達はケーブ・モック大森林からダングレストに戻ると、すぐにユニオン本部を訪ねた。
入り口にいた男に話しかけると、ドンが約束してくれていた通り、すんなり部屋に通してくれる。
首領の部屋の扉を開け中に入ると、ドンの目の前でフレンが直立不動で立っていた。
フレンは背を向けていたのでこちらに気がつかなかったが、ドンはすぐに達に気づき声をかけてくる。
「よぉ、てめぇら、帰ってきたか」
「・・・・・・ユーリ」
フレンはドンの言葉に後ろを振り返り、ユーリを目に映すと、その目を見開いた。
それまでの隣にいたレイヴンは、すたすたとドンの隣まで歩いていってしまう。
は一瞬ユーリの方を見て躊躇したが、レイヴンの後を追うと、その横に並んだ。
「なんだてめぇら、知り合いか?」
「はい、古い友人で・・・・・・」
「ほう」
「ドンもユーリと面識があったのですね」
「魔物の襲撃騒ぎの件でな。で?用件はなんだ?」
「いや・・・・・・」
ドンはフレンとユーリの両方を見やった後、フレンに尋ねた。
しかしフレンは、その用件が帝国の機密事項に当たるのか、自分の後ろ、ユーリ達を気にして口を噤む。
「オレらは紅の絆傭兵団のバルボスってやつの話を聞きにきたんだよ。
魔核ドロボウの一件、裏にいるのはやつみたいなんでな」
ユーリはフレンのその僅かな動きを察して、自分達の用件を先に話した。
フレンはその内容を、一字一句聞き逃さないかのように、ユーリを厳しい目で見つめている。
ややあって、フレンは少し俯くと、
「なるほど、やはりそっちもバルボス絡みか」
と、言った。
「ってことは、お前も?」
ユーリのその言葉にフレンは顔を向け、目を瞑った後、頷いた。
フレンはドンに向き直ると、佇まいを正し、用件を述べ始める。
「ユニオンと紅の絆傭兵団の盟約破棄のお願いに参りました。
バルボス以下、かのギルドは、各地で魔導器を悪用し、社会を混乱させています。
ご助力いただけるなら、共に紅の絆傭兵団の打倒を果たしたいと思っております」
がその内容に驚き、ドンに目を向けると、ドンは自分の膝に手をあて、フレンの話を黙って聞いてた。
「・・・・・・なるほど、バルボスか。確かに最近のやつの行動は少しばかり目に余るな。
ギルドとして、けじめはつけにゃあならねえ」
「あなたの抑止力のおかげで、昨今、帝国とギルドの武力闘争はおさまっています。
ですが、バルボスを野放しにすれば、両者の関係に再び亀裂が生じるかもしれません」
ドンの顔をじっと見ていたは、その口が一瞬にやりと笑うのを見逃さなかった。
何かきっとまた面白い事を考え付いたのであろう、度々ドンのこういう姿を目撃した後は必ず、何か大きなことが起こっていた。
「そいつは面白くねえな」
「バルボスは、今止めるべきです」
「協力ってからには俺らと帝国の立場は対等だよな?」
「はい」
「ふんっ、そういうことなら帝国との共同戦線も悪いもんじゃあねえ」
「では・・・・・・」
ドンのその言葉に、フレンの目は輝いた。
はドンとフレンの会話に耳をやりつつも、「バルボスのことは心配いらなくなったのかな?」と横にいるレイヴンにこっそり聞いた。
レイヴンは目だけをこちらに向け小さく頷く。
ドンが横にいる部下にノードポリカにも協力申請を、と命令すると、その命令をうけた男はユーリ達の脇を走り抜け、部屋の外に出て行った。
「なんか大事になってきたね・・・・・・」
カロルは目の前で繰り広げられるやりとりに、目を白黒させると、リタを見上げ、小さく呟いた。
リタは、そんなカロルを見て、肩を竦ませると、目を軽く閉じ、頷く。
フレンはドンの前に跪くと、携えていた書状を差し出した。
「こちらにヨーデル殿下より書状を預かって参りました」
「ほぉ、次期皇帝候補の密書か」
書状を渡したフレンは元いた場所に戻り、またドンに向かって自身の胸に手をあて跪いた。
ドンは渡された書状を片手で開けると、その内容をじっと見ていたが、しばらくして、「読んで聞かせてやれ」とレイヴンに書状を手渡した。
もどれどれ、と書状を覗き込む。
「ドン・ホワイトホースの首を差し出せば、バルボスの件に関し、ユニオンの責任は不問とす」
は覗いた書状の内容に目を疑ったが、レイヴンは淡々と、その文章を読んだ。
「何ですって・・・・・・!?」
青天の霹靂なその内容に、フレンとエステルは目を見開き驚愕した。
