1階にあったレバーを上げ階段を出し、2階に登ったのはいいものの、
そこにはもう階段らしきものが見あたらなかったのでユーリ達は外へと続く扉に向かう。
扉を開け外に出ると、その先には仲間達の姿が見えた。
彼らは各々の武器を持ち、各所に散らばって戦っていた。
レイヴンは弓を変形させ、目の前の敵を切り裂くと、そのまま彼は残りの敵の元に走り、一閃の元に切り捨てる。
そして、すぐに振り向きざまに弓を構え、空に向かって矢を放った。
リタが術の詠唱を始めると、術式の周りを火の粉が取り巻き、術が完成すると、
凝縮された火の玉は空を飛び、飛んでいた鳥型の魔物にぶちあたった。


「はい、これで最後!」
「おっ・・・・・・やってるな」


ユーリはそんな彼らにのんびりと声をかける。


「ユーリ!」


ユーリの声にいち早く気づいたエステルは、ユーリに駆け寄ると、ぺたぺた彼の体を触り始めた。
その姿は以前ノール港でも見たことがある。
あれはエステルの恒例なのであろうか、とはユーリの後ろから彼らに目を据えた。


「おわっと・・・・・・ちょっと、離れろって・・・・・・」
「大丈夫ですか?ケガはしてません?」
「なんともないって。心配しすぎ」


エステルはユーリにケガがない事を確認すると、やっとユーリから離れた。
カロルやレイヴン達も戦闘を終えると、こちらに駆け寄ってくる。


「おまえらも・・・・・・大人しくしてろって言ったのに」
「だって、みんなユーリとのことが心配で!」


泣きそうな顔をしてカロルは言ったが、リタが自分を殴ろうとしているのに気づき、自分の頭を抱え、防御体勢を取る。
リタは振り上げた手をカロルの頭の前で寸止めすると、「あたしは別に心配なんてしないわよ」と両腕を広げ、肩を竦めるとそっぽを向いた。


「おっさんも心配で心配で」


レイヴンはユーリの前に立つと、おおげさに肩を落とし、そう言った。
その言葉にエステルはにこやかに笑ったが、ユーリはレイヴンをじと目で見つめる。


「嘘つけ。そもそもおっさん、何普通になじんでんだ?」
「それが、聞いてくれよ」


レイヴンは待ってましたとばかりに、片手を上げ、説明をし始めた。
どうやらレイヴンはドンの命令でここに来ているらしい。
その命令が嫌なのか、彼はいかにも迷惑そうな顔をしていた。
ユーリはその説明を適当に流して聞きながら、辺りを見回す。


「そもそも、おまえたち、どこから入ってきてんだよ」
「しょうがないじゃん、表の扉が閉まってんだから」


ちょうど、外壁の両端の所には梯子がかかっていて、カロル達はそこから上ってきたようだった。
だからってなあ・・・・・・とユーリは呆れて目を閉じ閉口したが、ジュディスがこちらに歩いてくる気配を感じ、そちらに目を向けた。


「・・・・・・だ、誰だ、そのクリティアッ娘は?どこの姫様だ?」


こちらに顔だけ向けていたレイヴンだが、ジュディスに気がつくと、勢いよく振りむいて、彼女の傍に駆け寄った。


「おっさん、食いつきすぎ」
「オレと一緒に捕まってたジュディス」
「こんにちは」


ユーリが説明すると、ジュディスは後ろで手を組み少し屈んで挨拶をした。


「ボク、カロル!」
「エステリーゼって言います」
「リタ・モルディオ」
「そして俺様は・・・・・」


自己紹介が自分の番になると、レイヴンは顎に手をやり、格好をつけたが、リタがすかさず言った「おっさん」という言葉に見事に出鼻を挫かれる。
レイヴンは勢いよくリタを振り返ると、拳を握り、


