ユーリ達がバルボスを追いかけて向かった先は、歯車の楼閣を中心に砂嵐が吹き荒ぶ、ガスファロストという所であった。
砂嵐が人を立ち入るのを防ぐことで、その楼閣の守りを確固たる物にしているようだ。
このままでは内部に進入する事が出来ないので、竜使いは竜に合図を送り、ガスファロストの中心部、塔の屋上の魔導器に向けて炎を吐かせる。
炎は魔導器をかすり、魔導器はその攻撃を受けて、光を発すると、その動力を停止した。
魔導器が止まった瞬間、砂嵐は見事に掻き消える。
そのままの勢いで、竜使いは竜を操り、屋上に向かって飛んでいく。
ユーリは地面が目の前に近づいてきた瞬間を狙い澄ますと、屋上に向かって飛び降りた。
「あの竜巻、こいつの仕業か」
ユーリが魔導器を見上げると、肩を怒らせたバルボスが塔の内部から出てくるのが眼の端に映った。
ユーリはそんなバルボスに平然と声をかける。
「邪魔してるぜ」
「貴様・・・・・・魔導器を破壊しおって!」
バルボスが怒鳴り、武器を構えるのを目に映すと、ユーリは剣の鞘を飛ばして、剣を構えた。
ふと、上を見上げると、竜に向かって火の玉がいくつも飛んでいるのが見える。
かろうじて、竜は攻撃を避けたが、うえに乗っていた人影は堪らず地面に転げ落ちた。
ユーリはその光景を見て「大丈夫か!」と叫んだが、未だに竜に攻撃を仕掛けている元を探ろうと、辺りを見やった。
「!」
下を見ると、が魔導器を構えた男達と対峙しているのが見えた。
ユーリはバルボスの方に一瞬目をむけ、竜使いがバルボスと対峙しているのを確認すると、の方に向かって飛び降りた。
ユーリ!というの声が聞こえたが、ユーリは飛び降りざまに敵に向かって駆け出すと、剣を一閃し男達を一掃した。
「大丈夫か?」
「ええ」
ユーリがに駆け寄ると、バルボスが兵装魔導器を使いこちらに飛んでくる。
竜使いはどうしたのだろうか。
上を見上げると、竜が一声鳴いて飛び去るのが目に映った。
「あとは貴様等だ」
「な〜に、こっからだ」
バルボスの不遜な笑みに、ユーリはを庇いながら軽口を叩く。
「なぶり殺しだ!」と、言うバルボスの合図と共に、紅の絆傭兵団がユーリ達を囲んだ。
ユーリはに下がっていろと目で合図を送ったが、は首を振った。
驚きに目を見張り、の顔を見つめると、彼女は細い針みたいな物を自身の指に挟み、構え、ユーリに向かって大きく頷いた。
のその様子に、んじゃ、いっちょやるか、とユーリは敵に駆け出した。
数分後、ユーリ達は敵をあっという間に片付け、バルボスと対峙していた。
ユーリは今の戦闘のの熟達したその動きに瞠目しつつも、余裕のある表情でバルボスに声をかけた。
「もう終わりか?」
「身の程を知れ!」
バルボスがチェーンソー型の兵装魔導器を構え振り下ろすと、衝撃波がそれから生じ、ユーリの剣を弾き飛ばした。
「あらら・・・・・・便利な剣もってんな」
「さすがに私の武器じゃ、あれには立ち向かえないわ・・・・・・」
ユーリはあくまでも余裕のある態度であったが、は絶体絶命な状況に深く息を吐いた。
「負けたのは剣のせいだと言いたいわけか?」
「そりゃ、あんたがどう思うかだ」
「今は減らず口利いてろ。後で惨たらしい死を与えてやる」
バルボスは部下を呼び、ユーリ達を取り押さえると、牢屋に向かって連行させた。
連行されたユーリ達は、塔の一室、牢屋らしき所に押し込められた。
辺りを見渡すと、他にも捕らわれていた人達がいるようだ。
老人や商人らしき人達が、こちらをじっと見つめていた。
ユーリは奥に目をやると、竜使いらしき人物が立っているのに気がつく。
