目的のケーブ・モック大森林は、ダングレストの南西、木々が深く生い茂る、異様な場所にあった。
エステルは木々の中の一つ、とりわけ大きな樹に寄ると、上を見上げる。


「世の中にはこんな大きな木があるんですね・・・・・・」
「けど、ここまで成長すると、逆に不健康な感じがすんな」


ユーリはエステルの傍に近寄り、同じように樹を見上げると、そう言った。
カロルが言っていたとおり、ヘリオードの魔導器が暴走したときのと感じと似ているらしい。
リタがぶつぶつ言いながら辺りを歩き回り、調べ回っている。


「そんなところに隠れてないで、出てきたら?」


が後ろを振り返らずに、背後に声をかけると、ユーリ達は目を見開き、武器を構え後ろを振り返る。
そのまま入り口の方を凝視すると、傍にある大きな樹の陰にレイヴンが隠れているのが見えた。


「よっ、偶然!」


レイヴンは皆の視線を一身に浴びても、何食わぬ顔で片手を挙げ、樹の陰から出てくる。


「こんなとこで何してんだよ?」
「自然観察と森林浴って感じだな」
「胡散臭い・・・・・・」
「あれ?歓迎されてない?」


こんな人気のない所で森林浴とはうさんくさいにほどがある。
今までもそうであったが、レイヴンのとことん道化た姿にユーリ達は皆一様に溜息をついた。


「本気で歓迎されるなんて思ってたんじゃないでしょうね」
「そんなこと言うなよ。俺、役に立つぜ」
「役に立つって、まさか、一緒に来たい、とか?」
「そうよ、一人じゃ寂しいしさ。何?ダメ?」


レイヴンは自身の頭の後ろで腕を組むと、かわいく首をかしげ、こちらを覗いてくる。


「背後には気をつけてね。変なことしたら殺すから」


そんなレイヴンの仕草をリタは半眼で睨み返し、物騒なことを呟くと、奥に進んで行ってしまった。
リタの後姿を見送ると、レイヴンは肩を竦めユーリを振り返った。


「なあ、俺ってば、そんなにうさんくさい?」
「ああ、うさんくささが、全身からにじみ出てるな」
「どれどれ・・・・・・」


レイヴンはすんすんと自分の腕を嗅ぎ始める。
相変わらずのレイヴンの態度に、信用しろっていってもこれじゃ無理だろうとは肩を落とした。


「余計な真似したら、オレ何するかわかんないんで、そこんところはよろしくな」


やはりユーリもそう思ったのか、ユーリもユーリで鋭い視線を投げかけて、怖い事をレイヴンに告げた。
その後ユーリ達は先に行ってしまったが、はレイヴンのところに駆け寄ると、どういうつもり?と言うように彼を睨んだ。


「私、レイヴンに私に任せてって言ったよね?」
「そんな怖い顔しないでよ、ちゃん。おっさんにも事情があんのよ」


レイヴンはまあまあ、との頭を撫でると、ユーリ達の後を追っていってしまう。
は暫くレイヴンを睨んでいたが、撫でられた頭に手をあて、溜息をつくと、奥に向かった。















森林全体を見渡せる、大きな木の幹を伝い、中央まで来ると、ユーリ達は後ろについてくるレイヴンのことが気になるのか振り返った。
もなんとなく視線をレイヴンに向ける。
レイヴンは皆の視線を受け、にやりと笑うと、


「まあ、俺のことは気にせずに、よろしくやってくださいよ」


と、言った。
エステルはそんなレイヴンの姿を見て、ユーリを振り返り、どうするのか尋ねた。


「おっさん、なんかオレらを納得させる芸とかないの?」
「俺を大道芸人かなんかと。間違えてない?」


ユーリのその言葉に、レイヴンは耳の中をほじりながら答える。
しかし、何か思い立ったのか、しばらく顎に手を当て考えた後、木の幹を伝い降りると、カロルを呼んだ。
カロルは訝しげにレイヴンの後を追う。
レイヴンとカロルを見送り、暫く待っていると、レイヴンだけこちらに戻ってくるのが見えた。


「ん?カロルはどうしたんだ、おっさん」
「う、う、うわぁあ!ちょっと一人にしないで〜!」


ユーリが不思議に思い、レイヴンに声をかけると、カロルの叫び声が奥から響いた。
カロルは奥で虫に向かって無茶苦茶に武器を振り回していた。
レイヴンはそんなカロルを応援するかのように声をかける。


