ダングレストはヘリオードの北西、海側から蛇行するように進み、橋を渡った先にあった。
街に入り上を見上げると、何か特殊な効果からなのか、そこには夕暮れのような空が広がっている。
その夕闇に照らされるレンガ造りの建物は、多種多様な文化が入り混じり、そこに住む人々の生活を浮き彫りにしているようであった。
「ここがダングレスト、ボクのふるさとだよ」
「にぎやかなとこみたいだな」
「そりゃ、帝都に次ぐ第二の都市で、ギルドが統治する街だからね」
「もっとじめじめした悪党の巣窟だと思ってたよ」
ギルドと言うとバルボス率いるギルド、紅の絆傭兵団が真っ先に思いつく。
彼らは下町の魔核を盗むわ、ラゴウと結託してヨーデルを拉致するわ、やりたい放題なギルドである。
特に迷惑を被っている自分としては、ギルドに対してあまりいいイメージを持っていない。
しかし、そのギルドが統治するという街は、よくよく見れば活気のある良い所のようだ。
ユーリはもっとよく見ようと、入り口から奥に向かって伸びる露店街を見やる。
「それって、ギルドに対する偏見だよね」
「紅の絆傭兵団の印象が悪いせいですよ、きっと」
「ボクまで悪党なのかと思ったよ」
エステルがフォローを入れるが、カロルは気が済まないのか、下を向き口を尖らせる。
リタがおもむろにユーリを指差した。
「あんたが、悪党なら、こいつはどうなるのよ」
ユーリはそれを受け、それもそうだ、と自慢げに笑って答える。
ふと視線を感じ、横を見ると、自慢することか、とがじと目で自分を睨んでいた。
その横ではエステルが小さく笑っているのが見える。
これは話題を変えた方がよさそうだ。
ユーリは腕を組むと、カロルの方に顔を向けた。
「さて、バルボスのことはどっから手つけようか」
「ユニオンに顔をだすのが早くて確実だと思うよ」
「ユニオンとはギルドを束ねる集合組織で、5大ギルドによって運営されている、ですよね?」
エステルがカロルの言葉に付け足した。
「うん、それと、この街の自治も、ユニオンが取り仕切ってるんだ」
「でも、いいわけ?バルボスの紅の絆傭兵団って5大ギルドのひとつでしょ?」
片手を腰に当て、手のひらをこちらに向けるようにもう片方の手を挙げるとリタはそう言った。
確かに、5大ギルドをの一つをどうにかしようとしたら、ユニオンも黙っていないだろう。
ユーリがその事をカロルに尋ねると、カロルはドンに聞いてみないと分からない、と答えた。
「そのドンってのが、ユニオンの親玉なんだな?」
「うん、5大ギルドの元首『天を射る矢』を束ねるドン・ホワイトホースだよ」
カロルは何故か自信たっぷりに左手の人差し指を立ててユーリに説明した。
「んじゃ、そのドンに会うか。カロル、案内頼む」
その言葉にカロルは驚いたような顔をユーリに向ける。
「ちょっとそんなに簡単に会うって・・・・・・。ボクはあんまり・・・・・・」
尻すぼみにそう言うとカロルは俯いてしまった。
しかし、エステルがカロルに駆け寄り、お願いします、と頭を下げると、カロルは決心したかのように顔を上げ、
「・・・・・・・・・・・・ユニオンの本部は街の北側にあるよ」
と、言ってユーリ達の顔を見つめた。
町の中央につくとカロルが落ちつかなげに、回りをきょろきょろ見渡し始めた。
それに気づいたは、カロルに声をかける。
カロルはなんでもないよ、と答えたが、その声に、奥の建物の前にいた傭兵風の男二人組みがこちらに気づいて振り向いた。
「ん?そこにいるのはカロルじゃねえか」
男達はそう言いながらこちらに歩いてくると、カロルの顔を覗きこんだ。
「どの面下げてこの街に戻ってきてんだ?」
「な、なんだよ、いきなり」
「おや、ナンの姿が見えないな?ついに見放されちゃったか、あははははっ!」
「ち、違う!いつもしつこいから、ボクがあいつから逃げてるの!」
カロルは地団駄を踏んだ。