ユーリが声をかけると、竜使いは鎧の一部のフードを脱いだ。
「・・・・・・女・・・・・・クリティア族・・・・・・?」
フードの下から現れたのはぴんと長く伸びた耳に、まとめ髪の後ろから生える触角の印象的なクリティア族の女性の顔であった。
意外な竜使いの正体に、ユーリは目を細めたが、怪我してないか?と竜使いを窺った。
彼女が小さく頷くのを見たユーリは、ここまで乗せて来てもらった御礼を述べたが、彼女は気にしていないらしく、どういたしまして、とだけユーリに返した。
「なぁ、あんた、名前は?」
竜使いに声をかけるにあたり、名前を知らない不便を感じたユーリは、彼女にそう尋ねた。
「ジュディスよ」
「ジュディス・・・・・・ジュディの方が言いやすいな。
オレはユーリだ。ユーリ・ローウェル。
こっちのは」
ユーリはを指し、そう続けた。
はジュディスの方に歩いていくと、小さく頭を下げ微笑んだ。
その様子を見届けると、自己紹介もすんだことだし、とユーリは扉の方まで歩いていく。
そのまま扉をしげしげ見つめるとユーリは踵を返した。
「な、もうちょい協力しないか?」
ユーリのその声に、ジュディスはユーリの傍に歩くと、自身の頬に手をあてる。
「そうね・・・・・・屋上の魔導器も壊しそこなったし」
「決まりだな」
「どうするの?」
「まあ、手がないわけじゃないけど」
「なら、その手を使えばいいんじゃないかしら?」
ジュディスはユーリの渋る姿に声を重ねる。
「出来る人は手抜いちゃいけないと思うの」
「そうそう、出来る人は頑張らなくちゃ」
は横からすかさずジュディスの言葉に同意した。
「おまえも戦えるだろ!」
酒場、紅の流星群の時といい、屋上の時といい、が十分戦える事を感じたユーリは彼女に向かって抗議した。
「ユーリ、わかってないなぁ・・・・・・。
私は出来る人だから、手を抜くの」
「何だソレ」
の訳の分からない理屈に、ユーリは呆れた声を上げた。
ユーリのその姿に、はしょうがないなぁ・・・・・・とジュディスの方を見る。
鎧を脱いだジュディスは自身のしなやかな肢体を惜しげもなく見せ付ける格好をしていて、見るだけでとても魅力のある女性だった。
それを確認すると、はポンっと手を軽く打つ。
「じゃあ、ジュディスと私のお色気大作戦で行く?」
「なっ、おまっ!!!」
ユーリはのその発言に言葉を失った。
え、だめ?と自分の顔を覗いてくるにしっしと手で払い追いやると、ユーリは息を吐いた。
そんなユーリを見たが「じゃあ、やっぱりユーリが頑張ってよ」と不満そうに口を尖らす。
ユーリはしょうがねぇなと、ジュディスの方を見やると、
「それじゃ、協力してほしいんだけど」
と、言った。
「きちんと、エスコートしてね」
それを受けたジュディスは自身の拳に手のひらを被せ、ぎゅっぎゅっと握り始める。
「ああ、いいぜ。美人相手に緊張すっけど」
ユーリはそう言いながらも、ジュディスに殴りかかった。
ジュディスは殴られた後、体勢を立て直すと、ユーリを殴り返した。
しばらく二人はそのまま殴り合いを続けた。
よくやるなぁ・・・・・・とがその茶番劇を眺めていると、扉の外から牢番の「静かにしろ!」と言う声が聞こえた。
外から聞く分にはユーリとジュディスが殴り合いを始めたにしか思えないのだろう。
彼等が大人しくならないのに痺れを切らした牢番は、部屋に入り二人を大人しくさせようと、扉を開ける。
ただ、殴りあう振りをしていただけのユーリとジュディスは、それを振り返ると、にやりと笑った。
その光景を見た牢番はぽかんと口をあけ立ち尽す。
