「誰・・・・・・?」
「デューク・・・・・・」


エステルとの声が同時に木々の合間に木霊する。
デュークは事を終え、の方を一瞥すると、すぐに踵を返そうとした。
しかし、リタの呼び止める声に立ち止まり、振り返る。
リタはデュークが足を止めたのを見て、「その剣は何っ!?見せて!」と言い、すぐにデュークに走り寄った。


「今、いったい何をしたの?エアルを斬るっていうか・・・・・・。
 ううん、そんなこと無理だけど」
「知ってどうする?」
「そりゃもちろん・・・・・・。
 いや・・・・・・それがあれば、魔導器の暴走を止められるかと思って・・・・・・
 前にも魔導器の暴走を見たの。エアルが暴れて、どうすることもできなくて・・・・・・」
「それはひずみ、当然の現象だ」
「ひず・・・・・・み・・・・・・?」


デュークはリタの問いに淡々と答える。
リタはデュークの言葉に首を捻った。


「あ、あの、危ないところをありがとうございました」


エステルはデュークに駆け寄ると、丁寧に頭を下げた。
デュークはじっとエステルを見つめると、暫くした後に、「エアルクレーネには近づくな」と言った。


「え・・・・・・?」
「エアルクレーネって何?ここのこと?」
「世界に点在するエアルの源泉、それがエアルクレーネ」
「エアルの源泉・・・・・・・・・」


リタはその言葉に考え込む。


「あんた、いったい・・・・・・」


ユーリはデュークに近づき、素性を問うたが、デュークはそれに無言で返す。


「こんな場所だ。散歩道ってこともないよな?」
「・・・・・・・・・・・・」
「ま、おかげで助かったけど。ありがとな」


デュークがこれ以上何も喋らないであろうことを悟ったユーリはお礼を言い、話を切り上げた。
もう用はないと、デュークは立ち去ろうとしたが、視線を感じ、に顔を向けた。
デュークはが何か言いたげな顔をしているのを目視したが、目を伏せると顔をすぐに背け、今度こそ入り口に向かって歩いていった。
は彼の、深く人間と関わる事を拒絶したその姿に、ふっと溜息をついた。

その後、ユーリ達の方をみやると、リタがリゾマータの公式だとか、他はどうだとか、時々首を振りながら何かをぶつぶつ呟いていた。
リタの呟きを拾い出したエステルは、「じゃあもうここで調べる事はないんです?」とリタに聞いた。
エステルの問いに頷くリタを見たユーリは、


「んじゃ、ダングレストに戻ってドンに会おうぜ」


と言って、剣を肩に担ぎ、歩き出した。















達が先ほど進んできた道を、また道なりに戻ると、木の幹を降りたところで、さっきからぶつぶつと呟いていたリタが立ち止まる。


「エアルの異常で魔導器が暴走、そのせいで魔物が凶暴化・・・・・・。
 それがあいつの言うひずみと関係あるなら、この場所だけじゃすまないのかも」
「そうね。ああいう場所はもっと他にたくさんあるわ」
「・・・・・・えっ、あんた、それって・・・・・・・」


自分の呟きに答えたに、リタは驚き、彼女の顔を凝視した。
その時、入り口の方から沢山の魔物の気配と、地響きが聞こえた。


「うわっ、何!?また魔物の襲撃?」


達は驚き、魔物の通り道を避け木の陰に隠れると、魔物が一丸となって走り去っていく姿を見送る。
魔物が1匹残らずいなくなったのを確認すると、ようやくユーリ達は木の陰から這い出した。
こちらに向かってくる前に魔物たちがいた場所を見ると、そこには白髪の大柄の男と、その部下らしき男達が蹲っていた。


「あ・・・・・・あの人たち・・・・・・」
「ドン・・・・・・!」


カロルが叫び、ドンの方に走っていくと、ドンはこちらを振り返り、剣を杖代わりにして立ち上がった。


「・・・・・・てめえらが何かしたのか?」
「何かって何だ?」


ユーリがドンの近くまでゆっくり歩いていくと、ドンはこちらを厳しい目で見据えた。


「暴れまくってた魔物が突然、おとなしくなって逃げやがった。何ぃやった?」
「・・・・・・ユーリ、あれです。エアルの暴走が止まったから・・・・・・」
「ボクたちが、エアルの暴走を止めたから、魔物も大人しくなったんです!」
「エアルの暴走?ほぉ・・・・・・」


ドンはカロルの言葉に何か思い当たる節があったのか、顎に手をやり目を細める。


「何、おじいさん、あんた、なんか知ってんの!?」
「いやな、ベリウスって俺の古い友達がそんな話をしてたことがあってな」
「・・・・・・ドンが南のベリウスと友達って本当だったんだ・・・・・・」
「何よ、そのベリウスっていうの」


リタがカロルに説明を求めると、ベリウスとはノードポリカという街で闘技場の首領をやっている人物だ、とカロルは教えてくれた。


「で?エアルの暴走がどうしたって?」


と、ドンがカロルに再び尋ねると、カロルはドンに走りより、ドンと初めてしゃべる事ができたためか、心なしか嬉しそうにしゃべりだす。


「本当大変だったんです!すごくたくさん、強い魔物が次から次へと。でも・・・・・・!」
「坊主、そういうことはな、ひっそり胸に秘めておくもんだ」
「へ・・・・・・?」
「誰かに認めてもらうためにやってんじゃねえ、街や部下を守るためにやってるんだからな」
「ご、ごめんなさい・・・・・・」