ダングレスト行きを最初嫌がってた理由はコレだね、とがユーリにこっそり言うと、ユーリはそうみたいだな、と返してきた。
男のもう一人が、達に気づき、近づいてくると、
「あんたらがこいつ拾った新しいギルドの人?相手は選んだ方がいいぜ
自慢できるのは、所属したギルドの数だけだし。あ、それ自慢にならねえか」
と、言ったが、その言葉にカロルが顔を暗くして俯くのを見たユーリは、皮肉げに口の端を持ち上げる。
「カロルの友達か?相手は選んだ方がいいぜ?」
「な、なんだと!」
ユーリの言葉に、男達は肩を震わせ怒り始めたが、は止めの一言とばかりに、私なら願い下げね、と言ってやった。
リタは感心したように、を振り返る。
「あんた、言うわね。ま、でも同感」
「言わせておけば・・・・・・」
リタの言葉で怒りの頂点に達したのか、男達はこちらに殴りかかろうとしたが、その瞬間警鐘が街に鳴り響いた。
カーン、カーンと鳴り続けるその異様な音に、皆上を見上げ、顔を見合わせる。
二人組みの男達は、互いに頷き合うと、慌てて武器を持ち直し、入り口の方に走っていってしまった。
そちらに耳を澄ませば、何か大量なものが地を移動する、地響きなようなものが聞こえてくる。
「警鐘・・・・・・魔物が来たんだ」
「この振動、全部魔物の足音っぽいね」
「だとすると、こりゃ大群だな」
「ま、でも心配いらないよ。最近やけに多いけど。
・・・・・・ここの結界は丈夫で、破られたこともないしね」
カロルがとユーリを見上げ、「外の魔物もギルドが撃退するしね」と続けて言おうとしたその時、結界のエアルのリングに異常が起きる。
リングはぱちぱちと、明滅した後、その輝きを失ってしまい、それまで確かに在り続けていた結界は綺麗さっぱり消えてしまった。
達は驚いて上を見上げるが、何度見ても、結界はその空には存在していなかった。
「結界が、消えた・・・・・・?」
「一体どうなってんの!魔物が来てるのに!」
「ったく、行く場所、行く場所、厄介ごと起こりやがって・・・・・・」
「何か憑いてるのかもねー、ユーリ」
「・・・・・・かもな」
ユーリはの言葉に目を瞑りふっと笑った。
エステルが魔物を止めに行こうと急かしたので、ユーリ達は入り口に向かって走り出した。
しかし、はそちらには向かわず、ユーリ達の後を追おうとするリタの腕を掴み引っ張った。
「ちょ、あんた、なにすんの」
「リタはこっち」
はユーリ達に魔物は任せて結界魔導器を直しに行こうとリタに提案する。
リタは少し悩んでいたが、頷くと、案内して、とに言い、走り出した。
結界魔導器のある階段下までたどり着くと、は誰かの気配を感じその場に立ち止まった。
リタは訝しげに振り向いたが、の視線の先に、怪しい人影を見つけると、術を詠唱し始める。
「リタは魔導器を!!」
「でも、あんた・・・・・・!」
はリタに先に進むよう、声をかけるが、が今までまともに戦っている姿を見たことが無いリタは、心配そうにに向かって叫んだ。
大丈夫だから、とが頷くと、リタは逡巡していたが、やがて決心したのか階段を駆け上って行った。
リタが階段上に見えなくなるのを確認すると、
「手加減なんてしてあげないわよ?」
と、は怪しい男達に向かってにこりと微笑んだ。
が男達を片付けて、一息ついていると、ユーリ達が広場の方から走ってくるのが見えた。
「、結界魔導器はどうした?」
「今、リタが見てる」
は階段上を指で差し示す。
フレン達もこの街に来ていたのか、ユーリ達の後に続き、こちらに走ってくると目の前で立ち止まり、周囲を見渡した。
「こっちも大変な騒ぎだね」
「なんだ、ドンの説得はもう諦めたのか?」
「今は、やれることをやるだけだ。それで、結界魔導器の修復は?」
「天才魔導士様次第ってやつだ」
ユーリはフレンに答え、上を見上げた。
それにつられるように皆が上を見上げると、リタの興奮した声が響く。
「・・・・・・魔核は残ってる。術式いじって、止めただけね。ん?これ、増幅器っ!?