「レイヴン!レ・イ・ヴ・ン!」


と、強調して言った。


「そういう言い方する人って信用できない人多いよね」
「なーんか、納得いかないわ」


カロルの非情な言葉にレイヴンは空を見つめ、肩を落とす。
そんなレイヴンにカロルはにししと笑って見せた。


「ま、いいんじゃねえの、とりあえず」
「ウフフ・・・・・・愉快な人たち」
「おお?なんだか好印象?」


ジュディスが笑ったので、レイヴンは嬉しそうにそちらを振り返ると、宙返りして右手の親指たてる。


「バカっぽい・・・・・・」


リタは腰に手を当て遠くを見た。
はレイヴンに音もなく近づくと、彼の耳をぎゅっと掴み引っ張る。


「レーイーヴーン?」
「ちょっ、痛い、痛いって、ちゃん」


レイヴンは痛さに堪らず声を上げる。


「私を差し置いてジュディスに浮気かしら?」


は凄みのある笑顔でレイヴンに笑いかける。
その笑顔を見たレイヴンは顔をさっと青くして、「冗談、冗談よ。おっさんちゃん一筋よ」と言った。
ユーリはその光景を呆れながら横目で見つめたが、エステルがジュディスにここに来ている理由を聞いてるのに気づき、
そちらに顔を向けると、ジュディスに代わって経緯を説明した。


「そういえば、水道魔導器の魔核は取り返せたんですか?」
「残念ながらな」


説明を終えると、エステルがユーリにそう聞いてきたが、ユーリは首を振った。


「なに、バルボスのやつ、捕まえて聞きゃいいさ」
「じゃ、行くわよ」


リタの合図を機に、ユーリ達は上から外壁にかかっている梯子の方に向かったが、レイヴンはそのまま立ち止まった。
先に行きかけたユーリだが、レイヴンのその様子に気づき、声をかける。


「どうした、おっさん?」
「あ、いや・・・・・・こんな立派な塔に住んでたら、自慢できるだろうなあと思ってねぇ」


レイヴンが頭の後ろで腕を組み、上を見ながらそう言ったので、ユーリは上を見上げ、塔を眺めたが、
ふーん、とやがて興味なさげに呟くと、一緒についてきてたラピードに顔を向ける。


「ラピード、行こうぜ。ついでにおっさんも・・・・・・」
「俺の方がついでかよ」


レイヴンがユーリに抗議するかのように拳を握って叫んだが、ユーリは気にせず、先に行った仲間の後を追った。
その後姿を見送ると、レイヴンは目だけをそちらに向けて後ろに向かって声をかける。
レイヴンの後ろには影のようにひっそりと、デュークが立っていた。


「いい歳して、かくれんぼ?ちょっと顔出してくれてもいいんじゃないの?
 若者ががんばってんだ、ちっとは手、貸してくれよ」


ちゃんもいるしさ、とレイヴンは顎に手を当て、顎を掻いた。


「もしその必要があればそうする。今は必要と感じない」
「またまた〜。あんたにも目的があるのはわかるけどさ」


デュークのつれない態度にレイヴンはそう続けたが、ふとあることに気づき、口を噤んだ。


「そういえば、ちゃんがあんたに気づかないって、珍しいんじゃない?」
「・・・・・・・・・・・・」


レイヴンの言葉に暫く無言でいたデュークだが、「貴様の道化に付き合っている暇はない」とレイヴンに向けて言うと、立ち去っていった。
その背中に、「ほんと、ひどいお言葉」と投げかけたレイヴンだが、ふと俯き地面に目を落とす。


「あんまりを泣かせんじゃないよ。
 ・・・・・・・・・・・・でないと、俺が・・・・・・」


その言葉はデュークには届くことなく、レイヴンはそれを打ち消すかのように軽く頭を振ると、ユーリ達の後を追った。















「何、この塔、仕掛けがめんどくさいに程があるわ!!」


は今まで頑張ってユーリ達の後について歩いていたが、ついに閉口して弱音を吐いた。
ガスファロストという塔は、昔からあった建物を改造して作ったらしく、階段を上るにもわざわざ仕掛けを解く必要があり、
あっちに行ったりこっちに行ったりと、いつもより余計に体力を使う場所であった。
さすがに疲れきったはレイヴンに向かって「おんぶ〜」と言ったが、おっさんを殺す気?と非難され、あえなくその考えを断念した。