「ほら、ガンバレ、少年!」
「くっ、くそぉおっ!」


それを受けたカロルは虫に立ち向かうが、その腰は引けていて、攻撃は虫に当たりそうに無い。
レイヴンは弓を構えると、虫に向けて矢を放つ。
飛んだ矢が虫に突き刺さると、カロルがついに堪らずこちらに走ってくる。
レイヴンは頭の後ろで腕を組んで地面をとんとんと足で踏むと、虫の方を見やり、


「もうそろそろかね・・・・・・」


と、言った。
ユーリが不思議そうにレイヴンを見ると、その瞬間虫が爆発して散った。


「うわっ!」
「中で爆発した!?」
「な、何したんです!?」


以前その技を見たことがあるは大して驚きもしなかったが、エステル達は口に手をあて驚いた。


「防御が崩れた瞬間、打ち込んで中から・・・・・・ボンてね!」
「まったく・・・・・・悪趣味な芸ね」


レイヴンが皆に説明すると、リタは腕を組み、溜息をついた。


「いいんじゃないでしょうか?」


エステルは苦笑しながら言った。
ユーリはレイヴンの行動を厳しい目を見ていたが、エステルのその言葉に振り返る。


「・・・・・・いいのか?」
「ええ」
「ま、いっか・・・・・・」
「お、合格?」


レイヴンは嬉しそうに目を輝かせた。


「マ、マジで・・・・・・?」
「そばにおいといた方が、下手な真似しやがったときに、色々やりやすいしな」
「おいおい、色々って・・・・・・」
「・・・・・・それもそうよね」
「なんか背筋が寒くなってきたんだけど・・・・・・」


しかし、再びユーリとリタが物騒なことを囁きあってるのを見て、レイヴンは後退った。
まあ、の目からみても、うさんくささ全開なレイヴンだし仕方がないだろう。
せいぜい頑張れ、とはレイヴンを生暖かい目で見守った。


「えと、それなら、よろしくお願いします」
「はい、よろしく」


エステルはそんな雰囲気をものともせず、レイヴンにお辞儀をした。















「レイヴン、大丈夫?」


は未だに目を押えて痛そうにしているレイヴンに声をかけた。
レイヴンは道中で、虫嫌いなカロルをからかおうとちょっかいを出した結果、リタに撃虫スプレーを顔に吹きかけられてしまったのだった。
あれはさすがに痛そうだった、リタもカロルに人には向けないでね、と言っていたしその効果のほどは絶大なのだろう。
は少々同情の念を覚えた。
しかし、


「だいじょぶよ。ちゃん、いい子ね」


と、レイヴンがの頭を撫でながら答えたので、ほどほどにしなよ、と言い残して先を進むことにした。















大森林の最奥に着くと、木の洞の中で真っ赤になったエアルが今にも溢れそうになっているのが見えた。


「これ、ヘリオードの街で見たのと同じ現象ね。
 あの時よりエアルが弱いけど、間違いないわ・・・・・・」


リタがそう呟くと、魔物が木の上から落ちてきた。
その魔物はどこか様子がおかしく、異様に見える。
魔物は天に向かって尻尾を掲げると、ユーリ達に襲い掛かってきた。










「なんなのこの魔物!」
「なかなか手ごわかったな・・・・・・」


ユーリ達は辛うじて魔物を倒し、息を吐いた。
しかし、休む間もなく、木の上から次々と魔物が落ちてきて、一瞬のうちに周りを囲まれてしまう。
魔物たちの勢いに押され、レイヴンは武器を構えたまま一歩下がると、ユーリと背を合わせ、どこか遠くを見上げる。


「ああ、ここで死んじまうのか。さよなら、世界中の俺のファン」
「世界一の軽薄男、ここに眠るって墓に彫っといてやるからな」
「そんなこと言わずに一緒に生き残ろうぜ、とか言えないの・・・・・・!?」


ユーリのつれない言葉にレイヴンは半眼になり、ユーリを見た。
この事態に何をそんな悠長な事を言っているのかと、はユーリ達を睨もうとしたが、木の上に見知った気配を感じ一歩下がった。
その瞬間デュークは木の幹を蹴り、こちらに降りてくると、を隠すかのようにユーリ達ととの間に立った。
デュークが握っていた赤く輝く剣を掲げると、剣が光り、デュークを取り巻くように術式が発動して、辺りには眩しい光が立ち昇る。
次の瞬間辺りを見渡すと、それまで大量にいた魔物は忽然とその姿を消していた。