その姿を目に映し出したドンは「これは笑える話だ」と豪快に笑い出す。
レイヴンは書状を封筒に納めなおすと、フレンの傍まで歩いていき、それを返却した。
フレンは渡された書状をすぐに開封し、中身を読む。
エステルはどうしたらいいのかと、フレンとユーリの顔を交互に見る。
フレンは書状を読みきると、そのあまりの憤りに手を震えさせ始めた。
「・・・・・・なんだ、これは・・・・・・」
「どうやら、騎士殿と殿下のお考えは天と地ほど違うようだな」
「これは何かの間違いです!ヨーデル殿下がそのようなことを」
「おい、お客人を特別室にご案内しろ!」
フレンは書状を振り上げドンに向かって、これは何者かの罠だ、と弁解したがドンは聞き入れず、部下に向かって怒鳴った。
ドンの横にいた二人の男達が、フレンを取り囲み、ドンを窺う。
ドンが顎をしゃくり、行け、と合図をすると、男達はそのままフレンを部屋の外に連行して行った。
一連の行動を見守っていたが、エステルは遂に堪らず、フレンに向かって駆け寄ろうとした。
しかし、ユーリがそれを手で制して止める。
「どうして?」
「早まるなって」
「下手に動けば、余計フレンを危険にさらすことになるぜ」
「・・・・・・・・・・・・」
ユーリの言葉に、エステルは事態を悟り、せめて無事を祈るだけはというように手を胸の前で組んだ。
ドンはフレンが連行されていったのを確認すると、ソファーから立ち上がり、怒鳴る。
「帝国との全面戦争だ!総力を挙げて、帝都に攻めのぼる!
客人は見せしめに、奴らの目の前で八つ裂きだ!二度となめた口きかせるな!!」
ドンはそのまま脇目も振らず、どしどしと部屋の外に向かって歩きはじめた。
レイヴンは一瞬横目でドンを見たが、その後に続いていく。
考え込んでいたは行動が遅れ、そのままドン達を見送る形となった。
「た、大変な事になっちゃった!」
「おかげであたしらの用件、忘れられちゃったわよ」
「ドンも話どころじゃねえな」
「わたし、帝都に戻って、本当のことを確かめます!」
カロルの慌てた声に、エステルは握った拳を振り、ユーリに訴えかけた。
ユーリはエステルのそんな姿を眼の端に映し、諭すような声を出す。
「早まるなって言ったろ。ちょっと様子を見ようぜ。」
「そうそう、何とかなるって」
ドン達が出て行った後、静かにユーリ達の会話を聞いていたは、すかさずユーリの言葉に割り込んだ。
「!?」
「おまえ、ドン達と一緒に行ったんじゃなかったのか」
「いやー考え事してたら置いてかれた、みたいな?」
「なんだ、ソレ・・・・・・」
ユーリの呆れた声に、いや、それはとにかく!とその事実を脇に追いやると、はエステルに近寄り、大丈夫だから心配するな、と囁いた。
それを受けたエステルは、目を見開いたが、暫くした後、小さく頷いた。
その後試しに牢屋の前に行ってはみたが、牢屋番がきっちりとその場所に立ち塞がり、関係者立ち入り禁止です、と達を中には入れてくれなかった。
達はフレンを牢屋から出すのは諦め、ユニオン本部を出ると、中央広場に向かって歩いた。
広場にたどり着くと、カロルがを振り返り、気になっていたのか、ドンとの関係を聞いてくる。
「って天を射る矢の一員じゃないって言ってたけど、ドンとずいぶん親しそうだったよね」
「うん、まあ、そうね・・・・・・」
「どんな関係なの?」
は目を閉じ暫く考えると、親みたいなものかな、とカロルに伝えた。
「えぇっ!?じゃあってドンの子供!?」
「いや、それとはちょっと違くて・・・・・・」
そんなやり取りをカロルとしていたら、ユーリがあたりをきょろきょろ見回し始めた。
「あれ・・・・・・?おかしいな」
「どうしたの、ユーリ?」
「・・・・・・財布落としたみたいだ」
ユーリのその行動を不思議に思い、が声をかけると、ユーリは懐をごそごそしだし、お手上げというように両手を広げた。
「こんなときに何やってんの!」
「ドンのとこで落としたかな?ちょっと探してくる。そのあたりで待っててくれ」
「う、うん。早く探してきてよ!」
カロルはユーリに頷くと、どこか寛げる場所はないかと探しに行く。
他の仲間も各々思い思いの場所に散ったようだ。
は全員の後姿を見送ると、さて、と腕を組みユニオン本部に向かって歩き始めた。
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