「ほら、もうすぐだから、頑張れ」
「は〜い・・・・・・」


ユーリの言葉には重い腰を上げ、立ち上がった。















長い道のりを経て、屋上に着くと、そこには兵装魔導器を手に携えたバルボスが待ち構えていた。


「性懲りもなく、また来たか」
「待たせて悪ぃな」


ユーリのその言葉を合図に、全員塔の中から屋上に走り出ると、各々武器を構え、バルボスに対峙する。


「もしかして、あの剣にはまってる魔核、水道魔導器の・・・・・・!」
「ああ、間違いない・・・・・・」


遠目で良く見えないが、言われてみれば、確かにあれは見慣れた下町の魔核だ。
ユーリはエステルに頷くと、バルボスを見据える。


「下町の魔核を、くだらねえことに使いやがって」
「くだらなくなどないわ。これでホワイトホースを消し、ワシがギルドの頂点に立つ!
 ギルドの後は帝国だ!この力さえあれば、世界はワシのものになるのだ!
 手始めに失せろ!ハエども!」


バルボスはにやりと笑うと、持っていた兵装魔導器を高く掲げた。
剣が眩い光を発すると、その光は急速に凝縮し、衝撃波となってユーリ達に襲い掛かる。
ユーリ達はそれを辛うじて避けるものの、そのあまりの威力に、冷や汗をかいた。


「あの剣はちっとやばいぜ」
「やばいっていうか・・・・・・こりゃ反則でしょ」
「圧倒的ね」
「どうした小僧ども。口先だけか?」
「ふん、まだまだ」


ユーリはあくまでも余裕綽々にバルボスを睨むと、にやりと口角を上げた。
そんなユーリの様子を見てバルボスはふんっ、と鼻先で笑う。


「お遊びはここまでだ!ダングレストごと、消し飛ぶがいいわ!」


バルボスが掲げた剣はすごい勢いで回転すると、次の瞬間、水が激流のように噴出し、剣の周りに立ち昇った。
見ているだけでも今までとは格段に違うパワーがそこから感じられ、ユーリ達は後退る。
ユーリはその時、上空に以前感じたことのある気配を感じ、上を見上げた。
達もつられて上を見上げると、其処には剣を手に持ちこちらを見下ろしているデュークの姿があった。


「デューク!!」


が目を輝かせながらデュークの名前を叫ぶと、彼は一瞬を見て頷き、「伏せろ」と静かに言った。
デュークは剣を目の前に掲げ、術式を発動させると、そのまま剣を高く突き上げる。
剣から光が発して広がると、その光はバルボスの剣に集約し、力をうけた剣はパキンと乾いた音を立てて割れた。
「なにっ!?」と、バルボスは目を見開き、剣を慌てて振るが、さっきとはうって変わって、小さな炎が煙を出して広がるだけであった。
それを確認したデュークは剣を下げると、何も言わずにどこかへ去っていった。


「・・・・・・くっ、貧弱な!」
「形成逆転だな」
「・・・・・・さかしい知恵と魔導器で得る力などまがい物にすぎん・・・・・・か」


バルボスは折れてしまった兵装魔導器を投げ捨てると、どこからか自分の愛刀であろう大剣を取り出した。
それを見たユーリは油断なく剣を構え、バルボスを見据える。


「所詮、最後に頼れるのは、己の力のみだったな。
 さあ、おまえら剣を取れ!」
「あちゃ〜力に酔ってた分、さっきまでの方が扱いやすかったのに」
「開き直ったバカほど扱いにくいものはないわね」


バルボスの強気な姿に、レイヴンは額に手を当て肩を落とし、リタは両腕を広げ肩を竦める。


「ホワイトホースに並ぶ兵、剛嵐のバルボスと呼ばれたワシの力と・・・・・・
 ワシが作り上げた『紅の絆傭兵団』の力。とくと味わうがよい!」


バルボスのその言葉を合図に、ばらばらと紅の絆傭兵団が塔の中からでてきて、達の回りを囲った。