それにまた、この術式・・・・・・。エフミドの丘のと同じ・・・・・・」
「魔物の襲撃と結界の消失。同時だったのはただの偶然じゃないよな?」
ユーリは厳しい目をしてフレンに尋ねた。
「・・・・・・おそらくは」
「おまえが来たってことは、これも帝国のごたごたと関係ありってわけか」
「わからない、だから確かめに来た」
重苦しい雰囲気が立ち上る中、リタが魔導器の制御版を操作する音が鳴り、結界魔導器が動き始める。
空を仰ぐと、結界が街を囲むようにして広がり、無事元に戻っていくのが見える。
「よし、外の魔物を一掃する!
外ならギルドも文句を言うまい」
フレンはそれを確認すると、後ろの部下を振り返り号令をかけ、外に向かって走っていった。
その後姿を見届けたユーリは、さて、と仲間を振り返る。
「魔物の方はフレンに任せて、オレらはユニオンにバルボスの話を聞きにいくぞ」
リタとカロルはその言葉を聞き、頷くと、ユニオン本部の方に向かって歩いていった。
エステルはそれについて行こうとせず、ユーリの顔を見る。
「フレンのこと、信頼してるんですね、やっぱり」
「他が信頼できないだけの話だろ。比較の問題ってやつだな」
「時々、ユーリの言うことは、難しいです」
「気にするだけ無駄よ。捻くれてんだから」
ユーリとエステルがその場から動こうとしないので、もその場に留まっていたが、
ユーリの言葉に小首をかしげるエステルに向かってそう言うと、二人を急かし、走り出した。
「ん?なんだおまえたち」
「ドンに会って話したい事があるんだ。取り次いでくれ」
ユニオン本部の前につくと、建物の前にいた門番らしき人が、ユーリに声をかけた。
カロルはその男に近づき、5大ギルドに関係があることだ、と言った。
その言葉に、男はこちらのメンバーの顔を一人一人覗きこむ。
「あれ、そこにいるのはか?」
はさりげなくユーリの後ろに隠れていたのだが、結局は見つかってしまったようだ。
しぶしぶユーリの陰から表に出るが、
そんなの様子にも構わず、男は再び声をかける。
「しばらくぶりだな」
「そうね、ここには来ていなかったから」
男の言葉には溜息をつき、そう答える。
男はしばらく考え込み、ユーリの顔を見ると、
「・・・・・・あいにくドンは魔物の群れを追って街を出てったぞ」
と、言った。
「魔物の群れを?」
「ああ、魔物の巣を一網打尽にするんだと」
「なるほど・・・・・・教えてくれてサンキュな」
「ああ」
ユーリ達はドンの情報を得、男に向かってお礼を言うと、広場に向かって歩き出した。
「しょうがねえな。街で情報を探るか」
「・・・・・・え?ドンの手伝いに行かないの?」
「魔物の巣の場所、知ってるのか?」
「あ、そっか・・・・・・」
カロルはユーリの言葉に驚き、目を見張るが、確かにドンがどこに行ったのか見当つかないことを思い出し、黙りこんだ。
「手詰まりみたいだし、あたし、ケーブ・モックの調査に行ってくる」
ずっと腕を組み、考え事をしていたリタが顔を上げ、そう言った。
カロルがリタのその思いがけない言葉に驚いたように身を引いた。
リタは組んでいた腕を外し、カロルの顔を見る。
「面倒な仕事はさっさと終らせたいの」
「けど、それなら、エステルも一緒ってこと?」
「そうですね。アレクセイにはそう言いましたし・・・・・・」
エステルはカロルの方に顔を向け、次にユーリの方を見る。
しかしユーリは顎に手をあて何か考え込んでいるようだった。
エステルはそんなユーリに、リタと二人でも大丈夫、と言ったが、ユーリは首を振る。
「そうもいかねえだろ。ケガでもされたら、オレはフレンに殺される」
「いいの、ユーリ?」
「ま、有力な手掛かりもねえしな」
「なら、決まりですね。ケーブ・モック大森林に行きましょう」
次の行き先が決まると、達はダングレストの出口に向かって歩き出した。
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