。フレンにバルボスのこと、報告しないと」
「フレンって言やあ、ダングレストの方は、うまくまとまったのか」


エステルの言葉にユーリは顔をあげ、詳しく説明を求める。
エステルの話によると、フレンのあの活躍のお陰で帝国もギルドもすぐに引き上げたらしい。
バルボスがいなくなった今、後はラゴウだけなのだが、それもフレンが手を回したらしく、すぐに拘束されるという事だ。
そういえば、フレンにお礼まだ言ってないな、とが考えていると、ジュディスがこちらに歩いてきて、「私はここでお別れね」と言った。


「相棒のとこ戻るのか?」
「相棒?誰です、それ?」
「ここからは別行動。お互いの行動に干渉はなしね」


ユーリとエステルの問いに、ジュディスは諭すようにそう返し、こちらを見送るように手を振ったので、
ユーリ達は別れの言葉を告げた後、ダングレストに向けて、足を踏み出した。















再びダングレストに戻ってきた達は顔を夕焼け色に染めながら、橋の上を歩いていた。
橋の半ばぐらいまで行くと、街の宿屋の方から、喧騒が聞こえてくる。
何かあったのかと、そちらに走っていくと、ラゴウが何かを叫んでいて、
それを騎士団が取り巻き、町人たちがその光景を遠巻きに見ていると言う図式が出来上がっていた。


「私は無実です!これは評議会を潰さんとする騎士団の陰謀です!」
「往生際悪いじいさん」


ラゴウはこの期に及んでまだ責任の言い逃れをするらしい。
見るに耐えないその無様な姿に、ユーリは深く溜息をつく。
ラゴウを放置してフレンはどこへ行ったのだろうと、は辺りを見渡したが、
見当たらないので、遠巻きに見ている町人の隣に立つと、その人に様子を尋ねた。
その町人によると、どうやらフレンはユニオン本部の方に所用があり、兵に任せてそちらに向かったところ、
その隙をついてラゴウが叫びだし、このような事態になっているらしい。
騎士団を信じるなとか、騎士団がこの街を潰そうとしているとかある事ない事言い募ろうとしているラゴウをは見据えると、
あの口閉じさせてあげようかと、愛用の武器を取り出す。
が武器をかまえ、目をきらりと光らせ、まさに狙いを定めようとしているときに、フレンの声があたりに響いた。


「我らは騎士団の名の下に、そのような不実のことをしないと誓います」
「あなたは・・・・・・フレン・シーフォ!」
「帝国とユニオンの間に友好協定が結ばれることになりました」
「な!そんな、バカな・・・・・・」


フレンのその姿は、堂々たるもので、兵たちはもとより、遠巻きに成り行きを見つめていた町人達をも惹きつけるものであった。
貫禄といい、オーラといい、ラゴウには勝ち目無しね、とはこの勝負の勝者をフレンに決めると、そちらに背を向け歩き出した。










「マスター、頼んでおいたもの、来てる?」


は酒場--天を射る重星の扉を開け、奥にいるマスターに向かって声をかけた。
マスターが頷くのを確認し、そちらに歩いていくと、酒場の中にいた天を射る矢のメンバー達がに話しかける。


ちゃんいつ帰ってきたんだい?」
「お、、また今度一緒に飲もうぜ!!」
がいないとハリーが落ち込んで大変だったんだぜ」
「美人になったねーちゃん」


等といった声に適当に相槌を返しながらはカウンターにたどり着いた。
酒場のマスターはに大きな包み物を差し出す。
はマスターに礼を言い、包みを開く。
そこには普段着ているものよりも丈夫な布で出来た服が入っていた。
だいぶ長旅でくたびれてしまった服を、この際に新調したのだ。
は布の強度を確かめると、再びマスターにお礼を言い、お金を支払うと、酒場から立ち去った。










が所用を終え、宿屋に向かうと、ちょうどカロルが慌てたように宿屋に駆け込むのが見えた。
一体どうしたのだろう、とは静かに後を追う。
が部屋の前まで来ると、カロルとユーリの話し声が聞こえてきた。


「――すこし落ち着けって」
「――・・・・・・ラゴウが評議会の立場を利用して、罪を軽くしたんだって!
 少し、地位が低くなるだけで済まされるみたい!ひどいことしてたのに!」
「――面白くねえ冗談だな」


扉を開けようとしていたはカロルの言葉にはっとして立ち止まる。
心なしか、ユーリの声も怒りがあらわになっている気がする。
は怒りに全身の毛が逆立つのを感じながらもそのまま話の続きを聞いていたが、
カロルが「エステルに言えば何とかなるかもしれない」と言いながら扉の方に向かってくる気配を感じたので、さっと物陰に隠れた。
カロルの後姿を見届けた後、は物陰から出る。
そして、ぎゅっと自身の手を握り、前を見据えると、踵を返した。










まずはフレンに会って話を聞こうと、フレンのいる場所を聞きまわり、がやっと駐屯地につくと、すでに先客がいたようだ。
話し声が聞こえるので、気づかれない程度に近くに寄り、耳をそばだてる。
どうやら、ユーリが先に来ていたようだ、フレンとラゴウについて話をしていた。


「――ノール港の私物化、バルボスと結託しての反逆行為。
 加えて、街の人々からの略奪、気に入らないという理由だけで部下にさえ、手を掛けた。
 殺した人々は魔物のエサか、商品にして、死体を欲しがる人々に売り飛ばして金にした」
「――外道め・・・・・・」
「――これだけのことをしておいて、罪に問われないなんて・・・・・・!」


ノール港の惨状は、あまり詳しく聞いていなかったのだが、
その聞けば聞くほど反吐が出そうになるラゴウの罪状には拳を白くなるほど握り締めた。
人間というのはなんて汚いのだろう、それを野放しにしている帝国の権力はなんてみすぼらしいのだろう。
一時期人間不信に陥っていただが、自分を家族のように接してくれるドン達の温かさに触れ、なんとか立ち直った。
しかし、その後デュークと共に過ごしている中で、人の世の不条理さをも感じ取っていたにはなおさら許せないものであった。
人の一部はやはり変わらないのであろう。その事実に、は俯き、唇をかみ締めた。

かみ締めた唇から血が流れ出るころ、ユーリとフレンの会話は終わったらしい、ユーリの立ち去ろうとする気配が感じられた。
は顔をあげ、そちらをじっと見つめる。


「法で裁けない悪党・・・・・・おまえならどう裁く?」
「まだ僕にはわからない・・・・・・」


ユーリがフレンに投げかけた言葉--悪党を裁くというその言葉がの頭の中で鳴り響く。
裁く、か・・・・・・は声にだしてそう呟くと、やがて決心したかのように顔を上げた。