カロルはそうドンに言われて、嬉しそうだった顔を一気に暗くさせしょぼくれた。
エステルはドンの部下達の傷がさっきからずっと気になっていたのか、ドンの脇を通り抜け、傷を見せてください、とそちらに走っていく。


「ん?何だ?」


ドンはエステルの行動に振り返り、訝しんだが、エステルの治癒術が部下の身体を包み込むのを見ると、
そっちはもう心配要らないと、ユーリ達の方に向き直った。
ふとユーリ達の後ろを見やると、レイヴンとが木の陰にしゃがんで隠れているのに気付く。


「・・・・・・ん?そこにいるのはレイヴンじゃねえか」


隠れていたのが見つかったレイヴンは、しまった見つかった、という顔をしていたが、そこから出ようとはしなかった。
同じ場所に隠れていたは、自分は見つかっていないのをいいことに、ドンが呼んでるよ?とレイヴンに声をかける。
レイヴンが嬢ちゃんは?と目配せを送ってきたが、私は呼ばれてないし、とは言い、目を伏せた。


「何隠れてんだ!」
「ちっ」


ドンが業を煮やし、レイヴンに怒鳴ると、レイヴンは諦めたのか、木陰から飛び出した。
いってらっしゃいとはレイヴンに手を振ったが、「もだ!」と怒鳴られてしまったのでしぶしぶ木の陰から姿を現す。
レイヴンとがドンの傍まで歩いていくと、ドンは二人を見やり、続いてユーリ達の顔を見ると、


「うちのもんが、他人様のとこで迷惑かけてんじゃあるめえな?」


と、言った。


「迷惑ってなによ?ここの魔物大人しくさせるのにがんばったのよ、主に俺が」


やったのはデュークだ。レイヴンは特に何もしてないでしょ、とは抗議したが、
嬢ちゃんもでしょ、と返されてしまったので、後ろで腕を組みふてくされる。


「え!?とレイヴンって、天を射る矢の一員なの!?」
「どうも、そうらしいな」
「いや、私は違うし」


カロルとユーリの言葉に、は訂正を入れたが、ドンが剣の柄でレイヴンをどついてるのを見て、あれは痛いわぁと眉を顰めた。


「いてっ、じいさん、それ反則・・・・・・!反則だから・・・・・・!」


レイヴンはあまりの痛さに腹を押えてドンから飛退く。
ドンはそれを聞き入れず、「うるせぃっ!」と怒鳴ると、やっと剣を下ろした。


「ドン・ホワイトホース」
「何だ?」
「会ったばっかで失礼だけど、あんたに折り入って話がある」


ユーリはその一連の光景を見守っていたが、事態がひと段落したのを見、ドンに歩み寄り、本題を話そうとした。
しかしその時、入り口の方からドンの部下が走ってきて、ドンに何か耳打ちをすると、ドンは眉根を寄せ、部下に頷き、ユーリの顔を見る。


「すまねぇな。急用でダングレストにもどらにゃならねえ。
 ユニオンを訪ねてくれりゃあ優先して話を聞くから、それで勘弁してくれ」
「いや、約束してもらえるならそれでかまわねえよ」
「ふん、俺相手に物怖じなしか。てめぇら、いいギルドになれるぜ」


ドンは部下達に引き上げる事を伝えた後、ユーリにユニオンでの優先権を確約してくれた。
ユーリは願ってもないと、それに二つ返事で答える。
そんなユーリをドンは気に入ったらしく、豪快に笑うと、部下を引き連れて街に引き上げていった。

ユーリはドン達が去るのを見届けた後、ドンが最後に告げた言葉を思い出す。


「ギルド、ね」
「作るん、でしょ?」


ユーリの呟きに、カロルが顔を上げた。


「なに、ユーリ達ギルド作るの?」
「そんときがきたらな」


カロルの言葉には驚き、カロルとユーリの顔を交互に見ると、ふぅん・・・・・・と小さく呟いた。


「で、どうよ?やっと俺様の偉大さが伝わったかね?」
「偉大なのはレイヴンじゃないでしょ」
「なによ、すぐケチつけるんだから」


レイヴンの大言壮語にが突っ込みを入れると、レイヴンは両の手を大げさに広げて溜息をついた。
ユーリはそれを尻目に、皆を振り返る。


「さ、ダングレストに戻って、ドンに会ったらバルボス探しの続きだ」
「リタ、ユーリの用事が終ったら、わたしたちはアレクセイに報告へ」


エステルはそう言ってリタを振り向いたが、リタはずっと考え込んでいて、こちらに気がつかない。
エステルが不思議に思い、リタに近づきもう一度声をかけると、リタは「・・・・・・あ、何?」と言ってやっと顔を上げた。


「ユーリの用事を済ましたらアレクセイに報告に行き・・・・・・
  ・・・・・・どうかしました?」


エステルはリタの様子がやっぱりおかしいので、言葉を途中で切り、しゃがみこむと、リタの顔を覗いた。


「な、なんでもない。ほら、もどるわよ」


エステルの心配そうな顔を見て、リタはどもりながらも返事をし、ユーリ達に先を促した。