待ってましたとばかりに、二人の芝居にやじをとばす振りをしていた人達は、牢番に向かって走り出し、男を薙ぎ倒した。
ユーリ達もその後に続き、牢屋から飛び出した。
「あなた達は自由よ、おめでとう」
牢屋から出たジュディスはユーリとに向かって、そう言った。
ユーリはその言葉に、笑いながら、「ご協力ありがとよ」と返す。
「あと、一発は一発よ」
「・・・・・・おっ・・・・・・?」
ジュディスの言葉に、ユーリが首を傾げると、彼女はユーリに近づき、ユーリの顔に平手打ちを食らわせた。
あれは音からして結構痛そうだと、はつい目を瞑った。
「強くやりすぎたか・・・・・・」
ユーリは強く打たれた自分の頬を押えて俯いた。
そのユーリの姿を見て、ジュディスはこれでおあいこね、とユーリに手を高く差し伸べた。
ユーリはそれに応え、軽く手をぱちんとジュディスの手にあてた。
が私も私も〜、と言うのでそれにも応えていると、ジュディスがユーリ達に声をかける。
「じゃ、次行きましょ」
「次って・・・・・・ま、屋上の魔導器に行くか。そっちは場所がはっきりしてる」
バルボスの行方はこの広い塔の内部において、詳しくは分からない。
そのことをすぐに悟ったユーリはジュディスに行き先を提案した。
「じゃあ上ね」
「ん?どこからあがりゃいいんだ・・・・・・?」
「このフロアを探してみれば分かるんじゃない?」
ジュディスが上を見上げたので、ユーリはそちらを見たが、見る限り、上に上がる為の階段は見当たらない。
ユーリと同様に辺りを見回していたは、「武器も探さなきゃだしね」と続けて言うと、奥の部屋に向かって歩き出した。
牢屋の正面に見えた部屋に入ると、そこは武器庫のようになっている部屋だった。
壁には槍や剣等といった、あらゆる種類の武器が立てかけられている。
牢屋の前に武器庫があるなんて、取って行って下さいと言ってるようなもんじゃないかと、は思う。
まぁ貰える物は貰っておこうと、そこら辺を物色していると、ユーリの声が後ろから聞こえた。
「おっと、あったあった、オレの武器っと・・・・・・」
「あったの?」
「ああ」
ユーリの武器は部屋の隅にあった箱の中にあったらしい。やっぱり紅の絆傭兵団って間抜けね、とは呟く。
この分だとジュディスの武器もその辺にありそうだ。
はジュディスを振り返った。
しかし、彼女は首を振り、溜息を吐く。
「傭兵の誰かが持っていったのかしらね」
「かもな。その辺の武器、適当に持ってったらどうだ」
「そう、ね・・・・・・」
ユーリは近くにあった槍を指差し、ジュディスに言ったが、彼女の沈んだ表情に、大切なものなのか?と尋ねた。
ジュディスは頷いたが、目に付いた武器を手に取ると、これでいいわ、とユーリを振り返った。
「・・・・・・いいのか?」
「これ以上探しても、この部屋にはなさそうだし探しながら行くわ」
「そっか、じゃオレも気をつけとくとするか」
「ありがとう」
成り行きを見守っていたが、んじゃ行こうか、と二人に声をかけると、ユーリが首を傾げた。
「あれ、、おまえの武器はいいのか?」
「ふっふっふー。私の武器をあれだけと思っちゃいけないよ、ユーリ君」
はユーリににやりと笑って見せると、どこからか自分の武器を取り出した。
しかも次から次へと大量に。
「あら、素敵」
「・・・・・・・・・・・・」
ユーリはその光景に溜息を吐くと同時に、すっかりがいつもの調子に戻っている事に気づき、小さく笑うと、先行くぞ、と部屋の扉を開けた。
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